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アグダルの心の隙間を埋めるのは誰か。アグダルはそれを求めて動き出す。

 クリスタが帰ると、アグダルはリビアンの脳内の愛情を縮小させた。リビアンは我に返る。

「私‥」

 リビアンは真っ赤になった。

「飲みすぎたね。僕は嬉しかったけど」

 アグダルはリビアンの頭を優しく撫でた。

「リビアン、あなたにお願いがあります」

 アグダルは甘い声で囁いた。リビアンの胸が高鳴る。

「何が欲しいの?」

 アグダルはリビアンを背後から抱きしめた。

「王城に入りたいんだ。つてはないかな?」

「王城?そんな所に何の用事が?」

 リビアンは驚いた。下級貴族は盛大な舞踏会などでない限り、個人的に呼ばれることはない場所だ。

「詳しくは言えないんだけど、王城に甥っ子がいてね。会いに行きたいんだよ」

 アグダルはリビアンの首筋にキスをした。

「‥私の姉が王太后様の侍女をしているわ。姉に連絡すれば、王城に入る許可はもらえるけれど、王太后様は体調を崩しておられるから会える補償はないわよ」

「王城に入れさえすればいいんだ」

 リビアンは姉への手紙を書いて王城に届けさせた。数日後返事が届き、アグダルは王城へ向かった。王城に入ると王太后の侍女が対応した。王太后は伏せっているので会うことは叶わないということだった。アグダルは王太后宛に持ってきた宝石をそのまま脇に抱えて、王城を去るふりをした。

 アグダルの姿をみれば、かなりの確率で女性はときめく。アグダルはその中の一人のメイドのときめきを利用した。感情を大きく膨らませる。

「そこの君、少し尋ねたいんだけど」

 アグダルはそのメイドに声をかけた。メイドは頬を紅潮させる。

「僕はシュテッテン男爵。今日はこの宝石を女王陛下に献上しようと持ってきたんだ。ヘンブリー大公にご挨拶したいんだけど、ヘンブリー大公の部屋はどちらかな?」

 ミシェールは大公になったタイミングで、王子の部屋を出た。今は、貴族として客様の部屋に滞在していた。メイドに案内され、アグダルはミシェールの部屋の前までたどり着いた。

『コンコン』

 アグダルは扉を叩いた。中からミシェールの側近が扉を開けた。

「誰だ?」

 側近は警戒心に満ちた目でアグダルを見ている。アグダルはニコリと微笑むと、手に抱えていた宝石箱を開いた。

「私はシュテッテン男爵と申します。素晴らしい宝石を手にしましたので、女王陛下に献上したく参りました」

 女王はまだ13歳である。その為、外部との接触は控え、こう言った対応は後見人のミシェールが行っていた。

「入城証は?」

 ミシェールは王太后の印のある入城証を見せた。側近はそれが本物だとわかると、アグダルを室内に入れた。

「女王陛下に献上したい物があると?」

 ミシェールが執務をやめて立ち上がった。そして部屋の真ん中にある席にアグダルを案内すると自分も腰掛けた。側近はミシェールの斜め後ろに立っている。

「こちらが、女神の涙という名を持つ宝石です。女王陛下がお持ちになるに相応しいと思い献上しに参りました」

 ミシェールと側近はその宝石の素晴らしさに圧倒された。王家にもこのクラスの宝石は数少ない。二人が宝石に注目している最中、アグダルは煙草を取り出すと徐に火を付けた。ミシェールも側近も、煙草を気にもとめていない。

 煙草に火が付くとアグダルはハンカチで口を覆った。煙草から尋常でない煙がたちこめた。

「う‥‥」

 煙草の煙を吸ったミシェールと側近はその場に倒れ込み、意識を失った。ミシェールは煙草の火を消すと、テラスの窓を開けた。

「チンターマニ国の入眠香の効き目は効果覿面だな。犯罪に利用されるわけだ」

 アグダルはゲベルカミル大公が諸外国との交易で秘密裏に手に入れた物を使っていた。

「さぁて。こいつは邪魔だから‥」

 アグダルは短剣を取り出すと、側近の胸を突き刺した。側近は意識のないまま絶命した。アグダルは側近の死体をテラスに移すと扉を閉めた。

「う‥ん‥」

 ミシェールは息苦しさで目を開けた。目の前に先程の男の顔があり、自分の唇が塞がれている。

「離せ!!」

 ミシェールはアグダルを突き飛ばした。身体がまだだるく、あまり動かない。

「伯父に向かって、ひどいなぁ」

 アグダルはクスクス笑っている。

「伯父だと??」

 ミシェールはアグダルの顔をじっと見つめた。確かに母によく似ている。

「母上には、兄が一人しかいない!父上にもゲベルカミル大公以外の兄弟はいない。ふざけたことを言うな!」

 アグダルはミシェールの両目をじっと見ている。

「お前は誰も愛せない。可哀想に。母親の呪縛に囚われているな‥」

 アグダルはミシェールの脳内を探った。

「お前は母親に‥キャニオン様の身代わりをさせられていたんだろう?」

 ミシェールの顔色が変わった。恐怖に肩が震えている。

「お前は成長するにつれ、キャニオン様に似てきた。ジェパラはキャニオン様への恋慕をお前に向け、愛玩した」

 ミシェールは母からの性的虐待を受けていた。それはミシェールとジェパラだけの秘密で、他の者は気づいていなかった。

「なぜ、それをお前が!!」

 ミシェールは耳を塞ぎたくなる事実を淡々と述べるアグダルにくってかかった。

「僕は伯父だと言っただろう?ジェパラと同じ父を持つ兄妹だ」

 アグダルはそう言うとミシェールの脳内に干渉を始めた。

「お前は母親に、他の女を愛することは許さないと言われて育った‥。お前にとっての女は、ジェパラだけ」

 アグダルはミシェールの心の奥にある、母への女性としての愛情部分を見つけ出した。そしてそれを膨張させる。

「お前は女は、ジェパラしか愛せない。しかしジェパラはもういない」

 アグダルはミシェールの精神を揺さぶった。

「僕はジェパラと同じ顔‥。そして僕は男だ。ジェパラに禁じられた女ではない」

 その瞬間、パズルがはまるようにミシェールの心が定まった。

『うまくいった‥』

 アグダルはミシェールの中に芽生えた自分への愛情を掴むと、大きく膨らませた。限界まで膨らませるのは人格的に問題が出るので、一定の大きさで止めた。

「伯父上‥」

 ミシェールは、惚けた眼差しでアグダルを見つめた。

「ミシェール、僕のことはアグダルと呼びなさい」

 アグダルがそう言うと、ミシェールはアグダルの両脚に抱きついた。

「アグダル、あなたが愛しいです。恋しくて胸が苦しい」

 アグダルはミシェールの頭を優しく撫でた。

「ミシェール、今日から君は僕のキャニオン様。僕と二人の時は君をキャニオン様と呼ぶよ」

 ミシェールは頷いた。ジェパラもミシェールと肌を合わせる時はキャニオンと呼んでいた。その為、違和感はなかったのだ。

 その夜、アグダルとミシェールは何度も抱き合った。互いに心の隙間を埋めるかのように熱烈に求め合ったのである。

 翌朝、アグダルはミシェールの側近の死を処理するようミシェールに言った。アグダルの虜となったミシェールは何の躊躇もなく、側近は外部からの侵入者に殺られたと周りに言いそのまま処理された。

 アグダルは知らなかった。そのテラスからアグダル達をみていた一つの影があったことを‥。

クリスタが ルシフォールに近づく。双子の戦いが再び始まろうとしていた。

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