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アグダルを狙う者の正体が明らかに!
アグダルとミシェールが眠りにつくベッドに一人の影が近づいた。
『グサッ』
影は見事な手つきでアグダルの心臓を突き刺した。アグダルは声も出せずに絶命した。ミシェールは気づかずに寝ている。アグダルの死を確認した影は静かに窓から部屋を去って行った。
「うわぁぁぁ!!」
翌朝、ミシェールの声が響き渡った。アグダルといる時は他の者の出入りは禁じていた為に、第一発見者がミシェールとなったのだ。
「‥アグダルが‥‥??」
ミシェールは混乱している。起き抜けに血まみれのアグダルを見て仰天して叫んだ。しかし、何故自分はアグダルと共に寝ているのか。理解が追いつかない。
「ヘンブリー大公閣下、これは一体どういう‥」
裸体で横たわる2人の男。そして1人は絶命している。城の者達は騒めいた。
「大公と伯爵はそういう関係だったのか?男同士、という前に叔父と甥だろう?」
「ゲベルカミル大公とシュテッテン伯爵にはそういう噂があったぞ‥」
「痴情のもつれで殺したの?怖いわ‥」
人々は王宮内の醜聞ネタを口々に噂した。
「ヘンブリー大公、ひとまず服を‥」
貴族達がミシェールに促した。ミシェールは顔面蒼白になりながらも服を着た。
「私は‥シュテッテン伯爵となぜこのような‥」
混乱するミシェールに、侍従が寄り添った。
「ミシェール様、どうされましたか?」
信頼する侍従の声に、ミシェールは少し落ち着きを取り戻した。
「私は、シュテッテン伯爵を叔父としてしか考えていないんだ。それなのに、昨日までの私は、シュテッテン伯爵を最愛の人のように思っていた。まるで脳が支配されたかのように‥」
侍従はミシェールの精神状態が異常をきたしていると判断して、神官を呼ぶように手配した。
「教皇様!!」
王宮からの使いに、教会が騒めく。
「シュテッテン伯爵が何者かに殺されたと。そして一緒におられたヘンブリー大公がおかしなことを言っているので神官を遣わせて欲しいと、使者が参っております」
ルシフォールは驚いて振り返った。
「アグダルが死んだ?そしてヘンブリー大公が混乱しているだと?」
そこに居合わせた神官達の中に、ダイオジェナイト族の末裔の神官もいた。
「教皇様、恐らく‥シュテッテン伯爵が死んだことで、ヘンブリー大公の脳内が元に戻ったのではないでしょうか?」
「術が解けた、ということか‥。ミシェールの混乱、収めることは可能だろうか‥」
ルシフォールは胸に手を当てた。ルシフォールの胸には心臓ではなく、フェニックスが存在している。ルシフォールは熱く鼓動を打つフェニックスを信頼して、王城を訪れた。ミシェールは、シュテッテン伯爵殺害の疑いもあり、部屋に軟禁されていた。ルシフォールは女王の許可を得て、ミシェールの部屋に向かう。
「ミシェール‥」
ルシフォールは扉の前で声をかけた。部屋の中でミシェールを見張っていた兵士が扉を開けた。
「教皇聖下様‥」
兵士達は頭を下げた。
「女王陛下より、ヘンブリー大公の取り調べを仰せつかった。皆、部屋の外で待機せよ」
兵士達は、ルシフォールの威厳に気圧されて部屋を出た。ルシフォールは目の前で青ざめて座るミシェールに声をかけた。そして、ミシェールの手を取り、フェニックスの力を注いだ。すると、錯乱していたミシェールが落ち着きを取り戻した。
「ミシェール‥。お前はアグダルの術にかかっていたんだ。アグダルは、ダイオジェナイト族の末裔。人の愛の心を操作できた者だ」
ミシェールは驚いて立ち上がった。
「では!!私は、あの男に‥あの男を愛してやまない状態にされたのですか!!」
「お前の中の、母親への恋慕の情を使ったんだろうな。アグダルは、母上にそっくりだった」
ミシェールは怒りで真っ赤になっている。いつも母親の操り人形のようだったミシェールに、初めて芽生えた激怒だった。
「兄上!私はアグダルを殺してなんかいない!!目覚めたら隣で死んでいたんです!」
アグダルの術にかかっている者がアグダルを殺すわけがない。ルシフォールは、女王に、アグダルがダイオジェナイト族の末裔であったこと、ミシェールもその術にかかっていたことを報告した。ダイオジェナイト族の末裔である神官の供述もあり、それらは正式に認められた。
王宮が騒めく中、少し離れた場所にある王太后宮は、静かだった。
「サントーバン公爵、あなたに借りていた暗殺団員、お返ししなくてはね」
王太后ベセドニーチェが、甥であるサントーバン公爵を招いていた。
「叔母上のお役に立てて私も嬉しいです」
サントーバン公爵はにこやかに言った。
「あの男、アグダルを救って欲しいとキャニオンが頼んだから手を差し伸べた。まさかあの男が、キャニオンを破滅に追い込む元凶になるなど、思いもしなかった‥」
ベセドニーチェは悔しそうに扇を握りしめた。ベセドニーチェは公爵令嬢で後妻として王妃となったにも関わらず、権力欲はなかった。ただ、息子の幸せだけを願っていた。その為、権力争いにキャニオンが巻き込まれないよう、公爵家には念押しをし、キャニオンにも帝王学を学ばせていなかった。
年頃になったキャニオンが、アグダルを救いたいと言うのでその妹を侍女にし、伯爵家に恩を売った。その伯爵令嬢ジェパラとキャニオンが恋に落ちた時は、2人の未来を期待していた。しかし、そんな2人を、王太子ガヴァリエールの恋慕が邪魔をした。当時は、仕方がないと諦めていた。しかし、時が経ち、フカンの地に大公として籠るキャニオンの側に、女ではなくアグダルがいること。それがベセドニーチェには不可解でならなかった。そして今回の事件でその謎が解けたのだ。アグダルの様子を、つぶさに見て報告する者を付け、アグダルがダイオジェナイト族の末裔だと知った。そして、その力で、キャニオンを操っていたのだと気づいたのである。
「‥あの男が死んで、やっとキャニオンの無念が晴らせたわ。私はミシェールがキャニオンの息子だと思っていた‥。それが違ったのだけが残念でならない‥」
「ヘンブリー大公は城に軟禁されていると聞きましたよ。シュテッテン伯爵殺害の疑いでしょうね‥。世間は痴情のもつれ、とみているようですし」
「ミシェールがキャニオンの息子なら、疑いがかかるような殺し方は命じなかったわ。でもミシェールはキャニオンの子ではない。どうなろうと知ったことではないわ」
ベセドニーチェは冷たく言い放った。
王城ではミシェールは無罪放免され、女王の補佐役として返り咲いた。シュテッテン伯爵の遺体は、教会に運ばれた。
「‥うーん‥。あまり見たくないわ‥」
私はアグダルの遺体から目を背けた。
「そうは言ってもここは教会だからな。こんな男でも貴族だ」
ルシフォールは冷静だ。シュテッテン伯爵が、ダイオジェナイト族だったことは、ミシェールの無実の為に公表された。ただ、シュテッテン伯爵が、ゲベルカミル大公やマンドラビラ侯爵令息の心を操作していたことは、証拠がない為公表されていない。
シュテッテン伯爵の葬儀はひっそりと寂しく行われ、遺体は領地に送られた。シュテッテン伯爵に家族がいなかった為、以前領地を治めていたセイムチャン伯爵の遠縁の貴族がこの地を受け継ぎ、シュテッテン伯爵を弔った。
「アグダルが殺されたなんて!!」
クリスタがヒステリックに暴れている。クリスタの中のルシフォールへの想いは、半ば執着である。アグダルが死んでも、愛の大きさが多少変わっただけで特に変化はなかった。
「これからは1人で聖女を倒さなきゃならないのね‥」
クリスタの憎悪が日増しに増大していた。
クリスタは自ら手をくだそうと計画を練る
聖女とルシフォールはクリスタの攻撃を防げるのか??




