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クリスタを探すブラヒン公爵。公爵家に入り込むナルスタは‥

クリスタが行方不明になって一年近くが経過した。ナルスタは時折、ブラヒン公爵家を訪れていた。

「‥公爵閣下‥。まだ公女の行方はわかりませんか‥」

 憔悴しきったブラヒン公爵にナルスタが声をかけた。ブラヒン公爵には跡取りはあるが、クリスタはブラヒン公爵の最愛の女性が遺した子だ。公爵はクリスタを誰よりも可愛がっていた。

 ナルスタは弱ったブラヒン公爵を見てほくそ笑む。

『マンドラビラ侯爵家を‥両親や兄を苦しめた公爵家を‥私は許さない』

 ナルスタはクリスタの捜査に協力するふりをしながら、ブラヒン公爵家の内情を探り、サントーバン公爵に報告を続けていた。

 その頃、教会にはウィドマンがミルビリリを連れて訪れていた。

「私の結婚式から一月でお前が結婚するとはな。今度は王太子妃だから、式を行うんだろう?」

 ウィドマンが結婚の承認の用紙を書きながら尋ねた。

「そうだ。側妃達も式には参列する。側妃は8人で、子供は11人いる」

 ウィドマンが自慢気に言った。

『徳川家康みたいだわ‥』

 英雄色を好む、とは昔から言われてきたことである。歴史を学べば、どの支配者にも後宮やハーレム、沢山の側室、側妃がいるのが分かる。しかし、二階堂笑奈として21世紀の日本を生きた記憶が新しい私には、生理的に受け入れられなかった。

「‥ウィドマン‥大きな声では言えないが、末の息子がな、私の血を強く引いたようで、息子は五感ではなく、第六感が特化してるようなんだ」

「おお!そういう存在は是非、教会に欲しいな」

「その子を産んだ妃は出産の時に死んだ。だから今は他の側妃に育てさせているが、いずれは教会のような場所にやるか、我が国の未来を見る者として城に置くか考えているところだ」

 二人が話し込んでいる。ミルビリリは退屈そうにため息をもらした。

「王太子妃様は、エスケル王国の生まれですよね」

 ミルビリリの顔が曇る。

「‥カンポデルシエロ侯爵家の長女です」

 ミルビリリがそう言うと、ルシフォールが話に入ってきた。

「セシル、王太子妃はお疲れだ」

 ルシフォールはウィドマンに目で合図をする。ウィドマンはミルビリリを連れて聖堂を出て行った。

「セシル‥。王太子妃は、マンドラビラ侯爵の長男、ギベオンの婚約者だったんだ」

 その名を聞いて私は動揺した。

「‥ギベオン‥。私を襲ったあの男の‥」

 私は恐怖に震えた。ルシフォールは私の肩を優しく抱いた。

「ギベオンがあの事件を起こして逃走し、その罪の責任からマンドラビラ侯爵夫妻は自殺した。婚約もすぐに解消されたんだ」

 私は事件の後の悲劇も思い出した。ギベオンが捕まれば、断罪。そしてギベオンほどの罪を犯せば、一族皆殺しがこの世界の通例である。日本はわりと本人だけの死罪で他は出家などもあったが、世界の歴史は一族郎党皆殺しが基本だった。この小説の世界も、中世ヨーロッパを模して作られた世界なので罪は中世ヨーロッパ並みに重く処罰された。

「醜聞に巻き込まれた令嬢は、この国では幸せになれない‥。だから隣国の貴族の養女となったのですね」

「まさか王太子が目をつけるとは予想もしてなかっただろうけどな。ウィドマンは細かいことは気にしない奴だから」

 私は、ミルビリリに幸せになってもらいたいと心から願った。

 翌日、ウィドマンはミルビリリとアルタイ王国に戻っていった。ルシフォールの手には、二人の結婚式の招待状が手渡されている。ルシフォールは嬉しそうに友に手を振った。

 ウィドマンとミルビリリは馬車で移動し、国境近くに差し掛かって休憩中をしていた。

 ウィドマンが配下達と話をしていると、一つの影がミルビリリに近づいてきた。

「‥ミル姉さん‥」

 聞き覚えのある声にミルビリリは振り返る。そこには、ナルスタの姿があった。

「ナルスタ‥。どうしてここに?」

 ミルビリリは気まずそうに、ナルスタを木陰に隠した。

「結婚するんだね‥。おめでとう‥。ミル姉さんには幸せになって欲しい。ただ‥一つだけ覚えていて」

 ナルスタはミルビリリの手に、小さな指輪を握らせた。指輪の内側には、『愛するミルへ』と彫られている。

「これは少し前に、街で売られているのを見つけて買い取ったんだ。これは‥兄さんがミル姉さんに送る為に馴染みの宝石商にオーダーした指輪。私はこれを見たことがあった。この指輪は、兄さんが手放したに違いないんだ。きっと生活の為に仕方なく‥」

 ナルスタは熱く語った。

「兄さんは、ブラヒン公爵令嬢に利用されたんだ。公爵令嬢は、人の心を操る男を使って兄さんを操り、薬で狂わせた。兄さんは、ミル姉さんを裏切ったりする人じゃないんだ」

 衝撃の事実にミルビリリは驚いている。

「‥ギベオンは‥操られていたの‥?」

 ミルビリリが呆然としていると、そこにウィドマンが近づいてきた。

「ミル、誰と話しているんだ?」

 ナルスタは逃げようとしたが、ウィドマンの兵に囲まれた抜け出せなかった。

「私はマンドラビラ侯爵です。ウィドマン王太子殿下」

 ナルスタは頭を下げて挨拶した。

「マンドラビラ侯爵‥。ギベオンの‥」

 ウィドマンはミルビリリがギベオンの婚約者だった過去を知っていた。そして、ギベオンの起こした事件も鮮明に覚えいた。

 ナルスタはミルビリリに話した内容をウィドマンにも伝えた。

「ギベオンがクリスタ、アグダルに利用されたことは知っている。ブラヒン公爵が事件の真相を隠しているから公にはならないがな。教皇も聖女も知っている」

 ナルスタは拳を握りしめた。悔しさと怒りで言葉が出ない。

「ウィドマン様‥。ギベオンは無実なの?」

 ミルビリリが悲しそうに呟いた。ウィドマンは黙って頷く。

「過去に愛した女への、僅かに残った恋慕を利用されたんだ。しかし、アグダルもクリスタもいない今、その事実を証明できる者はいない‥。可哀想だが、ギベオンは罪人として追われ続けるだろう」

 ミルビリリは泣き崩れた。ウィドマンは複雑な心境だったが、そんなミルビリリを丸ごと受け止めようとミルビリリを慰めた。ナルスタはその後解放され、ウィドマン達はアルタイ王国に帰っていった。

ルシフォールとウィドマンは結婚し、幸せをつかんだ。しかし、クリスタをめぐる恨みの念はまだ途切れていなかった

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