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クリスタの死をルシフォールが知る。ウィドマンが育てた聖女の情報は世界を震撼させ‥

「教皇様、エスケル王国のすぐ隣町で殺人事件があり、その地を治めていた男爵が殺害されたそうです。その葬儀の依頼が来ました」

 若い神官見習いが報告に来た。

「チンターマニ王国の男爵が、この教会で葬儀。それは珍しいな。その事件、犯人は捕まっているのか?」

「犯人は自殺したそうです。事件が事件なので、その噂を抑えるためにもこちらで葬儀をしたいようです」

 エスケル王国の教会といえば、各地にある教会の総本山のような存在。唯一、教皇がいる場所でもある。葬儀をそこで行うということは、それだけ威厳のあることだった。

 ルシフォールは、ブレインビュー男爵夫人が教会に出した手紙を読んだ。

「‥痴情の絡れか‥。夫が愛人を囲い、愛人に懸想した使用人が主人もろとも刺し殺して自殺‥」

 ルシフォールは釈然としなかった。王族の歴史には、暗殺は珍しいことではない。こんな分かりやすい事件には、胡散臭さしか感じなかった。しかし、事件の捜査は教皇の管轄外である。ルシフォールは事件については何も語らなかった。

「ブレインビュー男爵夫人には、これだけの金額を示しておくように」

 ルシフォールは紙に代金を書いた。それは普通の貴族からしたらかなりの高額である。見習い神官は用紙を受け取ると、教皇の間を出て行った。

『‥殺人犯からは多めに貰っておこう‥』

 ルシフォールが教皇になってから、教会は力を増した。教皇自身に聖女の力の源であったフェニックスが宿ったのもあるが、その統治力は王太子時代の帝王学によるものだ。教会は経済的にも豊かになっていた。

「そういえば、ウィドマンからも手紙が届いていたな‥」

 ウィドマンからの手紙を読んだルシフォールの顔色が変わった。

「セシル!!」

 ルシフォールはセシルの部屋に向かう。セシルはルイーゼとお茶を飲んでいた。

「あなた、どうされました?」

 セシルは焦るルシフォールを宥めるように優しく対応する。ルシフォールはセシルの前のお茶を取ると一気に飲み干した。

「聖女の紋章は、生まれた時からあるわけではないと聞いている。お前も成長してから現れたよな?」

「この世界では18歳の頃に現れたことになってます。そのタイミングで前世と重なったので」

「ニカイドウエナ、か。それで、お前が18の時にシリウスの紋章が現れ、国王と王妃がそれを確認したんだったな。その日のことは私も覚えている」

 ルイーゼは口を開けたまま、両親の会話を聞いている。二人はルイーゼには、前世の話をしていなかった。

「ウィドマンが‥18年前に我が国との国境の山奥で女の赤子を見つけたらしい。そして、当時4歳だった王太子オニキスの霊感で、赤子が聖女だとわかり拾って育てたと‥」

「聖女はエスケル王国にしか生まれない。ウィドマン様はそれを知りながら、隠してアルタイの民として育てたと言うのですか?」

 セシルもこの世界にきて約20年経つ。この世界のことは勉強し、理解していた。

「民ではない。ウィドマンは赤子を、王妃との子、王女として育てたんだ。私も名前しか聞いたことはないが、教会の名簿には記載した。アルタイ王国の王女、クリオラ」

「名前だけは聞いたことがあります。なんでも病弱だから城からほとんど出ない姫とか」

 ルシフォールは厳しい顔をしている。

「病弱ということにして、対外的にクリオラ姫を隠したんだろう。聖女がいると他国に知れ渡れば問題になるからな」

「しかし、そこまでして隠していた聖女をなぜ今、あなたに打ち明けたんでしょう?」

 セシルは首を傾げている。その時、ルイーゼが新聞を取り出した。

「これのせいじゃない?アルタイ王国とドロニノ共和国の戦争で、ドロニノの女王が魔獣と契約して攻めた時に、魔獣を倒したのは、クリオラ王女のドラゴンだ、て書いてある」

 セシルとルシフォールはすぐに新聞に目をやった。

「‥ということは‥このことはもう、女王も知ってしまった後か‥」

 ルシフォールが肩を落とした。聖女はエスケル王国だけの存在。エスケル王国は、聖女と大教会に守られた神聖なる国、というこの世界の理念を突き崩したアルタイ王国の行動。世界からのバッシングがアルタイに向けられるのは火を見るより明らかだ。助けを求めるウィドマンにどう返事を書こうかとルシフォールが悩んでいると、ベルゼが現れた。

「父上、ウィドマン王は聖女の命の恩人ですよね?」

 ベルゼは新聞を読みながら言った。

「赤ちゃんが山奥に捨てられて、生き延びる可能性はほとんどありません。ウィドマン王は赤ちゃんの命を救い、幼女にした。そして成長したら聖女だった。報告をしようとしたら戦争が始まってしまってできなかったんですよね?」

 ベルゼは賢い。ルシフォールは感心した。

「オニキス王子に霊感があることは秘密とされている。聖女とわからずに拾って育てた。そう言えば他国は文句は言えない!ベルゼ、よく気付いた!」

 ルシフォールはベルゼの頭を両腕で包み込み、何度も撫でた。ベルゼは微笑を浮かべた。普段、いたずら好きで小悪魔なベルゼのもう一つの冷静な顔。将来、大物になるだろうとセシルは思った。

 ルシフォールはすぐにウィドマン宛に返事を書いた。そして、女王ウルアクに対しても王女クリオラの生まれについて報告した。その内容が世間に発表されたことで、騒めいた世界は落ち着きを見せたのだった。それと同時に、アルタイ王国には、婚姻の希望者が殺到した。誰もが自国に聖女を呼び込みたいと思っているのだ。

 翌日、ブレインビュー男爵の遺体が教会に運ばれてきた。男爵の遺体は、愛人と絡み合った状態だと聞いてはいたものの、実物は予想以上だった。ルシフォールは仕方なく布をめくり、ブレインビュー男爵の顔を確認した。そして次に、男爵の身体と結合した女の顔を見た。

「クリスタ!!!」

 突然、大きな声をあげた教皇に周りは驚いた。

「教皇様?いかがなさいましたか?」

 神官が声をかけた。

「急ぎ、アゼツライト王配殿下に連絡を。公女クリスタの遺体だ」

 神官は腰を抜かした。

「ブレインビュー男爵の愛人が、公女様‥」

 神官は震えながら立ち上がると、王宮に使いを出した。教会内は、愛人の遺体が教皇の子を誘拐したブラヒン公女クリスタだと大騒ぎになっていた。

「奥様!セシル様!!クリスタの遺体が!」

 使用人がセシルの部屋に駆け込んできた。

「クリスタ!!」

 セシルは大騒ぎになっている聖堂に向かって走った。クリスタの遺体が何故聖堂に来たのかはわからない。ただ、その遺体がどのようにここに来たのか、経緯を知りたかった。

「ルーシー‥」

 セシルは会うことも叶わなかった双子の片割れをルーシーと名付けていた。セシルは棺の中の男爵と重なる女の顔を確認した。黒髪に、通った鼻筋。遺体なので目は閉じられていたが、どう見てもクリスタだった。

「セシル、クリスタはブレインビュー男爵の愛人だったようだ」

 ルシフォールがセシルの肩を抱いた。我が子を誘拐した女。例え過去世で姉妹であったとしても、セシルにはクリスタに対して憎しみしかなかなかった。

「ルーシーは?クリスタがブレインビュー男爵の所にいたならルーシーはどこに?」

 ルシフォールは首を横に振った。

「ブレインビュー男爵について聞いた限り‥クリスタは娘は連れていない。クリスタが連れてきたのは、男子で騎士になる為に修行中で不在だったらしい」

 セシルは泣き崩れた。クリスタが誘拐した娘を育てているのではないか。それがセシルの一縷の望みだったのだ。ルシフォールも同じ気持ちだった。ルシフォールとセシルは深い悲しみに襲われたのだった。

誘拐された娘の行方をつかめないルシフォールとセシル。二人の元にウィドマンたちが訪れようとしていた。

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