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城では、ウルアクとロードナイト、そして宰相のディアブロ公爵が待ち構えていた。
「ウィドマン王、ようこそ参られた。兄の逝去は私も大変悲しんでおります」
ウルアクは喪に服して黒いドレスを着ている。ウィドマンも同じく、友の為に黒い服装だ。
「我が娘、クリオラとロードナイト王子の婚約がなくなったことで、オニキスとルディ嬢の結婚の期日を待つ必要がなくなった。我が国としては教皇の喪が明け次第、二人の婚儀を執り行いたいと思っています」
ウィドマンは強気だ。今や三国の中で一番の強国となったアルタイ王国に怖い物は無かった。ウルアクは口惜しそうにウィドマンを見ている。勇者は元々エスケル王国には存在しない。故に、聖女のように伝説を理由に留めおくことができない。
ロードナイトは熱い視線をルディに送った。ルディはそれに気付かぬふりをして目を合わせなかった。
「先程、ルイーゼがチンターマニ王国のマーズ王子と結婚する為に旅立ったとか。ウィドマン王。我が国から姪が居なくなるのは私としては寂しい。ルディの気持ちも数年後には変わるかもしれない。もう少しだけ待ってはもらえないだろうか」
ウルアクがプライドを捨てて頼み込んだ。しかしウィドマンはきつく口を閉じたまま答えない。ウルアクはウィドマンを怒らせ全面戦争になるのを恐れて引き下がった。
ウィドマン達は城を出てそれぞれ馬車に乗った。ウィドマンの馬車は国王専用の強くて豪華な馬車だ。ウィドマンはそれに一人でゆったりと腰掛けている。ウィドマンの馬車はそのままアルタイ王国に向かい、ルディとオニキスの馬車は教会を目指した。ウィドマンの馬車が山道に入り車体が大きく揺れはじめると、御者が突然倒れた。御者の首に弓矢が刺さっている。馬車は制御を失い暴走を始めた。護衛の騎士達が慌てて馬を宥める為に馬車に近づいた。しかし、騎士達にも弓矢が放たれ負傷者が増えた。
「追っ手か‥。何者だ‥?」
ウィドマンは耳をすませた。遠くに刺客を指示する者の声がした。ウィドマンはその声に聞き覚えがあった。
「ディアブロ公爵!!」
ウィドマンは猛然と進む馬車の扉を内側から開けると、地面に向かって飛び降りた。幸い大きな怪我はなく、ウィドマンはすぐに立ち上がる。そして護衛の騎士から弓矢をとると、彼方にいるディアブロ公爵に向けて矢を放った。
「ぐあっ‥」
矢は見事にディアブロ公爵の胸に刺さった。ディアブロ公爵はほぼ即死した。刺客達は公爵が死んだのを見ると姿を消していった。
「女王ウルアクの叔父にあたる公爵が、私を狙った。それを突きつければ、戦争になる」
ウィドマンは死体を目の前にして冷静に考えている。
「長きに渡り平和を保っていた三国が戦争になれば、この世界は群雄割拠の戦国時代になるだろう。今はどの国も、三国を刺激しないように大人しくしているだけだからな」
騎士達は戦うことが仕事である為、ウィドマンの相談にのれる者はこの場にはいない。その為、ウィドマンは一人で決断するしかなかった。
「この死体を、林の奥に埋めておけ。下手に川に流すと、死体が発見されて騒ぎになる」
ウィドマンはそう指示すると馬に跨った。そうしてウィドマンと生き残った部下達はアルタイ王国を目指して馬を駆けていった。
「父上に何か災いが起きたようだ‥」
オニキスが突然顔色を変えた。しばらくオニキスは目を閉じると、ウィドマンに意識を集中させた。
「父上は無事に脱出できたようだ」
オニキスは息を吐き、頭を垂れた。緊張の為か、額に汗が滲んでいる。ルディはハンカチでそれを拭った。
そして二人は教会に戻っていった。




