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誘拐されたクリスタ。公爵はクリスタの行方を追う‥。

 最近、ルシフォールが新教皇としての立場が落ち着いてきた。私とルシフォールは、結婚式の準備に取り掛かっていた。

「教皇の式には、王族と同じように各国の王族を招かねばならない。聖女が代々この国に現れるから教会はエスケル王国にあるが、教会は万国共通の存在だ。その為、どの国の王族も、結婚する時は教会に報告する」

 ルシフォールが教会について説明した。私にも男爵令嬢の記憶はあるので大体は認識していたが、教皇がそんなに偉い存在とは思っていなかったので、感心してしまった。

「ウィドマン王太子が庶民の妃を迎える時、書類で済ませてたからルシフォール様は知らなかったんですね」

 ルシフォールは各国の直系王族の婚姻履歴をペラペラとめくった。

「ウィドマン‥。あいつ‥こんなに妃がいるとはな‥」

 ルシフォールは呆れている。私もその人数には驚いた。

「こんなに側妃がいる王太子に‥嫁ぐ令嬢がいるのかしら‥」

 私には嫌悪感しかなかった。

「アルタイ王国は恋愛や性に寛容な国。令嬢達もそんな王侯貴族の元に生まれているから違和感はないのかもしれないな」

 ガヴァリエールの母親はアルタイ王国の王女だった。ルシフォールには祖母にあたる。私はルシフォールにアルタイ王国の感覚が隔世遺伝していないことを願った。

 その頃、ブラヒン公爵が王城に乗り込んでいた。いつまで待ってもクリスタが戻らないからだ。

「ヘンブリー大公閣下!クリスタはどこに?」

 不躾にもブラヒン公爵は、ミシェールの部屋にズカズカと足を踏み入れた。あまりの非礼にミシェールの顔が歪む。

「‥公女クリスタは、昨日、帰ったが」

 ミシェールは目も合わせずに吐き捨てた。

「そんなはずは!!あの子は昨日は帰らないと言って出て行ったのですよ!!婚約者と過ごすと!!」

 ブラヒン公爵がミシェールに掴みかかって大声を出した。

「無礼です。大公殿下をお離しください」

 ミシェールの守護にあたる騎士団がブラヒン公爵を止めた。

「昨日、この部屋を出た後の公女の足取りを、見た者はいないか?」

 ミシェールは周りにいる者達に尋ねる。しかし、昨日は部屋に近寄るなとクリスタに言われていた為、誰もクリスタを見た者はいなかった。

「‥公爵。公女は人払いをしていたようです」

 ミシェールは全ては語らなかった。しかしブラヒン公爵はクリスタが何かを企んでいたことに薄々気づいていた為、人払いについては追求しなかった。

『己がしかけた策におぼれたか‥』

 ブラヒン公爵は悔しそうにミシェールの部屋を立ち去った。そして公爵家の総力をあげて公女の行方を探させた。

 そんなブラヒン公爵の様子を、カーミラやウルアクは嬉しそうに見ていた。

「母上‥。公女がいなくなれば‥ブラヒン公爵が王位を狙う理由がなくなりますね」

 ウルアクの顔が晴れ晴れとしている。

「公女を捕らえたのは誰だろう‥。王太后様の元に行かねば」

 カーミラは、クリスタを捕らえたのが、ディアブロ公爵家か、サントーバン公爵家の者だと考えていた。

「王太后様」

 カーミラは足早にベセドニーチェに近づいた。ベセドニーチェの隣にはサントーバン公爵がいる。

「ブラヒン公女クリスタは、サントーバン公爵が?」

 サントーバン公爵は首を横に振った。

「今、あからさまに公女クリスタを拐えば、我々が疑われます。我々はまだ、クリスタには手を出していない。恐らく、ディアブロ公爵も同じでしょう」

 カーミラは意外な回答に戸惑っている。

「我々以外に、公女を狙う者がいると‥。白昼堂々とブラヒン家の令嬢を誘拐した者‥」

「ブラヒン公爵に恨みを持つ者は多い。このたびのミシェールとの婚約に関係なく、ブラヒン公爵を苦しめる為に拐った者があるのやもしれぬ」

 ベセドニーチェがため息をついた。

「こんなタイミングで事件を起こされては、疑われるのは我々。冤罪もいいところだ」

 サントーバン公爵は怒っている。

 実際、国一番の勢力を持つブラヒン公爵家の令嬢の誘拐は、対立する貴族家の仕業ではないかと国中が噂した。しかし、確たる証拠はなく、ディアブロ公爵もサントーバン公爵も訴えられることはなかった。

「クリスタ‥。クラウディアに顔向けができん‥。無事でいてくれ‥」

 ブラヒン公爵は、亡き妻クラウディアの墓標の前で祈っていた。その姿を、二人の人間が見つめている。今の公爵夫人とその息子である。

「お姉様は誰に連れて行かれたのでしょうか」

 まだ9歳の公爵令息アゼツライトが心配そうに尋ねた。

「クリスタは沢山の恨みをかっていました‥。無事でいるといいのですが‥。それに‥公爵様が心配です」

 公爵夫人は心優しい人だ。元々は、前の公爵夫人の侍女をしていた。公爵家の遠縁にあたる子爵家の令嬢で、心優しく働き者だった。最愛の公爵夫人を亡くして悲しむ公爵が、そんな彼女に心を救われて、後妻に迎えたのだ。

「公爵様、寒くなりました。屋敷に戻りましょう」

 公爵夫人が上着をブラヒン公爵にかけた。ブラヒン公爵は黙って頷くと屋敷に戻っていった。

 

 王城から離れた下町には、異国からの流民も多く、治安が悪い。そこにある古い空き家に、クリスタは捕らえられていた。

「‥離しなさい‥」

 クリスタは鎖で両手両足を繋がれている。クリスタの目の前には、騎士の鎧を纏った男が立っている。

「‥この後に及んで、離しなさい、か。いいご身分だな」

 騎士はマスクをとった。頬は火傷の跡が広がり、腫れ上がった顔で表情がよく分からない。声も、掠れて聞き取りにくい声だった。

「誰に指示されたの!!ディアブロ公爵?女王?それともヘンブリー大公?」

 クリスタは叫んだ。男はクリスタの顎を掴むと、顔を近づけて凄んだ。

「‥誰だろうなぁ‥。ヘンブリー大公‥教皇ルシフォール‥女王ウルアク‥。お前を邪魔だと思っている奴らは多いからなぁ‥」

 男はニヤニヤ笑うと、クリスタを蹴り飛ばした。

「‥お前には地獄を見てもらうよ‥」

 クリスタは恐怖に怯えた。

 


クリスタを捕らえた男。この男の目的は‥?

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