第5話 それぞれの道
アロンは朝食を済ませギルドへと戻ってきたが、扉は既に開け放たれており、中には幾人かの冒険者が、依頼内容を確認したり、会話を楽しんでいる様子が見受けられる。
アロンはリューク達がやって来るまでは椅子に座って待っていることに決めた。
アロンが他の冒険者たちの装備観察しながら待つ事30分、サンタとジェシカが同時にやって来るのが見えて、アロンは自分のテーブルへと彼らを招いた。
「「おはよう、アロン」」
「おはよう、サンタ、ジェシカ。」
「まだリュークは来ていないようだね。」
2人は隣り合うようにアロンをテーブルを挟んで向かい合うように座った。
「ああ、そうなんだ。リュークはまだ来ていない。二人とも朝食は済ませたか?」
アロンがそう聞くと、
「ええ、私もサンタも実家で食べてきたわ。アロンは昨日あの後どうしたの?」
「俺は、酔いつぶれてあそこの壁に寄りかかって寝てたよ。」
そう聞くと二人は大笑いする。
「アロンがそんな大胆な男だとは思わなかったよ、床で寝るなんてね」
「そうだよな、試験前までの俺だったら考えられないよ。周りの目ばかり気にしていたのに今じゃ何とも思わないんだ。」
「成長したんだね、この試練を乗り越えて。」
「ああ、そうだな、色んなことがあったな。」
3人が感慨にふけっていると、アロンを長椅子の奥に押すようにして強引にリュークが座ってきた。
「なに皆して悲しそうな顔してんだよ、元気出していこうぜ。」
「おはよう、リューク。」
急に現れたリュークに驚きつつも、この雰囲気を変えてくれたことにアロンは心の中で感謝した。
「じゃあ、全員揃ったところで、今後について話し合っていこうか。」
サンタがそう言うと、4人とも真剣な顔つきに変わった。アロンたち冒険者はなによりも自由を心情として動く。
だからこそ、それぞれにやりたい事を優先することになった時には、このパーティーは今日を持って解散となるからである。
「まずは、私からいいかしら。」
わずかな沈黙の後にジェシカが切り出した。
「実はね、私は王都に向かおうって試験を受ける前に決めていたの。ほら、私魔法が使えるでしょ?だから王都までの道のりを王都に向かうキャラバンの護衛の一人としてお金をもらって、王都で冒険者をしながら魔法学校に入学しようかなって。うちの家系じゃ魔法使いなんて出たことが無かったし、そんなにお金もないからもし冒険者試験に合格したらそうしようって思ってたんだ。だから皆とはここで分かれちゃうよね、、」
ジェシカは涙目になって、アロンたち3人の顔をそれぞれ見た。
「ジェシカが王都に行くなら僕も一緒に行くよ!僕には今のところやりたい事が無いし、王都も一度見てみたかったんだ!」
ジェシカと目が合ったサンタは立ち上がってそう宣言した。
ジェシカの涙目からは押さえていた涙が溢れてきたが同時に、彼女の顔には笑みが浮かんだ。
サンタは続けてアロンとリュークも一緒に王都へ向かわないかと誘った。
「すまない、俺は王都についていくことは出来ない。俺はここでもう1か月を過ごしたら前線都市フリュークに行くつもりなんだ。俺は強くなるために最短の道を進みたい。孤児院に借金もあるからな。返済が始まる3年後に一度帰ってくるけどそれまでは向こうで生活するつもりだ。」
アロンがそう告げるとサンタとジェシカの顔は分かり易く悲しそうな顔へと変わったが、リュークもまた同様であった。
「俺は、最初試験が終われば7人でパーティーを組んで、まずは国中を回りたいと思ってた。だけどそんな都合よくはいかないね。かといってジェシカとサンタについていけば、アロンのことが気がかりになってしまう。だから俺は、、俺はアロンについていくよ。アロンと一緒に二人で1級冒険者を目指す。」
力強くそう述べたリュークの言葉にアロンは胸が熱くなるのを感じた。
「いいのか、リューク。家族とも別れることになるんだぞ?」
「ああ、冒険者試験を受けると決めた時からそれは覚悟していた。問題ないよ。お前についていく。」
「じゃあ、ここでいったんお別れね、、私とサンタも3年後のこの時期にこのギルドに戻ってくるわ。それまでちゃんと生きてなよ?」
ジェシカは机の下でサンタの手をぐっと握りしめた。彼女の眼からは涙が流れていた。
「ああ、3年後再びここで。必ず、、!」
アロンがそう答えるとジェシカは立ち上がった。
「うん!じゃあ、行くわよサンタ、家に帰って準備をしないと。またね二人とも!」
彼女はそう言ってパッと後ろを向いてすたすた歩いていく。
「「サンタ、、頑張れよ」」
アロンとリュークはほぼ同時にサンタの肩を叩いた。
ここまで涙を我慢していたサンタは、ついぞいじってきた二人に泣き笑いながら、
「3年後、期待しといてくれよ」
と言い放ってジェシカの後を追いかけていった。
彼女らがギルドの扉を出て見えなくなるまで無言でその姿を見つめていた二人は大きく深呼吸をした。
「さあ、俺たちは今からどうするんだアロン?」
「今日やることは一つ。物で強くなることだ!」
リュークの頭にははてなマークが浮かぶ。
「物で強くなる?それってどういう意味だ?都市までの旅金を稼ぎに森へ行くんじゃないのか?」
「そうだな、これを見てくれ。」
アロンはそう言うとボロボロになった短剣をテーブルの上へと置いた。
「うわ、よくこんなので戦っていたな、そうか武器や防具を買いに行くんだな。俺もこの胸当て以外にも防具は買おうと思っていたんだ。それとこのロングソードも研いでもらわないと。」
「ああ、だから今から武具屋通りに向かおう。ちゃんと金は持ってきてるよな?」
「当たり前だ。昨日の酒場のせいでずいぶんと細かくなっているが、きちんと持ってきた。」
リュークは自分の背嚢を開いて内ポケットの中をアロンにも見せた。
「よし、そしたら向かうか。俺達の冒険の第一歩だ!」
アロンとリュークは立ち上がり、日差しの強くなってきた朝の町へと繰り出していった。
「わしも最初はあんな風に目を輝かせて、ここを出ていったんじゃ、、」
そう懐かしむような眼で二階の窓からアロンたちが走って街道を進んでいくのを見ていたギルドマスターは自身の部屋で独り言をつぶやいた。
彼らが見えなくなるとデスクに腰を下ろして、つい先ほど届いたばかりの手紙を開封する。
宛名は蝋印から見るにグリット家当主のもの。この都市とその付近をフォルクを収める伯爵である。
「よかった、今はまだ若き冒険者を戦争に送らなくて済みそうじゃ。」
老人は中の手紙を読み終えてそう呟く。
アロンたちが自分の人生を進み始めたのと同時に、この国の歴史も徐々に徐々に動く気配を見せつつあった。
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