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ルシフォール対ゲベルカミル大公。戦いの末に生き残ったのは??
翌朝、神殿では国王と王太子達の合同葬儀が行われた。神殿には貴族達が集まり、神殿の周りには国民達が集まっていた。
「王太子様以外は王妃の仕業なんだろう?怖い女だな。処刑されてよかったよ」
「その王妃が産んだ王子がこの国の王にはなって欲しくないよな」
国民達は次の王が誰になるのか気になっているようだ。王妃の首は数日間さらされる。国民達は王妃の首に石を投げつけた。
「国民想いの優しい国王を暗殺するなんて、とんだ悪女だ」
ゲベルカミル大公の画策は成功した。国民はミシェールの王位を望まない。ゲベルカミル大公は自らの計画がうまくいっているのを喜んだ。
「ゲベルカミル大公、教皇がお呼びです。お言葉を頂戴したいと申しております」
葬儀の途中にゲベルカミル大公が呼ばれた。ゲベルカミル大公は教皇の指示通り、皆の前で挨拶をした。
「本日は、我が兄、偉大なる国王ガヴァリエール陛下と、その王子達の葬儀の参列に感謝の意を表する」
ゲベルカミル大公は声高らかに言った。貴族達は皆、頭を下げる。
「昨日の議会で、次期国王は私と決まった。今日より、このエスケル王国は私が治める」
突然の即位表明に、辺りはざわめいた。教皇も予想していなかったのか驚いている。ゲベルカミル大公は皆の前に国璽をはめた左手を見せた。エスケル王国の国璽は指輪だ。
「それは認められないな!!」
神殿の奥から声が響いた。貴族達は聞き覚えのある声に驚く。人々が騒めいている中、その人物はゲベルカミル大公に向かって歩いてくる。
「王太子殿下!?」
貴族の一人が声をあげた。
「王太子殿下は死んだのでは??あれは誰だ?」
貴族たちは戸惑い騒めく。ルシフォールの姿を見たゲベルカミル大公は、愕然とした。
「お前は確かに死んだはず‥」
解毒剤がこの世にない毒を飲ませた。助かるわけがない。ゲベルカミル大公は、目の前の男を偽物だと思った。
「ルシフォール王太子のふりをする無礼な奴を捕らえよ!」
ゲベルカミル大公が命じた。すぐに王室騎士団がルシフォールに剣を向ける。その騎士団に向かい、神殿の奥から王太子直属の騎士団が現れた。
「恐れ多くも王太子様に剣を向けるとは何事だ!!」
騎士達は剣を交えた。
「貴族達よ!!この男ゲベルカミル大公は私を毒殺し、王妃に王を同じ毒で殺すよう指示をして裏切った。二人の王子を殺したのもこの男が雇った傭兵だ!」
ルシフォールは大声で周りに真実を伝えた。
「王太子になりすまし、私に罪を着せようとするこの男!王家を乗っ取ろうとしているに違いない!衛兵!切り捨てよ!!」
ゲベルカミル大公が負けじと言った。貴族達はルシフォールが本物なのか迷っている。
「皆さん!!ルシフォール殿下は本物です!何故なら、ゲベルカミル大公が毒殺したルシフォール殿下を、私が聖女の力で蘇らせたのです!」
私は貴族達に向かって叫んだ。
「聖女様だ!」
「聖女様はフェニックスマスター。フェニックスの力で蘇生ができてもおかしくはない」
人々は私の言葉に耳を傾けた。情勢がルシフォール寄りになると、ゲベルカミル大公は焦って一斉攻撃を命じた。そうして自らも剣を持ち、ルシフォールに斬りかかる。
「聖女の力で生き返っただと??小癪な!」
ゲベルカミル大公は一心不乱にルシフォールに切り掛かった。ルシフォールはフェニックスの炎を剣に纏わせる。それを見た周りは騒めいた。
「フェニックスの炎だ!あれは本物の王太子殿下なんだ!」
「聖女が王太子殿下を救ったのね!」
貴族達はルシフォールに注目している。騎士団同士の戦闘が繰り広げられているので、貴族たちは神殿の片隅に避難しながら情勢を見守っていた。
「この小童が!愚王の息子であるお前などに王位は渡さぬわ!!」
ゲベルカミル大公は上に待機させていた弓隊に指示を出すと、ルシフォールの側を逸早く離れた。多くの弓矢がルシフォール目掛けて放たれた。ルシフォールは剣を大きく振った。すると、大きな風と炎が巻き起こり、渦となって弓矢を燃やし尽くした。
「そんな‥」
ゲベルカミル大公は驚愕したが、諦めなかった。ルシフォールが剣を振り下ろし、弓矢を焼き尽くした瞬間の無防備なタイミングを狙って斬りかかった。すぐにルシフォールの配下がルシフォールに加勢し、ゲベルカミル大公の剣は動きを封じられた。
「くそっ‥」
ゲベルカミル大公は身動きがとれない。
「私を暗殺しようとし、父を、母を殺したお前を許すわけにはいかない」
ルシフォールは剣をゲベルカミル大公の心臓部に突き立てると、炎を燃やした。
「ぐぉっ‥」
切り裂かれた痛みと、焼きつく熱さにゲベルカミル大公は膝をついた。辺りは肉の焼け焦げた臭いと血の臭いが溢れている。ゲベルカミル大公はそのまま、息絶えた。ルシフォールはゲベルカミル大公の遺体を確認すると、部下に処理を命じた。王妃の首はすぐに回収され、代わりにゲベルカミル大公の首が人々に晒されることになった。
ルシフォールが、ゲベルカミル大公に暗殺されたこと、ゲベルカミル大公が全てを画策していたことを国民に告げ、国民達は真実を知った。
「キャニオン様‥」
ゲベルカミル大公の首を前にしてアグダルが肩を落とした。アグダルは葬儀には参列していなかった。王城でゲベルカミルが王として帰って来るのを楽しみにしていたのだ。そんなアグダルに齎されたのは、ゲベルカミル大公の死。しかも大逆罪を犯した謀反人と呼ばれた。アグダルは唇を噛み締めた。
「許さないよ、王太子、聖女。お前たちが幸せになるなんて、僕がさせない。僕の大切なキャニオン様を殺したお前達を、同じ目にあわせてやる‥」
アグダルは自分の唇から滲み出る血を、ゲベルカミル大公の唇に塗った。
「最愛の貴方の仇、必ず僕が打ちます。キャニオン様」
アグダルは素早くその場を立ち去った。
その頃、ウィドマンがエスケル王国に到着してこの大騒ぎに驚いていた。到着が遅れたのでルシフォールとゲベルカミル大公の戦いの場は見られなかったが、ことの顛末を周りから聞き、興奮していた。
「ルシフォール!!お前、生き返ったのか!!すごいな!でも本当によかった!!」
ウィドマンはルシフォールを抱きしめた。目には涙が浮かんでいる。友であるルシフォールの死を、ウィドマンは断腸の思いで受け止めていたのだ。葬儀も、悲しみが大きすぎて戸惑っていた為に到着が遅れた。
「全て、セシルのおかげだ」
ルシフォールが私を見つめた。私の頬が赤く染まる。自分でも赤くなったのが熱を帯びた感覚で分かった。
私たちの様子をみたウィドマンは、ため息をついた。
「つまらん‥。セシル殿はルシフォールの婚約者じゃなかっただろう?せっかく父に、聖女を妃にしたいと話してきたのに」
「すまない。お前がセシルを気に入っているのはわかっていたんだが。私はセシルを本気で愛していることに気づいたんだ」
ルシフォールが頭を下げた。
「はいはい。わかりました。ま、セシル殿は最初からお前ばかり見て、私には全く無関心だったからな」
「落ち着いたら私はセシルと結婚する」
今はエスケル王国は大混乱の最中だ。今すぐには結婚はできる状態にない。
そこにアーレスが現れた。
「これはウィドマン王太子殿下。ようこそ。今回の来訪は、婚儀ではないのですね」
アーレスの言葉に、ルシフォールが驚いた。
「??婚儀??」
アーレスは気まずそうに視点を反らす。
「ルシフォール殿下はご存知ないのですか?アルタイ王国は、性に大らかなお国柄。代々王族は多くの妻を迎えるのです。お相手が貴族令嬢であるなら、婚儀が開かれ盛大にお披露目されますが、平民や下級貴族との結婚は、本人同士が神殿にきて誓約するだけで済まされているのですよ」
しばらく沈黙の時が流れた。
「‥つまり、ウィドマン‥。お前は独身ではないのだな?」
ルシフォールが問い詰める。
「ルシフォール殿下、ウィドマン王太子殿下にはまだ、王太子妃も貴族令嬢の側妃もいらっしゃいません。しかし、平民のお妃なら、十人を超えております。お子様も沢山おられるとか。母親が貴族ではないので、お子様も準貴族の地位しか与えられないと聞いています」
アーレスが全てを暴露した。
「そんなに妻がいて、私を口説いていたんですか‥」
私は呆れてしまった。少しでもこの王太子との未来を想定した自分を殴ってやりたかった。
「正式な側妃も王太子妃もいない。問題はないはず‥」
ウィドマンはアルタイ王国の常識で発言したが、私達の冷たい視線に罰が悪そうだ。
そこに、クリスタが現れた。クリスタは葬儀に参列していたが、戦闘の際に避難していた。ルシフォールが生きていたので神殿に引き返して来たようだ。
「ルシフォール殿下!」
クリスタはルシフォールに抱きついた。以前までのルシフォールならそのまま受け入れていた。しかし、今のルシフォールは露骨にそれを拒否した。
「公女、あなたは弟ミシェールと婚約したはず」
クリスタは食い下がる。
「ミシェール殿下との婚約は破棄されております。正式な書状を父が提出しています。それにミシェール殿下との婚約はほんの数日。ただ書面のみで交わされ、私はミシェール殿下とはほとんどお会いしていません」
「私はあなたとは結婚しない。私はセシルと結婚する」
ルシフォールは断言した。
「そんな‥。ルシフォール殿下が亡くなったから婚約は無くなりました。しかし、ルシフォール殿下は生きておられたのです!婚約は有効です!!お父様に相談致します!」
クリスタはそう言うと去って行った。鬼の霍乱のようだった。
「ルシフォール、お前が次の王になるのか?」
ウィドマンが話題を変えた。
「‥私は反逆者の息子だ。そしてミシェールも。指示されていたとはいえ、王を弑した罪人の息子が王になれば未来に禍根を残す」
「しかし、男系の王族は他にいるのか?」
国王ガヴァリエールはゲベルカミル大公と二人兄弟だった。王族を探すとなると更に遡らねばならない。
「王女が女王になったな駄目なんですか?」
私は思わず口を挟んだ。現代の地球では男女平等が叫ばれているし、日本はともかく、イギリス王室などでは女性にも継承権がある。
「第五王女か‥。確かに王女の母は公爵家の出身。後ろ盾は十分にある‥」
「それに、ミシェール殿下も、国王陛下の実子だと神官様が言っていました。ミシェール殿下が、ゲベルカミル大公の治めていた地を新たな大公になって治めて、第五王女殿下の補佐をするとか、駄目でしょうか?」
ルシフォールとウィドマンが頷いた。
「それがいい。早速、王宮で決議にかけよう。女系王族の継承について。聖女の意思だと言えば、反対する者もいまい。カーミラ側妃の父、ディアブロ公爵に前もって決議案を連絡せねば」
「そこで‥なんですが」
アーレスが満面の笑みを浮かべている。何か企んでいるのかと、私は不安になった。あの口から何度、爆弾発言を聞かされたことか。
「ルシフォール殿下には、私の次の教皇になって頂きたいのです」
衝撃の一言に、誰も言葉を出せなかった。神殿の教皇と言えば、各国の王達も頭の上がらない存在である。
「私には諸事情がありまして、教皇を続けることができません。ルシフォール殿下はフェニックスの生命を宿した特別な存在。あなたこそ、次期教皇に相応しい」
王族として生きれば、多くの貴族との関係性の為に複数の妃を得なければならない。教皇なら妻は一人と決められている。ルシフォールは快諾した。
「わかりました。私が次期教皇となりましょう」
こうして、ルシフォールの今後の生き方も定まり、あとは国王決定の決議を控えるだけだった。
エスケル王国の新しい王の選定。そして新教皇の即位。クリスタの思惑で聖女に危機が訪れる。




