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クリスタが新たな婚約者を探し始め‥

 小春日和の今日、私は久しぶりに ルシフォールに誘われてデートを楽しんでいた。デートと言っても、ユリウスや教皇の護衛騎士は近くにいる。二人きりではない。

 私達は王都の外れにある花畑にピクニックにやってきた。花々が咲き誇り、蝶が舞う。平和な空間だ。

「ゲベルカミル大公もシュテッテン伯爵も死んだ。あとは公女クリスタだけだ‥」

 クリスタはエスケル王国で有力な公爵家の令嬢である。確固たる証拠がなければ、例え教皇でも裁けない。

「父上が生きておられれば、話を聞いて動いて下さっただろうが‥」

  ルシフォールはゴロンと寝そべった。

「女王陛下はまだ歳若く、後見のヘンブリー大公はブラヒン公爵に恩がある‥。王家がクリスタに手を出すことはないでしょうね‥」

  ルシフォールは頷いた。

「公女がどんな手段を使い、お前を狙ってくるのか‥。日々気をつけねばな」

  ルシフォールは私の膝に頭を乗せた。そして気持ちよさそうに眠り始めた。私はそんなルシフォールの髪を優しく撫でた。 ルシフォールは母親似である。その為、アグダルにも似ていた。

私は小説を読んでいた時の推しであるルシフォールを唯一無二と思っている。誰に似ていようと関係ない。暖かい日差しが二人を優しく照らす。私はこの平和がずっと続くことを祈っていた。

 その頃、クリスタはタザ侯爵家を訪れていた。タザ侯爵令嬢パールは、クリスタの友人で取り巻きの一人だ。そしてパールの兄、ディアモンはクリスタを慕っていた。ディアモンは見た目も能力も普通の、特に目立つ存在ではなかった。その為クリスタは今まで、ディアモンのアプローチはてきとうに流していた。

「パール‥。ルシフォール様を奪った聖女を私は許せない‥」

 クリスタは友の前で涙を流した。

「クリスタ、元気を出して。ルシフォール様は教皇になられたわ。私達は貴族。貴族は貴族と結婚した方が幸せでしょう?」

 クリスタはハッとした。パールに言われるまで考えてもみなかったのだ。教皇の妻は、贅沢などできない。王族、貴族とは違う。煌びやかなドレスや宝石を身につけて、贅沢な食事をする。それができるのは、王侯貴族と成功した一部の商人のみである。

「‥そうね‥。ルシフォール様と結婚したら、教会で地味に生きていくしかない。気づかなかった。ありがとう、パール!」

 クリスタは新たな結婚相手を探さねばと決意した。

「うちの兄様は‥あなたを慕っているけど‥」

 パールが憚りながら言った。

「ディアモン令息はいい友達よ」

 クリスタは一蹴する。クリスタは自分に相応しい相手が誰かを真剣に考えた。

「‥‥!」

 クリスタは閃くとすぐに、タザ侯爵邸を去った。パールは兄の失恋を残念に思っていた。

 帰宅したクリスタはすぐに父である公爵の部屋へ急いだ。

「お父様!」

 珍しく娘が執務中に入ってきたのでブラヒン公爵は驚いた。

「何かあったのか?クリスタ」

 クリスタは意気揚々と発言する。

「私を、ヘンブリー大公の妻にしてください」

 ブラヒン公爵は少し驚いたが、嬉しそうに頷いた。

「お前がルシフォール教皇聖下を忘れ、他の男と結婚する気になったんだ。しかも、ヘンブリー大公。いいではないか。身分の低い男なら許すわけにはいかないが、大公妃なら、女王陛下の次に高い位だ」

 ブラヒン公爵はクリスタを抱きしめた。

「すぐに女王陛下に手紙を書き、ヘンブリー大公との婚約を認めてもらおう」

 ミシェールに婚約を申し込むのではなく、女王からミシェールにそれを伝えさせることで、断われない状況になる。ブラヒン公爵は、ミシェールが男色家だと思っていた。その為、本人に直接婚約の話は出さず、女王を通そうと考えたのだった。

 翌日、ブラヒン公爵からの手紙を受け取った女王は、ミシェールを呼んだ。

「ヘンブリー大公、あなたの男色疑惑を晴らす為にも、また、大公としての地位を守る為にも‥ブラヒン公女クリスタ嬢との結婚は、私は良いと思います」

 周りにいる大臣達も半数ほどは頷いている。ブラヒン公爵の派閥でない貴族は、苦い顔をしていた。

 ミシェールは困った。自分は実際は男色ではない。しかもクリスタの本性を知っている。とても愛せるとは思えなかった。

「‥私の母は罪を犯しました。私は特赦で生かされた身。ヘンブリー大公家は私の代で、私の血は後世に残さずに終わりたいと思っています」

 ミシェールの言葉に周りが騒めいた。そこにブラヒン公爵がやってきた。ブラヒン公爵は厳しい目つきでミシェールを見ている。

「我が公爵家は、ヘンブリー大公を支持しております。その証として、両家の絆として我が娘を嫁がせようと言うのが、ご不満か?」

 ブラヒン公爵の威圧感が、その場を凍らせた。ミシェールは臆して何も言えなかった。

「死にたくなかったら素直に従いなさい」

 ブラヒン公爵は、ミシェールの耳元でそう囁いた。ミシェールはガクンと項垂れると、口を開いた。

「‥大恩ある公爵家と私がよい関係を築くことで、この国に安寧が訪れるなら、この婚姻‥お受け致します」

 ミシェールは渋々承諾すると、周りの祝福を作り笑いでかわして部屋に戻った。

「‥兄上‥私はまた、貴方の敵になるのか‥」

 ミシェールは枕を涙で濡らした。

 翌日には、ヘンブリー大公とブラヒン公爵令嬢の婚約が公表された。

「‥あの女が、大公妃になるだと?」

 ナルスタは新聞を引き破った。

「公女クリスタが、ミシェールと‥。そうなるとこの国はブラヒン公爵の思うがままね‥」

 王太后とサントーバン公爵は不満そうである。

 私とルシフォールは、次から次へと行動を起こすクリスタに翻弄されていた。

「公女がミシェールと‥。いよいよ大公妃の地位狙いに方向転換したか‥。ミシェールは断れなかっただけだろうが‥」

「クリスタは地位よりも、私の物を奪うことが一番好きだったのに‥。この世界に来て考え方が変わったのかしら‥」

 私は今回のクリスタの行動が、いまいち理解できなかった。

「くそ‥。許さない‥」

 路地裏で新聞を握りつぶす男がいた。男は憎々し気に新聞を投げると、暗闇に姿を消していった。

クリスタとヘンブリー大公の婚約が決まり、周りの反応は様々。二人の婚約はこれからどうなるのか‥

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