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襲われたクリオラ。クリオラを襲った犯人は??
「兄様達、大丈夫かしら」
クリオラが心配そうに旅立つオニキスを見送った。
「あの二人はしがらみには負けないよ。いざとなったら二人で逃げるだろう」
アースは平然としている。クリオラとアースが城に戻ろうとした瞬間、背後からクリオラを襲う影があった。
「死ね!!」
黒い布を纏った影はクリオラの背中に、ナイフを振りかざす。アースは素早く反応して、刺客の腕を掴みナイフを奪った。
「何者だ?」
アースは腕を締め上げた。刺客は痛みにもがく。
「くっ‥」
刺客はもう片方の手で短剣を取ると、アースに突き立てた。短剣を避ける為に、一旦身を引いた。刺客はその隙に逃走した。すぐさまアルタイ王国の騎士達が後を追ったが、刺客は捕らえられなかった。
「クリオラ、大丈夫?」
アースがクリオラの身を案じた。クリオラは急襲された恐怖で青ざめている。
「刺客は私を狙っていたわ‥」
震えるクリオラの肩をアースはそっと抱き寄せた。クリオラが襲われたことはすぐにウィドマンに報告された。ウィドマンは怒りに身を震わせている。
「‥次から次へと‥。教会が鉱山を返却して、宰相との約束も反故にできたのに、エスケル王国からはルディを渡さないと言ってきた。そして次はクリオラが狙われただと‥??」
基本的には穏やかなウィドマンが、激怒している。メイド達はそんな王に怯えながら控えていた。
「心当たりはないのですか?」
ミルビリリが尋ねた。ウィドマンはエスケル王国からの書状を握りつぶすと、冷静に考えた。
「クリオラを恨む者‥。クリオラはもう聖女ではない。ということは‥」
ウィドマンが突然立ち上がった。
「ドロニノ共和国王太女ララ!!あの女は指名手配されているが未だ捕まっていない。国を滅ぼした聖女を恨んでいるはずだ!」
ウィドマンはアースの元に向かった。
「アース王子!刺客は女ではなかったか?」
ウィドマンは興奮している。走ってきたので息も荒い。アースはそんなウィドマンに気押されながらも、冷静に答えた。
「あの身なり、腕の形は鍛えられてはいましたが、女の物かと。声も中性的でした」
ウィドマンは確信した。刺客がララ本人とは限らないが、ララの手の者であることは間違いない。
「第一騎士団!我が国にドロニノ共和国の残党が侵入して逃走した!国中を手配して探し出せ!!王太女ララの残党には、十字架と蛇の刺青があるはずだ!」
ウィドマンはすぐに追手を仕向けた。
その頃、トルカは街に買い物に出ていた。クリオラの従者となり普段は城内で働いているが、今日は休みだ。
「おいしそうな林檎が手に入ったぞ」
トルカはカゴに複数の林檎を乗せて歩いていた。
『ドンッ』
トルカはいきなり飛び出してきた女にぶつかった。林檎が数個、下に転がった。
「大丈夫ですか?」
ぶつかったはずみで尻もちをついて倒れた女に、トルカは手を差し出した。
「すまない‥」
女は布で顔を隠している。トルカは訳ありだと察した。
「追われているのですか?」
「!!うっうるさい!」
女は顔を背けた。遠巻きに、騎士の気配がした。街中を捜索しているようだ。
「あれは、第一騎士団‥。王宮の一番手の騎士団が捜索?」
トルカの言葉に、女は更に布を深く被った。
「何をしたかは知らないけど‥そんなに黒い布を深く被っていたら、私、怪しいです、て言っているようなものだよ。夜ならともかく、今は昼間だから」
トルカは罪人かもしれない女に助言した。女は素直に布をぬぐとそれを畳んで袋にしまった。
「わ‥。あなたは素敵な女性だったんだね」
布を脱いだ女は、筋肉質だが魅惑的な美人だった。青紫の長い癖毛が印象深い。身につけている装飾品は、地味だが質は良かった。
「黒い布を纏った女を探せ!!」
騎士達が街中を走り回っている。その様子を見た女は動揺していた。トルカは思わず、女を庇うことにした。
「いい?私の名はトルカ。君は私の恋人。名前はラリマー。エスケル王国の国境添いのメテオライト辺境伯邸に務めるメイド。今日は私に会いにきた、てことにするよ」
トルカは優しく微笑んだ。警戒していた女の気持ちが解れていく。
「そこの女!身分は?」
騎士の一人が女に話しかけた。女は平静を装って答える。
「私は、エスケル王国のメテオライト辺境伯のメイドです。今日はトルカ様に会いにきました」
女はそう答えた。騎士はジロジロと見ている。トルカは女の肩に手を回すと、笑顔を浮かべた。
「私はメテオライト辺境伯の弟トルカ。彼女は私の恋人ですよ。何か問題でも?」
「!!トルカ様!これは失礼致しました」
クリオラの従者がトルカであることは城内で知れ渡っている。騎士は問題なしとみなしてその場を去っていった。
「ありがとう。助かった」
女はトルカに礼を言った。
「何をしたの?私は騎士達に君を売ったりしないから、教えてくれない?」
女はまだ完全には心を許していない。それでも、命の恩人の質問を無視するのは的確ではないと判断して答えた。
「母の仇をこの手で討とうとした」
女は言葉少なに呟いた。
「母親が殺されたの?」
トルカの問いかけに女は黙って頷いた。そして女は荷物を抱えると、トルカに背を向けて去って行った。トルカは訳ありの美女が気になったが引き止めることも出来ずに、黙って見送った。
「好みの女性だったんだけどな‥」
トルカは林檎を齧りながら、城に戻った。城では、クリオラがドロニノ共和国の残党に襲われたと騒動になっている。トルカはクリオラの元に駆けつけた。
「クリオラ姫!!襲われたというのは本当ですか!!」
トルカはクリオラに怪我がなく安心した。
「ええ。恐らく刺客は、王太女ララか、ララの部下。私がドロニノの女王軍を殲滅させた恨みで私を狙ったの」
トルカは真っ青になっている。
『では‥先程の女性が王太女ララ!?母親の仇打ちをしようとしたと‥』
トルカの額から汗が流れた。知らなかったとはいえ、仕える主の命を狙った者を助けてしまったのだ。トルカは真実を打ち明けることができずに俯いている。
アルタイ王国では、ララの行方を大捜索したがララは結局捕まらなかった。
そんな騒動も知らず、オニキスはエスケル王国を目指し、たどり着いていた。オニキスはすぐに教会を目指した。
「オニキス王子、突然どうしました?」
ルシフォールが驚いた。連絡もなしの来訪は珍しいからだ。
「教皇聖下!この書状が、ウルアク女王より父に届きました!!」
オニキスは、ウルアクの書状をルシフォールに見せた。ルシフォールの顔色が変わる。
「ルディとロードナイト王子を婚約させるだと!?」
「やはり教皇聖下もまだご存知なかったのですね。ルディは今、どこに?」
オニキスは教会を見回した。オニキスが来たと言うのにルディが姿を見せない。そんなことは今までは無かった。
「ルディは勇者の役目を果たす為にモンスター討伐に出て、負傷したロードナイト王子の看病をする為にまだ城内に残っている」
ルシフォールは、ウルアクがルディを城に留めた理由が分かり怒り心頭だ。
「勝手にアルタイ王国にこんな話を‥!」
ルシフォールは憤怒の形相で書状を掴むと、城に向かう準備を始めた。
「私も共に行きます!」
オニキスはルシフォールに付き添った。こうして二人を乗せた馬車は王城を目指したのだった。
ルシフォールとオニキスが城に乗り込む。女王ウルアクの画策を阻むことができるのか?




