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ミシェールにせまるクリスタ。女王を守るために奔走する側妃カーミラ。野望と欲望が取り巻く王宮で起こる事件は‥

 ミシェールの元には連日、クリスタが訪れた。クリスタは女王に沢山の宝石を献上し、ご機嫌をうかがった。年若い女王は、美しい宝石を素直に喜んでいた。

「ウルアク‥。あなたはこの国の女王です。そしてあなたは、ディアブロ公爵家の血を引く王なのです。ブラヒン公爵に手懐けられてはなりません」

 カーミラが厳しい顔をして言った。カーミラは公爵令嬢であり、本来ならガヴァリエールの王妃候補筆頭であった。ガヴァリエールの時代には、ブラヒン公爵家には年相応の令嬢がいなかったからである。

 しかし、ガヴァリエールはジェパラを選び、公爵令嬢であったカーミラが側妃に甘んじることになった。その屈辱をカーミラはずっと味わいながら王宮で生きてきた。

「あなたの兄ウリエードが暗殺され、私にはあなたしかいないのです。ウルアク、ブラヒン公爵家に近づいてはなりません」

「‥でも、兄上を殺したのは前王妃なのでしょう?ブラヒン公爵とは関係ないのでは?」

 ウルアクはクリスタから貰った宝石達を楽しそうに見ている。

「‥ジェパラは処刑され、陛下や王子たちを殺した者は消えたわ。でも、敵は一人ではないの。ブラヒン公爵は、ヘンブリー大公を次の王にと企んでいるのよ」

 ウルアクの手が止まった。

「‥私を暗殺しようとしてるの?」

 カーミラは頷いた。ウルアクが震え始める。

「‥兄上のように‥私も‥」

 たった一人の王女として、蝶よ花よと育てられたウルアクに、統治者としての気概や度胸は無い。ただ大人しく生きていたら転がり込んできた王座だ。ウルアクは女王であることを簡単に考えていた。

「あなたを、私が、そしてディアブロ公爵家、サントーバン公爵家、王太后様が守るわ。ヘンブリー大公も、王位に就く気はない。でも、彼を無理矢理王位に就けようと、ブラヒン公爵は考えているの」

 カーミラは震えるウルアクを抱きしめた。まだ13歳少女の肩は細くか弱い。カーミラはウルアクの護衛を増やし、厳重に警備させた。

 その頃、ミシェールはクリスタの相手をさせられていた。クリスタはミシェールの婚約者だ。雑には扱えない。ミシェールは義務的に対応していた。

「ミシェール様、このお菓子、街で有名らしいのです。召し上がってください」

 クリスタは複数の焼き菓子をメイドに手渡した。メイドは菓子をセッティングすると、それに合うお茶も用意した。ミシェールは仕方なく、一つの焼き菓子を口に入れた。クリスタは満足そうに見ている。

「‥今日は何の用でこちらに?」

 ミシェールは素っ気ない。クリスタは微笑を浮かべてお茶を飲んでいる。ミシェールはふと、自分の鼓動が早くなるのを感じた。息も苦しい。身体も火照って熱くなっている。

「ミシェール様、苦しいですか?」

 クリスタが耳元で囁いた。ミシェールは近づくクリスタを拒絶し、追い払おうとした。

「毒でも盛ったか」

 ミシェールはクリスタを睨みつける。

「まさか‥。ミシェール様には、王になって頂かなければなりません。私が大切な旦那様を殺すなんて‥。ただ‥アグダルが色々譲ってくれていたんです。ミシェール様もご存知でしょう?ゲベルカミル大公が諸外国から沢山集めていた薬を、アグダルが受け継いでいたことを」

 ミシェールの呼吸は益々激しくなり、身体は汗ばんだ。そんなミシェールの手を、クリスタは自分の胸に当てた。

「‥私で、その熱を冷ましませんか?女性の経験はなくとも、アグダルとの経験はあるでしょう?」

 ミシェールの頭に嫌な記憶が湧き上がった。アグダルだけでない。母親との関係も鮮明に思い出されたのだった。

「女性の経験もある‥。私が好きでしたわけではないがな」

 今まで見たこともない冷たい顔のミシェールがそこにいた。ミシェールの体内で薬は効いていた。しかし、その効果を超えるほどの忌まわしい記憶が、ミシェールの欲望を減退させていた。

「出て行け!!仮にも王族の私に怪しい薬を盛った罪!公にされたくなければ立ち去れ!」

 ミシェールはヨロヨロと立ち上がると、水差にあった水をガバガバと飲み干した。

 クリスタはミシェールの豹変に驚き、その冷たい表情に恐怖をおぼえた。そして一目散に立ち去った。クリスタの命令で、菓子とお茶を用意したメイドは部屋の外に出ていた。メイドはクリスタが走り去るのを目にすると、ミシェールの部屋に戻った。

「ミシェール様、公女様が退出されましたが‥いかがなさいましたか?」

 メイドは、椅子に寝転がり上着のボタンを外して苦しんでいるミシェールを発見した。

「ミシェール様!!誰か!医師を!!」

 メイドの素早い対応でミシェールはすぐに医師の診察を受け、解毒剤を飲み体調は安定した。

「ヘンブリー大公殿下‥。誰があなたにこんな薬を?」

 医師は異国製の強力な媚薬に疑問を持った。媚薬自体、取り締まりの厳しい違法薬物だ。その海外版など、簡単には入手できない。

「‥‥」

 ミシェールは何も答えなかった。クリスタの名を挙げれば、ブラヒン公爵の名誉に関わる。そして怒りの矛先がミシェールに向くことがミシェールには分かっていた。

 医師は大方の予想はついたがそれ以上追求をしなかった。

 一方、媚薬を盛ったにも関わらず、ミシェールと関係を持つことができなかったクリスタは屈辱にまみれていた。

「なぜ!!この薬は絶対に効くとアグダルは言っていたのに!!」

 クリスタは赤い小瓶を握りしめた。今日はミシェールと人ばを過ごすつもりで王宮に来た。その為、迎えの馬車は呼ばねば来なかった。

 クリスタは王城の庭を歩きながら、騎士探した。騎士に公爵家への使いを頼もうとしているのだ。すると一人の騎士がクリスタに近づいた。騎士は甲冑を身につけているので顔がよく見えない。

「ちょうどよかった‥。あなた、ブラヒン公爵家に、馬車を出すように伝えてちょうだい」

 クリスタがそう言うと、騎士は頷いて近寄ってきた。

『ガッ』

 騎士はクリスタを気絶させると、クリスタを連れてその場を立ち去った。

 ブラヒン公爵家では、「今日は帰らない」とクリスタに言われていた為、クリスタのいない夜を平穏に過ごしていたのだった。

 

クリスタが拐われた。その事実を知る者はまだない‥。クリスタはどうなるのか‥

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