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帰国したルディ。ルシフォールに伝えて現状を打破できるのか??
アルタイ王国の国境を越えると、メテオライト辺境伯の領地に入った。トルカはクリオラの側にいる為、一緒に来ていない。ルイーゼは辺境伯邸を素通りして教会に急いだ。
ルイーゼが井戸で休憩し水を飲んでいると、黒い布を頭から被った女性が現れた。女性は水を筒に入れている。旅人のようだ。
「アルタイ王国に向かうのですか?」
ルディは話しかけた。女性は俯いたまま頷く。
「この先は山道で宿も山を越えないとないです。今から向かうのは危険ですよ」
ルディは持っていた地図を見せた。女性は地図を見て道を確認している。
「もし必要ならこの地図、さしあげますよ」
ルディは快く提案した。
「ありがとう」
女性は言葉少なに礼を言うと、地図を荷物にしまった。そしてこの辺りの宿屋を探し始めた。ルディは休憩を済ますと急いで出発した。馬を一気にかけたので、日が暮れる前には都に辿り着いた。教会まであと少しだ。ルディは馬を休ませながら進んだ。
「ただいま戻りました」
ルディは軽快な足取りで教会の扉を開けた。ルシフォールが駆け寄る。
「予定より早く戻ったな。何かあったのか?」
ルシフォールは心配そうに尋ねた。
「お父様‥。教会がアルタイ王国より受け取った鉱山、返すことはできませんか?」
ルディはルシフォールに詰め寄る。
「なんだ?返して欲しいとアルタイ側に言われたのか?」
ルシフォールの顔が曇る。
「いいえ。アルタイ王国は鉱山の件は納得しています。でも‥」
ルディは目に涙を浮かべた。ルシフォールは何が起きたのか気になっている。
「鉱山はヴァカムエルタ侯爵が所有していた物で、鉱山を渡す代わりに令嬢を未来の王妃にする約束をウィドマン王としていたんです!」
ルシフォールはため息をついた。
「そんな約束をしていたのか‥」
ルディはルシフォールに縋った。ルシフォールの腕を掴みその顔を凝視している。
「つまり‥教会が鉱山を返却しない限り、侯爵の令嬢がオニキス王子の正妃となるわけだな」
ルシフォールの顔に怒りが滲んでいる。アルタイ王国は、教皇の娘を娶るのに、正妃ではなく側妃にするつもりだからだ。ルシフォールはすぐさま、教会の上層部に位置する者達を集めて会議を開いた。
ルディは会議の終わりを部屋で待った。セシルがルディの部屋を訪れる。
「辛い目にあったのね。オニキス王子はこのこと、どう言っているの?」
セシルはルディの肩を抱くと優しく頭を撫でた。ルディは母の愛が嬉しかった。
「オニキス様は妃は私一人だと。侯爵令嬢を正妃にしなければならないなら、王太子を辞すと言っています」
セシルはそれを聞いて安心した。セシルは日本人の魂だ。一夫多妻は受け入れられない。娘達にもできることなら、そんな結婚はして欲しくなかった。
そこにルイーゼがやってきた。教会内にダイオジェナイト族の神官がいる為に、二人は同じ空間にいられた。磨かれた髪や肌を保つルイーゼと、鍛えぬかれた筋肉と日焼けした肌のルディはとても双子には見えない。ルイーゼは長い髪を靡かせ、ルディは後ろで一つに縛っている。
「帰ってきたのね、ルディ」
ルイーゼはルディを一瞥した。
「ルイーゼは怪我は完全によくなったようだね」
「ええ。聖女になったから。もう、あなたに負ける部分は一つもないのよ」
ルイーゼは不敵な笑みを浮かべている。セシルは悲しかった。まさか自分が産んだ子までもが、自分と笑真のような関係になるとは思っていなかったからだ。セシルは意を決して二人の娘に自分の過去を話した。ルディ達はその事実に動揺した。
「お母様が異世界から来た転生者で、公女クリスタの転生前と双子だったの!?」
ルイーゼがセシルに詰め寄った。
「そうよ。私はセシルになる前は、別の世界で二階堂笑奈という人間だった。そして双子の妹、二階堂笑奈がいたの」
「双子の姉妹がこの世界では、聖女と公爵令嬢に生まれ変わったのね」
ルディは冷静に話を分析している。
「過去世で私は、双子の妹に恋人や婚約者を奪われた。私達姉妹の関係性は最悪だったの。あなた達にはそうなって欲しくない」
セシルは切実にそう願っていた。ルイーゼは目を反らしている。
「お母様、私が嫁いでこの国を去れば、姉妹で争うこともなくなります」
セシルの心は救われなかった。二人には、特にルイーゼには母の思いは届かない。セシルは落胆し、悲観した。
そこに、会議を終えたルシフォールが現れた。ルディは緊張している。
「ルディ、話し合いの結果、あの鉱山はアルタイ王国に返還することにした。教会の権威でもある教皇の、その娘を側妃にするなど有り得ぬと、満場一致だ」
ルシフォールは安堵している。ルディは緊張がほぐれてその場に座り込んだ。
「この証書をアルタイ王国に送る。これで、ウィドマンがヴァカムエルタ侯爵と交わした約定は効果を失うはずだ」
ルシフォールはそう言うと部屋を出て行った。
「よかったわね、ルディ」
落ち込んでいたセシルの表情に明るさが戻った。ルイーゼは悔しそうに唇を噛み締めている。
その夜、ルディは久しぶりに家族と食事をとった。ベルゼは姉の土産話に耳を傾けた。
「では、クリオラ姫は前勇者でチンターマニの王子と結婚するんだ!」
「女王陛下も婚約解消を認めたらしいからそうなるね。アース様はお強いし、クリオラ姫にお似合いだから」
ルディが嬉しそうに言った。セシルは、ルディとルイーゼが、それくらい仲が良ければいいのにと思った。ルディはクリスタが育て、クリオラはクリスタの実子。血のつながりはなくとも、クリスタという共通の母を持つことで繋がった姉妹だ。そしてその二人は、ルディがアルタイ王国に嫁ぐことで、正式に義理の姉妹となる。笑真の魂が引き寄せたのかと思えるほどの運命的な関係だ。
ルイーゼは家族団欒の時間も、淡々と過ごしていた。あからさまにルディに敵意を向ければ、両親が悲しむ。ルイーゼは込み上げる怒りを必死に耐えていた。
その夜、ルイーゼに雇われた異国の刺客がルディを襲った。刺客達はバルコニーからルディの部屋に侵入した。ルディは旅から戻った為に、疲れて横たわっている。
「死ねぇぇ!」
複数の女の刺客がルディに刃を向けた。ルディはすぐさま勇者の剣を手に取ると応戦する。
『ザッ』
勇者の剣から、龍のオーラが放出され刺客の首をはねた。
「囲め!囲むんだ!!」
刺客達は四方を囲みルディに迫ってきた。その瞬間、ルディの剣から竜巻が巻き起こり、四人をなぎ倒した。
「クソっ!」
刺客のリーダーと思われる人間が、爆弾を取り出した。そしてそれに火を付けるとルディめがけて投げつけた。ルディの周りに龍が巻きつき、爆弾は放った者に返る。
『ドカーン!!』
リーダーらしき人間は爆死し、身体は肉片となった。大きな物音に聖騎士達が駆け寄った。辺りには、転がる死体と肉片が散らばっている。刺客の命ある者は逃走した。
「逃げた者を捕らえるのだ!」
長官であるユリウスが部下達に命じた。複数の騎士達が外に探索に出る。
「どれもこれも女です。腕に蛇と十字の紋章があります」
死体を検分したユリウスが報告した。
「その紋章がどこの物かを早急に調べて」
ルディは床に散らばる肉片を見て吐き気をもよおしていた。剣士として修行し戦にも出たが、肉片はまだ見たことがらなかったのだ。ルディはその日は客間で一晩を過ごした。
『チッ‥。失敗したの‥。天下に名を馳せた女性騎士団も大したことはなかった‥』
ルイーゼは悔しそうに部屋に戻っていった。
ルイーゼの暗殺計画は失敗した。ルディのその後はどうなる??




