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帰国したルディ。迎えるルイーゼが動き始める
ルディとオニキスは国境を超え、エスケル王国に戻ってきた。
「やっとエスケルだー」
ルディは身体を上に伸ばした。馬上で長時間過ごしているので身体が痛い。
「温泉にでも入りたいな‥」
ルディが街の中をキョロキョロと見回すと、下町の方が騒がしい。兵士が集まり、数名の兵士は周りを捜査している。
「そこの旅人!馬から降りろ」
腕章を付けた兵士が偉そうに指示した。ルディとオニキスは黙って馬から降りた。
「どこから来た?」
兵士は舐めるように二人の全身を眺めている。そして、二人とも腰に剣を差していることや、部下を連れていることに違和感を覚えた。
「どこぞの盗賊団か?」
兵士は失礼極まりない。オニキスは黙って身分証を取り出した。
「身分証か。偽物じゃないだろうな」
兵士は身分証を確認した。すぐに全身が震え始める。
「‥こ‥これは、アルタイ王国のオニキス王子殿下。大変失礼を致しました!!」
兵士は両手で身分証を差し出すと、深く頭を下げた。
「何か事件でも?」
オニキスは穏やかに尋ねた。兵士は動揺しながらも質問に答える。
「下町の宿屋の主が殺されておりまして、傭兵のような女達の死体も複数あったのです」
「それは物騒だな。宿屋に傭兵が泊まりに来て殺されたのか‥?」
「あの宿屋は元々、殺しなどを引き受ける闇の組織ではないかと捜査対象になっていました。恐らく内輪揉めで殺されたのだと思われます。宿屋の中の金品は盗まれていなかったので怨恨の可能性が高いです」
兵士は本来守秘義務の捜査内容をペラペラと喋った。
「そうか。ならば犯人はこの国にまだいるかもしれない。危険人物には気をつけなければならないな」
オニキスはそう言うと、再び馬に跨った。ルディもそれに続く。
「ターコイズ隊長!女達の死骸に、蛇と十字架の入れ墨があります。どこかの一団ではないでしょうか?」
若い兵士が駆けつけてきた。報告を受けた兵士は情報を紙に記している。
「蛇と十字架といえば、ドロニノ共和国の王太女ララの紋章だ」
オニキスが助言した。
「オニキス王子殿下!!貴重な情報をありがとうございます!」
兵士は何度も頭を下げた。オニキスとルディはその場を立ち去る為に馬を走らせた。
「オニキス様、ララ達は殺されたのですね」
オニキスはふと馬を止めた。
「死体の中にララがあるか、確認したい」
ルディは黙って頷いた。そうして一行は、下町の宿屋に向かうことにした。宿屋の中の一部屋に、ハックマナイトと女達の遺体が並べられていた。オニキスは女達の顔を一人ずつ確認した。
「この中にララはいない。ララは逃げたのか、この場に居合わせなかったのか‥。いずれにしても、ララは我が国にとって宿敵。クリオラの命を狙ってきたこともある」
オニキスはララの遺体がないことに落胆していた。
「ララがクリオラ姫を狙ってきても、アース様が守るから大丈夫」
ルディはオニキスを励ます。
「そうだな。聖剣アースの腕は素晴らしい。クリオラは良き伴侶に巡り会えた」
オニキスのシスコン具合が垣間見える。兄弟とは疎遠なルディには、オニキスとクリオラの関係性が羨ましかった。
ルディとオニキス達は教会を目指した。寄り道をしたせいで到着は夕暮れ時になってしまった。
「ただいま戻りました」
ルディがルシフォールの部屋を訪れた。
「よく戻った、ルディ。オニキス王子の記憶はどうなった?」
普段冷静なルシフォールが、結果を気にして駆け寄ってきた。
「教皇聖下、無事に記憶を取り戻しました」
オニキスの言葉にルシフォールは安堵した。ルディはインターマニ王国の教会の惨状を伝え、援助を願い出た。ルシフォールは、オニキスを治癒したチンターマニ王国の教会に感謝の意を込めて多額の金銭を送った。
「今頃帰ってくるなんて‥。マーズ王子は待ちくたびれて帰ってしまったじゃないの‥」
ルイーゼが物陰からルディ達を見ている。ルディの横には記憶を取り戻し、温かい目でルディを見つめるオニキスがいる。
「悔しい‥。オニキス様が記憶を取り戻すなんて‥」
ルイーゼはルディを睨みつけた。そんなルイーゼの姿を、セシルは悲しそうに見ている。
『私と笑真も争い、互いに不幸を経験した。私は我が子を奪われ、笑真は痴情のもつれで殺された‥。私の娘達も同じ道を歩むのか‥』
セシルはその場に蹲ると、涙を溢した。そんな母をベルゼが労った。
「お母様、泣かないで。ルディお姉様は強い。ルイーゼお姉様が何かしても負けないよ」
「ありがとう、ベルゼ。でも‥ルイーゼは聖女になってしまった。聖女は勇者より強いのよ」
セシルはこの世界の書物を読み、聖女や勇者についての知識を得ていた。
「でも、ルディお姉様は勇者の指輪を持っている。だからルイーゼお姉様が前に攻撃した時も、聖女の力はきかなかった。ルディお姉様の方から攻撃することはないし、大丈夫だよ」
「そうだといいのだけど‥。ルイーゼは殺し屋を雇ったりとんでもないことをしそうで、不安だわ‥」
セシルには親の欲目はない。前世と今世で姉妹で争ったことで、人に対して冷静に分析するようになった。セシルから見たら、ルイーゼは笑真ひいてはクリスタに近いと感じられていた。
その夜、オニキスの記憶が戻ったことと、教会に戻ってきたことを祝って豪華な晩餐会が開かれた。旅で質素な食事だったオニキスの部下達は喜んでご馳走を平らげた。
「ウィドマン王には手紙は書いたのか?」
ルシフォールがオニキスに声をかけた。義理の親子となる間柄だ。少しでも良好な関係性を維持したいと互いに思っている。
「はい。ですから数日後にはアルタイに戻るつもりです」
オニキスの言葉が終わるとすぐに、ルイーゼが話に割り込んできた。
「オニキス様、今、この国にチンターマニ王国の第一王子マーズ様がお忍びで来られています。マーズ様は、クリオラ姫には義理の兄になる方。お会いになられては?」
ルシフォールはルイーゼがマーズ王子と急接近したことに不安を感じていた。しかし、糾弾することは出来ない。今は静かに様子を見ていた。
オニキスを巡り混沌とする家族関係。マーズがルイーゼに災いをもたらす




