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聖女クリオラはエスケル王国を目指す。しかしエスケル王国には勇者がいる為入れず‥

 クリオラは部屋に戻ると、旅支度をした。ちょうどドロニノ共和国との戦いの時に準備した一式がある。クリオラは金をその中に追加すると龍を呼んだ。夜なので龍が空を飛んでいても気づかれない。クリオラは龍に乗るとエスケル王国を目指した。 

『聖女。エスケルには勇者の気配がある。天の理でそこに入るのは禁じられている』

 龍は国境で下に降りた。

「勇者がいる間は入れないと言うこと?」

 クリオラは不服そうだ。龍は黙って頷く。

『勇者と聖女の力を中和することができる一族がいたが、滅ぼされて生き残りは少ない』

 クリオラはもどかしかった。目の前にエスケル王国がある。なのに入れないのだ。クリオラは国境近くの宿で一晩を明かした。翌朝、クリオラは城に帰る準備をしてから宿を出た。すると道に人が集まっている。気になって近づくと、そこには二人の男がいた。

「トルカ!!かかってこいよ!俺を倒せたら朝飯を食わせてやる」

 身体の大きな男が、華奢な男を蹴り飛ばした。

「兄さん、どうしてこんなことを‥。国境を勝手に越えたら母様に叱られます」

 トルカは兄を責めた。

「お前に兄なんて呼ばれたくないんだよ。私生児が!お前にはメテオライト辺境伯の血なんて一滴も入っていない。我が家はお前みたいな奴がいていい家じゃない!」

 男はトルカを更に蹴った。トルカは蹲ったままその攻撃を受け続けている。周りの者たちは貴族の喧嘩を恐れて何もできずにいた。クリオラは思わず前に進み出た。

「おい、貴様、どこの貴族だって?我がアルタイ王国に、メテオライト辺境伯なんていない。エスケル王国の貴族ではないか?」

 アルタイの民もクリオラの顔は知らなかった。クリオラはほとんど表舞台に出なかったからだ。ただ、先日の戦争で新聞が騒いだのでその似顔絵から、人々はクリオラ姫ではないかと予想した。

「あれは‥クリオラ姫?」

「新聞の絵に似ているし、威厳があるぞ‥」

 民衆は口々に噂した。

「エスケル王国とアルタイ王国は同盟国。よって国境は証書無しで渡れる。ここで我らが何をしようと勝手だ」

 男は憮然としている。目の前の女がまさか王女とは思いもしなかった。クリオラは民衆が着るような服を着ていた。

「私の名は、クリオラ・アッシュド・アルタイ。アルタイ王国の王女だ。貴様は?」

 男は怯んだ。トルカは驚いてクリオラを見ている。

「‥私はメテオライト辺境伯ナンタンと申します」

 王女と聞いたナンタンは、急に態度を変えた。無礼を働けば国際問題になる。ナンタンはまだ20代の年若い伯爵だ。妻はいるが跡取りはない。不敬罪で捕まるわけにはいかなかった。

「メテオライト辺境伯‥。確か、元々は中央にいた伯爵家で、お家騒動で辺境伯に任じられたのではなかったか」

 クリオラはナンタンを凝視した。その眼光の鋭さに、ナンタンは冷や汗をかいた。

「‥はい‥。未亡人であった私の母が、エスケル王国の逆賊であるシュテッテン伯爵と愛人関係にあったことで王家から辺境伯に変更を言い渡されました」

 クリオラは、ゲベルカミル大公とアグダルの話をウィドマンから聞いていた。

「確か、シュテッテン伯爵はダイオジェナイト族の末裔だったと聞いた」

 クリオラはそこに興味を持っていた。

「はい。そうです。その力で母は操られ、いいように使われたのです。そうしてこの男まで生まれました」

 ナンタンはトルカを睨みつけた。トルカは萎縮している。

「!ということは、この者はダイオジェナイト族の血を引いているのか!」

 クリオラはトルカの元に走り寄った。トルカは下を向いたまま顔を上げない。

「ダイオジェナイト族の血を引いていても、その力を使える者は稀だそうです。我が一族の為に役に立たないかと、ダイオジェナイト族に関しては色々調べました。教会にいるダイオジェナイト族の神官にも聞きましたが、ほとんどが大きな力は使えないと」

「力を使える者は稀か‥。お前は何か使える力はないのか?小さくてもいい。あれば教えてくれ」

 トルカは首を横に振った。

「私には何の力もありません‥」

 ナンタンは見下すようにトルカを見ている。

「そうです。クリオラ姫。この男に何か力があれば、もうそれを使っていますよ。何も持たない役立たずなんです」

 クリオラはダイオジェナイト族の血を欲しいと考えた。

「メテオライト辺境伯。この者を、私の部下にもらえないか?勿論、給金は出す。時折、里帰りもさせよう」

 ナンタンの目が輝いた。お荷物だと思っていた私生児の弟を、隣国の王女が召し抱えてくれるというのだ。

「クリオラ姫がお望みならどうぞ連れて行ってください。母には私からその旨伝えておきます」

 ナンタンは態度を急変させると、ペコペコと頭を下げた。こうして、クリオラはトルカを部下にすることになった。二人は王城に戻る為に夜を待った。夜になるとクリオラは龍を呼んだ。

『聖女よ、どうしてここにかの一族がいるのだ?』

 龍はトルカを見て驚いている。

「今朝、我が国に入り込んだ隣国の貴族の私生児だ。ダイオジェナイト族の血を引くというから部下にした。それが何か?」

『ダイオジェナイト族だ。ダイオジェナイト族がいれば、聖女と勇者は同じ国に存在することができる。ダイオジェナイト族の始祖は、勇者と聖女の子だからな』

 龍の言葉にクリオラは驚いた。そんな伝承はどの書物にも書いていない。

「勇者と聖女の子ということは、元々は勇者と聖女は共にいられた?それが何故今はいられないの?」

『‥勇者が他の女を愛したからだ。勇者は聖女を裏切り、女と逃げた。妻子を捨てた勇者には、聖女に近寄ることができない呪いがかかった』

 クリオラは唖然とした。勇者の不倫。それはクリオラにも衝撃的だった。

「では、私がクリオラ姫のお役に立てるのですか?」

 トルカは喜んでいる。幼い頃から邪魔者扱いされて生きてきた。必要とされるのが嬉しかった。

「そうよ。トルカ。あなたがいれば私はエスケル王国に入れる。龍よ。エスケル王国に向かうわよ!」

 クリオラは怖がるトルカと共に龍の背に飛び乗ると、エスケル王国の中心部を目指した。

 


 

 

エスケル王国に着いたクリオラ。クリオラが目指すのは、勇者との対決。

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