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「ロードナイト王子!私をとじこめてどうするつもり?アルタイ王国と戦争になるわ!」
ルディがロードナイトにくってかかった。ルディは城の地下室に閉じ込められている。入り口には下級魔導士達の結界があり、勇者といえど容易には脱出できない。
「戦争?」
ロードナイトがニヤリと笑った。
「そう。これから、世界中が混沌とするんだ。全ての国が、王族や貴族が滅び、民衆も数多命を落とすだろう」
「魔王?はるか昔一度だけ現れ、その時代の聖女が命懸けで倒したという‥」
ルディは教会の書庫で魔王についての本も読んでいた。
「教会にある本には、魔王がどうやって現れるかは書いてなかっただろう?聖女がいかに素晴らしいかをしらしめる物しかないはずだ」
ロードナイトの言う通り、教会には神や聖女を讃える伝説はあっても、悪魔について詳しく書かれた物はない。
「王家にはあるのさ。何故なら、王族は、遥か昔から魔塔と手を組み、裏で汚いことを散々してきた。時として教会に見下されぬよう、対等な立場である為にもそれらを利用してきたからなんだ」
「王家が持っていた本で、魔王を作り出したの!?」
ルディは青ざめている。ルディを手に入れたいという理由だけで、世界を恐怖に陥れる魔王を作り出したというのだ。普通の感覚なら考えられない。
「私は魔王がどうやったらできるのかを教えただけ。それを実行したのは彼だ」
ロードナイトがそう言うと、ロードナイトの背後から一人の男が現れた。頭から漆黒の二本の角をはやし、漆黒の髪は背中まで揺らめいている。真紅の長い爪はヴィンパイアを彷彿させた。ルディはその男の顔を見つめた。
「魔導士!!魔女と共にいた男!」
気配が変わっても、顔の造形からフィリフォームと分かった。
「そうだ。私が魔王になった。ロードナイト王子が、禁断の術を教えてくれたからな」
フィリフォームとロードナイトの関係は良好そうだ。
「ルディ、魔王を恐れることはない。私がいる限り、魔王は君に手を出したりしない」
ロードナイトが血の契約書をルディに見せた。それには、魔導士だったフィリフォームが魔王になる方法を教えてもらう代わりに、魔王となってもロードナイトには手を出さず対等の立場でいる、必要に応じて力を貸すという内容が書かれていた。
「どうやって魔王になった!?」
ルディはフィリフォームを睨みつけた。フィリフォームはそんなルディを歯牙にもかけていない。
「魔女の力を得たんだ。魔導士が魔女と結婚して結ばれることが、魔王を作り出す方法。だからこそ、魔導士と魔女の結婚は禁じられてきた」
ルディはロードナイトを見た。ロードナイトは余裕の表情だ。
「ロードナイト王子!!全てを知っていて結婚を認めたの?魔女は何も知らなかったんじゃないの?」
ルディは、チャロアイトがフィリフォームに恋をしていることに気づいていた。敵とはいえ、女心を野望に利用するなど許せなかった。
「知らなかった。チャロアイトは最期まで、私を愛して‥私に力を与えて私の腕の中で安らかに死んでいった。幸せじゃないか。愛する男の腕の中で死ねたのだから」
フィリフォームは一切、罪悪感を感じていない。
「勇者よ。魔王を作り出してまでお前を望んだロードナイト王子に、その身を捧げよ」
フィリフォームの手から闇が飛び出し、ルディの身体を覆う。闇はルディの服を引き裂いていく。
「ロードナイト王子、念願を遂げよ」
フィリフォームはそう言うと、魔法陣を描き姿を消した。部屋にはロードナイトとルディだけが残った。ルディの服は魔力で吹き飛ばされて全裸になっている。ルディは両手で胸を隠し、上半身を前に倒して裸を見られないようにした。
そこに、インカローズが現れた。
「兄上!何をしているの?そこにいるのはルディじゃないの?」
インカローズはルディの元に駆け寄った。そして自分が身にまとっていたケープを取ると、ルディの身体に巻いた。ロードナイトは気まずそうにそれを見ている。
「教皇から、ルディが魔塔の者に攫われて行方不明だと知らせが入ったの。母上は、教会との関係性の悪化を恐れてルディの捜索を命じたわ。私は、地下室に人の気配がするから来てみたのよ」
ウルアクはインカローズには、ロードナイトがルディを地下の隠し部屋に監禁していることを隠していた。
インカローズは四人の騎士を連れている。一人の騎士がルディが地下にいたことを報告に走った。もう一人は、ルディの着替えをメイドに用意させる為に動いた。残った二人の騎士は精鋭だ。ロードナイト一人では倒して逃げられない。ロードナイトは一先ず観念した。
「母上に報告すればいいんだろう?」
ロードナイトは憮然とした態度で立ち上がると、階段を登って行った。
「ルディ、怪我はない?大丈夫?」
インカローズが心配そうに尋ねた。ルディは従妹の王女の優しさが嬉しかった。
「インカローズ王女、大変です。ロードナイト王子が、魔塔の魔導士を唆し、魔王を誕生させてしまいました。世界はこれから魔王に支配されてしまいます‥」
インカローズと騎士達は、真実が飲み込めなかった。
「え?魔王??」
インカローズは魔王の存在すら知らない。
「遥か昔、一度だけ現れた魔の存在です。その魔王は当時の聖女が命懸けで倒したそうです」
「ええっ!!そんな恐ろしい存在を兄上が!?」
インカローズは恐怖で手を震わせた。ルディはメイドが持参した服を着ると、インカローズの手をとった。
「インカローズ王女。一旦、私を逃してください。教皇やオニキス王子らと話して、魔王の対策を練ります。今ここにいては、魔王の思うがままになってしまうんです」
ルディの真剣な発言は、インカローズの心に深く響いた。インカローズは黙って頷くと、騎士の一人に甲冑を脱ぐように命じ、それをルディに着せた。
「これは王族騎士団の甲冑。これを着ていれば、門で何も聞かれることなく外に出られるでしょう。兄上が戻ってこない内に急いで」
ルディはインカローズの的確な指示に従い、城外に抜け出したのだった。




