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ギベオンに襲われるセシル。セシルの純潔は奪われてしまうのか

 女王主催の舞踏会とは言え、実質仕切っているのはヘンブリー大公であるミシェールだ。ミシェールは有力貴族達を招き、王室との関係性を高めようとしていた。一方貴族達は、女王の兄であり大公であるミシェールの妻の座に自分の娘を付けようとしきりに令嬢をアピールしている。

 私とルシフォールが会場に入ると、新教皇に取り入ろうとする貴族達が集まってきた。ルシフォールが貴族達の祝いの言葉を聞いている間、私はルシフォールから少し離れてその様子を見ていた。

「ごきげんよう、セシル嬢」

 振り返るとそこに、背の高い茶髪の美男子がいる。初対面のこの貴族が誰なのか考えていると、男は私にグラスを渡してきた。中には白ワインが入っている。

「私はマンドラビラ侯爵の息子、ギベオンと申します。セシル嬢とは以前から一度お話ししたいと思っていたのです。100年ぶりにこの地に現れた聖女様ですからね」

 ギベオンが微笑みを浮かべて、一礼した。ギベオンの名前は小説は知っていたが、実物を見るのは初めてだ。悪役令嬢クリスタの初恋の相手として書かれた人物は、予想通りいい男である。ただ、小説ではクリスタとギベオンの恋は叶っていない。家同士の派閥が違う為に距離が出来、二人が恋に落ちる前に離れてしまった。その為、ギベオンはクリスタの初恋の相手で、悪役令嬢として追い詰められた時に救いの手を差し伸べたキャラクターである。しかし、笑真がクリスタである世界では、クリスタの初体験はギベオンだと予測して正解していた。

「ギベオン様は今日はどなたと?」

 私はギベオンのパートナーを尋ねた。

「そんなことはいいではないですか。こちらで一緒に飲みませんか?フェニックスのことを教えて頂きたい。我が家紋にはフェニックスが描かれているんですよ」

 ギベオンは上着のボタンに彫られた紋章を見せた。マンドラビラ侯爵家の紋章は、フェニックスが剣を抱きしめている図柄だ。

「素敵ですね。フェニックスは炎を纏った鳥。再生を司ることから縁起のよい存在だと思います」

 話しながら私はワインを口にした。ギベオンがジッと見ている。

「私も頂こう」

 ギベオンも同じワインの入ったグラスをとると、グッと飲み干した。しばらく時間が経つとギベオンは大きなため息をついた。

「‥やはり効かないか‥」

ギベオンは小声で呟いた。そして、私の手をとるとダンスに誘ってきた。社交場では、特定の相手以外とも踊るのが普通である。私はギベオンの手を取った。この世界のダンスは習ったもののまだ下手である。私はやっとの思いでギベオンの動きについていった。

 ダンスも終盤に入ると、ギベオンは踊りながら出口に近づいて行った。

「少し、外で酔いをさましませんか?」

 ほろ酔いで頬を赤く染めたギベオンが囁いた。私もグラス一杯のワインを飲み干してすぐにダンスをした為、酔いが回っていた。

「‥そうですね‥」

 酔って意識がハイになっていた私は、何の疑いもせずにギベオンと外に出た。外と言っても王宮内で、舞踏会場を出ただけだ。ギベオンは舞踏会場のすぐ横の客室の扉を開けた。中にはメイドもいる。

「聖女様に水を持ってきて」

 ギベオンがメイドに命じた。メイドは頷くと水の用意を始めた。メイドはどこからか水の入った入れ物を持ってくると、グラスにそれを注いで私の前に置いた。

「聖女様、王室専用の湧き水ですが、聖女様にはお出ししていいと言われておりますのでどうぞ」

 メイドの差し出した水を私は何の疑いもなく口に入れた。ダンスをして喉が渇いていたのだ。しかし、その水を飲んだ直後、私の意識は朦朧とした。消えゆく意識の中で、ほくそ笑むメイドとギベオンの顔が薄っすらと見えた。

『水の中に何か‥?メイドもグルなの‥??』

 私は意識を失った。

「うまくいったな。首尾は上々とクリスタに伝えてくれ」

 ギベオンがそう言うと、メイドは部屋を出ていく。ギベオンは扉の鍵を閉めると、セシルの服に手をかけた。

「‥なんだこれは‥」

 ドレスの下にセシルが着込んでいるのは、防弾チョッキを参考に製作したコルセットだ。ギベオンは頑丈に防御された下着を脱がそうと必死になった。

 メイドは舞踏会場に入るとクリスタを探した。 

「公女様、うまくいっております。あとはギベオン様が実行なさるだけです」

 クリスタはニヤリと笑った。

「予期した通り、毒は効かなかった‥。でも酒には弱いのね‥」

 クリスタがメイドに渡していた酒は、度数が高いがスッキリした味で、飲みやすい物だった。現代の世界で言うならウォッカに相当する酒だ。

 その頃、ルシフォールはセシルを探していた。

「聖女様なら、マンドラビラ侯爵の令息と語っていましたよ」

「マンドラビラ侯爵の令息と踊っているのを見ました」

 人々は、セシルがギベオンと一緒にいたと証言した。ルシフォールが会場を駆け回っても、マンドラビラ侯爵令息の姿もセシルの姿もない。ルシフォールはテラスに出ると、意識を心臓に集中させた。

『フェニックスよ‥。聖女セシルが今どこにいるのか‥。映し出してくれ』

 ルシフォールの鼓動が大きくなり響く。そしてハートチャクラからサードアイに光が走り、ルシフォールの脳内にセシルの姿が映し出された。見覚えのある客室で横たわるセシル。例のコルセットに悪戦苦闘しているマンドラビラ侯爵令息。ルシフォールは閃光のように会場を飛び出すと、会場のすぐ隣の客室の扉を蹴り飛ばした。ルシフォールの暴挙に護衛の騎士達が驚き止めに入る。

「離せ!!この中に、聖女がいる!男に襲われているのだ!」

 ルシフォールがそう叫ぶと、騎士達はルシフォールを離し、扉の鍵を探した。

「教皇様!鍵がありました!」

 騎士が鍵を選び出すと、ルシフォールはすぐにその鍵で扉を開けた。

「セシル!!」

 ルシフォールが部屋に駆け込むと、倒れたセシルに覆い被さり、服を脱がそうとしていたギベオンが焦って振り返った。そして何も持たずに部屋から飛び出し、姿を眩ませた。ルシフォールのお陰でセシルは事なきを得たが、ルシフォールはこの事件を闇に葬るつもりはなかった。

 ルシフォールは舞踏会場に戻ると、女王の前に行ってこの事件のことを話した。女王の隣に座っていたミシェールは、すぐに女王の命令と称して、マンドラビラ侯爵令息の逮捕を命じた。舞踏会は一気に騒然として終了した。

「‥ん‥‥」

 私は重たい頭をもたげた。目の前にルシフォールがいる。

「?ルシフォール様‥?」

 動くと頭がグラグラする。完全に二日酔いだ。

「危なかったんだぞ‥」

 ルシフォールは、青ざめた顔で私を見ている。

「私‥マンドラビラ侯爵令息に襲われそうになって‥」

「そうだ!なぜそんなことになった?毒は効かなかっただろう?なぜ動けなくなるほどの酒を飲んでいたんだ?」

 ルシフォールは怒っている。私は辿々しい昨夜の記憶を思い出そうとした。

「私はワインを一杯しか飲んでません」

 私がそう言うと、ルシフォールが袋に入ってワイングラスと、水を飲んだグラスを取り出した。

「会場でお前が飲んだワインには、猛毒が入っていた。このグラス、聖女が口をつけたグラスということで召使いがこっそり持っていた。昨夜の事件を聞いてその者が差し出してきたから調査できたのだ」

 本来なら窃盗は罰せられるが、今回は怪我の功名でその結果毒物が発見できた為、召使いは減刑された。

「猛毒‥。マンドラビラ侯爵令息が私を殺そうとしたんですね‥」

「そしてこちらのグラスには、強い酒が入っていた。これをお前はなぜ飲んだ?無理矢理飲ませられたのか?」

 そのグラスはメイドが水と言って渡してきた物だ。私はその時のやりとりをルシフォールに説明した。水と言われて飲んだ後、薄れゆく意識の中で二人が笑っていたことも話した。

「そのメイドもマンドラビラ侯爵令息の手の者か。至急、探す!」

 私はメイドの特徴をルシフォールに伝えた。 

 こうして、新教皇を祝う女王開催の舞踏会は、聖女暗殺未遂事件となり貴族達を騒然とさせた。主犯格と見られるマンドラビラ侯爵令息は、国中に指名手配された。そして、メイドは事件のすぐ後に殺されているのが見つかった。そのメイド殺害も、マンドラビラ侯爵令息の犯行ではないかと世間は騒いだ。

「ミシェール‥。クリスタの作戦はうまくいかなかったね」

 アグダルが残念そうにため息をついた。

「聖女が傷つけば‥兄が悲しむ。それが狙いですか?」

 ミシェールはアグダルのベッドの中にいる。情事の後だからか、まどろんでいる様子だ。

「悲しむ?そんなの狙ってない。‥僕が狙っているのは、奴らの破滅だよ。クリスタが聖女を苦しめ、殺す。ルシフォールはクリスタを憎む。クリスタは手に入らないルシフォールを殺す。て筋書きだったんだけどな‥」

「そうなってくれたら私も助かります。クリスタが教皇殺害の犯人となれば、あのブラヒン公爵家も終わる。ウルアクの伯父であるディアブロ公爵が力を持って、この国を治める。私はフカンの地に行き、あなたと共に生きて行ける」

 ミシェールはアグダルの胸に頬を寄せた。

「政治とはもう関わりたくない‥。母は私を王にしたがっていた。でも私は王にはなりたくない‥」

 アグダルはミシェールの頭を優しく撫でた。

「キャニオン様の復讐が終わったら‥フカンの地に帰ろう」

 アグダルとミシェールは、二人の幸せな未来を目指していた。


アグダルの復讐計画と、アグダルを狙う視線。クリスタは相次ぐ失敗に暴走し始める

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