34
クリスタの初体験の相手ギベオン。ギベオンを操り、クリスタは暗殺計画を練る‥。
翌日、クリスタとアグダルはマンドラビラ侯爵邸を訪れた。マンドラビラ侯爵は、サントーバン公爵と姻戚関係にある為、ブラヒン公女クリスタとの関係は歓迎されていなかった。マンドラビラ邸の使用人達が騒めく。
「おぼっちゃまが公女と付き合ってすぐに捨てられたと聞いたのに‥。今更何をしにきたのかしら」
使用人達はクリスタを冷めた目でジロジロと見ている。ギベオンはそんな家の者達は顧みず、クリスタを歓迎した。クリスタはアグダルをギベオンに紹介する。
「ヘンブリー大公の叔父で側近でもあるシュテッテン伯爵よ」
アグダルはギベオンに手を差し出し、挨拶をした。そうして彼の中のクリスタへの想いを大きく膨らませた。最近のクリスタの婚約話で、無理矢理抑えていたギベオンの恋情を解き放ったのだ。
ギベオンはすっかり骨抜きになり、クリスタの足元に跪いた。
「ねぇ、ギベオン‥。私は王妃になるはずだったの」
クリスタがギベオンの頬に指を滑らせた。ルシフォールまでとはいかないが、ギベオンも社交界では話題の美男子だ。だからこそクリスタは交際をしていた。しかしそれは、笑真としての記憶のない頃のクリスタだ。今のクリスタには、ギベオンはある意味新鮮な感覚だった。
「でも、ルシフォール様は王位に就かずに、教皇になってしまわれた」
クリスタは一粒の涙を零した。勿論、演技である。
「教皇の花嫁は、乙女でなくてはいけないの‥。でも私は乙女じゃない。だから私は聖女にルシフォール様を奪われてしまったの‥」
クリスタが純潔を捧げたのはギベオンである。だからこそ、ギベオンの罪悪感を利用しようとした。
「クリスタ‥。私のせいで君は聖女に‥」
ギベオンは拳を握りしめた。
「ねぇ、ギベオン‥。私はルシフォール様の妻になれない。でも‥私からルシフォール様を奪った聖女を、ルシフォール様の花嫁にはしたくないの!!」
クリスタの激情をギベオンは受け止めた。
「私は何をしたらいい?」
縋るような目でギベオンはクリスタを見ている。クリスタはニヤリと笑った。アグダルは二人をよそに、一人で高級菓子や茶を愉しんでいる。
「近々、女王陛下主催の舞踏会が開かれ、新たに教皇に就任したルシフォール様とその花嫁候補の聖女も招かれるわ。そこであなたに、聖女を襲って欲しいの」
クリスタはギベオンの両手を強く握りしめた。
「この毒を‥聖女に飲ませて‥。聖女に毒が効かなければ、聖女を連れ出して、純潔を奪って欲しい」
恐ろしい提案だが、ギベオンは平然と受け止めた。アグダルの術で理性よりも感情が高まっているからである。
「わかった‥。聖女が教皇の花嫁にならないように私がするよ」
ギベオンはクリスタの右手に口付けをした。
満足したクリスタは、アグダル共にマンドラビラ侯爵家を去っていった。
その頃、私の部屋からアーレスから貰った水晶玉が紛失していた。
「ブラヒン公爵家か、シュテッテン伯爵の間者の仕業か」
ルシフォールが悔しそうに言った。
「あれがないと向こうの状況が分からないから困りましたね‥」
前世ならプライバシーの侵害で犯罪である。しかしこの世界では身を守る為に必要なアイテムだ。盗まれたのは遺憾だった。
その頃、教会の裏手ではブラヒン公爵家の間者が外部とやりとりをしていた。
「この水晶玉に何が映るかわからないが、聖女と教皇には何かが見えていた。これをお嬢様に届けてくれ」
間者が定期的に訪れるブラヒン公爵家の者に、近況報告の手紙と水晶玉を手渡した。
「分かった。引き続き、教皇と聖女の様子を探れとのお嬢様の命令だ。心してかかれ」
公爵家の使いは足早に立ち去った。
水晶玉がなくなり、落胆している私達の元にウィドマンがやってきた。
「国王陛下に、エスケル王国の報告をしに帰らねばならない。今日、女王陛下に挨拶をしたら帰国する」
ルシフォールはウィドマンと握手した。
「また会おう。次は私の結婚式でな」
ルシフォールが照れ臭そうに言った。
「その時は祝いの品をたーっぷり持ってくるよ。私もそろそろ妃を決めないとな‥」
「クリスタ公女は?ブラヒン公爵から言われているんじゃないのか?」
ルシフォールが意地悪く問いかけた。ウィドマンは大きなため息を漏らした。
「そうなんだよ‥。公女と肉体関係があった、て暴露したもんだから、責任だの、国交問題など言われてな‥。しかも、ヘンブリー大公が女王陛下にもこの話をしたもんだから、そっちからもつつかれて‥」
ウィドマンは後悔しきりだ。一時の欲望に身を任せた結果、齎された災い。クリスタを妻にする気は毛頭無かった。
「公女は美人だけどな‥。性格がきついわ、貞操観念が薄いわ‥。本気になる相手じゃないんだよな」
「ウィドマン王太子殿下に貞操観念を言われたくないですが‥」
私は思わず突っ込んだ。ルシフォールはクスクス笑っている。
「私も公女と婚約していた時は、本当の彼女の姿に気づいていなかったからな‥。王太子妃として問題なければいい、とだけ思っていた。しかし今は違う」
ルシフォールは私の肩に手を回すと私を抱き寄せた。
「羨ましいな、全く。私だって、結婚したい。だが、毒殺だの暗殺だの平然と語るような女は嫌だからな。絶対に公女との結婚は拒否する!」
ウィドマンはそう言うと王城に向かい、女王に挨拶をしてから帰国した。
「これで二人の一時を邪魔する奴はいなくなったな」
ルシフォールは嬉しそうに私の部屋で寛いでいる。ウィドマンの聴力はかなりの物なので、私たちの会話は部屋が違っていても聞こえるのだ。だからクリスタが私の毒殺や暗殺を計画している話も、ウィドマンには話していないのに知っていた。
数日後、王城から舞踏会の招待状が届き、ルシフォールと私は出席することになった。クリスタの暗殺計画がいつ仕掛けられるのか。緊張しながら私は会場に足を踏み入れたのだった。
ギベオンの魔の手が聖女にせまる。ルシフォールは聖女を救えるのか。




