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ルディの初めての勇者としての仕事はうまくいくのか?
ルディ達一行は2日かけてメテオライト辺境伯の領地に辿り着いた。勇者に救助の依頼をしたメテオライト辺境伯家は、ルディ達を手厚く出迎えた。メテオライト辺境伯であるナンタンと、その母リビアンが一行をもてなす。
ルディはリビアンに聞きたいことがあった。しかし、大勢の前では話せない。ルディはリビアンに個別に話ができるようもちかけた。
「勇者様、いかがされましたか?」
リビアンは40代の割には若さを保っている。綺麗に着飾った姿で現れた。
「突然申し訳ない。私は、ブラヒン公爵令嬢だったクリスタに育てられました。クリスタはかつて、前伯爵夫人と親交があったと聞いています」
それを聞いたリビアンの顔が曇った。リビアンにとっては、アグダルやクリスタに利用された過去は黒歴史でしかない。アグダルが死に、アグダルの術が解けた時には既にトルカを身籠っていた。当時、愛人の子を産んだ伯爵夫人と世間から冷たい目で見られたことを忘れたことはなかった。しかも、アグダルの罪の一味として扱われ、伯爵家は辺境伯にされたのだ。リビアンは暗い表情で当時のことを話し始めた。
「公女クリスタは、教皇様を手に入れる為に当時の聖女様を何度も襲いました。それが失敗に終わると、聖女様のお子を誘拐したのです。顔は美しくも、心は悪魔のような女でした」
リビアンの言葉に、ルディの心は痛んだ。母子として18年の時を過ごしてきた。母を憎む気持ちと慕っていた過去の気持ちが複雑に存在しているのだ。
「母はそんな人間だったのですね‥」
ルディは静かに事実を受け入れている。
「エスケル王国中に誘拐犯の公女の指名手配はされました。しかし18年もの間、捕まらなかった。そんな公女が隣国で痴情のもつれで殺害された時は、皆が因果応報だと言っていましたよ」
クリスタが名を変えて、ブレインビュー男爵の愛人になり殺された事件は、エスケル王国内にセンセーショナルに伝えられていた。
「話を聞かせてくれてありがとうございます」
ルディは頭を下げると、客間に戻っていった。客間で待っていたオニキスは、浮かぬ顔のルディを慰める。
「どうした?ルディ」
オニキスはルディの頭を撫でた。
「育ての母のことを聞いたんです。やはり最悪な女だったようで‥。ここの前伯爵夫人にも迷惑をかけたようです」
オニキスはルディを抱きしめた。ルディはその温かさに安心感を得たのだった。
「ルディの母君は、セシル様だ」
オニキスの言葉にルディは勇気づけられた。
「そうですね!私は教皇と前聖女の娘。勇者として、役目を果たします」
ルディが笑みを浮かべた。オニキスはそんなルディに愛しさを募らせる。ルディ達は、ナンタンの案内に従ってモンスターの現れた場所を目指した。
「勇者様、あちらの洞窟にオーガの大群がいるのです。オーガに襲われる商団は後を断たず、皆困っています」
ナンタンが林の奥に見える洞窟を指差した。洞窟の周りには人や獣の骨が落ちている。
ルディは固唾を飲んだ。戦争は経験したが、モンスターと戦ったことはない。緊張がルディを襲った。ルディが躊躇していると、勇者の剣がカタカタと動き始めた。早く鞘から抜けと言っているようだ。ルディは意を決して剣を抜いた。剣から光が発せられる。その光は空高くに真っ直ぐに伸び、大きな龍を呼んだ。龍に羽はなく、蛇のようにとぐろを巻いている。
『勇者よ。餌はどこだ?』
龍は大きな口を開けた。玉虫色の鱗がギラギラと輝いている。
「あの洞窟の中にいる」
ルディは洞窟を指差した。
『ならば早く外に引き摺り出すのだ』
龍は身体が大きい。その為、洞窟の中に入るのは不可能だった。ルディは意を決して洞窟に足を踏み入れた。後にはオニキスや騎士達が続く。メテオライト辺境伯の騎士団とナンタンは少し離れた場所に待機し、外から様子を見守っていた。
ルディ達が侵入したことに気づいたオーガ達は、ルディ達に襲いかかった。ルディは剣でそれを交わしながら、少しずつ後退し、オーガ達を外に誘導した。オーガの集団が外に出ると、上空の龍が大きな口を開けてオーガ達を咥え込んだ。一度に複数のオーガが丸呑みされた。しかしオーガは沢山いる。他のオーガ達は分かれて林の中に隠れた。その一部は、メテオライト辺境伯の騎士団の方に向かっていく。
「うわっ‥。引け!引くんだ!!」
ナンタンは一目散に馬を駆けて逃げ出した。司令官を失ったメテオライト辺境伯の騎士団は散り散りに退却する。
「情け無いな‥。これが国境を守る辺境伯か?」
オニキスが苦笑いを浮かべている。オニキスにエスケル王国を攻める機会があるなら、メテオライト辺境伯領からが容易いことが判明したからだ。友好国だからこそ攻めないが、エスケル王国の守りには呆れるほどのレベルだ。
ルディは次々に現れるオーガ達を斬り、倒し続けた。オニキスもそれに続く。オニキスは人より殺気を感じ取る力に秀でているので、背後から敵が狙っていてもそれにすぐに気がつき防御していた。
龍は多くのオーガを平らげ満腹になったのか、今は口から火を吹いてオーガ達を焼き殺している。肉の焼ける臭いが鼻につき、ルディ達は気持ち悪さを感じていた。
数時間が経ち、辺りを見渡してもオーガの姿は見えなくなった。戦わずに逃げ出したオーガも一定数いるようだが、洞窟から排除できれば役目は終わる。ルディは龍を使い洞窟の入り口に大きな岩を並べると、メテオライト辺境伯邸に戻った。
「勇者様!ご無事で」
即座に逃げ出したナンタンが気まずそうに出迎えた。リビアンは居た堪れないようで俯いている。
「洞窟に住むオーガ達は殲滅しました。これで私の役目は終わりです」
ナンタンはルディに感謝すると、盛大な晩餐会を開いた。ルディ達は食事と酒を馳走になると、翌日の帰省に向けて早めに部屋に戻った。
ルディとオニキスの部屋は別々だが、オニキスはルディの部屋を訪れていた。
「勇者の龍はすごいな。羽根がないが大きく強い」
オニキスはおもちゃを貰った子供のように目を輝かせている。
「聖女のドラゴンは羽根があるの?」
「ああ。先日、私から逃げる時も飛竜に乗っていた」
オニキスはそばにあった紙に飛竜を描いた。
「龍にも種類があるのか‥。聖女のドラゴンはワイバーンみたいだね」
ルディとオニキスは龍の話に花を咲かせた。そして夜が耽ると共に眠りについた。
「ち‥。なぜ、勇者の部屋に王子がいるんだよ‥。せっかく勇者を口説こうと思っていたのに‥」
ナンタンがルディの部屋を覗いている。手には酒瓶を持っていた。
「我が家には、アグダルが残した薬が色々ある。この惚れ薬を飲ませれば、勇者は私に惚れるはず‥」
アグダルは、ゲベルカミル大公が世界中から集めた怪しい薬や薬草を受け継いでいた。そしてそれをメテオライト伯爵家に隠していたのだ。アグダル亡き後、その薬たちはそのままメテオライト伯爵家に残ったままになった。リビアンは自分が操られたことから、アグダルの残した物には一切触ろうとしなかった。しかし息子のナンタンは薬に興味を持ち、活用したのだった。
ナンタンの思惑も虚しく、ルディとオニキスは熱い夜を過ごし、翌朝にはメテオライト辺境伯邸を後にしたのだった。
ナンタンの思惑ははずれ、ルディとオニキスの絆は深まっていった。




