第3話 平穏な森
本日二話目です!
アロンは木から木へとぶつかりながら前へ前へと休むことなく進んでいた。
ゴブリンを倒した今、アロンの気持ちは昂り、なんでも倒せるような気がして不思議な感覚に陥っていた。
二日連続で、危険な命のやり取りを行い、それにギリギリのところで勝ちをもぎ取ってここまで来ている事から自信で満ちている。
孤児院を出た時自分がこんな風に傷だらけになり、だけど以前よりも何事にも前向きになっていることがあっただろうか。
黒い血がこべりついているのにもかかわらず、どこかすがすがしいような顔をしているアロンは傍から見たら恐ろしい精神異常者のようである。
「はぁはぁ、、ふぅ、、ここまでくれば大丈夫か」
冷静さを欠いているアロンには血を至る所にべったりとつけてきているという自覚は無い。
目に入った特徴的な木にもたれかかると、アロンには集中が切れたのか、急に自分が冷静でいないことを感じ、再び体全体に痛みを感じ始めた。
空を見上げるともう夕焼け色になって、黒い鳥が群れで空を飛んでいる。
「あいつらはどこへ行くんだろうなぁ、、そういえばあの六人もどうしているだろうか、無事だといいが、、」
そう呟いたアロンは今日ここに止まった理由であった若干まだ青く熟れていない実のなる木を長い木の棒や石でつつき持てるだけ持って木の下に腰を下ろした。
ここはアロンたち一行が3日目にも通った場所だ。
アロンにとってニコがすっぱいといって吐き出していた実が今はとんでもなくおいしく感じた。極限まで空腹になると何でもおいしく感じるのは間違ってはいないだろう。
10個ほど実を食べ終えると急激な眠気がアロンを襲いアロンはその場で倒れるように眠りについてしまった。
アロンが次に起きたのは翌朝であった。
起きて自分の状態を確認したアロンは自分の警戒心の無さに恐れを抱いたのと同時に、これだけ体に血が付いた状態で良く魔物に襲われずに深い眠りにつくことができたなと感心する。
「よし、後二日で大門にたどり着くはず。だいぶ調子がいいし、きっと無事にたどり着くはずだ!」
自身を奮い立たせ立ち上がり、いつの間にか枕にしていた角と魔石入りの背嚢を背負って昨日とは違った安定感のある足取りで、アロンは帰路を進んでいく。
道すがらアロンははぐれゴブリンに遭遇したが、彼らは大胆にも気にもたれかかり昼寝をしていたため、こっそりとその場を去ることができた。
その他に道中これといって事件は起きず相変わらずのボロボロでいつ折れてもおかしくない短剣と背嚢一つで重い足を一歩ずつ動かし進んでいった。
だがこの日は傷だらけで弓も持ち合わせていないアロンに食料を調達するすべはないに等しかったため、たまたま見つけた野イチゴで我慢するしかなく、次の冒険では干し肉等の保存がきく食料が必須になるなと痛感する。
そんなことを考えながら歩いていたアロンは日が沈むころにはフォルクまであと半日という距離にたどり着いていた。
ここまでくればこの森には魔物は出ることが少なく、逆にウサギやネズミといった魔石が体内で生成されない生物いわゆる動物が生息している。
今日の昼間に出会ったはぐれゴブリンもあそこまで来ているという事は珍しいことであるが、ここをフォルクまで後一日かけてたどり着ける場所と勘違いしているアロンは巨木の下の空洞で火をたくこともなく魔物に警戒し短剣を握りしめて、浅い眠りについていた。
日が昇りアロンが起床したのと同時刻、リューク率いる5人の冒険候補者たちも起床し、黙々と出発の準備を続けていた。
「よし、皆準備で来たな、先へ進むぞ。」
数分後リュークを先頭にまた無言で血痕をたどっていく。
幸いなことにこれまで雨が降ることは無く、痕跡は今だ残されたままになっている。
歩くこと2時間、リュークたちは一度通った覚えのある木の前に到着し、少しばかり休憩していた。
その木の根元にはどこからか拾ってきたのだろう大きな木の枝と石、更にはそれらを使って落として食べたとみられるまだ青い実の皮や種が散乱していたが、すでにそこに人影は無い。
「一足遅かったか、、でもまだ生きてる。むしろこの様子だと元気そうだ。」
「元仲間が元気で良かったなぁ」
サンタがジェシカにそう笑いながら告げるとジェシカの返答を遮るようにしてニコが怨恨を込めてそう言った。
「ねぇ、ここにいるみんな仲間でしょう?なんでそんなに雰囲気を崩したがるわけ?黙ってなさいよ。」
ジェシカにそうやって諭されてもニコは気にした様子もなしにフィードの下へと歩いていった。
「そう言わないで、ジェシカ。皆疲れがたまってきて感情的になり易くなっているんだ。無視するのがこの場では一番の策だよ。」
サンタが気が立っているジェシカをなだめるように傍に座る。
「そういうサンタは、ずいぶん元気そうね。」
「僕は感情的になりにくいから、、こういう時には僕みたいな冷静で仲を取り持つ男が必要だろう?」
サンタは珍しく、冗談めかしてジェシカに微笑んだ。
「そうね、サンタがいなかったら殴ってやったのに」
サンタにだけ聞こえるような声でジェシカがこれまた冗談めかして拳で空を切った。
リュークは一人、次に進むべき方角に立ち一連の様子を見ていたが、もはやニコとフィード、サンタとジェシカという対立関係が修復されることは無いだろうと悟っていた。
ここを出発した当初、試練を乗り越えた先には若干ついてこれるのか不安な人物は居たものの、一つのパーティーとしてやっていく未来を描いていたがそれはもはや叶わぬ未来である。ため息をつくとリュークはまた同じように出発を告げ、先頭を歩き、もしもアロンに追いついた時この対立はどうなってしまうのだろうかと不安を覚えるのであった。
だがその日のうちにアロンに追いつくことはなかった。
丁度太陽が真上を通り過ぎた頃、はぐれゴブリンと遭遇し、戦闘をする羽目になったためである。
この時は2対5という数的有利を持っていたことと、さらにゴブリンの内一匹は武器を持ってもいない個体であったため苦労することなく戦闘を切り抜けることができた。
だが昨日のように油断しないためにもリュークたち5人はそこから少し進んだ場所で早めの時間から食材を調達し、夜の野営を万全の状態で迎えるべく準備に取り掛かった。
その分、アロンに引き離されはしたもののアロンは怪我をしており、歩行速度が遅いため、5人にとっては十二分に明日追いつける距離までは差を縮めていた。
アロンも他の5人も要塞都市フォルクまで残り一日もかからない距離である。
満身創痍のアロンに比べると5人組の方は内部で対立があるものの健康状態がいいとは言えないが十分安全に故郷へと帰郷できる状態を現状保っていた。
今回もポイントやコメント是非押していただけると嬉しいです!(2章を執筆するかの指標にしたいと思います。)
次話は明日AM6時に投稿したいと思います!よろしくお願いします。