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国王暗殺の犯人として捕えられた王妃。ゲベルカミル大公の裏切りと衝撃の事実が王妃の耳に入る。

その頃、教会ではルシフォールがフェニックスの力を発動させられるのか検証していた。聖女のように使役するわけではない。しかし、フェニックスが心臓部に宿ったのだ。何かしら力があるのではないかとアーレスは考えた。

「この世界の教会には神力があり、病気や怪我を治せる神官も存在します。しかしその力は一度に一人を救うのが精一杯であることから、王族に対してのみ使われています」

 私は、小説で大神官が王を救ったシーンを思い出した。異世界ジャンルだとほとんどがその設定だ。

「私には、癒しの力はないようだが」

 ルシフォールも治癒を試みた。しかし、ナイフの小さな傷一つ治せなかった。

「そうですか‥。フェニックスの治癒の力は聖女にだけ発動したわけですね」

「炎、風とか、攻撃系はどう?」

 私は笑奈だった時に読んだ漫画のイメージで言ってみた。

「試してみよう‥」

 ルシフォールが剣を握り、心臓部に意識を向けるとハートチャクラが覚醒し光をはなった。そして、剣に炎が燃え上がった。

「セシル!ルシフォール殿下!やりましたね!」

 アーレスは歓喜している。

「これでゲベルカミルにむざむざやられることはないな。ただ、もう少し、この力をうまく使えるよう訓練は必要だ」

 ルシフォールは満足気に言った。

「あなたの側近も密かに呼び寄せて、王太子に味方する兵も集めなければなりませんね。それは私達がしましょう。王太子殿下はとにかく、フェニックスの力を使いこなせるようになってください」

 こうして私達は、ゲベルカミル大公に対抗する準備を整え始めた。世間にはまだ、ルシフォールは亡くなったことになっている。

 その頃、拘束された王妃は諮問会議が開かれるのを待たされていた。そこにゲベルカミル大公がやってきた。 

「王妃と話がある。皆、外に出よ」

 ゲベルカミル大公の指示に従い、騎士達は外に出た。

「キャニオン‥。私を裏切ったのですか‥」

 王妃はやり切れない表情だ。悲しみに沈んだ目から、涙が溢れている。

「裏切ったとは人聞きの悪い‥。王を弑したのはあなたでしょう?ジェパラ。あなたには、ミシェールに王位を継がせる為に国王や王子達を殺した、と自白してもらいます。王太子のことは、病死になっているので罪には問いません」

「私は!!側妃達の王子を殺していない!それに、王の暗殺を私に指示したのはあなたではないですか!!」

 王妃は必死にくらいつく。ゲベルカミル大公は軽くため息をつくと、王妃の顎を掴んだ。

「あんなに私を愛してくれたあなたはもういないんですね。私が王になるのを助けてくれないとは」

 王妃は大きく首を振って。ゲベルカミル大公の手を振り払った。

「あなたを愛してあなたの子を産んだ私を裏切ったのは何故?全て王になりたいが為ですか?」

 ゲベルカミル大公は不敵な笑みを浮かべた。

「そうですよ。私は兄であるというだけで私から王座も愛する女性も奪ったガヴァリエールが憎かった。その復讐を、あなたに手伝ってもらっただけ。私が愛するたった一人の女性であるあなたに。私はあなたを兄に奪われた後、誰とも結婚していない。私の気持ちの大きさを疑うのか?」

「私を愛しているなら何故、私を陥れたのです?」

 王妃は理解できなかった。

「愛よりも、大切な物がある。私が王になる為に、死んではくれまいか。ジェパラが第二王子の王座の為に殺したと証言してくれれば、私が王位につける。かわりに、第二王子の命は助けると約束しよう。我々の愛する息子の命は守ってみせる」

 王妃はミシェールのことも不安に思っていた。母である自分が国王暗殺を実行したと判決が出れば、その息子にも罪が及ぶ。処刑される恐れもあった。

「ミシェールの命は助けてくれるのですか‥」

 王妃は力なく呟いた。ゲベルカミル大公は黙って頷く。

「この度のことは王妃の一存で行われたことであり、第二王子には責任がない。王位は告げぬが、私が王位を継いだ後、ゲベルカミル大公領をミシェールに継がせよう」

 ゲベルカミル大公の申し出を、王妃は受けて頷いた。どちらにしても自分は死ぬ。それならばせめて我が子だけでも守りたいと思った。その後、王妃は諮問会議で自らの罪を、単独行動だと認め、死刑判決が出された。

 王城の地下牢に、王妃は戻された。真っ暗でカビ臭い地下牢に、一人の男が足を踏み入れる。金を渡された護衛の者達は黙って彼を通した。

「ジェパラ」

 懐かしい声に、王妃は驚いた。

「アグダル!!」

 アグダルはジェパラを見下ろしている。

「もう、幼い頃のように兄様とは呼んでくれないのか。残念」

 王妃は牢の金棒を握りしめた。

「どうしてお前がここに?兄上は!父上はどうなったの!?」

 アグダルは吹き出した。

「は?‥娘である王妃が王の暗殺を図ったんだよ。生きていられるわけがないじゃないか。彼らも捕えらるよ。一族処刑だろうねぇ。ま、僕は男爵家の人間だから関係ないけど」

 真っ青になり屈辱と恐怖で震えている王妃に、アグダルは追い討ちをかける。

「僕はね、君が憎かった‥。勿論、僕や母を人扱いしなかった伯爵達も憎いんだけど。僕と同じ顔をした娘が、正妻の子だからというだけで愛され、幸せに暮らしている。それが悔しかったんだよ。君は同じ顔の僕にお情けをかけてくれたけどね。僕はみじめだったなぁ」

 アグダルは王妃の目の高さまで屈み込んだ。悪戯ぽく微笑むとアグダルは話を続けた。

「キャニオン様はね、君を愛していたんだよ」

「そんなこと分かっているわ!」

 アグダルが首を横に振る。

「君が知っているキャニオン様の愛は偽物。本当に愛していたら死ね、なんて言うわけがないことくらい分からない?」

 アグダルの言葉が王妃を追い詰めた。分かっていても感情が拒否する。本当は愛されていない、というのを王妃は受け入れられなかった。

「僕はね、ある一族の血を引いているんだ。かつて、この世界の王族たちに重宝され、捨てられた一族」

 アグダルは一族の歴史を語り始めた。

「その一族には、時々、想いを操作し、子孫を作り出すことができる者がいたんだ。その力は18歳くらいになると現れた。しかし、各国の王族達がその一族を得ようと奪い合いをした結果一族の数は減り、力を持った者が生まれなくなった。そうしてその一族は、不要とみなされ迫害された。その一族の人間は、色々な国に逃げ延び、密かに生き続けた。そうして一族の力のことを知る者はいなくなった」

 王妃となったジェパラすら、そんな話は聞いたことがなかった。

「僕にはね。その一族の、特別な力が目覚めたんだよ」

 アグダルはニヤリと笑った。

「どんな力が目覚めたと‥」

 アグダルは、王妃の問いかけにすぐに答えた。長年、これを言う日を待っていたのだ。

「僕はね、キャニオン様に助けられて、キャニオン様を愛したんだ。‥でも、キャニオン様の心にはお前がいた。だからその心を操作したんだ」

「操作?どういうこと?」

「我々一族の力は、小さな感情を大きく膨らませることができる。逆に大きな感情を小さくすることもできるんだ。‥だから僕は、キャニオン様の中にあったお前への熱い想いを小さくし、僕へのほんの小さな愛情を増大させた。僕がお前に瓜二つだったから、僕にも愛情を感じてしまったんだろうね」

 アグダルは愉しげに王妃を見下ろした。

「そして、キャニオン様の心を手に入れた僕は、キャニオン様に囁いたのさ。キャニオン様の血を王家に残しましょうってね。だからキャニオン様は、王妃になった後、王が複数の妃に囲まれ失意にくれるお前に再び近づいた」

「ミシェールを産ませる為に??」

 王妃は愕然としている。愛だと信じていたゲベルカミル大公の行動は、アグダルによって操作されたものだったのだ。

「安心してよ。ミシェールは、キャニオン様の子じゃないから」

 王妃は耳を疑った。あれほどまでにゲベルカミル大公に似ているミシェールが、ゲベルカミル大公の子でないわけがない。

「そんな虚言、信じると思うの?」

 王妃はアグダルを睨みつけた。アグダルは平然としている。

「さっきも言ったよね。我が一族は、子孫を作り出すことができるって。僕はね、キャニオン様の子種を封じた。そして、国王ガヴァリエールの子種から、ガヴァリエールの父親の濃い遺伝子を引いた子種を選び抜き、お前に受精させた。そうすることで生まれてくる子は、キャニオン様にも似ることになった」

「ミシェールが陛下の子だと??ルシフォールと同じ父親だと言うの!?」

 王妃は20年もの間、愛する人の子と信じて愛し慈しんだミシェールが、ルシフォールと同じ愛していない国王の子であるなど信じたくなかった。

「そうだよ。ついでに言うとね。ガヴァリエールがお前を溺愛したのも僕の力。ジェパラを見てガヴァリエールの中に芽生えた小さなときめきを、僕が最大限に膨張させたんだ。だからこそ、ガヴァリエールは周りが猛反対してもジェパラを王妃にし、ゲベルカミル大公と不義の疑惑があっても追求しなかったんだよ」

 アグダルは愉しげだ。

「僕はね、キャニオン様に救われた。キャニオン様を心から愛している。キャニオン様こそ王になるべきなんだ」

 全て、目の前の兄が起こしたことだったと分かった王妃は残酷な事実に打ちのめたが、奮起して言い返した。

「ハハハハ!キャニオン様が王になったら、その隣りにお前は座れないのよ」

 王妃はアグダルを挑発している。

「そんなことは分かっているよ。だから王妃は聖女になってもらうんだ。聖女なら国民も喜ぶしね。後継ぎを生むまでは聖女にキャニオン様を貸してあげるつもり。後継ぎさえできたら、聖女はお飾りの王妃になるけどね」

「そんなこと、許さない!」

 王妃はアグダルに手を伸ばした。アグダルは後退って避ける。

「許さないも何もない。お前はもう死ぬ。国王を暗殺した王妃なんだから」

 王妃の処刑は早急に行われる。断頭台の準備が整えられていた。

「明日には、セイムチャン伯爵家の者達、そしてジェパラの首が飛ぶ。僕と母さんを馬鹿にしてきた奴らは皆死ぬんだ」

 アグダルはそう言うと、王妃に背を向けた。

「バイバイ、ジェパラ。兄として、最期の姿は目に焼き付けておくね」

 アグダルが去ると、地下牢は王妃の泣き声が響き渡った。死への恐怖だけではない。本来、ゲベルカミル大公と幸せになれたはずだった。そんな未来を全て打ち崩した兄が憎らしく、そして悔しかった。

「キャニオン様‥‥。あなたと結ばれたかった‥」

 キャニオン王子はジェパラ伯爵令嬢を愛していた。アグダルさえ力を使わなければ、二人には幸せな未来があったのかもしれない。王妃は、アグダルを、そしてそんなアグダルを生み出した父親を憎んだ。

「父上‥。私のせいであなたは処刑されると恨むことでしょう。しかし、あなたがアグダルを産ませなければ、こんなことにはならなかった!!」

 王妃はこの時、家族への罪悪感を捨てた。そしてその翌日、国王を毒殺した罪で、王妃ジェパラが処刑され、ジェパラの生家、セイムチャン伯爵家の者達も処刑された。セイムチャン家の血を引く者で生き残ったのは、ミシェールとアグダルだけである。

 王妃の処刑後、国王と王太子、二人の王子の合同葬儀が行われることとなった。葬儀の後、ゲベルカミル大公が正式に王位に就くことになる。

ゲベルカミル大公が次の国王になるのか。

王太子はいつ姿を見せるのか。

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