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双子の姉妹の溝は更に深まり、セシルを悩ます。二代にわたる姉妹の争いの行方は‥

 部屋の奥の玉座には、ウルアクが座っている。嘗ては隣りにいたヘンブリー大公の姿はない。ヘンブリー大公は、ウルアクの成人のタイミングで領地に戻ったからだ。その為、国政はウルアクの血縁であるディアブロ公爵が支配していた。

「書状は読んだ。そたなが教皇の第一子で、勇者に選ばれし者か」

 ウルアクはルディを探るように見ている。ルディは緊張した。

「こ‥こちらが、勇者の剣です‥」

 ルディは震えながら勇者の剣を差し出した。ウルアクはそれを手にとると、マジマジと見つめた。

「この剣にもシリウスの欠片が埋め込まれているのか‥」

 王家の秘宝でもあるシリウスの欠片と同じモルダバイトが光り輝いている。

「勇者であることを証明してみせよ」

 ルディはモルダバイトに手を翳した。モルダバイトが光を放つ。そして天から声が発された。

「エスケル王国の支配者よ。この者、この国の勇者である。聖女がおらぬこの国に遣わした。聖女がこの国に戻りし時は、勇者は旅立つものと心得よ」

 辺りは静まり返った。聖女と勇者は同じ国に存在してはならないというのだ。

 天啓をルディも初めて聞いた。この国の勇者として役目を果たさなければならない。その重みと、オニキスとの約束が気になっていた。

『オニキス様と結婚するということは、アルタイに行くということ‥。アルタイには聖女がいる。共に存在してはならないなら、それは無理なのでは‥』

 ルシフォールはルディの不安を察した。

「女王陛下。ロードナイト王子と聖女であるクリオラ王女が結婚するのは5年ほど先と聞いています。つまり、ルディは5年はこの国で勇者としての役割を果たすことができるかと」

 ウルアクは頷いている。

「教皇聖下の申す通り。クリオラ姫が嫁ぐまでは、勇者として働いてもらおう」

 ウルアクはそう言うと、剣をルディに返した。

「この国の為に勇者の役目を果たします」

 ルディはウルアクに跪いた。

 女王への報告を終えると、ルディ達は教会に戻った。教会では、ベルゼとルイーゼが菓子を食べていた。

「お帰りなさい」

 ベルゼはにこやかに迎えるが、ルイーゼの顔は暗い。突然現れた双子の姉ばかりが注目され、両親が目をかけるのが不満なのだ。

「ルイーゼ、何だ、その態度は」

 ルシフォールが叱責した。ルシフォールはルイーゼのルディへの対応が気になっていた。それはセシルも同じだった。

「お父様、私は幼い頃からオニキス王子をお慕いしていました。なのに突然現れた双子の姉に、オニキス王子を奪われたのですよ!」

 ルイーゼはルディを睨みつけた。セシルは、過去世を思い出した。双子の妹が姉の物を欲しがる。そして姉妹なのに憎み合う。全て自分が経験したことだった。

「オニキス王子が、あなたを好きだと言ったことはないでしょう?」

 セシルがルシフォールとルイーゼの間に割って入った。

「そ‥それはまだ、私が幼かったから‥。やっと年の差が気にならなくなってこれから、と言う時に横から奪われたんです。私が先に告白していれば、私を選んだはず!」

 ルイーゼは自信を持っている。

「それは、私が男みたいだから?女性らしいお前には敵わないというの?」

 ルディが反論した。

「当たり前じゃない!淑女としてのマナーも何も分かっていない、庶民で男だったあんたなんかに、私が負けるわけがないわ!」

 ルイーゼが息巻いている。

『パシッ』

 セシルがルイーゼの頬を叩いた。ルイーゼは呆然としている。ベルゼは楽しそうにその様子を見ている。

「ルイーゼ。あれだけ、ルディが生きているようにと家族で願っていたのに。あなたは、姉が憎いの?」

 セシルの瞳には悔し涙が浮かんでいる。ルシフォールは肩を震わすセシルを宥めた。

「オニキス王子を奪わなければこんな風には思わなかった!好きな人を奪われて、その相手に好感を持つ人なんかいないわよ!」

 ルイーゼはそう言い放つと、バタバタと部屋を出ていった。部屋に気まずい空気が流れる。

「私も疲れたので失礼します」

 ルディも部屋を出て行った。ベルゼは一人で菓子をつまんでいる。

「あなた‥。これはカルマでしょうか‥。私とクリスタも過去世で双子だったのに、憎み合い、惨憺たる結果になりました。まさか我が子もそうなるなんて‥」

 セシルはルシフォールの腕の中で嘆いた。

『過去世で母上と公女クリスタが双子‥。それは知らなかったな』

 ベルゼは冷静に状況を把握していた。ルシフォールは無邪気に菓子を頬張る息子がまさか、冷静に情報を享受しているとは夢にも思わなかった。

 エスケル王国に勇者が現れたことは世界中に広まっていった。しかし、聖女ほどは騒がれない為にそれは緩やかだ。

「父上、ただいま戻りました!」

 オニキスは颯爽とウィドマンの元を訪れ、挨拶をした。ウィドマンはオニキスから勇者の話を聞き出そうと考えていた。オニキスは、ジュエラントの森にチンターマニ王国の勇者がいた話や、勇者の剣がルディに反応した話などをした。

「ほう‥。ということは、ルディがエスケル王国の勇者というわけか。クリオラが嫁ぐまではルディはエスケル王国で働かなければならないな」

 ウィドマンの言葉に、オニキスは疑問を抱いた。

「クリオラが嫁ぐまでですか?」

「そうだ。聖女と勇者は同じ国に存在してはならないと言われている。つまり、クリオラが嫁げば聖女はエスケル王国のもの。勇者がエスケル王国にいてはならなくなる」

 オニキスは目を輝かせた。

「父上!!私は、ルディを愛しています。ルディには求婚しました。ルディを私の妃にします!」

 女に興味のなかったオニキスから、結婚の話が出た。ウィドマンは素直に喜んだ。

「勇者とそなたが結婚か。それはいいな。クリオラが居なくなっても勇者が来るなら我が国は安泰だ。しかし‥クリオラが嫁ぐのは5年ほど先だぞ?」

 オニキスはショックを受けた。ロードナイト王子が18歳になるまで待つことを忘れていたのだ。

「5年‥。父上、3年くらいにはなりませんか?男子たるもの、16歳になったら立派になりましょう」

 ウィドマンは、普段我儘を言わないオニキスの願いを聞いてやりたいと思った。そしてウルアク宛に、ロードナイト王子とクリオラの婚儀を3年後にできないかと手紙をしたためた。後日、ウルアクから了承の返事が届いた。ウルアクにしてみれば、部下である勇者よりも聖女の王太子妃が欲しいのだ。その知らせに、クリオラが激昂した。勝手に決められた婚約を、5年のうちに解消する手筈だった。それが3年に縮められたと言うのだ。

 エスケル国では、ルディとルシフォールはオニキスからの手紙を受け取り、二人の婚約は正式に認められた。

「許さない‥。勇者だかなんだか知らないけど、殺してやるわ」

 クリオラは闘志を燃やしていた。

「オニキス兄様と結婚するのは私よ。邪魔な女が消えれば、兄様は私と結婚する。勇者がいなくなれば、父上は聖女である私を手放したくないはずだもの」

 クリオラはエスケル王国に忍び込む準備をしたのだった。

聖女が牙をむく。妥当ルディに燃えるクリオラは、エスケル王国のルディを目指して旅立つ。

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