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関係が進展するルイーゼとオニキス。それを知らないルディ。ルディとオニキスの婚約はどうなるのか。

「ルイーゼ!」

 オニキスが草原から駆け寄ってくる。手には摘んだ花束が握られていた。

「むこうにコスモス畑があったんだ。そこの家の者が分けてくれた」

 オニキスは嬉しそうに微笑みながら花束を差し出した。ピンクと白のコスモスが風に揺れ、仄かな香りを漂わせた。

「綺麗ですね」

 ルイーゼは花束を受け取ると花の香りを嗅いだ。愛する人からの贈り物は些細な物でも嬉しいのだと感じていた。

「ここは平和でいい所だな。私にはまだアルタイ王国の記憶も完全には戻っていないが、幼い頃の記憶はある。アルタイにはこういう場所は少ない」

 オニキスは草むらに腰をおろした。そして隣にルイーゼが座れるようにハンカチを敷いた。ルイーゼはオニキスの隣に座った。

「私の記憶の奥底に、ルイーゼの顔が見えるんだ。私は必ず思い出す。それまで、待ってくれる?」

 オニキスがルイーゼを見つめた。ルイーゼの鼓動が高鳴る。オニキスからこんな熱い瞳で見られたことは今までなかった。ルイーゼはオニキスの肩に寄り添う。

「当たり前です。私は幼い頃からオニキス様を慕ってきたのですから」

 ルイーゼが微笑んだ。オニキスは嬉しそうにルイーゼの手を握った。

「父上からの手紙によると、私は第六感が優れていたらしい。その力も今は無くなっている。我が国の為にも力を取り戻さなければ‥」

 ルイーゼは目を反らした。オニキスの霊感が戻れば、記憶がなくともオニキスはルディの元に戻ってしまう可能性がある。せっかく手に入れたオニキスの心を手放したくはなかった。

「オニキス王子、神官達が待っております。本日の治療を始めましょう」

 神官の一人がオニキスを呼びにきた。ルイーゼは神官に目で合図をした。

「ルイーゼ、行ってくるよ」

 オニキスはルイーゼの額にキスをすると、教会の神殿に向かった。

「今日の治療も‥妨害するのよ」

 ルイーゼは神官に金貨の入った袋を手渡した。

「はい。私の他にも数名、ルイーゼ様の意向に従う者達がおります。大神官の祈祷が作用せぬように、妨害の祈祷をしております。魔術師達を使い、今のところオニキス王子の記憶はほぼ停滞した状態です」

 神官の報告をルイーゼは満足そうに聞いている。

「オニキス様が私を妃に迎えれば、その後に記憶が戻ってもルディはロードナイト王子の婚約者。二人が結ばれることはない。しばらくの間、時間を稼ぐのよ」

 ルイーゼの指示に神官は頷き、神殿に戻って行った。ルイーゼはコスモスの花束を持つと部屋に戻った。

「この花を、永遠に咲いていられるように加工して」

 ルイーゼは使用人に命じた。使用人は花束を持って出て行った。数日後、花束はガラスの中に入った飾り物として戻ってきた。ルイーゼはそれを部屋に飾ると、嬉しそうに見つめた。

「オニキス様から私への初めての贈り物」

 上機嫌のルイーゼの元に、ルシフォールが訪れた。

「今日もまたオニキス王子と出かけていたのか?」

 ルイーゼの表情は晴れやかだ。恋をしている娘を、ルシフォールは父親として複雑な思いで見つめた。

「先日、オニキス様がコスモスの花束を私にくれたんです。オニキス様は私に優しくしてくれて‥」

 ルイーゼは頬を染めながら報告した。

「オニキス王子の記憶が戻れば、王子はルディを選ぶだろう」

 ルシフォールはルイーゼのことを心配していた。今はうまくいっていてもいつ壊れるか分からない。砂状の楼閣のような関係にルイーゼはしがみついているのだ。

「記憶が戻るのはいつになるか分からないんですよね?女王陛下もウィドマン王も、そんなに長くは待たないのでは?」

 ルイーゼは核心をついた。国が関わる婚姻だ。有耶無耶のまま、長期化は避けなければならない。

 ルシフォールはルイーゼが望むならと、現状維持を決めた。オニキスはしばらく教会に滞在し、ルイーゼとの時間を引き続き過ごすことになった。

 一方ルディは、ロードナイトの回復のサポートをしていた。休養していた為に衰えた筋力を再び付けることや、低位置からのモンスターの攻撃をかわす方法などを指導していた。

「ルディ!待って‥」

 庭園を走る訓練中に、ロードナイトは立ち止まった。額から汗が滲み、呼吸は乱れている。

「王子!ゴールはもうすぐです!」

 ルディはロードナイトを導きながら軽快に駆けていく。その眩しい姿にロードナイトは目を細めた。彼の中のルディへの憧れは、完全に恋愛感情へと変化していた。

「はあ、はあ‥。これで終わりだ‥」

 ルディは汗を流すロードナイトにハンカチを差し出した。ハンカチからルディの香りがする。ロードナイトはその香りに包まれながら汗を拭った。

「ねぇ、ルディ‥。母上は、私の妃に君を望んでいるのは知ってるよね?」

「はい」

 ルディは即答した。事務的な反応だ。ロードナイトは怯みながらも話を続ける。

「私も、君を妃に望んでいると言ったら?」

 ルディは返答に困った。

「恐れ多くも王太子殿下に申し上げます。私は、アルタイ王国のオニキス王子の婚約者です」

 ルディは冷静に答える。そこにウルアクが現れた。

「ルディ、そなたに連絡し忘れていたことがあってな」

 ウルアクは一通の手紙を手に持っている。

「一月程前になるが‥オニキス王子とルイーゼが登城した帰りに、馬車が事故にあった。二人は命は取り留めたが、オニキス王子は記憶を失ったのだ」

 ウルアクは一ヶ月の間、ルディの耳にこの事件の事が入らぬように緘口令をしいていた。ルディは何も知らずに、ロードナイトの看病と復帰の手伝いに奔走していた。

「オニキス様がエスケル王国に来ていたなんて‥」

 ルディは手紙を出したのに返事が来ない為、オニキスは多忙なのだと思っていた。

「オニキス王子は教会で治療の為に滞在を続け、ルイーゼ嬢と愛を育んでおるようだ」

 ウルアクの言葉にルディは驚愕している。

「そんな‥なぜ、ルイーゼと‥?」

 ショックでルディの顔色は青ざめ、唇は震えている。

「アルタイ王国は聖女を欲しがっていた。だから二人の婚姻は望ましい。オニキス王子も教皇も、オニキス王子が心変わりをした場合はルイーゼとの婚約もあると申したのだ」

 ルディは衝撃の事実に膝から崩れ落ちた。ロードナイトが慌ててルディを支える。

「この一月の間に、二人の仲は急速に深まっているようだ。オニキス王子とルイーゼ嬢の婚約の日も近いのではないか」

 追い討ちをかけるかのようなウルアクの言葉に、ルディは傷つき塞ぎ込んでいる。

「‥教会に帰してください‥。オニキス王子に会わなければ‥」

 動揺し肩を振るわせるルディを、ロードナイトは複雑な思いで支えた。

「今、そなたが戻れば記憶を失っているオニキス王子が混乱するぞ?」

 ウルアクの辛辣な対応に、ルディは我慢の限界を超えた。

「構いません!私はオニキス王子をルイーゼには渡したくないのです!」

 ルディは立ち上がると、その足で教会に戻ろうとした。ウルアクはそれを阻む。

「衛兵!ルディ嬢は疲れている。西の塔に連れてゆけ」

 ウルアクが近衛兵に命じた。

「母上!西の塔は代々王族が幽閉された場所。そんな所にルディを入れるなど、教皇が知ったら大変なことになります!」

 ロードナイトがウルアクの前に立ちはだかった。

「そなたの初陣でそなたが重傷を負った責任は、勇者にある。その罪の精算に、二十日ほど塔に入ってもらうだけ。教皇には私からその旨伝えておく。教皇も王族の血を引く者。不敬罪は理解しておろうしな」

 ウルアクは平然とそう言うと、ルディを強制的に連行しようとした。その瞬間、ルディは勇者の剣を抜くと龍を呼び出した。そして衛兵達を薙ぎ倒し、龍に乗って城を出て行った。

「おのれ‥ルディ‥」

 ウルアクは悔しそうに扇子を握りしめた。扇子の装飾品がパラパラと地に落ちる。

「母上、ルディは勇者です。勇者を幽閉など、できるものではありません。それに、教皇も決して許さなかったでしょう」

 ロードナイトがウルアクを宥めた。

 ルディはそんな女王達を尻目に、教会に急いだ。空を飛ぶ龍を見た人々は、勇者に歓声をあげている。ルディは教会にたどり着くと、オニキスを探した。

「オニキス様!!」

 ルディはオニキスの滞在している部屋の扉を開ける。しかし中に人は居ない。

「ルディお嬢様、お帰りなさいませ」 

 使用人が頭を下げた。

「オニキス王子はどこにいるの?」

 ルディが使用人に詰め寄ると、使用人は言いよどんで答えた。

「‥その‥ルイーゼ様と庭園をお散歩されています‥」

 ルディはすぐに庭園に向かった。庭園の奥から、はしゃぐルイーゼの声が聞こえる。

「オニキス様ー、こちらにも蜻蛉がおります」

 ルディはルイーゼの声のする方に向かった。すると、仲睦まじく腕を組み散策する二人の姿が目に入った。ルディはその姿に衝撃を受けた。

「オニキス様」

 ルディはオニキスに声をかけた。オニキスは、ルイーゼと同じ顔で同じ声のルディに驚いている。

「ルイーゼが二人??」

 オニキスは二人の顔を交互に見ながら、混乱している。

「あら、ルディ。あなた、ロードナイト王子の補助の任務がまだ残っているんじゃないの?」

 ルイーゼが邪魔と言わんばかりに言い放った。

「ルイーゼ、彼女は誰?なぜ、君と同じ顔なんだ?」

 オニキスはルディが気になって仕方ない。心の奥底にある懐かしい顔と同じだからだ。今まではそれをルイーゼだと思っていた。しかし、よく見るとそれはルイーゼよりルディに近い。

「私はルイーゼの双子の姉。そしてオニキス様、あなた様の婚約者です」

 オニキスは衝撃の事実に驚いている。

「ルイーゼ、私の婚約者は君ではないのか?ウルアク女王が君と私の婚約を望んでいると聞いたが‥」

「そうです。女王陛下は私とオニキス様の婚約を望んでおります。そのことは父に聞いてもらっても構いません。事実ですから」

 ルイーゼは自信を持って答えた。

「女王陛下は関係ない。オニキス様は私と結婚すると約束したの。私達の婚約は、ウィドマン王もお父様も認めた正式な物。それを壊す権利は誰にもない!」

 ルディはオニキスの腕を掴むと、自分の方に引き寄せた。

「ちょっ!!何、勝手なことしてるのよ。今は私と王子が楽しんでいるのに」

 ルイーゼがオニキスを引き戻す。

「‥ルイーゼ。一旦落ち着こう。教皇聖下も交えて皆で話さないか?」

 オニキスは思案にくれてそう提案した。

「嫌よ!!」

 ルイーゼは怒りに任せてルディを突き飛ばした。しかしルディはオニキスの手を離さない。

「離れなさいよー!」

 ルイーゼは思わず、聖力で攻撃した。ルイーゼの手から龍の力が放たれる。青白い稲妻がルディに迫った。流石のルディも近距離からの突然の攻撃には反応できなかった。ルイーゼの攻撃がルディの顔に当たろうとした瞬間、ルディは左手で顔を庇った。

『シュウゥゥ‥』

 ルディの左薬指にはめられた指輪が、ルイーゼの攻撃を全て吸い取っていく。

「その指輪は何??勇者は聖女より下と聞いているのに!!」

 ルイーゼが指輪を掴もうとした瞬間、オニキスがそれを阻んだ。オニキスは指輪をじっと見ている。

「この指輪は‥私の亡き母の形見‥。母の一族に代々伝わる聖女の力を吸収する指輪。これをなぜ君が持っている?」

 オニキスはルディに尋ねた。

「これは、オニキス様が婚約の証に私にくれた物です」

 ルディの言葉に嘘は感じられない。オニキスは、自分が心から愛した女性は、目の前にいるルディだと確信した。

「私が愛した女性は君なんだね、ルディ」

 オニキスはルディに優しい眼差しを向けた。それを見たルイーゼが怒り狂う。

「違う!オニキス様の妃は私がなるの!!」

 ルイーゼは怒りに任せて龍を呼び出して攻撃をした。ルディは聖剣を抜くと、同じように龍を呼び出した。龍と龍の攻撃が飛び交い、辺りは騒然とした。ルディはこれ以上、被害を大きくしない為にも、再度指輪を使うことにした。ルディがルイーゼの龍に指輪を向けると、ルイーゼの龍はパワーを吸われて縮んでいく。龍は消滅を避ける為に、ルイーゼから離れて空の彼方に消えて行った。

「一体何をしているんだ!!」

 現場の騒動にルシフォールが駆けつけた。

「お父様」

 ルディはルシフォールに、ウルアクとのやりとりを話した。

「ウルアク‥。オニキス王子が記憶を失ったことを隠していたとは‥」

 ルシフォールは静かな怒りを燃やしている。ルシフォールはウルアクに書状を書き、しばらくはルディを登城させないと宣言した。勇者の役割を果たさないと言い切ったのだ。その夜、ルシフォールはオニキスに真実を話した。

「‥では、私はこちらのルディ嬢と愛し合い、婚約を交わしていたのですね。父も妹もそれを望んでいると‥」

 ルシフォールは黙って頷いた。

「しかし、女王ウルアクが、ルディをロードナイト王子の妃に望み、話がややこしくなっている」

「記憶を失った私が、ルイーゼ嬢を選んだ場合はルディ嬢との婚約を解消してルイーゼ嬢と婚約する、と」

「記憶を失う前の謁見で、オニキス王子がルイーゼを選んだら婚約者を変えると約束した。その時は王子は記憶を失うとは思ってもいないから、約束も平気で交わしたわけだが‥」

 オニキスは決意を固めた。

「教皇聖下、私はルディ嬢と婚約します。記憶を失う前の私があの指輪を渡した。私は心からルディ嬢を愛したはずです。記憶を失った今も、私の心の奥底には彼女の笑顔があります」

 オニキスはそう言うと、アルタイ王国に向けて手紙を書いた。

「たとえ私の記憶が戻らなくても、私はルディ嬢と共に生きていきます」

 ルシフォールは黙って頷いた。

 その頃、ルディの部屋のメイドがソワソワしながらルディに話しかけた。

「お嬢様‥。お話したいことが‥」 

 メイドは身体を小さく丸めている。

「どうしたの、そんなに怯えて。何かやらかした?」

 ルディは陽気に対応する。

「‥私の兄が、この教会で神官見習いをしているのですが‥」

「ああ!知ってるわ。治癒能力が高いからと特別に神官への道が開かれた人よね」

「その兄に、指導係の神官様が、オニキス王子の記憶を取り戻す治癒は行うなと言ってきたそうなんです」

 ルディは血相を変えた。先程までの穏やかな雰囲気とは全く違う。鬼気迫る迫力だ。

「どういうこと?」

 メイドは小声で話を続けた。

「それを疑問に感じた兄が色々調べたところ‥オニキス王子の治療を担当する神官達に、ルイーゼ様がお金を渡して治療をするなと言っているとか‥」

「何だって!」

「で‥でも‥このことを教皇様に伝えれば、聖女に逆らうことになると言われ‥他の者達は口を噤んでおります」

 メイドは怯えている。真実を伝える為に勇気を振り絞ったが、それは聖女の意向に逆らうことになる。

「私がこのことをお父様に話せば、あなたのお兄さんは周りから迫害されるわけね‥」

 メイドは震えながら頷いた。ルディはメイドに謝礼を渡すと、書庫に向かい、各地の教会について調べ始めた。

「チンターマニ王国の教会に、前の教皇に仕えた大神官がいる」

 翌日、ルディはルシフォールの部屋を訪ねた。

「朝早くからどうした?」

 ルディは書庫から取り出した本をルシフォールの前で開いた。

「私、オニキス王子とチンターマニ王国のこの教会に行ってきます。ここに、前教皇アーレス様に仕えた大神官がいるとか。オニキス王子の治癒を頼んでみます」

「‥確かに、この大神官の治癒能力は秀でていた。それ故にチンターマニ王国で疫病が発生した時に彼を向かわせた。いいだろう。チンターマニ王国に行ってこい」

 ルシフォールはルディに謝罪の意を込めてルディの頼み事を快諾した。ルイーゼの為とはいえ、ルディの婚約者とルイーゼの関係の進展に関与したのだ。そのことに罪悪感があった。

 こうして、ルディとオニキスはチンターマニ王国に向けて旅立っていった。


 

オニキスの記憶を取り戻す為に再び旅立ったルディ達。チンターマニ王国で二人は目的を果たすことができるのか?

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