第4.5話 平和な朝
物語全く進まない話数になってしまったので、4.5話としました。
次回更新は今日同様明日21時です。
この時間に更新するようにしてほしい塔の要望がありましたら感想、コメントの方でよろしくお願いします。
アロンと3人の仲間はひとしきり喜んだあと、中庭の井戸を借りて体の汚れを落としきり、替えが無く洗ってまだ湿った服を着て併設されている酒場へと向かった。
実に7日ぶりのまともな食事にありつけたアロンらは必死になって出された肉やパンを食べあさり、勧められたままに頼んで、ビールやワインを初めて飲んだアロンは楽しく夜遅くまで飲み食いをしていたが、いつの間にか眠りについてしまっていた。
アロンが目を覚ましたのは翌日の早朝であった。
酒場の壁にもたれかかるようにして寝ていたアロンは、焦って自分の荷物を確認するが何も盗まれたものは無かった。
目の前の椅子にはきちんとボロボロの短剣がこれまた破れた革製の鞘に入っている。
隙間からは錆びた刃が出発時よりも大きく見えていた。
抱きしめるように持っていた背嚢の中には銀貨が19枚と銅貨が5枚それに鉄製のカードが雑に入っている。
アロンが立ち上がって辺りを見渡すと、ギルドの中は扉が閉まっているせいか薄暗く、高い位置に取り付けられた窓から、朝日が差し込んでいた。
だが、傍に昨日までの仲間であったリュークやジェシカ、サンタの姿は無い。
受付から退屈そうにこちらを見つめてくる愛らしい人が一人いるのみだった。
「あの、寝る前の記憶が無いのですが、他の皆はどこに?」
アロンが受付に近づいてそう聞くとその受付はこう答えた。
「あなたと一緒に騒いでいた方々は夜遅くにご家族と一緒に帰られましたよ。覚えていないんですか?こちらからも楽しそうに別れを告げている姿が見えていました。」
そう微笑む彼女の言葉に若干赤面しながらそうですかとだけ答えて、アロンは朝早い街の様子を見に行くことにした。
受付から去ろうとした時、彼女はアロンが今日再びギルドで彼らと会う約束を大声でしていたことを教えてくれた。
アロンはそれすら記憶になかった為、ビールとワインをこれからはあまり飲まないようにしようと心に決めて、懐かしい故郷の街並みへと繰り出していった。
アロンが外に出ると大門の傍では朝市の準備をする人たちが早朝から仕事を始めていた。
また中にはそれらを通り過ぎ、門の外へと出ていく馬車や、鎧を着た巡回兵、これから狩りに行くのだろう冒険者の姿もちらほらみられる。
アロンは準備中の彼らを横目に、大門をくぐって城壁の外へと出た。
東から朝日が強く光り、草原は鮮やかな黄緑色を風でなびかせている。
城壁の傍に座り込んだアロンは、深く息を吸ってそのまま仰向けに寝転んだ。
昨日までの一週間が嘘のように心は穏やかで、アロンは起きたばかりにも拘らず再び眠りに落ちたが、城壁の向こう側から聞こえてきた騒がしい声によってその眠気は吹き飛んでしまった。
朝市が始まったのだろう。アロンは朝市を見物するために門番に冒険者証を見せ大門をくぐって中へと戻った。
そこではほんの数十分前には誰も客が来ていなかったはずの出店にたくさんの人が列を作ったり、品定めをしていた。
アロンはそれらを見つつ、ギルドに向かって歩いていった。
出店には見慣れた野菜を売るところや、この都市の主食であるパンを売っている店が多い。
中には木や安物の宝石とまでは言えないような石で作られた装飾品を売る店、香ばしいにおいを立ちこませている屋台までも並んでいる。
孤児院での生活ではこの朝市の存在を知ってはいたものの、訪れたことが無く、アロンの朝食はと言うと、いつも孤児院で働く人がわずかな具材で作ったスープに硬い濃い茶色のパン‘通称黒パン’を浸して食べるというのが16年間毎日続けていた。
領主からの支援金と、孤児院を卒業していき、お金を返済している数十人の人たちから集まったお金、さらに日中年長者が都市内の留守番や側溝掃除などのその他雑用で受け取るわずかな賃金で生活していたため、朝食はなるべく質素にならざるを得なかったのである。
アロンは今まで夜ご飯の時にしか食べることができていなかった肉や具だくさんのスープが売られているのを見て、起きてから何も食べていないアロンは引き寄せられるように立ち止まった。
「いらっしゃい!今日のスープは魔鹿の肉を使ったスープだ!一杯鉄貨5枚500マリーだよ!」
店主のふくよかな女性がそうアラン目掛けていっているが、未だ金銭感覚が孤児院時代と変わっていないアロンには500マリーを朝食に使うのは馬鹿らしく思えて、その場を走って後にした。
そろそろ入り組んだ朝市を抜け、大通りへと出るといったところでアランはボロボロの屋台を端の方に見かけるとその中には懐かしい黒パンがいくつか積んであった。
今日の朝市でアロンがこの黒パンを見つけたのはこれが初めてである。
「おーいそこの新人の冒険者さん?うちは黒パンと肉屋からもらった魔鹿の骨を煮た塩スープを売ってるんだ!1セット200マリーだけど買わない?」
屋台に居たのはアロンよりも幼く見える女の子だった。
「ああ、つい昨日冒険者になったばかりなんだ。君は?お父さんやお母さんは一緒じゃないのかい?」
「私は2番街にあるパン屋の娘だから、お父さんたちはもっと人の多い場所でたくさんのパンを売ってるのよ!私はまだ黒パンしか作らせてもらえないからこうして隅っこでスープと一緒に売ってるんだけどお客さんは皆通り過ぎちゃって。お兄さんが勝ってくれると嬉しいな、、」
「分かった、1セット頼むよ丁度俺もおなかがすいてきたところなんだ。」
「ほんと!?ありがとう!ちょっとまって!すぐに準備するから!」
アロンは黒パンとスープを買うことに決め、女の子に200マリーを渡した。
黒パンとスープのみで200マリーは少し高いんじゃないかとアロンは思ったがそんな思いを心にしまって彼女がアロンの朝食を渡してくれるのを待った。
「はいどうぞ!スープ暑いから気を付けてね!」
すぐに木の容器とその上に覆いかぶさるようにでんと置かれた黒パンを彼女はアロンに手渡した。
「ああ、ありがとう。」
アロンは彼女の屋台のすぐ横の壁にもたれかかるようにして座り込み慣れた手つきで黒パンを食べ始めた。
客が来ないので暇なのか彼女はその様子をじっと見つめてくる。
「あ、すごくおいしいよ。」
そうアロンが言うと彼女は待ってましたといわんばかりに笑みを浮かべた。
「そう、よかった!お兄さん黒パン食べるの上手ね、たまに買って行ってくれる人がいるけど、皆大きくちぎりすぎたりして苦戦してるのに、、」
「まぁ、これしか、パンは食べてこなかったからな、16年も食べ続けてたら、食べ方も身についてるよ。」
アランは苦笑しながらそう言う。
「お兄さん黒パンしか食べたことないんだ。ふーん、、ねぇ!4日後もまた来てよ!私またここで黒パン売ってるからさ!」
アロンも安いこの黒パンが食べて節約することができるので気兼ねなくそれを承諾し、会話が途切れるときまづくなってしまうと思ったアロンはたわいもない話を彼女としながら残った黒パンを食べ勧めた。
「買ってありがとう!4日後絶対に来てね!」
「ああ約束する。じゃあ4日後な!」
木皿を彼女に返したアロンは再び既にここから見えている冒険者ギルドに向かっていった。
ポイント評価が第2章を執筆するかの判断基準となります。是非押してから次の話、別の物語に進んでいただけると嬉しいです。よろしくお願いします!!