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記憶を失ったルシフォールは、再び公女クリスタと婚約し王位を目指すことに。忘れられた聖女は‥

 翌日、ブラヒン公爵が教会を訪れた。クリスタも父親に付いて来ている。教会には似つかわしくない程、派手で豪華ないで立ちだ。

 ルシフォールはブラヒン公爵の来訪を聞き、礼拝堂に向かった。

「ブラヒン公爵!」

 ブラヒン公爵は驚いた。死亡説で自動的に婚約が解消されてからは気まずくて個人的には顔を合わせていなかったからだ。

「これはルシフォール様。本日は、前教皇が昇天されたと聞き、参りました」

 ブラヒン公爵は頭を下げた。クリスタはしとやかに振る舞っている。

「‥公爵‥。今、この国はウルアクが治めているのか?」

「は?第五王女殿下が女王になる話し合いがされたではないですか。ヘンブリー大公が補佐をされるということで‥」

 ブラヒン公爵は戸惑った。なぜ、そんな質問をされるのか皆目検討がつかなかった。

「ヘンブリー大公?誰だ、それは?」

 その一言でブラヒン公爵は察した。

「ルシフォール様、もしや‥記憶を失われておられますか?」

 ブラヒンは恐る恐る尋ねた。不敬罪に問われる可能性もある質問だ。

「‥そうだ。私は最近の記憶がない‥。父上が母上に毒殺されたことも、ゲベルカミル大公が謀反を起こしたことも知らない。私の記憶は、私が王太子で公女が婚約者である頃で止まっている」

 クリスタの目が輝いた。その頃のルシフォールなら、聖女セシルを愛していない。今ならルシフォールの気持ちを取り戻せると胸が高鳴った。

「お父様、ここで長話をするのもいかがなものかと。ルシフォール様を公爵邸にお招きしてゆっくりお話されてはどうでしょう」

 クリスタがルシフォールを誘った。ブラヒン公爵は娘の心中を察して頷いた。

「ルシフォール様、我が家へおいで下さい。何も分からぬまま、教皇になっては後悔するやもしれません」

 目が覚めたらいきなり次期教皇になると言われて、ルシフォールは戸惑っていた。その為、ブラヒン公爵の誘いに素直に応じた。ルシフォールは公爵達と公爵家の馬車で公爵邸に向かった。公爵邸に着くと、ルシフォールは応接間に案内された。

「ルシフォール様‥。貴方様は、国王になることを望んでおられました」

 ブラヒン公爵の言葉にルシフォールは頷く。嘗てのルシフォールは王になるという使命感と野心を持っていた。それが記憶を失うことで再び蘇っていた。

「あなたとミシェール様。今のヘンブリー大公は、先王を弑した王妃の息子ということで、王位継承から外れました。その為、第五王女ウルアク様が、女王に就かれたのです」

 ルシフォールは拳を握りしめた。自分のせいではなく、母親の罪が王位を遠ざけたからだ。

「しかし‥あなた様には、フェニックスが宿りました。聖獣を宿す王族。聖なる王を国民は支持するでしょう。貴族は私がまとめます。あなた様が望むなら、王になれます」

 ブラヒン公爵の言葉は、ルシフォールの心をときめかせた。諦めていた王座に就けるのだ。

「ブラヒン公爵!私は王になりたい!」

 ルシフォールはブラヒンの手を掴んだ。ブラヒンはニヤリと笑う。

「では‥ルシフォール様‥。貴方様の婚約者は、我が娘、クリスタで宜しいでしょうか?それさえ承諾頂けたら、私は全力で貴方様を王位につけましょう」

 ルシフォールは元々クリスタが婚約者だという記憶しかない。快諾した。

「私の婚約者は、ブラヒン公爵令嬢クリスタである」

 ルシフォールはそう言うと、ブラヒン公爵が取り出した書面にサインした。その知らせを家の者から聞いたクリスタは喜んで応接間に入ってきた。

「お父様!婚約が成立したのは本当ですの?」

 頬を紅潮させ、嬉々としているクリスタにブラヒン公爵は頷いた。娘の喜ぶ顔をブラヒン公爵は満足気に見ている。

 クリスタはルシフォールを中庭に誘った。ルシフォールは素直に同行した。クリスタはルシフォールの腕に自分の腕を絡みつかせる。

「ん‥?」

 ルシフォールはクリスタの行動に不快感を感じた。今までは同じことをされても何とも思っていなかった。なのに、今は胸の奥から滲み出てくるモヤモヤした不快感があるのだ。

「公女、あちらに行きましょう」

 ルシフォールは自然にクリスタの腕をほどくと、花が咲き乱れる温室に向かった。温室には薔薇を始めとして綺麗な花々が沢山植えられている。ルシフォールは真紅の美しい薔薇を見つけると、それを摘んだ。

「‥っつ」

 薔薇の棘が指に刺さり、血が滲む。

「ルシフォール様!」

 クリスタが素早くハンカチで指を巻いた。

「公女、ありがとう」

 ルシフォールは摘んだ薔薇の花を見ながら、クリスタを思った。

『薔薇と彼女は似てるな‥。華やかで美しいが棘があり、危うい』

 ルシフォールは何故自分がそう思うのか理解できなかった。今までの自分は、公女が賢くなければ妃にしてもいい、程度に考えていた。それなのに、無意識に感じる公女への違和感と嫌悪感。ルシフォールは婚約を早まったかと考え始めた。

 クリスタはまだまだそっけないルシフォールに満足できなかったが、再び婚約者になれた今こそ、ルシフォールの心を掴もうと躍起になっている。

 ルシフォールはブラヒン公爵邸を出ると教会に戻った。教会では、ルシフォールを次期教皇にと神官達が騒いでいた。

「ルシフォール様、お帰りなさいませ。次期教皇として名乗りをあげてください」

 神官達が頭を下げた。ルシフォールは困惑した。

「‥教皇は男性しかなれないのか?」

 思わぬ言葉に、神官達は驚いた。

「過去に女性教皇がいらしたこともありますが‥」 

「ならば、聖女セシルを教皇にしてはどうだろう?」

 ルシフォールが平然と言った。神官達は騒めく。

「恐れながら‥聖女様はルシフォール様をお救いする為に、フェニックスの力をルシフォール様に引渡しました。聖女様には神聖力が残っていません。教皇になるのは無理です」

 大神官が物申した。ルシフォールは不服そうに聞いている。

「私は教皇にはならない‥。この国の王となる」

 ルシフォールは宣言した。

「ルシフォール様!!」

 私はルシフォールの言葉に愕然とした。教皇となり私と結婚すると言っていたのに、今は全く違う未来を望んでいるのだ。

「聖女セシル、あなたにこの命、救われたことは聞いた。それには感謝しているが、私はこの国の王になる為に生きて来た。教皇になってあなたと結婚することは望んでいない」

 ルシフォールは冷たい目で私を見ている。出会ったばかりの頃を彷彿させる姿だ。そこにウィドマンがやってきた。

「ルシフォール、記憶を失ったと聞いた。この暴挙はそれが原因か?」

 ウィドマンは怒っている。普段底抜けに明るい彼からは想像できない表情だ。

「セシル殿、すまん!」

 ウィドマンは突然私を抱きしめると、唇を重ねて来た。周りに沢山の人がいる。それにも関わらず、ウィドマンは長い口付けを私にした。ルシフォールの心に僅かに痛みが走った。

「ウィドマン、そういうことは人が見ていない場所ですべきだ」

 ルシフォールは静かにそう言った。その瞳の奥深い所に嫉妬の炎が点っているのをウィドマンは確信した。

「何するんですか!!」

 私はウィドマンを突き飛ばすと、走って部屋に戻った。ルシフォールの目の前でこんな目にあったのだ。平常心ではいられない。

「ウィドマン、聖女が好きならこういうことはしない方がいいんじゃないのか?女心のわからないお前ではないだろう?」

 ルシフォールはウィドマンとは目を合わせなかった。

「なあ、ルシフォール。お前、今、胸がモヤモヤしていないか?」

 ウィドマンに真意を突かれたルシフォールはウィドマンを睨んだ。

「記憶を失う前もそうだった。素直じゃないお前は、自分の気持ちに気づくのに時間がかかったんだ。他の男が聖女に近づいて初めて自分の気持ちを知ったんだよ」

 ウィドマンはそう言うと、ルシフォールの肩を抱いた。

「今夜は二人で飲もう」

 ウィドマンはアルタイ国から持参した特別な酒を取り出した。

「教皇になった時の祝い用だったんだけどな」

 ウィドマンはルシフォールの部屋に向かった。ルシフォールは友の言うがままに部屋に戻った。二人は酒を開けると盃を交わした。

「記憶を失ったと聞いた時は驚いた。ここ最近の記憶だけがないようだな‥」

 ルシフォールは頷いた。

「少し前にお前は、聖女セシルを愛していることに気づいたんだよ。今までどんな女も本気で愛したことがなく、政治の駒として見ていたお前がな」

 ウィドマンはどんどん酒を継ぎ足して飲んでいる。顔は真っ赤だ。

「私が、聖女セシルを愛した?そんな馬鹿な‥」

 そう言いながらも、先程感じたのは嫉妬だと認めるしかなかった。ルシフォールは昼間にブラヒン公爵邸で交わした内容を話した。

「は??またあの女と婚約したのか??あの公女、私と関係を持ったし、他の男との経験もあったぞ。乙女ではなかった!」

 酔っているが故に、ウィドマンはありのままを暴露した。一方でルシフォールは控えめに飲んでいるので酔っていない。

「‥おかしなものだ。お前が先程、聖女セシルに口付けした時は、怒りのような感情が広がったが、公女とお前が深い関係だと聞いても何も感じない。王妃には不都合だな、くらいの感覚だ」

「つまり、お前はセシルを愛しているんだよ!」

 ルシフォールはグイと酒を飲み干した。ウィドマンが注ぎたす。

「そうか‥。失われた私の記憶の中には、彼女がいるんだな‥」

 その夜、ルシフォールはウィドマンが勧めるがままに酒を飲み、二人は明け方まで泥酔するほど酒を飲み干した。

「ルシフォール様、ウィドマン王太子殿下、朝でございますよ」

 召使いが起こしに来た。

「み‥水‥」

「私も‥」

 飲み過ぎて喉が渇いていた2人は水を所望した。召使いは教会の聖なる湧水を汲んで持ってきた。2人は一気に水を飲み干した。

「昨夜は飲みすぎたな、ルシフォール」

 ウィドマンがそう言うと、ルシフォールが目を見開いた。

「‥フカンの地に行った時の記憶まで思い出した‥」

「!ってことは、セシルへの想いを思い出したか!!」

 ウィドマンは喜び、セシルを呼ぶように召使いに言った。

「思い出した‥。お前がセシルに手を出すのを見て、腹立たしさを感じて‥」

「そうだ!そして認めた後、お前はゲベルカミルに殺されたんだけどな。私はその場にいなかったから、毒殺された、という話しか知らないが」

 2人が話している最中に、私は入り口の扉を開けた。

「ルシフォール様、記憶が戻ったのですか?」

 私の目から涙が溢れた。ルシフォールは困ったような顔をしている。昨日の私への態度への罪悪感があるようだ。

「‥まだ‥全てを思い出したわけではない‥。ただ、セシル、お前を愛していることは思い出した‥」

 ルシフォールは申し訳なさそうに言った。

「ルシフォール様!!」

 私は歓喜のあまり、ルシフォールに抱きついた。ウィドマンはそんな私達を満足気に見ている。

「これでハッピーエンドと言いたいとこだが、ルシフォール、お前、公女と婚約したんだよな?しかも、ブラヒン公爵は女王陛下の退位を議会で発言するはず‥」

 ウィドマンの言葉に、私たちは静まり返った。しばらくの沈黙の後、ルシフォールが口を開いた。

「ウィドマン‥。お前には悪いのだが、嫌な役回りを頼まれてくれないか?」

 ルシフォールはそう言うと、ある計画を話し始めた。私達三人はその計画を実行する為に、今夜、議会の後に開かれる晩餐会の準備をした。

 その日の午後、議会に一つの案が提示される。王宮は密かに騒めいていた。

「ミシェール‥。ブラヒン公爵が、ルシフォールを王に担ぎ出そうとしてるらしい」

 愛人からの情報でアグダルは逸早く知っていた。

「ウルアクを女王の座から引きずり落とすつもりか、兄上‥」

 アグダルは今は、ミシェールの側近として城内に勤務していた。公然では上司と部下である。実際は、恋人同士の関係にあったが、叔父と甥なので周りは疑わなかった。

 こうして、ルシフォールを次期王にする計画がブラヒン公爵により遂行されようとしていた。

ルシフォールの計画はどんな計画か。それをうまくいかせられるのか?

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