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ルシフォール達は犯人を知った。ルシフォールの記憶も戻りつつあり、セシルとルシフォールの絆は深まっていった。

 翌朝、私は目の下にクマが出来ていた。クリスタに私が笑奈だったと知られた、誰かに襲われた、その緊張感から眠れなかったのだ。

「おはよう、セシル」

 私とは打って変わって爽やかな目覚めを迎えたルシフォールが現れた。王太子時代には、暗殺など日常茶飯事だったからだろう。平静としている。それはウィドマンも同じだ。私は改めて、王子様というのは大変なんだと実感した。子供の頃に絵本で読んでいた王子様のイメージと全然違う。

「おはようございます。ルシフォール様‥」

 覇気のない声に、優れぬ顔色。ルシフォールは私の側に歩み寄った。

「大丈夫か?眠れなかったようだな‥」

 ルシフォールは心配そうに私を見つめた。

「‥私の前世の世界では、殺人は滅多にないことだったんです。昨日のような経験は、テレビでしか見たことがなくて‥」

「テレビ??」

「あ、テレビというのは‥役者が演じている演劇を映したり、事件を皆に知らせたりする映写機みたいな物です」

 私は水晶玉を指差した。

「あの水晶玉、以前はお前しか見れなかったな」

 ルシフォールが水晶玉に触れた。すると、ルシフォールの心臓部から水晶玉に光が放たれた。そして水晶玉の中に、ミシェールが映し出された。

「おっ‥。私にも見えるぞ」

 ルシフォールが水晶玉を覗き込んだ。ルシフォールが見ているからか、今は私にはただの水晶で何も映らなかった。

「私には、公女クリスタしか見えません。ルシフォール様にヘンブリー大公が見えるのは、やはり兄弟だから?」

「フェニックスの力を受け継いだから私にも兄弟は見えるようになったというわけか‥」

 ルシフォールは試しにウルアクを見ようとしたが、ウルアクは映らなかった。両親が同じ、血の濃い兄弟しか見れないようだ。

 ルシフォールがジッと水晶を見ていると、突然驚き、目を背けた。

「何が見えたのですか?」

 ルシフォールの顔色は、青ざめているのに頬だけは紅潮している。

「お前にこの映像が見えないことを神に感謝するよ‥」

 ルシフォールを水晶玉をチラチラ見ている。

「私が見たらまずいんですか?気になります!」

 私が詰め寄ると、ルシフォールはしぶしぶ白状した。

「ミシェールが‥シュテッテン伯爵と抱き合っている‥」

 気まずい空気が流れた。

『BL!?この小説にはBLの要素はなかったはずなのに!』

「シュテッテン伯爵は、私の母ジェパラの兄。兄と言っても婚外子だが‥。シュテッテン男爵家の養子になり、ミシェールの側近になったことで伯爵に昇格した。領地は、このたびの事件でお取り潰しになったセイムチャン伯爵領。婚外子が父の土地を手に入れたことになるな」

 小説になかった設定に頭が混乱する。

「‥では、シュテッテン伯爵とヘンブリー大公は叔父と甥の関係ですよね?」

 ルシフォールが頷いた。

「近親相姦‥」

 この世界にきて色々な衝撃を受けたが、今回が一番大きな衝撃だった。BLには確かに父子相姦、や兄弟による近親相姦はよくある。私はあまりBLは読まなかったが、アプリで時々読んだことがあった。

『やっぱりこの世界は小説の中の世界なんだ』

 私は改めて認識した。

「‥シュテッテン伯爵とルシフォール様は親しかったのですか?」

 私との会話中もルシフォールは2人の様子が気になるのか、水晶玉を垣間見ている。

「シュテッテン伯爵の存在だけは噂で聞いていた。母に、異母兄があり、男爵家の養子になった、と。そしてその男に、ゲベルカミル大公が目をかけているとだけ‥」

「ゲベルカミル大公側の人間なんですね‥」

 私は固唾を飲んだ。ルシフォールは水晶玉を真剣に見ている。

「ルシフォール様!!そんなに見たらダメですよ‥」

 私は赤面しながら水晶玉を隠した。

「ことは終わっている!今、2人が何か話し始めたんだ。早く寄越せ」

 ルシフォールは水晶玉に耳を傾けている。ミシェール達はピロトークに入っているようだ。

「昨夜‥兄上達を襲わせた?」

 ミシェールがアグダルに尋ねた。アグダルは煙草に火をつけると深く息を吸い込んだ。

「王室騎士団はつまらないね‥。返り討ちにされたよ。ただ‥ルシフォール達が倒したにしては、鮮やかすぎる。最低限の傷で即死させる技‥。プロの殺し屋のような腕だった」

 アグダルは殺された騎士達の死体を確認していた。

「兄上達を守っている者がいるということか‥。ブラヒン公爵側の者?しかし、ブラヒン公爵は昨夜、公女が婚約解消され激怒して帰った。殺すことはあっても守るとは思えない‥」

 ルシフォールは二人の会話を聞いて満足気だ。

「セシル、昨夜の刺客はシュテッテン伯爵の仕業だ。ミシェールは知らなかったらしい。あの男、ゲベルカミル大公を倒した私を恨んでいるようだ」

「逆恨みです‥。先にルシフォール様を殺したのはゲベルカミル大公。二度目も攻撃してきたし‥。正当防衛です」

「正当防衛?」

「自分の身を守るためにした攻撃、みたいな感じです。私の過去世の世界では、正当防衛なら人を殺したり傷つけても罪に問われなかったので‥」

「お前がいた世界は優しい世界のようだな。平和で殺人が少ない。そんな世界に、この世界もなればいいな‥」

 ルシフォールは窓の外を眺めた。雲ひとつない美しい空が広がっている。

「そんな世界を目指しましょう!ルシフォール様は教皇として、私は力は失いましたが、元聖女として。私が過去世で知り得たことはこの世界に伝えます」

 ルシフォールがそっと私を抱き寄せた。

「実は、少しずつ記憶が蘇っている‥。お前と愛を囁いた記憶も戻ってきているんだ」

 ルシフォールの唇が私の唇を塞いだ。何度も何度も、愛を欲するかのように唇を合わせて、私を抱きしめた。

『コンコン』

 誰かが来た。私は慌ててルシフォールから離れると、乱れた髪を手で整えて返事をした。

「誰?」

 すると扉が開き、ニヤニヤ笑うウィドマンが立っていた。

「随分、お熱いようで。ルシフォール、記憶はほぼ戻ったんじゃないか?」

 ルシフォールは平然としている。私は恥ずかしくて顔を上げられなかった。

「ウィドマン‥。お前の聴覚は人一倍優れている。だからと言って、盗み聞きはよくないぞ」

 ウィドマンは母親が魔女の血を引いており、五感の一つが秀でる特徴を受け継いでいた。彼の場合は聴覚が優れていた。その為、彼の息子や娘も全員ではないが、五感の一つが突出していた。

「すまない、すまない。つい、な。睦言は聞きたくなるだろう?」

 ウィドマンの言葉をルシフォールは否定できなかった。つい先程まで自分も、ミシェールとアグダルの情事を見ていたからだ。

「昨夜、我々を襲ったのは、シュテッテン伯爵だ」

 ルシフォールは話を変えた。ウィドマンの表情も一変する。

「ゲベルカミルの犬か‥。主君の敵討、てとこか?」

 ルシフォールが頷いた。二人が話している間、私は昨夜の断罪イベント後のクリスタが気になり水晶玉を覗いた。水晶が映し出したのは、荒れた部屋とクリスタだった。床には割れた食器や花瓶が散らばり、カーテンは切り刻まれている。

その壮絶な部屋の真ん中に、一晩寝ずに暴れたクリスタが立っていた。髪は乱れ、涙で化粧が崩れている。

「婚約解消‥婚約解消‥」

 クリスタはブツブツ繰り返し呟いた。

「婚約解消されるのは私じゃない!!笑奈の方よ!!私は選ばれる人間なの!!」

 クリスタはナイフで人形を突き刺した。

「笑奈‥許さない‥」

 クリスタは昨夜、私から奪い取った篤の婚約指輪を握りしめた。

「真山君も篤も、ルシフォール様も‥みーんな私のもの。笑奈より私の方が可愛いんだから。この世界では特に、私の方が圧倒的に美しくて地位も高いわ!あんな女に負けるはずがないのよー!!」

 そう言うとクリスタは篤の指輪を暖炉に放り投げた。ダイヤモンドは炭素だが、600度を超えた熱でない限り燃えない。プラチナも1769度を超えなければ溶けない。指輪は黒ずんだだけで、暖炉の灰の中に紛れた。

 クリスタの様子を見た私は、怒りと諦めの両方の感情に飲み込まれた。前世で、笑真を恨んでいた。愛する人を平然と奪う妹に家族愛など感じなくなっていた。しかし、幼い頃から同じ両親の元に育った為、殺意までは湧かなかった。21世紀の日本に生まれたからか、殺したい、という選択肢は頭に浮かばなかった。

『私はルシフォール様と、この世界を現代の日本みたいな世界にすると決めた‥。でもクリスタ‥。あなたが私に攻撃してきたら、私は相手をする。それは正当防衛だから』

 私は心に誓った。

 その後、私たちは朝食を摂り、再度王城に向かった。ウルアク女王廃位の話し合いの為だ。しかし、今日はルシフォールが発言する。人々は議題の結末を心待ちにしていた。

 議会に、ブラヒン公爵は参加した。しかし、公衆の面前で公女が婚約解消された手前、ルシフォールを王にとは言わなくなっていた。ルシフォールは昨夜のことを挙げ、ブラヒン公女と婚約解消したことで後ろ盾がなくなったこと、教皇の跡を継ぐと決めたことを発言した。貴族達はウルアク女王の治世の継続で納得し、議会は終了した。

 その頃、クリスタは教会を訪れていた。多額の寄付をしたいと申し出たのだ。そうしてクリスタはルシフォールが帰るのを心待ちににしていた。

悪役令嬢が動き始めた。婚約解消されたクリスタだが、まだルシフォールを諦めていなかった

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