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ルシフォール王子の過去。母子の確執とは‥

 連日の誘いに手紙や贈り物の嵐。私は辟易していた。一方で、ルシフォールもウィドマンのその行動には困惑していた。

「ウィドマン‥。お前にだけは私の真実の姿を見せてきた。そして私の計画をお前は助けてくれている。なのにどうして今回はこんな暴挙に出たんだ?」

 ウィドマンが滞在する部屋を、内密にルシフォールが訪れている。隣国の王太子をもてなす部屋は豪華絢爛だ。

「元々は、妙に賢いクリスタを妃にするのは危ないから、聖女が現れた場合は、聖女と結婚すると言って婚約破棄をするつもりだったよな?」

「そうだ」

「しかし、先日のお前の手紙には、クリスタ嬢の人が変わったかのような愚かさに、妃にしても大丈夫か様子をみる、とあった」

 ルシフォールは定期的にウィドマンと連絡を取り扱っていた。表向きは友人であり、再従兄弟同士という親族だから、という形でのやりとりである。

「クリスタがバカならわざわざ排除する必要はないんだ。敵は増やしたく無い。公爵家で唯一、敵対していない家だからな」

「なまじバカ王子のフリをしていたから、ブラヒン公爵はいずれ王政を握れると狙って娘を妃候補にねじ込んできたんだろう?王妃は大反対だったと聞いたぞ」

「母は、ミシェールを後継者に望んでいる。バカな私に王座を渡したくないんだろう。私が王座についたら、王妃の外戚としてブラヒン公爵家は貴族の筆頭になるからな」

「愛する男の息子に跡を継がせたがってると専らの噂だけどな。ミシェールは、ゲベルカミル大公の息子だろう?」

 ウィドマンは公然の秘密を口にした。ルシフォールは俯いたまま低い声で語り始めた。

「セイムチャン伯爵令嬢として生まれた母上は、王城に王妃の侍女として勤めていた。そして、当時王子だったゲベルカミル大公と出会い恋に落ちた。しかしそんな母を当時、王太子だった父が横恋慕し、側妃として召し上げた。その後、王太子妃が子もなく病死すると、父は母を王太子妃にした。伯爵令嬢を王太子妃にすることに周りは大反対したが、父は押し切ったと聞いている」

 当時の王宮の醜聞は諸外国にまで響いていたので、ウィドマンも大まかには知っていた。

「そこまでして力の無い伯爵令嬢を王太子妃にした父への貴族達の圧力は凄まじく、多くの側妃が差し出され、当時の国王はそれを拒むことが出来なかった。父も国王からの命令には逆らえず、日々側妃の元に通う生活を強いられたという」

「ジェパラ妃にしてみたらたまったものでは無いな。無理矢理、王太子妃にされたと思ったら王宮で放置され、自分よりも生まれのいい側妃達にいじめ抜かれたと聞いたぞ」

 そんなジェパラ妃を影から支えたのが、王妃だった。王妃の実家であるサントーバン公爵家はジェパラ妃を援助していた。侍女であったジェパラ妃を可愛がっていた王妃は、王太子妃となって苦しんでいるジェパラ妃に手を差し伸べたのだ。

「それでゲベルカミル大公との関係もまた復活したというわけだろう?誰が見てもミシェールは、ゲベルカミル大公に似ている。国王陛下がそれを追求しないのは、当時、王妃がどんな目に遭っていたかわかっているからでは?」

「‥そうだろうな。でも、母上は父上を許していない。だから父上の血を引く私ではなく、ゲベルカミル大公の血を引くミシェールを跡継ぎにしたいんだ」

 ルシフォールは幼い頃から、後継者としての教育を受けてきた。母との優しい思い出など全く無い。母親の愛を知らずに成長した。そして、ルシフォールの優秀さが見えると、王妃は機嫌を悪くした。そんな母親の気持ちを察して、ルシフォールは馬鹿なふりをするようになった。

「母上が辛かったのはわかる‥。だが、だからと言って、私を冷遇し続けたことは許されることではない‥」

 幼い頃より孤独に耐えてきた友の肩を、ウィドマンは抱き寄せた。

「エスケル王国はお前の国だ。お前が治めて、私がアルタイ王国を治める。いずれまた互いの子を結婚させて、縁を深めようじゃないか」

「まだ婚約者もいないお前に言われても説得力がないな」

「だから今、聖女様を口説いているじゃないか!私は本気だぞ!」

 ルシフォールとウィドマンは朝まで二人で語りながら飲み明かした。

 翌日、ルシフォールは国王に呼ばれた。そして私と教皇も同じく呼ばれた。

「ルシフォール、北の地フカンで謎の病気が流行り始めた。これはどうすべきと考える?」

 国王の隣には王妃がいる。

「‥療養所を作って医師を数名派遣して、地方を封鎖したら蔓延しないと思います」

 国王はため息をついた。逆に王妃はご機嫌である。

「その意図は?」

 厳しい国王の表情をよそにルシフォールは平然としている。

「謎の病気が国中に広まったら国力が弱りますし、我々も感性するかもしれません。少ないうちに封じ込めて、犠牲が少ないうちに滅してしまうのが得策かと」

「フカンの民はどうでも良いと?」

「人数の問題ですよ、父上。何万人が死ぬより、数百人が死ぬだけで済めば問題は大きくなりません。私はその病気にかかりたくはありませんし」

 ルシフォールの態度は横柄にも見えた。しかしこれはわざとなのだと私には分かっていた。きっと友人であるウィドマンも分かっているのだろう。何も言わずに黙って見守っている。

「あのう、国王陛下」

 アーレスが手を挙げた。皆の視線がアーレスに集中した。

「フカンの地は交通の要所。ここをしばらく封鎖したりすれば、交易も物流も止まってしまいます。ここは聖女の治癒の力で病を鎮め、平和に解決するのが適当ではないかと」

 アーレスの言葉に国王は手を叩いて喜んだ。

「そうであろう、そうであろう!そうすれば、諸外国にもわが国の聖女の素晴らしさが伝わり、エスケル王国は更に発展する。それが一番じゃ」

 国王の鶴の一声で今後の方針が決まった。いきなり私が行っても治療をする場所がない。簡易的な療養所を建て、医療スタッフを揃えてから私たちが現地に向かうことで話し合いは終わった。約2週間後にフカンの地に出発だ。それには、後の王としての学びの為に、ルシフォールとクリスタが同行する形となった。ついでにウィドマンも行くと本人が言い出して大人数の旅路となった。

 その知らせはすぐにクリスタの元にももたらされた。

「クリスタ、国王陛下の御命令だ。二週間後に、王太子殿下とお前と、聖女様とウィドマン王太子の4名でフカンの地に行かねばならない。疫病が発生しているそうだ」

 ブラヒン公爵は不服そうに言った。王命には逆らえない。

「え!?そんな地に何故私が??私は公爵令嬢ですよ?」

 クリスタは真っ青になって首を横に振った。公爵はクリスタの肩に手を置いて慰めた。

「聖女様が疫病を治療し、民を救うのを未来の王妃としてしっかり見て来い、ということなのだ。わかっておくれ、クリスタ」

「未来の王妃‥」

 その心地よい響きがクリスタの機嫌を治した。その時、公爵家にルシフォールがやってきた。

「王太子殿下!」

 クリスタは満面の笑みで迎えた。ルシフォールは軽く頷くと、クリスタに手を差し出した。

「中庭に出てもいいかな?」

「はい!お供致します!!」

 クリスタは嬉々として側に駆け寄った。ルシフォールはクリスタの手をとると、彼女をエスコートしながら中庭に向かって行った。

「王太子もクリスタを気に入っているようだな」

 ブラヒン公爵がニヤリと笑った。愚かで操りやすい娘婿。これからはブラヒン公爵家の天下だと内心思っていた。

 ルシフォールはクリスタとの婚約関係を崩さないように、適度に距離をとりながらも、ジェントルマンであることを忘れなかった。かと言ってクリスタにときめきがある訳ではない。

 中庭に入るとクリスタはルシフォールに抱きついた。今までこんな積極的な態度は見せたことがないのでルシフォールは驚き後ずさった。あたふたしているルシフォールの唇に、クリスタは背伸びをして両腕を首に絡ませ、口付けをした。ルシフォールは驚いたが、そのまま黙って受け入れた。

「王太子殿下、王太子殿下も私のことを愛してますか?」

 クリスタの甘えるような口調も、ルシフォールには通じない。

「愛?王侯貴族にそんな物が必要か?」

 衝撃的な発言にクリスタは固まった。

「我々王族は、国を治め、しっかりとした後継者を残す為に結婚をする。王家は特に、一つの貴族と特別な関係にならないよう、平等に各家から妃をもらう。その結婚には政治的な意図と、国の安定しか意味はないではないか」

 ルシフォールは淡々と述べた。愛によって不幸な人生を歩んだ母親と、そんな母親に愛されなかったルシフォール。ルシフォールにとって、王族の結婚は手段でしかなかった。

「結婚は愛する者同士がするものです‥」

 クリスタはルシフォールの意見を否定した。

「それは庶民の話だ。彼らは背負う物がない。だから、愛しか要らないし、愛しかないのだ。そんな彼らと我々は違う。私はクリスタを愛してはいない。しかし、妃にと考えている。勿論、他の貴族からも妃は迎える。貴族から不満が出ぬようにな」

 クリスタは呆然としている。現代日本で、一夫一妻が基本の世の中で育ったクリスタには、浮気や不倫はあっても、一対多数が当たり前、は理解できないのだ。

「そんなの嫌です!」

 クリスタは泣きながら屋敷に戻っていった。ルシフォールは公爵にことの経緯を話して次なる目的地の教会に向かった。

「何なの。愛がいらない結婚?一夫多妻??そんなの許せない!!私を愛するようにさせてみせるんだから!!」

 クリスタは涙でぐちゃぐちゃになった顔でそう宣言した。そんなクリスタを私は水晶で見ていた。

「へぇ‥。あの王子様はそんな考えなのか‥。異世界転生物の小説や漫画とちょっと違うのは、私とクリスタが異物だからかしら。妙にリアルな思考な王子。難敵だわ。クリスタには渡したくない!私は私でできる限りのことをしなきゃ」

 私は聖女のモテスキルを万全の体制で使えるように気を配ることにした。

「私には可愛い気が足りないのよね‥。聖女らしさを演じなきゃ‥」

 セシルは気合いを入れた。1人の男を巡る双子の姉妹の第三戦の時は迫っていた。

いよいよ双子の1人の男性を巡るバトルの第3戦スタート。今度こそ、笑奈は聖女の好かれるスキルを活かして、あざと可愛い妹に勝てるのか!?

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