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ルディとオニキスの未来は。勇者として生きることを決めたルディは‥
翌朝、ルディはオニキスの腕の中で目覚めた。隣にはオニキスが眠っている。ルディは昨夜のことを思い出して真っ赤になった。そんなルディの様子を寝たふりをしていたオニキスが見て微笑む。
「ルディ。私は父に君とのことを話して結婚を申し込みに来るよ。待ってて」
オニキスはそう言うと、首から下げていた指輪を取り外してルディの指にはめた。
「これは私の母の形見。母の家に代々伝わってきた指輪らしい。母は私が幼い時に亡くなったから詳しくはわからないが」
オニキスにとって大切な母の形見。それをはめるということは、本気ということだ。ルディはその想いが嬉しかった。
「私、待ってるわ。オニキス様」
ルディは微笑んだ。そして二人は熱い口付けを交わした。
そうしてオニキスはアルタイ王国に帰っていった。ルディはオニキスの姿が見えなくなるまで見送った。
「お母様」
ルディはセシルの部屋を訪ねた。そこにはちょうどルシフォールもいた。夫婦仲良く歓談していたようだ。
「ルーシー、ちょうどよかった。このお菓子、おいしいわよ。あなたも食べてみて」
セシルが着席を促す。ルシフォールはルーシーと目を合わせなかった。ルシフォールはルディを見てすぐに、首筋についた跡に気づいた。それゆえに、昨夜、何が起きたかを把握して動揺している。ルディ自身は首の跡に全く気づいていない。セシルはすぐに状況を察した。
「ルーシー、あなたはオニキス王子と結婚したいの?」
結婚について相談しようと訪れたが、母から先に聞かれたルディは戸惑っている。
「え‥その‥オニキス王子は、帰国したら国王陛下に結婚のことを話すと‥」
『ガシャン』
ルシフォールがティーカップを落とした。明らかに動揺している。
「お父様?」
ルディはショックを隠せないルシフォールを気遣って立ち上がった。
「お前は教皇と聖女の第一子。王侯貴族にも引けは取らない。そのお前が、アルタイに嫁ぐのは‥。もう少し考えないか?付き合って日も浅い。気持ちは変わるかもしれない」
ルシフォールはルディの両肩を掴んで訴えた。
「私は、教皇の娘ルーシーとして生きたくありません。勇者ルディとして生きたいのです」
ルディは、社交界の厳しさを知っていた。アルタイ王国だけは、庶民でも王の妻になれ、他の国のような扱いは受けない。庶民として育ったからこそ、貴族の嫌な面を知っていた。
「‥確かに‥。今から淑女としての勉強をするのは大変です。しかもルーシーは勇者。勇者の役目を果たしながら淑女として生きるのは困難だと思います」
セシルがルディの援護射撃をした。ルシフォールは言葉に詰まった。ルシフォールは悔しそうに唇を噛み締めている。ルシフォールも、セシルの言っていることは分かる。自分も王子として生きていた時に、上流社会の女の役割や本性を散々見てきた。18年もの間、庶民で男として育てられたルディが、淑女になるには並大抵の努力ではない。その点、アルタイ王国はそういったことには甘い。ルディが嫁ぐには最善の国である。しかし、18年ぶりにやっと再会できた愛娘を、すぐに他国に嫁がせる気にはなれなかった。
「クソ‥。仕方ないのか‥」
ルシフォールはやり場のない怒りを持て余している。
「お父様、私の名を、ルディにしてください。お父様なら改名という形で変えられるでしょう?私はルディとして生きてきました。今更、ルーシーにはなれません」
ルディは懇願した。両親が名付けた名を否定することが、両親を傷つけることは分かっていた。しかし、ルディとして生きてきた自分のアイデンティティが崩されるのを、ルディは望まなかった。
ルシフォールはルディをジッと見つめた。そして大きなため息をつくと、心を落ち着かせるように目を閉じた。
「‥ルディ。お前は私とセシルの長女。そしてエスケル王国の勇者ルディだ」
ルシフォールはそう言うとセシルの部屋を出て行った。セシルはルディを気遣った。
「罪悪感を感じることはないわ。あなたの人生だもの。これからは、勇者として。オニキス王子の恋人として生きていきなさい」
母の優しい言葉に、ルディは泣き出した。長年積もりに積もった想いが一気に放出された。セシルはそんなルディをずっと慰め続けた。
午後を過ぎると、王城から使いの馬車が来た。女王に勇者のことを報告に行かねばならないのだ。馬車には、ルシフォールとセシルも同乗した。両親という立場と、教皇と元聖女という立場もあるからである。
以前は平和だった王城も今は様々な点で権謀術数に満ちていた。ブラヒン公爵家の力を削ぎたいと手を組んだディアブロ公爵家とサントーバン公爵家が、争っているからだ。女王ウルアクの母カーミラは現在、王太后として権力を持っている。カーミラの兄、ディアブロ公爵は女王の血縁者として力を増していた。逆に、数年前に亡くなった前王太后の実家であるサントーバン公爵家は前王太后の死で力を失いつつあった。その為、女王の王配であるアゼツライトに一族の女を近づけ愛人にした。愛人が産んだ子に、アゼツライトが持つブラヒン公爵の爵位を継がせようと企んだのだ。実際、アゼツライトはサントーバン公爵の縁者の女を気に入り、女王に隠れて愛人にした。そして女は子を身籠り、サントーバン公爵がすぐに母子を保護した。その子が10歳になり、ブラヒン公爵家を継いだことでを女王や王太后カーミラは怒っていた。
そんな王城に、ルディは足を踏み入れた。周りの目線が痛い。女王に謁見するのでドレスを着ている。それでも所作が荒い為、紳士淑女からみたら品性を感じられないのだ。
「ふぅ‥」
ルディはため息をついた。女性らしく、淑女として品性のある動きなど面倒で仕方ない。ルディは周りの冷たい視線や嘲笑を無視して女王の待つ部屋の扉を開けた。
女王との対面。ルディはどうなるのか?




