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今回は、クリスタにとって大きな場面。男爵の愛人として悠々自適なクリスタに災いがふりかかる

 その頃、ブレインビュー男爵家では、男爵がクリスタの部屋を訪れていた。

「シルビア、ルディが旅立って数日経つが、まだ帰らないのかい?」

 男爵はクリスタの背後から声をかけた。ルディがいないこの邸宅には使用人が数名いるだけだ。その使用人も、男爵が来た時は自室に戻るように言われていた。

「チンターマニとドロニノの国境近くまで使いに出たらしいので、しばらくは戻らないかもしれませんわ」

 クリスタは男爵の胸に顔をうずめて甘えた。ブレインビュー男爵は嬉々としてクリスタを抱きしめる。二人が真昼間にも関わらず、早々にベッドに潜り込むと、外からそれを見ていたリンダが激怒した。リンダは猛然と別宅の玄関扉を開けると、モゾモゾ動いている布団に向けてナイフを突き刺した。

「ギャア!!」

 ブレインビュー男爵が絶叫した。その声も無視してリンダは男爵の背を何度も刺す。男爵の下にいるクリスタは逃げ出したいが、上に乗っている男爵の体重と、下半身の結合により逃げられずにいた。

 リンダは数回男爵を指すと次は、その下にいるクリスタに向けてナイフを突き刺した。

「やめてー!」

 クリスタは泣き叫んで助命嘆願をした。リンダはそんなクリスタを憎々し気に睨みつける。男爵が乗っている為、クリスタの心臓部分は刺せない。リンダはクリスタの首筋の頸動脈を何度も切りつけた。

「うっ!」

 クリスタは喉に血を詰まらせ、声にならない声を発して息絶えた。

 ベッドには二人の血が溢れ、その血は床や壁にも散っている。リンダは二人の血まみれの死体を見て微笑んでいる。

「地獄の底で睦み合えばいいわ。この男爵家は元々私の父の物。婿養子の分際で、愛人を堂々と囲うなんて身の程知らずな‥」

 リンダはナイフを放り投げた。そして瓶を懐から取り出した。

「本当はこの毒で二人を殺すつもりだった‥。でも、そんな生優しい殺し方、お前たちには似つかわしくない。とことん世間に恥を晒せばいい」

 リンダは満足そうに男爵とクリスタの遺体を見た。素っ裸で抱き合い、下半身が繋がったままの二人。死後硬直で簡単には引き剥がせないだろう。

 リンダはそう言うと、部屋を出て誰もいない裏口から本宅に戻った。情事の最中は、クリスタの部屋には近づくなと男爵が命じていた為、別宅ではまだ、主人が殺されていることに気づいていない。

 リンダはドレスを脱ぐと、暖炉の中に放り込んだ。そして浴槽で身体の血を洗い流し、着替えた。

『カランカラン』

 リンダは使用人を呼んだ。

「奥様、ご用ですか?」

 使用人が現れた。

「下働きのゼナを呼んでちょうだい」

 リンダの命令でゼナが呼ばれた。ゼナは男爵家に仕えて20年ほどの中年男性である。小太りで冴えない見た目から、嫁はない。家族は病弱な妹と母親だけだった。

「奥様、ご用件は」

 ゼナは頭を下げた。

「私が結婚する少し前に父がお前を雇ったわよね」

 リンダは威圧的にゼナに迫った。

「は‥はい」

 萎縮するゼナに、リンダは金貨の入った袋を取り出した。

「お前の妹の病気、薬が高価で手に入らないのでしょう?これで薬を買い、医師を呼べばいいわ。お前の母の病気も診てもらえる」

 ゼナは驚愕した。目の前に見たこともない大金がある。ブレインビュー男爵家は地位こそ低いが、商売はうまくいっており、その辺の貴族より裕福だった。

「どうしてその金を私に?」

 ゼナは金貨から目が離せなかった。喉から手が出るほどに欲しい。

「お前は、この別宅に住むシルビアに懸想した。叶わぬ恋から、目の前で情事にふける二人に嫉妬して刺し殺してしまった」

 リンダは淡々と述べた。ゼナの顔色が一変する。

「何のことですか?私はシルビア様をほとんど見たこともないです」

 ゼナは全否定した。リンダの顔が凄む。

「関係ないのよ。お前がシルビアに惚れて振り向いてもらえずに殺した。その事実が欲しいだけ。そうすれば、お前の妹も母親も助かるわ」

 リンダはそう言うと、紙とペンを差し出した。

「私が言う通りに書きなさい」

 ゼナは首を横に振り、言うことを聞かない。リンダは苛々した。急がなければ死体が発見されてしまう。

「妹や母を見捨てるの?」

 リンダの表情から断れば何をされるかわからない。ゼナは逃れられないと観念して、ペンをとった。そしてリンダの言う通りに文章を書いた。リンダはその紙を受け取ると、金貨の袋と毒薬の瓶をゼナに渡した。

「さっさと帰って、医師を呼びなさい。そして医師が来る前にこれを飲むのよ」

 ゼナは黙ってうなずくと、金貨と毒を受け取り家に帰っていった。リンダはゼナに書かせた紙を、男爵の部屋の机の上に置くと、自分の部屋に戻り様子を見ていた。

 1時間ほど経った時、別宅から叫び声が聞こえた。使用人が遺体を発見したのだ。ブレインビュー男爵家にはすぐに、騎士達がやってきた。騎士達は別宅と本宅を捜査し、目撃証言がないか使用人達に尋ねた。しかし、使用人の少ない男爵家で、犯人を見た者はおらず、騎士達は怨恨を疑った。すぐにリンダにも取り調べが行われた。そして、リンダに騎士が質問していた最中、男爵の部屋からゼナの遺書が見つかった。

「ゼナという使用人はどこにいますか?」

 騎士団の団長らしき人物が執事に尋ねた。

「ゼナは庭師なので普段は外に‥。庭を探していなければどこかに逃げたとしか‥」

 騎士達はゼナを追った。そしてゼナの家の隣の物置小屋で自殺しているゼナを発見した。

 こうしてブレインビュー男爵とその愛人の殺人事件は、横恋慕した使用人の仕業ということで片付いた。

「あなたぁぁぁ‥」

 リンダが男爵の遺体に縋り付く。男爵はクリスタと繋がっている為、遺体には布がかけられている。そんな夫を持った夫人が気の毒だと世間は同情した。リンダは世間に夫を尊重していたように見せる為に、大金を出して葬儀を教会に依頼した。本来なら高位貴族しか依頼しない。

 ブレインビュー男爵の遺体は、クリスタ付きで教会に運ばれたのだった。

クリスタは死に、くしくも教会に送られた。

その遺体を、セシルは見てきづくのか。かつての公爵令嬢の成れの果ての姿に、エスケル王国の人々は‥

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