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ウィドマンは婚約解消の為にエスケル王国を訪れ、ルシフォールに謝罪もする。そして帰ったウィドマンを待っていたのは‥
その頃、ウィドマンはエスケル王国の王城を訪れていた。
「クリオラ姫が聖女の力を手放したことは、教皇に聞いています。クリオラ姫は婚約の解消を望んでいるのですね」
ウルアクはため息をついた。
「よもや聖女の力を手放すなど‥」
ウィドマンはことの経緯を説明した。
「ルイーゼがクリオラ姫から攻撃を受けたことは聞きました。その詫びとして教会が鉱山を受け取ったことも‥」
王家としては、教会が力を増すのは望ましくない。ウルアクは不機嫌だった。
「聖女がエスケル王国に戻ったことはよかったと考えましょう。ロードナイトとクリオラ姫の婚約も解消します」
ウルアクは書状に印をついた。ウィドマンは書状を受け取ると、城を出て教会に向かった。
「ルシフォール」
ウィドマンは教会の中でルシフォールを探した。周りが騒がしいのでルシフォールが奥から出てきた。
「ウィドマン、城に行ってきたのか?」
ウィドマンは書状をルシフォールに見せた。約定書には両国の印がしっかり押されている。
「クリオラ姫はこれからどうなる?」
「クリオラはアース王子と結婚する。そして我が国で生きていく」
ルシフォールは二人が結婚することは予想できたが、アルタイ王国に留まるとは思っていなかった。
「アース王子は他国に残って大丈夫なのか?」
「アース王子は庶子らしい。城にも住んでいないからその心配は要らない」
ウィドマンはそう言うと、ルシフォールに頭を下げた。
「クリオラがルイーゼ嬢にとんでもないことをした。すまない!!」
ルシフォールはウィドマンの肩を叩いた。
「ルイーゼの怪我は完治した。それに‥ありあまるほどの詫びの品も届いた。このことはもう、終わりにしよう」
ウィドマンは友の気持ちに救われた。ウィドマンはルイーゼにも謝罪し、その日を教会で過ごすとアルタイ王国に戻っていった。
ウィドマンが帰ると報告を受けたアルタイ王国の城内は緊張していた。宰相とオニキスのトラブルで城内には不穏な空気が漂っている。オニキスはそんな城内に嫌気がさし、ルディと共に外遊していた。
「ルディ、この美術館を見た後は歌劇を見に行こう!」
オニキスは都の観光名所をルディに案内した。ルディは初めてのデートを楽しんでいる。二人はその後も、喫茶店で菓子を食べ、プラネタリウムで星を眺めた。
「ルディ、私が王太子でなくなっても構わない?」
オニキスの問いかけに、ルディは笑顔で応える。
「オニキス様が、王子でなくても庶民でも私は好きです」
ルディは真っ赤になっている。オニキスは嬉しそうにルディを抱きしめた。
「オニキス殿下!明日、国王陛下がお戻りになられると連絡がありました」
城からオニキスの部下が駆けつけてきた。
「明日か‥。気合いを入れなければ」
オニキスは自らの頬を両手で叩いた。ルディとオニキスは城に戻ると、王妃達と晩餐をとりゆっくりと休んだ。
翌日の昼過ぎに、ウィドマンは帰ってきた。オニキスに預けたはずの玉璽をはめた王妃。そして緊迫した城の者たちの様子にウィドマンは何かが起きたと察した。
「ミル、何があった?」
ウィドマンはまずミルビリリを問いただした。ミルビリリは、カーシャとオニキスの婚約をオニキスが拒否したことを話した。
「宰相め‥。もうオニキスに話したのか‥」
ウィドマンはとりあえず、オニキスがルディと結婚した後に、正妃を迎えるように言うつもりだった。
「オニキスはルディ嬢以外とも結婚しなければならないなら、王にはならぬと宣言しました‥」
ウィドマンは拳を握りしめた。
「一国の王が、たった一人しか妃を娶らないなどありえん。何を考えているのか。すぐに、オニキスを呼べ!!」
ウィドマンは珍しく怒っている。召使いがオニキスを呼びに走った。オニキスはすぐにウィドマンの元にやってきた。
「父上、お呼びでしょうか」
オニキスは悪びれもせずに平静を保っている。
「お前は将来、王となる身。そのお前が、妃は一人、など正気の沙汰とは思えん」
ウィドマンはオニキスの胸ぐらを掴んだ。ミルビリリが慌ててウィドマンを止める。ウィドマンはとりあえず手は離した。
「妃を複数娶らねばならぬなら、私は王にはなりません。元々私は庶子。平民の子です」
オニキスが言い切った。
『バシッ』
ウィドマンはオニキスの頬を叩いた。オニキスは理不尽な暴力に怒りを感じている。
「父上!私はあなたとは違う!あなたはクリオラの実の母とも関係を持っていた!心から人を愛することができず、多くの女性を渡り歩いたあなたに私を非難されたくありません!」
オニキスの初めての反抗だった。ウィドマンの顔は怒りで真っ赤になっている。
「オニキス!!陛下になんてことを!!謝りなさい!」
ミルビリリが間に入った。
「母上は、本当に愛した男と結ばれなかった。母上を不幸にしたのは、公女クリスタとアグダル。そんな公女と関係を持っていた父上を、許せるのですか?」
ミルビリリは真っ青になっている。ショックの余り立っていることができずに、椅子にへたり込んだ。
「オニキス!!こっちに来るんだ!!」
ウィドマンはオニキスの腕を掴むと、部屋を出て行った。
「母上に聞かれたくないからですか」
オニキスは吐き捨てるように言った。
「‥‥クリスタの話をミルビリリにして、クリオラのことは考えないのか?」
オニキスは我に帰った。ミルビリリにとってクリスタは、元婚約者を利用され、婚約破棄にした憎むべき女。その女の実の娘がクリオラであることを、ミリビリリに気づかれてはならない。知ってしまえば、ミルビリリはクリオラを愛することができなくなる。
「ミルビリリの前では、極力クリスタの話はしないようにしているんだ。どこから、クリオラがクリスタの娘だと知るかわからないからな。それに‥ミルビリリが憎むクリスタと私の過去を話して、苦しむのはミルビリリだ。そんなことも考えられないのか」
ウィドマンは肩を落としている。若かりし頃の過ちとはいえ、クリスタに手を出したことは事実。まさかオニキスにそれを霊視されるとは思ってもいなかった。
「母上の前でクリスタの話をしたのは申し訳ありませんでした。しかし‥私は、ヴァカムエルタ侯爵令嬢と結婚する気はありません」
オニキスの固い決意に、ウィドマンは困り果てた。王に複数の妃は当たり前、という価値観で深く考えずにした約定が果たされないのだ。
「お前以外の王子に、王としての力は無い‥。アルタイ王国の為に、折れてはくれまいか‥」
ウィドマンは懇願した。オニキスは初めて見るそんな父の態度に戸惑っている。
「‥私はルディを裏切れません。それに、ヴァカムエルタ侯爵令嬢が正妃でルディが側妃など、教皇聖下が聞いたら父上に激怒されます」
オニキスは思案に暮れた。確かにルディを側妃、と話せばルシフォールは怒るだろう。普通に考えて、教皇の令嬢は、王家の王女レベルだ。貴族の令嬢より下の立場など受け入れられない。
オニキスはウィドマンの元から下がり、ルディの部屋に向かった。
「それでは、国王陛下は他の王子は王太子にしないと言うのね。となると‥ヴァカムエルタ侯爵令嬢を妃にしないといけないのはオニキス様‥」
ルディはオニキスから報告を受けていた。
「オニキス様、私、一旦エスケル王国に戻ります」
ルディの言葉にオニキスは焦った。
「ルディ!怒らないで!!私は絶対に他の女性を妃になんてしないから!!」
オニキスはルディが別れるつもりで帰国するのだと思い焦っている。
「怒ってないよ」
ルディは優しく微笑むと、オニキスからもらって首から下げていた指輪を指にはめた。
「お父様と話してくるだけだから」
ルディはオニキスに寄り添った。オニキスは不安だったがそれ以上は何も言えずにただ、ルディを抱き寄せた。
翌日、ルディはウィドマンに挨拶をするとエスケル王国に向かった。国境近くまでオニキスが見送った。
そしてルディは両親の待つ教会を目指したのだった。
ルディは、ルシフォールに何を話すのか。ルディのいない間にカーシャはオニキスに迫る。




