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いよいよルシフォールとセシルの結婚式。ウィドマンにも婚約者が‥。
王都では教皇と聖女の結婚式で賑わっていた。人々に食べ物が配られ、噴水からはワインが吹き出した。この日は貴族だけでなく、民衆も祝いの雰囲気を存分に楽しむことができた。
「私、教皇ルシフォールは、聖女セシルを妻として娶る」
ルシフォールは神像に向かって高らかに宣言した。神官たちが手を合わせて祈りを捧げる。
私は純白のドレスに、聖女だけが持てるプレアデスの欠片のネックレスを身につけた。正装したルシフォールは、絵本に出てくる王子様のように美しい。私は思わず見惚れた。
各国の代表が祝福をしに訪れている。アルタイ王国からはウィドマンが一人の女性を連れてきていた。
「教皇聖下、ご結婚おめでとうございます」
ウィドマンが挨拶をした。
「遠路はるばる、祝いの席にお越し頂き、感謝します」
ルシフォールは軽くてお辞儀をした。
「教皇聖下、こちらは私の婚約者です。遠い親戚にあたるのですが、嘗てはこの国の侯爵令嬢だったのでご存知かもしれませんね」
ウィドマンが隣にいる女性を紹介した。
「教皇聖下、ご結婚おめでとうございます。私は、カンポデルシエロ侯爵家の令嬢ミルビリリです。今は、叔母の嫁いだアルタイ王国のブレインビュー伯爵家の養女となりました」
ルシフォールはミルビリリとはあまり面識がなかった。カンポデルシエロ侯爵家が、サントーバン公爵家の派閥だったからである。このミルビリリこそ、ギベオンの婚約者だった者で、ギベオンの起こした事件により破談になったのだ。醜聞のある令嬢は良い結婚に恵まれない。カンポデルシエロ侯爵は、アルタイ王国に嫁いだ自身の姉の養女にすることで娘が普通に嫁げるように考えたのだった。
「ミルは、エスケル王国に詳しい。話が弾んだんだ」
ウィドマンが周りには聞こえないくらいの声で言った。正式な場での会話は敬語でなければならない。幼馴染で親戚でもある二人には窮屈だった。
「結婚したらまた二人で報告にくるんだな」
ルシフォールとウィドマンは幸せを分かち合った。
「セシル夫人、今日は特別美しいですね」
ウィドマンの言葉にルシフォールが過敏に反応した。
「見るな」
ルシフォールは私の前に立ちはだかった。
「やれやれ‥。嫉妬深い男は嫌われるぞ」
ウィドマンはそう言うと、ミルビリリと参列者の席に向かった。
「ウィドマン王太子もご結婚されるんですね」
ルシフォールは私と腕を組んだ。
「今日は、私とお前の結婚式だ。他の奴の話はするな」
私は素直に頷くと、参列者達の祝いの言葉を受け続けた。
「兄上、セシル殿、ご結婚、おめでとうございます」
ミシェールが現れた。
「ミシェール、来てくれたのか。ありがとう」
ルシフォールは形式的に返した。
「女王陛下の代理でもあります。陛下はお二人のご結婚をとても喜んでおられます」
「ウルアク女王にも宜しく伝えてくれ」
ルシフォールはミシェールと私を引き離すようにミシェールの視界を遮った。ミシェールはルシフォールの陰に隠れた形になった私を見ると、一礼して去っていった。
式の後は、食事が振舞われた。参列者達は豪華な食事に美味い酒を飲み上機嫌だった。そして夜が更ける前に皆、教会を去っていった。
全てが終わり部屋に戻った私を、使用人達が待ち構えていた。ドレスを脱がされ、湯浴みをし、薄化粧に夜の衣装に着替えをさせられた。ベッドの上には薔薇の花びらまでまかれている。
「うわ‥」
二階堂笑奈だった時に経験済みとはいえ、新婚初夜は初めてである。経験があるのは篤のアパートや、ラブホテルくらいだ。私は緊張と羞恥心で頭がいっぱいになった。
「セシル」
扉が開き、ルシフォールが入ったきた。当然、ルシフォールも寝巻きである。現代でいうならバスローブのような服をきて、鎖骨や太腿の一部が露わになっている。
「ル‥ルシフォール様、お酒でも飲みませんか?」
私はテーブルに用意されていた軽食と酒を指差した。
「今は必要ないな」
ルシフォールはそう言うと私の隣には座り、私に覆い被さってきた。
「教皇だからこの日まで我慢したんだからな‥。もう少しの時も待てない」
ルシフォールは手際良く私の服を脱がしていく。私は、この世界では初めてだ。またあの痛みが来るのか、とそちらにも意識がいき、スムーズに対応できない。ルシフォールはそれを、私が緊張しているからだと判断したのか、優しく愛撫を始めた。
ルシフォールの唇と舌が私の身体を伝い、私はその快感に酔いしれた。過去世ではこんな甘い夜を過ごした経験がなかった。王子様と一般人のスキルの差をこんな所でも認識してしまっていた。
私が熱い夜を過ごしていた頃、私の魂の片割れでもあるクリスタは、屈辱と愛欲に溢れた夜を過ごしていた。
「統領、この女を捕らえてきてから約半年‥。狙い通り誰かの子を孕んだみたいですぜ」
ヌエヴォ・メルキュリオ団の団員の一人が報告をした。クリスタの腹は膨らんでいる。タセゼットはいつものようにクリスタに薬を飲ませると、汚物でも見るような目でクリスタを見下ろした。
「‥もう少しだ‥。臨月に近くなるまでは、薬で堕胎できてしまうからな‥」
クリスタは薬が効き始めたのか、タセゼットの足に手を絡み付かせた。
「汚らわしい、離せ!」
タセゼットはクリスタを蹴った。蹴り飛ばされたクリスタはその付近にいた男に縋り付く。薬のせいで男を求めずにはいられなかった。そんなクリスタの姿を、タセゼットは冷酷な目で見ている。
「統領、今日の昼間は教皇と聖女の結婚式だったらしいです。色んな国の代表が来てたとか」
団員の言葉に、タセゼットは悲しそうに呟いた。
「見に行ってきた‥。そこに、まさかいるとは思わなかったが」
タセゼットはそう言うと、その部屋を出て行った。
泥沼化するクリスタ。妊娠した公爵令嬢はどうなるのか。




