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教皇アーレスの昇天。ルシフォールにも危機が迫り、セシルに試練が訪れる。

「もっと腰を引き締めて!」  

 ブラヒン公爵家ではクリスタが身支度に気合いを入れていた。宝石のちりばめられた豪華なドレスに、先日アグダルから購入したダイヤの首飾り。どこの舞踏会に出かけるのかと言った豪華さだ。

 数時間かけて着飾ったクリスタは、教会に向かった。教会は王城とは違い、誰でも入ることができる。教会に着くとクリスタは礼拝堂を素通りして ルシフォールを探した。

「これはこれはブラヒン公女。今日はどうしたのですか?」

 アーレスが近づいてきた。

「教皇様、今日は ルシフォール様にお会いしたくて参りました」

 クリスタは微笑みを浮かべた。アーレスは軽くため息を付いた。

「生まれ変わっても変わりませんね、あなたは‥」

 アーレスの言葉にクリスタがかみつく。アーレスの腕を掴み、もの凄い形相で睨みつけた。

「教皇様、それはどういう意味ですか?」

 腕を掴むクリスタの手に力が入る。

「私は教皇ですから。魂が見えるのですよ」

 アーレスはそう言うと、クリスタの手を振り払って立ち去っていった。そして、アーレスはセシルの部屋を訪れる。

「セシル、いますか?」

 アーレスは部屋の扉をあけた。中には居眠りしているセシルがいた。

「笑奈‥。相変わらずだな‥」

 アーレスはセシルの寝顔を眺めている。

「俺がお前達の運命を変えてしまった‥」

 アーレスは椅子に腰掛けると、独り言を言い始めた。

「笑真の誘惑に負けて、お前を傷つけ絶望させてしまった為に引き寄せたパラレルワールド。その中でお前達は死んでしまった‥」

 アーレスがそう言うと、セシルが目を開けた。

「どういう意味?あなたは狭まの番人なんでしょ?あなたが私達の運命を変えたってどういうこと?」

 アーレスは静かに目を閉じた。その瞳から一筋の涙が零れる。

「俺は、篤だ。笑奈、お前の婚約者だった篤が狭まの番人の前世だ」

 衝撃の事実に私は、気が動転して動けなかった。アーレスは続ける。

「お前達が死んだ後、俺は周りに責められたよ。婚約者を裏切ってその妹と付き合ったことが皆に知られてな。お前の両親からも罵倒され、身内からも勘当された‥。職場では居場所がなくなり‥俺は自殺したんだ‥」

 アーレスは篤だった。その事実に頭が付いていかない。アーレスはこの世界での指南役を務めてくれた存在だからだ。

「本来、まだ未来のあった魂を死なせてしまった罪として、その魂が役目を終えるよう導くのが、天が俺に命じた役割だった。その役割を無事終えたら、俺は霊界に行ける。自殺という罪を償う為に何万年もの時をそこで過ごさなければならないけどな」

 アーレスはそう言うと、私の前に跪いた。

「笑奈‥。最初から俺だと言わなかったのは、俺が言うことなんかお前は信じないと思ったから‥。だから俺は狭まの番人としてお前に接したんだ」

 アーレスは私に土下座した。私は篤を許す気にはならなかったが、憎む気持ちは手放せる気がした。

「‥もう、いいわ。二階堂笑奈としての人生は幸せになれなかったけど、聖女セシルは ルシフォールと幸せになれるから」

 私がそう言うと、アーレスは何度も頭を下げてから立ち上がった。

「ありがとう‥。本当なら黙ってこの世界を去るつもりだったんだ。俺がこの世界にいられるのはあと1日。明日には霊界に連れて行かれる。最後に笑奈の顔をみてから行きたかった」

「自分が篤だとは言わずに去るつもりだったのね」

 私の呆れたように言った。アーレスは気まずそうにしている。

「そうだ‥。ここに来たのはそれだけが理由じゃない。笑真が、公女クリスタが ルシフォールのもとに向かっている」

 私は一抹の不安を感じた。

「クリスタ‥何をする気なの‥」

 私が ルシフォールの部屋に向かおうとした瞬間、窓から煙が立ち込め、私とアーレスは眠りについた。窓には妖しい微笑みを浮かべるアグダルの姿があった。

「クリスタを援助しようと来てみたら、面白い話を聞けたな。クリスタと聖女は過去世で双子。教皇はその二人を愛していたのか‥」

 アグダルがセシルを攻撃しようと近づいたその時、ユリウスが倒れるセシルとアーレスを見つけて部屋に飛び込んできた。

「聖女様!教皇様!!誰か!!」

 ユリウスが騒いだ為、アグダルは窓から飛び出し中庭に逃げ込んで隠れた。

  ルシフォールは次期教皇としての修行の為、神殿にいた。いよいよ明後日から、教皇となる。 ルシフォールは身の引き締まる思いでいた。神殿と、聖女や ルシフォールが暮らす建物は離れている為、 ルシフォールはまだ騒ぎに気づいていなかった。

「はっ!!!」

  ルシフォールは気合いを入れる。フェニックスの力が全身から吹き出す。紅蓮の炎は ルシフォールを包み、熱さではなく暖かさを感じさせていた。鍛錬に集中して目を閉じている ルシフォールにも、セシル達と同じ煙が近づいた。口から煙草の煙を吐くクリスタがいる。クリスタは自分は煙を吸わないように、口を布で覆っていた。

「‥う‥‥」

  ルシフォールの意識が薄れていく。常人より効果が遅い。

「公女?‥」

 半ば薄れゆく意識の中で ルシフォールはクリスタの姿を見た。身の危機を感じた ルシフォールは、フェニックスの力で煙の力を打ち消した。しかしその後、 ルシフォールは眠りではなく、意識を失って倒れてしまった。

「ルシフォール様!!」

 クリスタが駆け寄る。クリスタは倒れたルシフォールの上半身を起こすと、自らの膝の上に乗せた。そしてルシフォールの首筋に口付けをした。薔薇色の跡が残る。そこにアグダルが現れた。

「うまくいったみたいだね。眠ったというよりは、意識を失った、て感じだったけど」

 アグダルは憎々し気にルシフォールを見下ろした。クリスタさえいなければ、ルシフォールをこの場で殺している。

「ルシフォール様ー!!教皇様と聖女様が!」

 神殿に教会の者が知らせにきた。

「もう!あなたがうまくやらないから!!」

 クリスタは計画が崩れて悔しそうである。本来なら眠るルシフォールと、関係を持った形にしようとしていたのだ。

「いくらなんでも神殿でことに及んだらまずいだろう。とりあえず今日は引くよ」

 アグダルはクリスタの手を引っ張った。クリスタは名残りおしそうにルシフォールの身体を床に寝かせると、アグダルと共に神殿を去っていった。

 教会の者たちは神殿で倒れているルシフォールの姿に驚く。

「ルシフォール様!!しっかりしてください!!」

 ルシフォールも自室に運ばれ、神官たちの手当てを受けた。セシルとアーレスは寝ていただけなので神官の力ですぐに目覚めたが、ルシフォールは中々目覚めなかった。鼓動はうち、呼吸はある。神官たちは戸惑った。

「アーレス‥。ルシフォールはなぜ気づかないの?」

 私はルシフォールの世話をした。熱はない。体調は悪そうには見えないのに、意識だけが戻らないのだ。

「分からないけど‥俺は今日、この世界を去る。俺が最後の神聖力をルシフォールに捧げる。俺のこの肉体は神聖力で作られた物だ。それを全て使う。そうしたら、その後には何も残らない。俺が、ルシフォールを救う為に消滅した、と周りには言って欲しい。でなければ皆、混乱するからな」

 アーレスはそう言うと、ルシフォールに己の神聖力を注ぎ始めた。

『パァーンッ』

 アーレスの神聖力が弾けた。その瞬間、部屋には大きな光が差し込み、アーレスは光の粒となって消えていった。

 アーレスがいなくなってすぐに、私はそこに何かが転がっていることに気づいた。指輪だ。篤が笑奈の為に購入し、渡す機会を失った指輪。捨てるに捨てられなかった指輪は、篤の中で罪の証として残されていた。

「用意してたんだ‥。渡されることはなかったけど‥」

 私は指輪を懐にしまった。身につける気にはならなかったが、篤が最後まで捨てられなかった指輪である。前世の思い出、戒めとして持ち続けることにした。

「う‥ん‥」

 ルシフォールが声を出した。私はすぐさま振り返ると、ルシフォールのそばに駆け寄った。

「ルシフォール様!!」

 私がルシフォールの手を握ると、ルシフォールは怪訝な顔をした。

「聖女セシル殿?あなたがなぜ私の寝所に?」

 ルシフォールの表情が冷たい。これは出会ったばかりの頃の表情だと私は感じた。

「未婚の男女が寝所に二人など、他の者がみたら誤解されるでしょう。公女クリスタにも言い訳ができない。離れて下さい」

 ルシフォールは冷淡に言った。

「ルシフォール様?あなたは私と婚約しているのですが」

 私はルシフォールに訴えた。ルシフォールは驚いている。

「は?どういうことですか?私はこの国の王太子。力のある貴族の令嬢を妃として国を治める義務がある」

 ルシフォールの言葉から、私は彼の記憶が混乱していると思った。

「あなたはもう王太子ではありません。今、この国は女王陛下が治めておられます。まだ年端のいかない女王陛下を、大公となられたミシェール様が補佐しているのです」

 ルシフォールは愕然としている。あまりに驚いたのか、口を開いたまま動かなかった。しばらく経ってたから、ルシフォールはやっと口を開いた。

「国王が女王だと??父上は?何が起きたんだ?」

 私はこの国に起こったことを全て説明した。

「‥そんな‥。ゲベルカミルが謀反‥。母上が父上を毒殺‥」

 ルシフォールはあまりの衝撃に混乱している。そこに、ダイオジェナイト族の末裔の神官が現れた。

「先程、大きな神聖力の破裂がありましたが‥」

 私は、アーレスがルシフォールを気づかせる為に消えたことを説明した。神官は黙って頷くと、下の者にそれを伝えた。教会中が、前教皇の昇天を悲しんだ。

「ルシフォール様は、ダイオジェナイト族の術を消滅させることにフェニックスの力を使いすぎたのでしょう。ダイオジェナイト族の術はそれくらい強力です。その為、各王家に重宝されていたほどですから」

 神官が己の家に代々伝わるダイオジェナイト族の歴史書を読みながら言った。

「どうしたら記憶が戻るんですか?」

 私は解決方法が早く知りたかった。

「時が経てばフェニックスの力が回復し、記憶も戻ると思われます。以前、他の一族に我が一族の術を消せる者が現れた際、同じように記憶をなくし、時が経って元に戻ったと記載があります。しかしその一族は嘗ての王家に滅ぼされてますね」

 その答えは、記憶が戻るという喜びと、戻る時までひたすら待たないといけないという苦難を私に与えた。記憶を一部なくしたルシフォールの心には、クリスタへの情と野心が再び芽生え、セシルへの愛情が消えてしまっていたのだった。


 


記憶をなくしたルシフォール。聖女への愛情を思い出す日と、今のルシフォールが野望を掴む日はどちらが早いのか。

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