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ルシフォールに迫るクリスタ。クリスタを拒絶するルシフォール。クリスタの執着は狂気に変わる。

 私達が王城から戻ると、クリスタが待ち構えていた。神官達は、大金を寄付したクリスタを恭しく接待している。

「ルシフォール様、お帰りなさいませ。公女様が、教皇着任祝いを持ってきて下さいました」

 大神官が嬉しそうに言った。教会の運営は基本、貴族や民衆のお布施だ。大金が寄付されれば教会としては助かる。

「ブラヒン公爵令嬢‥。多額の寄付に感謝致します」

 ルシフォールは形式的に謝礼した。大神官は大金を手に持つと、奥の金庫へと向かった。

 クリスタは私やウィドマンなど目にも止めずにルシフォールに近寄ると、甘えて擦り寄る。ルシフォールはまとわりつくクリスタを淡々と引き離した。

「ルシフォール様ぁ‥。私はルシフォール様をお慕いしております。過去に他の男性と恋仲になったことはありますが、今はルシフォール様だけを想っておりますのよ」

 クリスタはフェロモンを撒き散らしている。こういうやり方で真山も篤も落としたのかと納得がいった。

「君は双子の姉の恋人を奪いたいだけだろう?」

 ルシフォールがクリスタに詰め寄る。冷淡な瞳と口調は、クリスタから笑顔を奪った。

「双子‥?ルシフォール様の言ってる意味がわかりませんわ」

 クリスタは目をそらした。

「セシルに聞いた。君とセシルが前世で双子の姉妹だったこと。そして君は、姉の恋人を奪うことを楽しんでいたことを」

 クリスタは私を睨みつけた。

「笑奈!!ルシフォール様に前世の話をするのは卑怯よ!今の私達には関係ないでしょう!!」

 私は動じない。

「‥関係ないなら、ルシフォール様にまとわりつかないでもらえる?笑真」

 前世では奪われるままだった私が、今世では抗える。その自信をルシフォールが与えてくれたのだ。

「ルシフォール様は私の婚約者だったのよ!後から現れて奪ったのはあんたでしょう!!」

 クリスタが私につかみかかった。ルシフォールがクリスタを止める。

「悪役令嬢は聖女に王子を奪われるのよ!それが決まりなの!」

 興奮した私は思わずそれを言ってしまった。

「決まり?何のことよ」

 異世界転生物というジャンルを知らないクリスタは、理解できない。

「とにかく‥性格の悪い令嬢は、ルシフォール様に相応しくないの。引っ込んでなさい!」

 私は強気に言った。激しい女のバトルを、ルシフォールとウィドマンは呆然と見ている。

「私は聖女なの。あんたが誰と恋愛して遊んだかも全部知ってるわ。あんたの初めての男はマンドラビラ侯爵の長男ギベオン。彼とは今も完全には切れていないわよね?」

 小説では、悪役令嬢が断罪イベントの後、悪役令嬢をサポートしたのがギベオンだった。しかし悪役令嬢はギベオンとは結婚せず、隣国の王太子ウィドマンと結婚するハッピーエンドだ。私は、この世界にもギベオンがいると確信していた。

「‥なんで‥あんたがそんなことを知ってるのよ‥」

 小説ではギベオンと悪役令嬢に肉体関係はなかった。ギベオンが悪役令嬢への片想いを抱き続けて終わったのだ。しかし、この世界では悪役令嬢クリスタは笑真である。ギベオンと肉体関係を持つことは容易に想像ができた。ウィドマンが、クリスタは乙女ではなかった、と言った瞬間に、初体験はギベオンだと予測した。水晶でクリスタを見ていた時に、ギベオンらしき男と密会している場面もあったので間違いはない。

「‥ギベオンとも関係があるのか‥」

 ルシフォールは、こんな女と結婚しようとしていた自分に呆れた。

「ルシフォール様!!それは過去の話です!今は誰とも付き合ってはいません!」

 クリスタが見苦しく言い訳を並べた。ウィドマンは苦笑している。

「‥公女、私が言えた立場ではないが‥あなたの貞操観念の薄さは、ルシフォールには合わないかな」

 クリスタは顔を真っ赤にした。恥ずかしさと怒りの両方の感情がクリスタを襲う。

「ルシフォール様!!」

 クリスタはルシフォールに抱きつくと、背伸びをして無理矢理キスをした。ルシフォールは慌てて唇を離す。ルシフォールの唇には、クリスタの真っ赤な紅が付いた。

「何をする!」

 ルシフォールはクリスタを突き飛ばした。怒りのあまり、相手が女性だと力加減をすることができなかった。

『ドサッ』

 クリスタは激しく床に倒れた。物音を聞いた教会の者達が駆けつけ、クリスタを助け起こす。

「公女様!!大丈夫ですか?」

 クリスタは人の手を借りて立ち上がると、目に涙を浮かべながら悔しそうに言った。

「‥あきらめませんから‥」

 クリスタはそう吐き捨てると、教会を去っていった。

 昼ドラのような光景が繰り広げられた教会は騒めき、私たちは人々の視線を感じながら各々の部屋に戻った。

「‥ドッと疲れた‥」

 私はベッドにゴロンと横になった。前世で笑真がしたこと、そして今、この世界でしていることが重なり、笑真への嫌悪感が増していく。

「どこまで行っても私の邪魔をするのね‥笑真‥」

 私は水晶玉を覗いた。水晶玉には、悔し泣きしながら馬車を走らせるクリスタが映っている。

「メテオライト伯爵邸に向かって」

 クリスタは御者に指示した。

「‥メテオライト伯爵??」

 私が不思議そうに水晶玉を見つめていると、背後からルシフォールが私を抱きしめた。

「先代メテオライト伯爵は数年前に亡くなり、今は幼い伯爵を前伯爵夫人が補佐している家門だな」

「ブラヒン公爵とメテオライト伯爵は繋がりがあるんですか?同じ派閥とか?」

 ルシフォールは首を横に振った。

「メテオライト伯爵家は中立の家門‥。しかし‥最近の動きは中立ではなく、ミシェールに近いようだが」

「ヘンブリー大公は、シュテッテン伯爵と懇意で‥シュテッテン伯爵はゲベルカミル大公と深い繋がりがある‥ということは‥」

 ルシフォールが強く抱きしめると、私の耳元で甘く囁いた。

「聡い女は可愛くないというが、お前は別だな」

 ルシフォールは満足気だ。私は擽ったくて堪らず、ルシフォールの腕から逃れようと身体を動かした。しかし、ルシフォールが更に力を入れた為、私は動けなくなった。

「つまり‥公女クリスタは、シュテッテン伯爵らと繋がりがあるということだろうな」

 私は、水晶玉に映されたクリスタの動きを、現場の中継のように説明しながら見続けた。ルシフォールはそれを静かに聞いている。

 クリスタはメテオライト伯爵家に着くと、伯爵邸の客室に向かっていった。中には、シュテッテン伯爵がいる。

「シュテッテン伯爵!聖女を殺す方法はないの?」

 鬼気迫る表情で突然現れ、暴言を発したクリスタに流石のアグダルも驚いている。

「‥凄い井出立ちだね‥。化粧が崩れてるよ‥」

 アグダルが鏡を差し出した。クリスタはワナワナと震えながら鏡を見ている。エスケル王国有数の美貌を誇る公女である自分の、見るに耐えない泣き腫らした顔がそこには映し出されていた。

「フェニックスが抜けたとはいえ聖女だからね‥。毒が効くのかわからない。試しに毒を盛ってみる?」

 クリスタはニヤリと笑った。

「効かなかったら効かなかった時よ。とりあえず毒を盛って、それで死んでくれればいいし、死ななければ他の方法を考えるわ」

「毒殺が失敗したら、暗殺?ブラヒン公爵家の直属の騎士でも使う?奴らを何かが守っているよ。昨夜、王室の騎士団を使って暗殺しようとしたら失敗したからね」

 昨夜の刺客はアグダルの仕業だったのだ。私がその事実を告げると、ルシフォールの瞳が怒りに燃えた。

「シュテッテン伯爵‥。我々がゲベルカミルの仇というわけか」

 私はルシフォールの腕をギュッと掴んだ。

「私‥公女クリスタに毒を盛られるみたいですね‥」

 私が笑奈と分かった上でクリスタが、私を殺そうとしている。私の中で、前世の姉妹という柵が崩れていった。

「セシル、お前は今、毒は平気なのか?」

 ルシフォールが心配そうに尋ねた。

「試してみましょうか。もし駄目だった時は助けてくださいね」

 ルシフォールは力強く頷いた。その日、私は各国の毒を試飲してみた。幸い、ルシフォールの力を借りなくても、聖女のスキルなのか毒が私の身体を苛むことはなかった。

「毒は平気で安心した。しかし、毒殺に失敗した後に、焦ったクリスタが物理的な攻撃をしてくることを考えて、気をつけてくれ」

 そして私達は、私の過去世の知恵を使い、防弾チョッキのようなコルセットを作り上げて、それを身につけるようにしたのだった。

セシル暗殺を企むクリスタ。セシル達はそれから身を守る為に前世の知識を使い立ち向かう。

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