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聖女は次の聖女に交代するのか‥

 クリオラは気まずそうにルシフォールの前に進み出た。アースがそんなクリオラを支えた。ルシフォールはクリオラを冷たい目で見ている。

「‥これは聖女クリオラ。今日は何の用で?」

 ルシフォールは冷たく言い放った。クリオラは萎縮する。アースがクリオラの肩を軽く叩いた。クリオラは昨夜、アースと話した通りにしようと勇気を振り絞る。

「教皇聖下!先日のこと、お詫びに参りました!私情で令嬢を攻撃したのは私です」

 クリオラは頭を下げたまま動かない。オニキスはそんな妹を部屋の隅から見守っている。

「怪我を負ったのは我が娘。謝罪はまず娘にしてもらいたい」

 ルシフォールは使用人に目で合図した。使用人が素早く行動する。そしてすぐにルイーゼがその場に現れた。車椅子に乗るルイーゼに、クリオラの心が痛んだ。ルイーゼはクリオラを睨みつけている。

「今更謝りに来たの?あなたのせいで私はこんな身体になったのよ!!」

 ルイーゼは怒鳴りつけた。クリオラはまだ頭を上げずにいた。

「本当にごめんなさい!ルイーゼ嬢、貴女の身体を治す為に今日、ここに来たのです」

 クリオラに皆が注目した。

「ルイーゼを治せるのか??」

 ルシフォールはクリオラの側に駆け寄った。クリオラは黙って頷く。

「どうやって治すと言うのよ。まさか、貴女の持つ聖女の力を私に渡してくれるというの?」

 ルイーゼはその方法をまだルシフォールに話していなかった。ルシフォールは驚いている。

「お父様、神官が調べてくれたんです。かつて、聖女が己が傷つけた相手を治す為に、聖女の力を渡したことがある、と記載がありました」

「そんな方法が‥!!」

 ルシフォールは一縷の望みに期待を膨らませた。クリオラは頭を上げると、ルイーゼを見つめた。

「貴女は聖女の娘。聖女になるに相応しい器を持っています。貴女が望むなら私は私の力を貴女に渡します」

 クリオラは静かにルイーゼの返事を待っている。

『私が聖女になれば、勇者のルディに負けない‥。アルタイ王国は、勇者よりも聖女を欲しがるはず』

 ルイーゼの頭には、歩けることよりも先にルディへの対抗心が浮かんでいた。一方、ルシフォールは、ルイーゼがまた歩けるようになる方法を打診されて喜んでいる。

「ルイーゼ、また歩けるようになるなら聖女になるんだ」

 ルシフォールはルイーゼに進言した。ルイーゼは素直に頷いた。

「分かってますわ、お父様」

 ルイーゼは車椅子でクリオラに近づいた。

「聖女の力、私が頂くわ」

 クリオラは安堵した。そんなクリオラをアースは優しく見守っている。ルイーゼはやっとアースの顔を見た。今までは、クリオラばかりに注目し、アースやトルカは目に入っていなかったのだ。

『チンターマニ王国の王子‥すごく綺麗な男ね‥』

 ルイーゼは、クリオラとアースのただならぬ関係に嫉妬した。ルディといい、クリオラといい、愛する男といて幸せそうな顔をしている二人が憎らしかった。

 聖女の力を移す為に、二人は礼拝堂に移動した。周りに人はおらず二人きりだ。クリオラは目を瞑り、ドラゴンを召喚した。

『聖女よ‥どうした』

 異空間から真っ赤なドラゴンが現れた。

「今から次の聖女に力を渡したいの。どうすればいい?」

 ドラゴンはギラリと光る瞳でルイーゼを見た。ドラゴンに攻撃されたことのあるルイーゼは、恐怖を感じている。

『お前の紋章を、次の聖女に移すがいい。私がいれば紋章は、肌を重ねるだけで移動する。ただし、相手が聖女の器を持っていれば、だが』

 クリオラは上腕部の聖女の紋章を、ルイーゼの上腕部に当てながら、気を貯めた。そして気を放った瞬間、紋章はルイーゼに移った。

『ほぅ‥。新たな聖女は、聖女の娘か。それですんなりと受け入れられたのだな』

 ドラゴンはルイーゼを見ている。最初は恐怖したルイーゼだったが、時間が経つにつれそれが薄れていく。

「今日から私が聖女よ」

 ルイーゼはドラゴンに宣言した。

『承知した‥』

 ドラゴンはそう言うと、異空間に戻って行った。無事に聖女の力を引き渡せたクリオラはホッとしている。

「クリオラ姫‥。貴女が私を攻撃したことはこれで許してあげる。これからも良い関係でいたければ、私に協力して欲しいの」

 ルイーゼが車椅子から立ち上がった。ドラゴンから受けた傷の影響は全く無くなっている。

「協力?」

 ルイーゼはクリオラに迫る。

「そう。貴女のお兄さん、オニキス王子には、勇者ではなく聖女の妃が相応しいとウィドマン王に言って欲しいの」

「兄様は、ルディを愛している。父上にそう言ったとしても、兄様の気持ちは変わらない」

 クリオラはアースと愛を育んだことで、真実の愛の絆の深さを知った。クリオラから見ても、オニキスとルディは引き離せるような関係ではなかった。

 ルイーゼはクリオラの返事に腹を立てた。

「聖女の力で攻撃してやりたい所だけど、貴女はアルタイの王女。国際紛争になるから今は辞めとくわ」

 ルイーゼはそう言い捨てると、自らの足で礼拝堂を出て行った。歩いて礼拝堂から出てきたルイーゼを、ルシフォールやセシルが嬉しそうに出迎える。

「ルイーゼ!また歩けるようになったのね!!よかった!」

 セシルはルイーゼを抱きしめた。

「お母様。私、お母様と同じ、聖女になりました」

 ルイーゼは満足そうだ。セシルはそのことに一抹の不安を感じていた。双子の娘達が、今では相容れぬ勇者と聖女になったからだ。

「あなたが聖女になったら、ルディとは同じ場所にいられないのでは‥」

 不安そうに呟くセシルに、トルカが助言した。

「ダイオジェナイト族の者が側にいれば、勇者と聖女が同じ空間にいるのは大丈夫です」

「この教会にも、ダイオジェナイト族の末裔がいる」

 ルシフォールも話に入ってきた。その言葉にトルカは安堵した。もしも他にダイオジェナイト族の者がいなければ、自分が教会に残ることになりかねなかったからだ。トルカは、生涯クリオラに仕えたいと考えていた。

 クリオラが時間をあけて礼拝堂から出てきた。オニキスがクリオラの元に駆け寄った。

「クリオラ、お前は聖女の力を手放したのか‥。父上に報告しなければ。聖女との婚姻ということで結ばれたロードナイト王子との婚約も、話が変わってくるだろう」

 オニキスはクリオラの手を掴んだ。

「一旦、国に帰るぞ」

 クリオラは素直に頷いた。そして改めてオニキスを見て、あれだけ恋焦がれていた感情が、執着だったと気づいたのだった。

「私も共に行きたいです」

 アースがオニキスに頼み込んだ。

「まさか貴方がチンターマニ王国の王子だったなんて‥。ルディの師匠の師匠が、クリオラと‥」

 オニキスは複雑な気持ちだった。

「オニキス様、アース様ならクリオラ姫を守れます。それにしてもまさか、アース様がチンターマニ王国の王子だったなんて‥」

 ルディはチラリとアースを見た。アースは気まずそうに応える。

「捨てられた王子だから。勇者じゃなかったら、とっくに殺されてる」

 アースはルディの頭をポンポンと軽く叩いた。師弟の関係とはいえその絆に、オニキスとクリオラは嫉妬している。

「兄様‥。アルタイ王国に戻る時は、兄様とルディ嬢、私とアース様で馬車に乗りましょうね」

 クリオラの提案にオニキスは即答した。

「当然だ」

 こうして翌日、兄妹、師弟の組み合わせではなく、二組の恋人同士はアルタイ王国に向かったのだった。

 

ルディとオニキス、クリオラとアースの二組の恋人達を乗せた場所はアルタイ王国を目指す。そこに待つウィドマン王の対応は??

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