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ルシフォールの想いは?ウィドマンの恋心はどこまで本気なのか。聖女に負けまいとする悪役令嬢クリスタ。四角関係の行く末は?

 大勢の護衛の騎士団と、医療チームを率いて私達はフカンの地に向かった。フカンまでは首都から3日はかかる。所々に難所があり、モンスターも出現するので油断はできない。私が戦闘型の聖女ならモンスターと戦えるが、私は癒しが専門だ。小説では、ルシフォールはあまり剣術が得意ではなく、逆にウィドマンは強かった。男主人公だからそれは納得がいく。実際の2人はどうなのだろうか‥。

「セシル嬢、疲れたら私の肩に寄りかかって構わないよ」

 ウィドマンが甘く囁く。そんなウィドマンに触発されたのか、クリスタがルシフォールに近寄った。

「王太子殿下〜。私、身体が痛いです」

 ゴトゴトと石を踏みながら進む馬車に長時間乗っているとお尻が痛くなる。王太子達にしてみたら馬で行く方が楽だろう。クリスタはルシフォールの腕にしがみついた。ルシフォールはチラリとクリスタを見ると、上着を脱いだ。

「これを敷いて座れば少しはいいのではないか?」

 クリスタは納得がいかないような顔だが、黙ってその上に腰掛けた。それを見たウィドマンはいきなり私に近づくと、サッと私を抱えて自分の膝の上に乗せた。

「ちょっ‥‥っ。いきなり何ですか!!」 

 私は真っ赤になってたじろいだ。

「セシル嬢、乗り心地は?」

 ウィドマンは小悪魔のような笑みを浮かべている。両腕はしっかりと私の身体を掴んで固定し、私は身動きが取れなかった。仕方ないので、黙って大人しく座っていると視線を感じた。ルシフォールがジッと見ている。無表情に見えるが、機嫌が悪いのを隠している、そんな雰囲気を漂わせていた。

「聖女様はウィドマン王太子殿下とお熱いですね」

 クリスタが羨ましそうに言った。

「ルシフォール、クリスタ嬢はお前の婚約者だろう?守ってやらないのか?」

 ウィドマンが意地の悪い口調で言った。

「人前でそんなことをして恥ずかしくないのか?私には理解ができん」

 ルシフォールは外方を向いた。クリスタは名残惜しそうにルシフォールを見ている。

「人が愛を語る姿が恥ずかしいのか。愛は素晴らしい感情だぞ」

 ウィドマンは一人で酔いしれている。ウィドマンの両腕はずっと私を包み込んだまま時折優しい言葉を呟きながら、その日の旅路は終わった。

「はぁ‥‥疲れた‥‥」

 私は馬車の外に出て少し歩き、身体を伸ばしながら夜空を眺めた。そこにルシフォールが現れた。

「王太子殿下」

 私は素早く頭を下げて敬礼した。頭を上げると、ルシフォールがジッと私を見つめていた。

「昼間はあの‥見苦しい姿をお見せして申し訳ございませんでした。明日は、一人で座りますので‥」

「気に食わん‥」

 ルシフォールは私に近づくと、腕を掴んだ。 

「どうしてセシル、お前がウィドマンといると腹が立つのかわからん。胸がムカムカして気分が悪い」

「腹が立って‥胸がムカムカ?」

 私にはその状態を経験したことがあった。高校時代、笑真が真山と仲良くしているのを見かけた時だ。世間ではそれを嫉妬と呼ぶ。ルシフォールが私に対して嫉妬しているのか。いよいよ聖女としてのスキルの影響が現れてきたのかと、私は嬉しくなった。

「ルシフォール王太子殿下、私がウィドマン王太子殿下と触れ合うのは気分がお悪いですか。ではこれはどう思われます?」

 私はルシフォールの胸に顔を寄せて、両手をルシフォールの腰に回した。突然の私の行動に、ルシフォールは驚いて逃げた。

「な!何をするんだ!!はしたない!」

 ルシフォールの顔は紅潮し、真っ赤になっている。やはりルシフォールは私を意識し始めている。私はそれを認識した。

 ルシフォールはドキドキと早く脈打つ心臓を、自分でコントロールできずにいた。

『パキッ』

 小枝が割れた音がした。遠目に見ると木陰からクリスタが私達の様子をうかがっていた。悔しそうに下唇を噛み締めている。

「許さない‥。王太子様を二人も‥。聖女になんか渡すものですか!」

 クリスタは小声でそう呟くと、その場を後にした。ルシフォールは動転しており、そんな周りの気配に気づく様子はない。

 クリスタはウィドマンがいる場所に向かった。ウィドマンは焚き火に当たりながら、アルタイ国の騎士団と酒を飲んでいた。

「ウィドマン様ー」

 クリスタは満面の笑みでウィドマンの隣に駆け寄った。突然のクリスタの来訪にウィドマン達は驚く。

「ウィドマン様、私、ご相談がありますの。二人で話せませんか?」

 クリスタは上目遣いでウィドマンを見つめた。

「ウィドマン様、我々は周辺を見回って参ります。公女様とゆっくりなさってください」

 騎士達は気を遣っている。

「わかった」

 ウィドマンがそう言うと、騎士達は素早くその場を離れた。焚き火の音だけがパチパチとする静かな空間である。

「ウィドマン様は、聖女様がお好きなんですか?」

 クリスタは、ウィドマンの片腕を抱き寄せた。上腕部分がクリスタの胸に当たる。

「‥‥」

 男たるもの、美女からのアプローチは嬉しい。酒も入っている。ウィドマンはクリスタを払い除けずに、ジッとしていた。そんなウィドマンの反応に脈ありと考えたクリスタは微笑んだ。

「聖女様はその立場を利用して、私の婚約者であるルシフォール王太子殿下を誘惑していました。私はそんな二人を見てしまったのです」

 クリスタは目に涙をいっぱい浮かべている。勿論これは演技だが、ウィドマンには本当の涙に見えていた。紳士的であれと教育を受けたウィドマンは、悲しむクリスタを突き放さず、優しく頭を撫でた。クリスタはそんなウィドマンに抱きついた。

「私の婚約者がウィドマン様だったら良かったのに‥」

 クリスタはさらに押す。ウィドマンの胸に手をあて、頬を寄せるクリスタをウィドマンは抱きしめ、二人は口付けを交わした。夜空、酒、すり寄る美女、全ての条件がウィドマンの本能を動かしたのである。

 翌朝、一行はまた旅路についた。なぜかその日は、ウィドマンがあまり私に絡んでこなかった。ルシフォールも私と近い位置にいるのは気まずいのか、黙ったまま座っている。いつもならルシフォールにベタベタするクリスタも今日は大人しい。2日目は静かな、そして気まずい沈黙が流れる旅路だった。そして3日目。いよいよフカンの地に入った。本来なら賑わっているはずの場所もひと気がなく静かだ。私たちを、ゲベルカミル大公の迎えの者達が案内してくれた。

 ゲベルカミル大公の居城は予想よりも大きく、堅固な防衛力を持った造りとなっている。

「これはこれは、王太子。そしてウィドマン殿下もようこそ」

 ゲベルカミル大公が出てきた。とても国王と兄弟とは思えない美しさに私は驚いた。歳の頃は国王より10歳ほど下なので40代半ばくらいだろう。金髪はまだ現在で、筋肉のついた立派な体つきだ。中年太りに白髪の国王とは全く違う。王妃の気持ちが理解できてしまった。

「今日は我が邸でゆっくり休んでもらい、明日、疫病が多発している地に向かう。この後、晩餐会を開くので用意ができ次第、使いを向かわせよう。

 ゲベルカミル大公がそう言うと、城の者達が私達をそれぞれの部屋に連れて行った。久しぶりに浸かる浴槽に、旅の疲れと汚れを落とし、私はベッドに横たわった。柔らかな寝具が心地よい。3日間はとにかく、身体が痛い大変な道中だった。

 その後、ゲベルカミル大公の使いが来て、私は晩餐会の会場に向かった。

聖女としての初仕事。ゲベルカミル大公の企みはいかに??

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