第1話 始まりの冒険(2)
本日2話目です。
アロンが目を覚ました次に目を覚ますと辺りは暗く、多くの魔物がその動きを活発化させる夜になっていた。
痛む背中はアロンには直接見ることは出来ず、小川の水を手ですくってはしみる背中へと掛け流した。
アロンはある程度固まった血や泥を体から洗い落とすと辺りを可能な限り見渡した。
周りにはわずかに腹がつながり横たわっている狼の死骸だけで4日共に過ごした6人の姿は無かった。
「まずい、、ここから早く離れないと、ゴブリンたちがやってくる。」
死後数時間たった狼の死体は辺りに臭いをまき散らしていた。いつ魔物が寄ってきてもおかしくない状態である。
アロンはまだ耐えれる臭いを我慢して持っている短剣で横たわる狼の頭蓋骨からただでさえ切れ味の悪い短剣をより悪化させながらその角を切り落とす。
そして割れた背中に手を入れ固い魔石を取り出し、狼を追っていった彼らを見つけるために暗い夜の中小川を重たい足取りで下っていった。
小川に沿って一人で歩いていく中、アロンには気絶していた時に見た夢での出来事が頭の中から離れなかった。
それはアロン自身が別の人間として見知れぬとても裕福な生活をしているものであった。
夢の中でその人になっていた時の感覚や気分は妙に現実味を帯びていて、まさにアロンが夢の中の彼に乗り移っているかのような体験であった。
実際のところ、その夢はアロンが彼自身の前世の一部を追体験したものである。
だがアロン自身が前世であると確証するには至らなかった。
それはあまりにも短く、前世における日常の追体験であったこと、それに今アロンが生きている世界とはあまりにかけ離れた世界であることから現実味が異様な夢としてアロンは認識したからだ。
だが、アロンが意識的に夢と判断した追体験は、アロンの無意識下において彼自身の急成長を促していた。
前世での人格の一部が今のアロンと混ざり合ったことで、余裕と自信それに勇気や挑戦心といった今のアロンに足りていなかった精神的な能力が芽生えることに繋がったのである。
事実、これまで怯えて過ごしていた夜の森をひどく落ち着いて行動し、考え事までする余裕がアロンに生まれていた。
「はぁ、考えても仕方がない、ただの夢だ。それよりもあの子たちが心配だ、急がなきゃ」
アロンはそう呟くと、歩く速度を上げ、辺りを見渡すと事に集中した。暗い森の奥からはどこからともなく唸り声や、何かの鳴き声が聞こえてくる森を進んでいく。
数十分後、アロンは背中の痛みも忘れて小川を下りきり、小川の先にあった小さな池へとたどり着いた。
その小さな池は森の中であるにもかかわらず大きな岩がいくつも転がってちょっとした広場が周りに広がっていた。
またこういった池の周りには大抵魔物がいるものだが今回に限っては何の動物や魔物の気配が無い。
これ以上夜に捜索しても危険が増すだけだと判断したアロンは池の周りで隠れることができる場所が無いか探した。
池の周りを魔物に注意しながら探索していると、アロンはちょうど自分が一人入れるほどの大岩の隙間を見つけた。
古びた短剣を何度もその暗い隙間に突き刺して何もいないか確認したあとその隙間に肌を少し擦りながら入りこむ。
中は暗く何も見えない。
さらにとても窮屈で仰向けになることは出来そうになかった。
しかし、魔物に食われるよりはましだと判断し、アロンは痛む体を我慢して、手を枕に横向きになって月の光が顔に差し込む中、眠りについた。
岩の隙間から差し込む日の光で目が覚めたアロンは自分が相当な時間寝過ごしていることに隙間を抜けて気がついた。
「もうあんなところに太陽が昇っている。あの子たちが狼を討伐できたのだとしたら、既に目的は達成されているから昨日の場所に角を取りに戻ってくるはずだから、俺は、あそこに戻るべきだな。」
アロンはそう呟くと岩からゆっくりと背中の痛みを気にしながら降り、元来た小川を戻っていった。
痛みも昨日と比べてしまえば未だ大怪我ではあるものの、幾分か引いたように感じていた。
「グギッ、グギグギギギ」
小川をさかのぼること数十分ようやく昨日の戦闘現場への近くへと戻ってきたアロンの耳に聞こえたのは気味の悪い独特な声であった。
アロンはゆっくりと物音を立てないように前進し、小川から離れ声が聞こえる場所を森の茂みから観察した。
すると昨日の狼の死体を貪り食う深緑のゴブリンがアロンの視界に入った。
アロンは風下に居るためゴブリンはアロンの存在に気がついていない。
「よかった1匹だ。群れからはぐれたのか、、あいつだけなら今の俺だけでもやれるかもしれない。」
ゴブリンとは知性のある最下級魔物の一種である。
深緑色の何とも醜い見た目をしたアロンの肩くらいの生物は度々群れ、極まれに単体で人間に襲い掛かり、略奪、殺人、拷問まがいの遊びを行う卑劣な生物と認識されている。
一匹とはいえど、木を軸とし先端に石の鏃をつけた原始的槍を持つ生物はなめてかかれる魔物ではない。だからこそ複数匹その場に居たとしたらアロンには運に身を任せて逃げるという選択肢しかなかったであろう。
だが今回は運のいいことに敵は1匹。
音を察知され後ろから追いかけられるよりも、奇襲で倒した方が危険度が低いと判断したアロンは一息置いて茂みから飛び出した。
「俺ならやれる。あんな奴すぐ倒してやる!おぉぉぉぉ!」
アロンは叫び声をあげてゴブリンの下へと走り、槍を置いて油断していたゴブリンの頭に短剣を突き刺した。
「グギャアァァァァア」
黒い返り血がアロンにかかるが、頭に短剣が刺さってもゴブリンは必死にアロンの腕を汚く長い爪でえぐろうと試みる。
それを察知したアロンは短剣がゴブリンから抜けないのを確認すると手を放して後ろへと跳んだ。
心拍数が上がり、激しい動きをしたことで、血で固まっていたアロンの背中の傷も再び開き、鮮血が流れ出していた。
アロンはそれに対して痛みは感じていなかったが、強く脈打っているのを背中に感じていた。
そこからはお互い荒い息を吐きながらも相手の様子を疑う。アロンはゴブリンと目を合わせたまま手探りで手ごろな石を両手につかんだ。
「おおぉぉぉぉ!」
アロンがその場の緊張感を破るように叫び声をあげるとゴブリンは一瞬その声にひるみ一歩後ずさりする。
その瞬間アロンはゴブリン目掛けて右手で持っていた石を投げそのままゴブリンに突撃した。
ゴブリンは目の前に石が飛んできたことを頭に刺さった短剣と流れ出る血のせいで感知できず、そのまま刺さった短剣にアロンの投げた石が当たり、衝撃をもろに受けて、よろけた。
アロンはその絶好の機会を逃さず懐へと入り込み、渾身の一撃を右こぶしでゴブリンの顎目掛けて繰り出した。
よろけたゴブリンにそのこぶしは綺麗にゴブリンの顎に直撃し、ゴブリンはそのまま地面に倒れた。
気持ちの高ぶっているアロンは、これでもかと言わんばかりに動かなくなったゴブリンの頭を左手に持った石を両手に持ち原形が分からなくなるまで殴り続けた。
「はぁはぁはぁ、、、やった、、やったぞ、、!」
気がつくとアロンの顔や手は真っ黒に染まりゴブリンは顔を無くした状態で絶命していた。
アロンは短剣をゴブリンから抜き取り、異臭のする腹をさばいて中から狼よりも少々小さな魔石を取り出し、背嚢につっこんだ。
そしておぼつかない足元でよろけながら、その場を後にする。
そして要塞都市フォルクを目指して道なき道を進んでいった。
2章を書くかの指標にしますので評価よろしくお願いします!
またこうしたほうがいいかもとかありましたら教えてください!!
次回は明日6時に更新します。