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オニキスは再びエスケル王国に?オニキスはクリオラを連れ戻せるのか。

「ブラヒン公爵家にこの手紙を届けてくれ。明日にでも伺いたいと書いてある。当主も他国とはいえ王族の来訪は断れまい」

 オニキスは自分の紋章を押した手紙を部下に持たせた。そして自分は教会へと向かう。数名の護衛騎士がそれに続いた。

『ルディは元気にしているかな』

 オニキスは弾む気持ちを抑えられない。それは周りの騎士達にも伝わっていた。オニキスは馬を跳ばした。首都にあるとはいえ、教会の敷地は丘の上だ。多くの者が教会を訪れる時は馬車を利用していた。

「ルディ!!」

 オニキスは教会に着くやいなやルディの名を呼んだ。教会の者達が、ルディにオニキスの来訪を伝えに行く。

「ルディ様、オニキス王子がお見えです」

 使用人の言葉に、ルディの表情が綻んだ。しかしすぐに、オニキスに聞かねばならぬことが頭に浮かび、表情が引き締まる。

「オニキス様、ようこそ」

 ルディは一礼してからオニキスに近寄った。オニキスは教会の客室に通され、旅の疲れをとるために湯浴みをした。そして着替えるとルディを呼んだ。

「失礼します」

 ルディがすぐにやってきた。オニキスはルディを抱きしめた。

「会いたかった、ルディ」

 オニキスはルディに口付けをした。ルディはオニキスの肩に手を回し、オニキスに全てを委ねている。長い長い口付けの後、オニキスはルディの顔をジッと見つめた。ルディからの返事を期待しているようだ。ルディはそれを察した。

「私も会いたかったです」

 ルディは照れながら目を伏せている。そんなルディをオニキスは愛しく思い、更に抱きしめた。

「オ‥オニキス様、私、聞きたいことが‥」

 オニキスの力強い抱擁から逃れるようにルディが言った。オニキスは仕方なく手を緩める。

「何かあった?」

 ルディは、聖女と思われる存在が自分とルイーゼを間違えて攻撃した事件をことを話した。

「それは聖女の仕業で間違いはないのか?」

「勇者の剣が言ったから‥。聖女がつけた傷は聖女の治癒力では治せないと‥。ルイーゼの傷は、父の力が全く効かなかった。大神官の力は効果があったのに‥」

 オニキスは唇を噛んでいる。幼い頃からクリオラは自分に懐いていた。その中にある感情が、大きいことも分かっていた。しかし、婚約者を攻撃するとは予想もしていなかったからだ。

「クリオラは私を兄として慕っている。その感情の大きさも分かっている。兄を奪われたくなくてこんな暴挙に出たのか‥。本人に聞いて確かめなければ‥」

 オニキスは辛かった。予想もしていなかった事態に、先程までの弾む気持ちは吹き飛んでいた。

「クリオラ姫はブラヒン公爵家にいるのでしょう?」

「そう。だからそれを連れ戻しにきたんだ。手紙に書いた通り、ただ連れ戻すのが今回の目的だった。まさかクリオラがそんな事件を起こしているとは‥」

 オニキスは落胆している。ルディはオニキスを慰めた。二人は酒を酌み交わし、同じ寝床で休んだ。翌朝、オニキスはすぐにブラヒン公爵家に向かった。

「私はアルタイ王国のオニキス。こちらに我が妹がいると聞いてやってきた」

 ブラヒン家の使用人達は早朝からの隣国の王子の来訪に慌てふためく。

「クリオラ姫、オニキス王子が来たと使用人達が騒いでいます」

 トルカがクリオラの部屋の扉を叩いた。クリオラは飛び起きる。

「兄様‥。私を連れ戻しに来たのね‥。私はまだ帰るわけにはいかない」

 クリオラは急いで荷物を纏めると、バルコニーに出てドラゴンを呼んだ。すぐに飛竜がやってきた。日中に上空にドラゴンが現れた為、人々は騒めいている。オニキスは大声を出した。

「クリオラ!!なぜ、ルディを狙う!」

 オニキスの声はクリオラの耳にも届いた。しかし、クリオラは兄を無視してドラゴンの背に乗った。トルカも後からドラゴンによじ登る。トルカが乗ったのを確認したクリオラは飛竜に命じて、エスケル王国から脱出した。人目をなるべく避ける為に山脈の上を飛んだ為、クリオラ達はチンターマニ王国に辿り着いていた。クリオラは森の中に小さな館があるのに気づいた。そろそろ日が暮れる。今日はあの館に泊まれないかとクリオラは考えた。

 館の周りには木々しかなく、人の気配はない。本当の一軒家だ。

「空き家かしら」

 クリオラは扉に手をかけた。鍵はかかっていない。クリオラは館の中に足を踏み入れた。トルカがそれに続く。

「勝手に人の家に入られては困りますね」

 二階から声がした。綺麗な顔立ちの男が降りてくる。

「いきなり入ったのは悪かったわ。私たちは宿を探しているの。一晩だけ泊めてもらえない?」

 クリオラは上から目線の口調で言った。相手の男は驚いている。

「おやおや。今の聖女は口が悪い。人に物を頼むのにその態度ですか」

 男は一階に降りた。クリオラは男の顔を改めて見た。今まで見たこともない美青年だ。クリオラはときめいた。

「わ、私はアルタイ王国の王女。金ならあるわ」

 クリオラは真っ赤になっている。クリオラは幼い頃から、外部との接触をほとんどせずに育てられた。異性といえば、父、祖父、兄、護衛騎士くらいしか会ったことも見たこともなかった。それ故に、クリオラの恋心は歳の近い兄に向けられたのである。

「お金ねぇ‥。実は私、こうみえても王族なんですよ。この国の王の私生児。一応、王子なんですが色々ありましてここで幼い頃から過ごしているんです」

 クリオラはドキドキする鼓動に精神が掻き乱され、相手の言葉がまともに聞き取れていない。

「私は、前の勇者で、巷では剣聖と呼ばれています。名はアース」

 アースはクリオラに微笑みかけた。クリオラは益々混乱している。アースはそんなクリオラを落ち着かせようと、お茶を用意した。

「このハーブティーは精神が落ち着きますよ」

 アースの気遣いに、クリオラの心は完全に撃ち抜かれた。クリオラは顔を紅潮させながらお茶を飲む。トルカもお茶を飲んだ。

「あ‥あの‥」

 クリオラは真っ赤になっている。

「アルタイ王国の末姫様は表舞台から隠されて育ったと聞いています。だから人と話すのが苦手ですか?いいですよ。ゆっくりで」

 アースの言葉の一つ一つがクリオラの胸を刺激する。クリオラは我慢できずに言った。

「私をしばらくここに置いてはもらえないだろうか」

 クリオラは俯き、返事を待っている。小刻みに震える肩に緊張感が伝わってくる。

「私は構いませんが‥ここには使用人はいませんよ。自分で全てをしなければならないんです」

 アースは、姫が庶民の生活に耐えられるとは思っていなかったのでそう答えた。

「やるわ!!」

 意外な返答にアースは驚いた。

「‥そうですか。なら、いたいだけいて構いません。私の弟子達が寝泊まりしていた部屋があります。そこでよければ‥」

 アースはクリオラがすぐに耐えられなくなり館を出て行く

と考えていた。

 クリオラは部屋に荷物を運ぶと、ベッドに横になった。

「固いわね‥」

 クリオラが経験したことがない庶民のベッド。それはクリオラには試練のようだった。しかし、クリオラはそれに耐えて眠りについた。別室のトルカもまた、初めての庶民のベッドに戸惑いながらも疲れからすぐに眠りについたのだった。

 オニキスはクリオラを追ったが、居場所を突き止めることはできなかった。

「オニキス様」

 ルディが落胆するオニキスを慰めた。その日オニキスはルイーゼを見舞った。クリオラが起こした事件だ。アルタイ王国として謝罪しなければならない。オニキスは誠心誠意ルイーゼに頭を下げた。

「オニキス王子、私がこうなったのはクリオラ姫のせいです。私はもう、嫁げないでしょう。その責任をとって私をアルタイ王国に迎えてください。オニキス王子の妃として」

 ルイーゼは責任の処遇を提案した。オニキス王子の表情が強張る。

「私の妃はルディだ」

 ルイーゼは苛立った。

「ルディの身代わりで私はこんな身体になったんです。私とルディは双子。見た目は変わらないじゃないですか。それに、アルタイ王国は妃を何人も娶るでしょう?」

 オニキスは深く息を吸い込んだ。そして心を落ち着けるとゆっくりと返答した。

「アルタイ王国の王族が沢山の妃を迎えているのは事実。しかし、私は一人の妃しか迎えない。私は生涯、ルディだけを愛する。他の女性は愛せないから」

 オニキスははっきりと断言した。その勢いに周りは静まり返った。

「我が国として、ルイーゼ嬢には最大限の詫びをさせて頂く。帰国次第、父である国王陛下と話してそれを持参しよう」

 オニキスはそう言い放つとルイーゼの部屋を出て行った。

「何よ!!!妃はルディだけですって!!そんなの許さない!!!」

 ルイーゼは周りにある物を床に投げつけた。物音に驚いた使用人達が集まる。ルシフォールは荒れるルイーゼを見てため息を漏らすのだった。


荒れるルイーゼ。ルイーゼの怒りの矛先は双子の姉に向けられる。

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