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エスケル王国に侵入したクリオラ。クリオラのルディ暗殺計画が実行される

「クリオラはどこにいる?」

 ウィドマンは突然姿を消したクリオラを探すよう命じていた。召使いや侍女達は事情を聞かれている。

「父上‥。霊視したところ、クリオラはエスケル王国にいます。しかも‥ブラヒン公爵家にいるようです」

 オニキスは見えたビジョンを伝えた。クリオラとは兄妹として育った。その為、他人を見るより鮮明に霊視できるのだ。

「エスケル王国?今は勇者がいるから入れないのではなかったか?」

 オニキスにもクリオラが入れた理由までは分からなかった。

「クリオラは一人の若い男を連れています。他には連れはいません。何の為にこの男を連れているのか‥」

「男!?駆け落ちか!!ロードナイト王子と結婚したくないと男と逃げたのか??」

 ウィドマンの顔色が変わった。焦りも見える。

「恋仲というより、主従関係のように見えます。駆け落ちではないようですが‥」

 オニキスの言葉にウィドマンは安堵した。

「オニキス、早急にエスケル王国に行き、クリオラを連れ戻してこい。そのついでに、ルディにも会ってくればいい」

 ウィドマンはオニキスにエスケル行きを命じた。オニキスは命令に従う。素早く旅支度をしたオニキスは、ルディに会うのを楽しみに旅立った。

「トルカ、今日は教会に行ってみるわ。ブラヒン公爵に服を用意させて」

 クリオラがトルカに命じた。トルカはそれを執事に伝えたが、ブラヒン公爵はまだ10才だ。後見人のチンガー子爵が服を用意した。クリオラはチンガー子爵の姪と名乗って教会に入った。黒髪の美女は人々の注目を集めた。クリスタと違い、茶色の瞳なので母にそっくりという印象はない。その為、誰もクリオラがブラヒン公爵家の血を引いているとは思わなかった。クリオラ自身、そのことに気づいていない。何も知らずに、母や祖父が暮らしたブラヒン公爵家に居るのである。

 クリオラは教会の神像に手を合わせて周りを見た。教皇の後ろに、金髪の娘がいる。

『あれがルディか‥!』

 クリオラはアルタイ王国の新聞で見た聖女の似顔絵から、その者をルディだと確信した。

『今攻撃をすれば、聖女からフェニックスを受け継いだ教皇もルディを守る。不利だ‥。誘き出すしかないな』

 クリオラはトルカに耳打ちした。

「これは兄上の紋章の入ったハンカチだ。これをあそこにいる女に渡して、2人で会いたい。裏庭に来て欲しい。と伝えてくるのだ」

 クリオラはオニキスのハンカチをトルカに渡す。トルカは頷くと、教皇の方に歩いて行った。すかさずクリオラが教皇に話しかける。

「教皇様、私はチンガー子爵の姪アスカと申します。領地を離れて中央で暮らす叔父を頼りに、都に出て参りました」

 クリオラがルシフォールに挨拶をした。ルシフォールは紳士的に対応する。その隙にトルカは、ルシフォールの近くにいた娘に話しかけた。

「オニキス王子からの伝言です。2人で会いたいので裏庭に来て欲しいとのことです」

 トルカはオニキスのハンカチを見せた。王子の紋章を確認した娘は嬉しそうだ。

「オニキス様が来られているの?すぐに行くわ!!」

 娘は小走りに裏庭に向かった。トルカはクリオラの元に戻る。

『うまくいったか‥』

 クリオラはルシフォールの元を去ると足早に裏庭を目指した。裏庭には金髪の娘が、ハンカチを握りしめて嬉しそうに立っている。クリオラは物陰からそれを確認すると、龍の波動を放った。真昼間に龍本体を呼ぶと目立つ。その為、龍の力だけを呼び出したのだ。龍本体からの波動より攻撃力は下がるが、並の剣などよりも殺傷能力は高い。

『ズバババッ』

 激しい波動が娘を襲う。

「きゃあぁぁぁ!!」

 波動は娘の体を切り裂く。血が飛び散った。

『何故、勇者の力を使わない??』

 クリオラは娘の前に姿を現した。

「勇者ルディよ、何故、勇者の力を使わない?お前が勇者というのは嘘なの?」

 娘は傷ついた身体を起こそうとした。しかし、立てない。

「誰よ、あなた。私はルディじゃないわ。教皇と聖女の娘、ルイーゼよ!!」

 クリオラはハッとした。教皇の娘は双子だったのだ。つい最近まで娘は1人だったのでそれをすっかり忘れていた。

「つまりお前は、双子のハズレの方か‥。しかしこうなっては仕方ない。お前の命ももらう‥」

 クリオラが再度攻撃をしようとした時、先程の悲鳴を聞いたルディとルシフォールが裏庭に向かってきた。

「くっ‥。勇者と教皇の2人は相手できない‥」

 クリオラはその場から走り去っていった。残されたルイーゼは泣き叫ぶ。

「痛い!痛いわー!!」

 ルシフォールはルイーゼを見つけると抱き抱えた。そして傷を治そうとした。しかし、ルイーゼの傷は治らない。ルシフォールは初めての経験に困惑している。

「何故‥傷が癒えない??」

 ルシフォールは仕方なく、大神官を呼んだ。大神官の治癒の力は効果があった。

「教皇様‥。私のような神官では、完治は無理です。ルイーゼ様のアキレス腱は断裂しており、治癒しましたが元のように歩けるようにはなりません‥」

 ルシフォールは衝撃を受けた。娘が歩けないというのだ。

「で、でも、お父様のフェニックスの力は万能でしょう?今までだってどんな怪我も病気も治してきたもの」

 ルイーゼがルシフォールの顔を見ながら言った。ルシフォールは目を合わせられなかった。

「ルイーゼ、誰があなたを攻撃したの?」

 ルディがルイーゼに尋ねた。ルイーゼは不服そうに外方を向く。手にはしっかりとオニキス王子のハンカチが握られていた。

「オニキス王子が来たの?」

「違うわよ!!オニキス王子が呼んでる、て呼び出されたの!!そうしたら、変な女に攻撃されたのよ!!」

 ルシフォールは、ルイーゼの顔を覗き込んだ。

「それはどんな女だ?すぐに手配する!」

 ルシフォールは教会に属する聖騎士団を呼んだ。その隊長はユリウスだ。

「頭から布を被っていたから、顔はよくわからなかったわ。目だけは見えた‥。ブラウンの瞳の女だった」

「髪の色は?」

 ルシフォールは焦るあまり、強くルイーゼの腕を掴んでいる。

「お父様、痛い‥。髪の色もわからない。ただ‥その女は、ルディを殺そうとしていたの。私はルディに間違えられただけ。私がこんな目にあったのはルディのせなの!!」

 ルイーゼはルシフォールの胸で号泣した。ルディは気まずさから何も言葉をかけることができずにその場を立ち去った。

 教会では、教皇の息女が命を狙われたと大騒ぎになった。

 クリオラはしばらくは教会に近寄るのは危険だと判断し、ブラヒン公爵家に留まった。

「まさか双子とは‥。しかし、お兄様はああいう女の顔が好きなのか‥」

 クリオラは自分の黒い髪を恨めしそうに見つめるのだった。

負傷したルイーゼ。ルディは罪の呵責にさいなまされる。

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