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ウィドマン王との対面。クリオラとアースの仲は認められるのか?

 翌朝、一行はアルタイ王国の都を目指した。アルタイ王国は美術や音楽などに優れた国で、各国に芸術家達が集まっている。街には、美術館や演奏を聴くホールなども点在し、道端には絵を描いている者が散見される。

「オニキス様、アルタイ王国は文化的な国なんだね!」

 ルディは馬車の窓から身を乗り出して、街に張られているポスターなどを眺めた。

「アルタイは、性に奔放といった悪いイメージの方が先に浮かぶ人も多いけれど、芸術にも造詣が深いんだよ」

 ルディは目を輝かせている。ルディが育ったチンターマニ王国は、農業国で芸術よりも生活だった。周りの子達も、家業を手伝うことで生計を支えていた。生き生きとした目で楽器を演奏する子供達の姿は、ルディにとって新鮮だった。

「都はこんな感じだけど、地方は違うよ。地方では、農業や畜産業なども盛んだから。そうじゃなきゃ、食べる物に困るだろ?」

 オニキスがルディの考えを見透かしたように言った。

「なるほど。私が育ったのはチンターマニ王国のはずれ。都は違うということか‥」

 ルディはチンターマニ王国の都に行ったことがなかった。

「私もチンターマニ王国の都はまだ行ったことがないな。アース王子に聞いたらわかるんじゃないか?」

「着いたら聞いてみようかな」

 ルディは、後ろに続くアース達の馬車を振り返った。窓越しに、二つの影が寄り添う姿が見える。ルディはそんな二人を微笑ましく思った。

「アース様とクリオラ姫の関係を、国王陛下が認めてくれたらいいな‥」

 不安そうに呟くルディの手を、オニキスがしっかりと握った。

「父上は、頭の固い方ではない。どちらかというと、軽い方だから、大丈夫!」

 オニキスが根拠のない自信を見せた。

「軽いって‥」

 ルディが理解できずに考えていると、オニキスが耳元で囁いた。

「若かりし頃は、とにかくすごい恋愛遍歴だったんだ。結婚しただけでも二桁を超えているし‥」

「でも王様には、後宮があって数千人の女の人がいる、なんて話も聞きくし。二桁なら少ないのでは?」

「後宮がある国はね。ただ、後宮の中の女達が皆、妻と言うわけではないから。誰に手を出しても構わない、という形だけどね。後宮の寵姫争いは凄まじいというよ。選ばれた僅かな女が妃になれるから」

 ルディはため息をついた。

「そんな立場に生まれなくてよかった‥」

 オニキスがルディの肩を抱く。

「もしそんな状況だったとしても、私は数千人の中からルディを見つけ出して、ルディだけを愛するよ」

 オニキスは照れもせずに言った。ルディは真っ赤になって俯いている。オニキスの愛情表現はいつも直球だ。

 二人の甘い空気が流れる中、馬車は目的地に到着した。ルディ達は我に帰ると身なりを整えた。馬車を降りた4人はすぐにウィドマンの元に向かった。

 アルタイ王国の城には、沢山の芸術品が飾られている。その素晴らしさにルディは目を奪われた。

「クリオラを連れてよく戻った、オニキス」

 ウィドマンが第一声でオニキスに声をかけた。オニキスは静かに首を垂れる。

「そして、アルタイ王国にようこそ。アース王子、ルディ嬢」

「国王陛下、ドロニノ共和国との戦いの際は、お助け頂きありがとうございました」

 ルディは、恩人であるウィドマンに敬意を示した。ウィドマンのお陰で、戦の傷を教会で癒してもらえ、実の両親にも再会できた。

「そなたの父、教皇聖下と私は親戚で親友でもある。当然のことをしたまでだ」

 ウィドマンは満足そうに微笑んでいる。

「父上、大変申し訳ございませんでした!!」

 クリオラが前に進み出た。その瞬間、ウィドマンの表情が変わり、緊迫した空間となった。しかしクリオラは物怖じせずに続けた。

「私は兄を慕うあまり、兄の恋人を攻撃しました。しかし、それを悔いて謝罪し、聖女の力をルイーゼ嬢に渡しました」

 その瞬間、ウィドマンが立ち上がった。

『バシッ』

 ウィドマンはクリオラの頬を叩いた。クリオラは歯を食いしばり痛みに耐えている。

「今のは、お前の愚行に対してだ。教皇の娘を襲うなど、たとえ王族であってもしてはならぬこと。大事に至らなかったのが幸いしたが‥。お前がルイーゼ嬢を負傷させたとオニキスから連絡を受け、我が国は教会に対して鉱山を一つ差し出した」

 クリオラは黙って聞いている。その瞳はまっすぐにウィドマンを見ており、覚悟が滲み出ている。

「ルイーゼ嬢の傷を治すには、聖女の力を渡すしかありませんでした」

 ウィドマンはクリオラの成長を頼もしく思った。怒りの表情が段々と和らいでいく。

「‥それは残念ではあるが‥。どちらにしても、聖女の力はこの国には止めおけなかったゆえに、不問にする」

 クリオラはウィドマンの寛大な処分に歓喜した。

「父上!!ありがとうございます!!」

 ウィドマンは再び着席した。

「エスケル王国には、クリオラは聖女の力をなくしたこと、教会に迷惑をかけたことから、婚約の解消を伝える」

 クリオラは深く頭を下げると後ろに下がった。ウィドマンの視点がアースに向けられた。アースは静かに前に進み出た。

「国王陛下、お初にお目にかかります。私は、チンターマニ王国の第九王子アースと申します。前勇者でもあります」

 ウィドマンはアースをジロジロと見つめた。

「父親に似ず、いい男ではないか」

 ウィドマンは、チンターマニ王国の国王ボンドクと何度か会見したことがある。ボンドクもウィドマンに負けず劣らずの女好きだった。

「私は母似と言われて嫌われております」

 アースは父との不仲を遠回しにウィドマンに伝えた。クリオラと結婚するとなると通常なら、クリオラがチンターマニ王国の王族に嫁ぐ形になる。しかし、アースは山奥の館に排除された庶子。王子として、王女と結婚といえるほどの待遇を取れないことを説明しなければならなかったからだ。

「ああ。色々と噂は聞いている。女好きの風上にも置けない男だ。惹かれた女の人生の責任も持たずに、遊びで手を出す」

 ウィドマンは女好きだが、手を出すからには責任を取っていた。クリスタのように、相手も遊びなら結婚はしない。しかし、相手が本気の場合は結婚していた。

「実は、そなたの母君は、我が国で踊り子の師範として生きている。もうだいぶ前にこの城で舞を見せてくれたことがあってな。チンターマニ王国での出来事を聞いた。まさか、彼女が産んだ子とここで会うとは思いもしなかった」

 ウィドマンは紙を取り出すと、メモを書いてアースに渡した。

「ここにそなたの母親がいる。アース王子、母親を憎まないでやってくれ」

 アースは大きく息を吐いて精神を落ち着けた。

「わかりました‥」

 アースはメモを懐にしまった。ウィドマンが話を続ける。

「オニキスからの知らせだと、クリオラとアース王子は恋仲とか」

 ウィドマンの核心に迫る質問に、アースとクリオラに緊張が走った。

「はい。私はクリオラ姫と生涯を共にしたいです。お許し頂けませんでしょうか」

 アースの額に汗が滲む。強大なモンスターを目の前にした時でさえ、ここまで緊張しなかったとアースは感じていた。

「父上!私はアース様と一緒になりたいのです。私の夫はアース様しかいません」

 クリオラが懇願した。

「父上、クリオラが心から愛した男性です。認めて頂けませんか」

 オニキスが援護射撃をする。クリオラは嬉しかった。

「‥我が国には、オニキスとルディ嬢が結婚して勇者が残る。クリオラが聖女ならこの国には居られなかったが、聖女の力をルイーゼ嬢に渡した。つまり、我が国にいられる」

 ウィドマンが独り言のように呟いた。

「アース王子」

 ウィドマンはアースの近くに歩み寄った。

「剣聖と呼ばれる剣技。我が国の為に役立てるなら、クリオラとの結婚を認めよう」

 アースは静かに一礼した。

「前勇者、剣聖アース。アルタイ王国の為にその力を使わせて頂きます」

「よし!クリオラ姫とアース王子の婚約を認めよう。ただし、エスケル王国に、婚約解消の知らせをして承認されてからの発表になる。それまでは公にしてはならん。皆の者!緘口令だ。二人のことはこの城外で他言してはならん!」

 ウィドマンはそう命じると、自分の部屋に戻っていった。アースとクリオラは緊張が解けて疲れている。しかし、二人は幸せだった。ルディは、アースとクリオラがうまく行ったことに満足していた。

「あとは、エスケル王国の返事次第ですね」

 ルディは上機嫌だ。

「女王は聖女の力をエスケル王国に欲しただけだったから、聖女じゃないクリオラは不要だろう。大丈夫だよ」

 オニキスはクリオラの未来が幸福なものであることを、霊視していた。

 その夜、クリオラはウィドマンの元を訪れていた。ウィドマンに個別で話があると呼ばれたのだ。

「父上、何か御用でしょうか?」

 ウィドマンが、テーブルの上にワインと軽食を用意させている。

「ああ、クリオラ。よく来た」

 ウィドマンはにこやかに微笑む。昼間は対外的な対面だった為に堅苦しかったが、今は親子の時間だ。ウィドマンも王というより父親の立場でいた。

「ドロニノとの戦いの時は、そなたのお陰で我が軍は勝利を収めることができた。その褒美を渡さねばと思っているのだが‥」

 ウィドマンは、証書を一枚取り出した。

「これは、そなたとアース王子が結婚した際に、創設される公爵家だ。婚姻後に正式に認められる。二人はこの国で貴族として生きていける。アース王子には、軍の司令部の長官として働いてもらう」

 クリオラはどんどんいい方向に向いている人生に戸惑っていた。

「?嬉しくないのか?」

「いいえ。嬉しいです‥。でも‥私みたいな女が公爵夫人なんて名乗っていいのかと‥」

 クリオラは、チンターマニ王国で知った己の出生の秘密をウィドマンに打ち明けた。

「‥そなたが公女クリスタの娘!?言われてみれば似ている‥。オニキスが赤子を拾った時に、『クリ‥』と閃いたと言ったから、クリオラと名付けたが、クリスタの子だったからか!!」

 ウィドマンは恐ろしいほどの偶然に身震いした。たまたま拾った子が聖女で、その親は自分と関わりがあった者。偶然とは思えなかった。

「それでは、ルディがクリスタに拐われて育てられたことも知っているのか。神が運命の子らを繋げているのか‥。引き寄せが起きているな‥」

 ウィドマンは神に手を合わせた。

「そんな私でも、父上の娘としてここにいていいのでしょうか‥。私は父上の望んだ聖女でもなくなりましたし」

 ウィドマンは不安を抱えたクリオラを優しく抱きしめた。

「血は繋がっていなくとも、赤子の頃から育てたそなたが愛しい。そなたは私の娘だ」

 クリオラは嬉しかった。

「聖女であることを隠すあまり、寂しい思いをさせてすまなかった」

 王が詫びた。国王はどんなことがあっても、自分より下の者に謝罪してはならない。その王であるウィドマンが、クリオラに謝罪したのだ。クリオラはその気持ちを受け入れた。

「私には、父上や母上、そして兄様がいました。そしてこれからはアース様もいます。アース様と二人で、父上や兄様をお支えしていきます」

 クリオラは公爵家創設の話を了承した。ウィドマンとクリオラは酒を飲みながら、親子のひとときを過ごした。

 その頃、ルディはオニキスと共に庭園を散歩していた。王族しか入れない庭園には、解毒用の薬草なども栽培されている。

「クリオラ姫とアース様が無事に認められてよかった!」

 ルディは上機嫌だ。オニキスも、クリオラのことが平穏に進んで安心していた。

「一時はどうなることかと思ったよ。教会と全面戦争になるかとハラハラした」

「教会が戦う??」

「教会には、各国から送られた聖騎士がいる。今は元聖女のセシル様の専属騎士だったユリウス卿が長官だ。教会に弓引いたら、聖騎士が攻めてくるよ」

 ルディは教会にそのような面があるのを知らなかった。

「お父様が、王みたいなものなのね‥」

 オニキスが頷く。

「クリオラがした行為は、他国の王女をいきなり攻撃したのと同じレベルなんだよ」

 そう聞くと、戦争にならなくてよかったと改めて思える。二人は庭園にあるベンチに腰掛けると、小一時間を共に過ごして各部屋に戻っていった。

クリオラ達の幸せな未来は見えた。ルディとオニキスの結婚のタイミングは、ロードナイト王子とクリオラの婚約解消で振り出しに戻った。

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