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エスケル王国の次期王位は誰の手に??
ルシフォールがディアブロ公爵に予め連絡を入れたことで、ディアブロ公爵は同じ派閥の貴族達を説得し、女王の王位継承を認める議題を議会に提出した。議会にはルシフォールとミシェールも王族として出席した。ミシェールは、居心地が悪いのか俯いたまま存在感を消している。
「本日の議会では、次期王位継承者について話し合います」
議会はディアブロ公爵がしきった。
「ルシフォール王太子殿下が生きておられましたが、ルシフォール王太子殿下は、聖女よりフェニックス生命を譲られ、聖人となられました。そこで現教皇アーレス様より、次期教皇に指名され、承諾なさったとのことです」
ルシフォールは黙って頷いた。貴族達は盛大な拍手をした。
「ミシェール殿下は王位継承の話がありましたが‥」
ここまでディアブロ公爵が言った瞬間扉が開き、教皇と神官が現れた。
「議会の際中に失礼します。ミシェール殿下の誤解を解く必要があると思い、参じました」
アーレスがそう言うと、貴族達は反論せずに黙って話を聞いた。
「私は、ダイオジェナイト族の末裔です。かねてより、私が見た限り、先王ガヴァリエール陛下と、ミシェール殿下の放つオーラが共鳴していました。ミシェール殿下はガヴァリエール陛下のご子息で間違いありません」
神官がそう言うと貴族達は口々に言った。
「ゲベルカミル大公が、多くの王族を手にかけたにも拘らず、何も手を出さなかったのがミシェール殿下ですぞ」
「それに、顔もよく似ている」
ミシェール王子は耳を塞ぎたいのを必死に堪えてた。
「それでも、ミシェール殿下の遺伝子はガヴァリエール陛下のものと一致するのです。疑うなら陛下の遺髪とミシェール殿下の髪から同じ光を出して見せましょうか?」
「そこまで言うなら証明して欲しいですな」
神官は、貴族達の要望に応えていざという時の為に持ってきたガヴァリエールの髪を取り出した。ガヴァリエールの髪は特徴的な色合いなので真偽を疑う者はいない。ミシェールは己の髪を少し短刀で切ると、神官に手渡した。
二束の髪の毛に神官が手を当てると、それぞれから光が発せられた。光は螺旋を描き、紫と緑の光が重なるように揺らめいて光った。その光の動線が、ガヴァリエールとへミシェールは全く同じである。
貴族たちは固唾を飲んでその光景を見守った。そして、神官の言うことが真実だと認めた。一番驚いたのはミシェール本人である。ずっと自分はゲベルカミル大公の息子だと思っていた。ミシェールは思わず嗚咽を漏らした。そしてボロボロと涙を零して泣いた。
「ゲベルカミル大公は父王様似。ミシェール殿下が祖父似で、二人が似ていたのは仕方がないこと。くだらぬ噂を信じて申し訳ありません」
貴族達はミシェールに謝罪した。
「ミシェール殿下の出生も明らかになった所で、ミシェール殿下には、ゲベルカミル大公領を治めて頂く、と言うのはどうだろう」
エスケル王国で重要な地、フカン。王族が支配するのが望ましい。皆、賛成した。そこでミシェールは、ヘンブリー大公家を創設して、ヘンブリー大公としてフカンの地を治めることが決まった。
「そして、王位継承についてですが‥。聖女様より、第五王女殿下が女王となるのはどうかとのお言葉がありました」
ミシェールについてはスムーズに進んだが、さすがに王位継承を女性に、となると反対意見が飛びだした。しかし、ディアブロ公爵が予め根回しをしていたこともあり、何とか過半数を超えて可決。初の女王が誕生することが決まった。まだ年若い女王を、ミシェールが補佐することも話し合われた。こうして、エスケル王国女王の座に、第五王女ウルアクが即位した。女王の誕生は、諸外国にも轟いた。男尊女卑の強い世界で、女王が認められる国はほとんど無いからである。あっても地方の小国くらいだ。諸外国の人々は、聖女が現れるエスケル王国は特別な国だと思うようになっていった。
その頃、ウィドマンはクリスタに招かれ、ブラヒン公爵家を訪れていた。因みにクリスタはまだ、ウィドマンに平民の妻が10人以上いることは知らない。
二人は中庭でお茶を飲んでいた。
「ウィドマン殿下、私はルシフォール様と結婚したいのです。先日、ルシフォール様は次期教皇に決まったとか。教皇の妻は一人と聞きます。聖女に負けたくありません」
クリスタがウィドマンの手を強く握りしめながら訴えた。
「ウィドマン殿下は聖女がお好きなのでしょう?諦めないでください!ウィドマン殿下が聖女と結婚し、私がルシフォール様と結婚するのが一番です」
ウィドマンは苦笑いを浮かべている。
「どうして乗り気でないのですか?聖女をもう愛していないのですか?」
クリスタは不安になった。ウィドマンが聖女を諦めてしまえば、他にルシフォールを手に入れる方法がない。
「セシル嬢のことは好きだ。だから国を出る時に、父に妃にしてよいか許可を得て来た。でも、ルシフォールが蘇って、二人が幸せそうにしていた。だからもう‥」
ルシフォールは首を横に振った。
「あなたの愛はそんな軽い物ですか!」
クリスタは思わず叫んだ。
「ああ。一人の女性に対する想いなど、大したことはない。私は王族。多くの妃をそれなりに均等に愛することも役割の一つだからな」
ウィドマンはそう言うと、懐に忍ばせていた懐中時計を取り出した。蓋をあけると中には沢山の女性と子供達の肖像画が張ってある。小さな肖像画は沢山を描いているから顔はよく見えない。
「これは今の私の妻達。皆、平民か下級貴族だから正式な側妃ではないけれど、教会で式はあげている」
クリスタはカップを取り落とした。
「女たらしが‥」
クリスタは思わずそう呟いていた。クリスタの記憶があるが、クリスタには二階堂笑真としての記憶もある。一夫多妻は生理的に受け付けなかった。
「女たらしか。言うなぁ。高貴な令嬢の発言とは思えない。あ‥それと、一つ言い忘れていた。教皇の妻は一人なのは確かだ。ただ‥」
「ただ‥?妻以外に愛人なら可能とか言わないですよね‥」
クリスタは猜疑心でいっぱいである。
「まさか。教皇は聖なる存在。愛人なんか囲ったらすぐに教皇の座を失ってしまう。教皇の妻は一人だけで、その妻は処女でなくてはならない」
クリスタは真っ青になった。
「処女?」
「そう。教皇の妻は清らかな存在でなければならない。聖人たる教皇以外の男と交わったことのある女は論外だ。クリスタ、君は私と関係を持つ前から処女ではなかった。私のせいでルシフォールと結婚できないわけじゃない。恨まないでくれよ」
ウィドマンは指を振りながら言った。クリスタはワナワナ震えながら尋ねた。
「聖女セシルは処女なの?」
「私が知るわけがない。ただ、私は手を出していない。彼女は君と違ってガードが固かったからな」
クリスタは絶望感に苛まれた。愛するルシフォールの妻になる資格がないのだ。ウィドマンが公爵邸を去った後、クリスタは落胆した。
「‥私だけがルシフォール様と結ばれないなんて許せない‥。セシルも同じ目に遭わせてやる‥」
クリスタは計画をたてることにした。クリスタは貴族達の夜会に積極的に参加した。そしてセシルの情報を集め、人脈を広げた。そうしてある夜、クリスタはアグダルと出会った。セシル達に復讐を誓ったアグダル。夜会でセシルのことを調べていたクリスタ。二人は引き合わされるかのように出会ったのだった。
クリスタとアグダル最悪な出会いがあった中、ルシフォールは次期教皇の勉強に勤しんでいた。元々、後継者教育は受けているので基本はできているが、王族と教会では役割が違う為に、新しく覚えなければならないことも沢山あった。
「お疲れ様です、ルシフォール様」
私は飲み物を持ってルシフォールの部屋を訪れた。机の上は本や書類が山積みだ。
「今頃、ミシェールは私以上に忙しいはずだ。ウルアクはまだ13歳。国を治めるだけの知識も力量もない。暫くはミシェールが代理となって統治しなければ、何も進まないだろう」
ルシフォールが嬉しそうだ。噂と母のせいで関係が微妙だった兄弟が真実を知り、関係改善したのである。
「ヘンブリー大公とブラヒン公女の婚約は白紙なんですよね?」
「そうだ。ミシェールが次期王になると聞いたブラヒン公爵が慌てて画策したが、結局はゲベルカミルが王妃を追求した為にすぐにそれを取りやめた。臆病な男だ」
「取りやめなければ、大公妃になれたのに、公女の逃した魚は大きいですね」
「魚?我が弟を魚というか‥」
ルシフォールは悪戯ぽく私を懲らしめてきた。
「ごめんなさい!!」
私が謝るとルシフォールはすぐに力を緩めて、私をそっと抱きしめた。
「教皇になったらすぐに結婚するぞ‥。で‥一つ確認があるのだが‥」
ルシフォールは顔を真っ赤にしている。
「確認?なんのですか?」
私はさっぱり予測がつかなかった。するとルシフォールはグッと私を強く抱きしめ、私が彼の顔を見れないようにして言った。
「きょ‥教皇の妻は‥乙女でなくてはならない‥。そなたは乙女であろうな?」
それを聞いた瞬間、私の顔も真っ赤になった。転生してからはそんな機会は全くない。少しあったとしたら、目の前のルシフォールとだけだ。
「決まってるじゃないですか!!」
私は恥ずかしさでルシフォールの顔を見れなかった。
「よかった‥。信じてはいたが、万が一と恐れもあった‥」
ルシフォールは私の頬を愛しそうに何度も触ると、熱い口付けをしてきた。
「口付けだって、ルシフォール様としかしたことないです」
私がそう言うとルシフォールは嬉しそうに何度も何度もキスを繰り返した。私たちの甘い関係を崩そうと企む二人が出会ってしまったことも知らず‥。
愛を確かめ合うルシフォールと聖女。その二人を憎み引き裂こうとするアグダルとクリスタ。アグダルとクリスタの魔の手が聖女に迫る。




