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アロンノ討伐記  作者: 河村 そう
12/15

報酬と孤児院

翌日、2人はいつも通り日がまだ上っていない早朝に目を覚まし、出発の準備を進めていた。

「お、朝日が昇ってきたみたいだ。そろそろ門が開くかもな。」

リュークがそう言うと遠くに見える都市フォルクの大門がゆっくりと開いていくのが見えた。


「なんか、試験の時とはここからの景色がえらく違って見えるな、、」

アロンは今の自分たちの落ち着き具合や、健康状態を以前の自分たちと比べてその成長をひどく感心していた。


「まぁ、2か月もあれば人は大きく変われるってことだな、よし、テントは畳んだしそろそろ出発しようか。」

「ああ、そうだな。」


2人がのんびりと草原を歩き、大門の前へ着いた頃には既に毎日恒例の朝市が始まっていた。

「おっ、君たちはこの都市期待の新人冒険者たちじゃないか!」

アロンとリュークが城門の前で冒険者カードを取り出すと、大きな戦斧をもった新人冒険差hというインパクトから顔を憶えられていた門番の兵士から声がかかった。


「ああ、サクさん、只今戻りました!」

「おかえり、アロン君、リューク君!今回はいつもより来るのが遅かったけどやっぱり森でトレーニングしていたのかい?」


「いいえ、今回は森の奥へ進んでコボルトを倒してきたんですよ。」

「コボルト!!それはずいぶんと奥まで進んだね。日頃の鍛錬が実を結んでよかった。さあ、ギルドに報告しに行きな。」

「「ありがとうございます!」」


2人は手を振って見送ってくれる門番にお辞儀をして朝市の中を通り抜けることになった。

既に何度も通ったこの入り組んだ朝市を抜けてギルドが見えた時自分の名前を呼ぶ声がして止まった。


「あ、やっぱりアロン君だ!こっちこっち!」

それはあの黒パン売りの少女であった。

「久しぶりだね、今日は友達も一緒?」


「ああ、こいつはリュークと言ってめちゃくちゃ強い頼りになる奴なんだ。」

アロンがリュークを前へと押し出す。

「初めまして、リュークだ。君はアロンが一度持ち帰ってきたこのパンを売ってるサナちゃんだね。よろ

しく!」

「よろしく!リューク君!ところで今日も買っていってくれる?」

「ごめんなサナ、今日は俺達急ぎの用事があるんだ。また今度買いにくるよ!」

「約束よ!また4日後だからね!」

「ああ、必ず!」


アロンとリュークは相変わらず古い彼女の屋台を後にして冒険者ギルドへと向かった。

入り口をくぐると既に冒険者は集まっている。


冒険者の朝はみんな揃って早いのだ。

アロンとリュークはいつもどおり大きな戦斧に視線を集めながら真っすぐ受付へと向かう。


「アロンにリュークね、お疲れ様です。今日は討伐報告かな?」

受付の女性は変わらぬ笑顔で二人に尋ねる。

「はい、試験の時に仲間を殺されたコボルトに復讐してきました。ついでにゴブリンやらホーンウルフも倒してきたのでそれをお金に換えてもらおうかと。」


「それは、、その子の無念を晴れたことでしょう、、よかったわ。じゃあ、魔石と採取対象のコボルトとホーンウルフだから、コボルトは爪と目玉、ウルフの方は角ね!あるかしら?」

「ええ、たくさんありますよ。まずは魔石から。」


そう言うとアロンがホーンウルフやゴブリンの小さな魔石をカウンターの上へとすべて出した。それから

リュークがコボルトのアロンから見たらとても大きな魔石を4つ置く。

「えーと、ゴブリンの魔石が、、、17個。それにホーンウルフの魔石が3つね。あとはコボルトのが4つと。」


女性が魔石を後ろへと除けるとアロンたちはそれぞれ持っている討伐証明をカウンターにおいた。

「ホーンウルフの角が3つに、コボルトの目玉が8個、爪が24つ。大量ね!とってきた物はこれで全部?」


「実はもう一つありまして、、これなんですけど。」

女性の問いかけにアロンが慎重に背嚢から真新しい麻袋を取り出した。

普通のものではないのだろうと察した彼女は棚から綿の敷き詰められたトレーを取り出し、袋の中にあるものをトレーへと移した。


「こ、これは魔玉!!!」

彼女の声がギルド全体に響き渡った。


「魔玉だって!?」

「おいおい、新人がとんでもない運を使ったみたいだ!」

「まぁゴブリンの魔玉だろうな」

「それでも羨ましいぜー」


ギルド内の至る所から、魔玉の言葉を聞いた冒険者の話題に上がった。

するとすぐにカウンターの後ろの扉が開き、中からギルドマスターが現れた。


「おはよう、アロン、リューク。君たち魔玉を手に入れたみたいだね。見してもらえるかい?」

「ええ、どうぞ!」

リュークが誇らしげにそう促した。


ギルドマスターは手袋をはめて、ルーペも使って魔玉を見た。

「ふむ、これは間違いなく魔玉じゃな。しかもコボルトの魔玉でサイズも色合いもなかなかの代物じゃ。二人とも私についてきなさい。」


そう言うと彼は扉を開けた。カウンターの内側へと入れてもらったアロンとリュークは促されるがまま扉の中へと入り会談を登っていく。


「ああ、ルーシーくん、この冒険者たちの分の討伐金と買い取り金は私の部屋まで持ってきなさい。」

「お任せください。」


彼は受付の中央に居た男性にそう頼んで二人と一緒にギルドマスター室に連れていった。

中にあるソファに腰掛けるよう言われた二人は隣通し並ぶようにして座った。向かい側にはギルドマスターが座っている。


「さて、君たち、あの魔玉をどうしたい?」

アロンはリュークと顔を見合わせる。

「僕たちはそれを売りたいと思っています!」


「うむ、そうじゃろうな。しかも君たちはちょうどいい時期にこれを持ち帰ってきてくれた。実はな、この要塞都市フォルクを収めるグリット伯爵の娘がデントシュール侯爵の嫡男に嫁ぐための持参品を探しておってな、この高品質のアメジストのような、だがしかしより価値の高い魔玉はそれにぴったりの代物だと思うのじゃ。どうじゃ、商人に売り渡すより伯爵に売らんかね?」


「アロン、どうする?これはアロンが倒したコボルトから出てきたものだ。俺は商人に売るより貴族に顔を見せれる絶好の機会だと考えるが。」

「リュークのいうとおりだろう。貴族に売った方が利益も高い気がする。ギルドマスター、伯爵様に売りたいと思います。僕たちはどうすればいいですか?」


「よく言ってくれた。これでわしの立場も上がることじゃろう。感謝するぞ二人とも。わしが伯爵に手紙を書くからお主たちはそうだな、、明日にでもまたギルドに来てくれ。返信はすぐに来るじゃろうから。その時に詳しく説明しよう。」


ちょうどギルドマスターの話が終わったタイミングで扉にノックがかかった。

「失礼します。アロン、リューク両名の討伐金並びに買い取り金をお持ちしました。」

「うむ、2人に渡してやりなさい。」


彼はアロンにトレーの上に置かれた袋を渡すと外に出ていった。

「では、また明日忘れずにギルドに顔を出すのじゃぞ?」

「ええ、ありがとうございます。」


そういって二人は真っ先にギルドのテーブルへと向かった。もちろん今回の稼いだ金額を見るためである。


テーブルの上に袋の中の物を出すと、中からは沢山の銀貨が出てきた。

「うおっ、たくさんあるな!」

「金貨一枚以上はあるんじゃないか?」


アロンが銀貨の枚数を数えた所、この麻袋の中には33枚もの銀貨が入っていた。

2人で銀貨を分けることを考慮して、金貨ではなく銀貨にして渡してくれたのだろう。


2人は銀貨30枚を二人で分け、残りの3つをパーティー貯金として何かあった時のために残しておくことに決めた。


「そろそろ正式にパーティー登録して、ギルドにパーティー口座を作ったほうがいいと思うんだが、そうする?」

銀貨を振り分けた後テーブルに残った銀貨を見てアロンが言う。


「そうだな、でもパーティー名はどうする?何も考えていないぞ。」

2人は良いパーティ名を酒場へ移動して昼食を取りながら考えた。

「そうだな、、パッとする物はなかなか浮かばないなあ」

「ああ、パーティー名は無名の内はすぐに変えても影響はないだろうけど。」


「そうだ、武器の名前をそのままパーティー名にするのはどうだ?俺のグラントとリュークの剣の名前モントを合わせてグラン・モント、もしくはモント・グランか」


「いいなそれ、いい安さ的にはグラン・モントだな。それにしよう!」

「よし、そうと決まれば、さっさとこれを食い終えてパーティー申請と口座開設を受付で済ませよう!」

こうしてアロンとリュークのパーティー名グラン・モントが決まった。


2人は急いで昼食を食べ終えると、ギルドの受付へと走っていき諸々の手続きを済ませた。


2人は手続きを終えると、冒険者割引の効くギルド近くの宿にて2人部屋を5泊分予約し、明日までの間自由行動を取ることにした。


リュークは部屋を出て家族の下へと久しぶりに帰っていった。

「ふう、久しぶりに一人で暇な時間ができた気がするなあ。」

アロンは自分のベットにどさっと座り込んだ。


「俺も孤児院へ顔を出しに行くか、、」

そう決めたアロンは自分の育った孤児院へと向かって部屋から出ていく。

宿から20分ほど歩き、都市の中心部へと到着すると、活気のある街並みを眺めながら、中心部からさらに西へと遠ざかって歩いていった。


しばらく歩いていると周りの建物は徐々に劣化が見られ、行きかう人も少なくなっていく。

アロンは孤児院への道沿いに、既に懐かしさを感じる店を見かけた。


あいかわらず、いいにおいを周囲に広げているこの店には人が少ないこのあたりにも関わらず、10人程度の人が並んでいる。


「そういえば、ここの肉揚げずっと食べたかったよな、、」

アロンは各地に手伝いに行かされる時、何度もこの道を通っていたが、この店のいい匂いにいつも腹を空かせていたが、小遣いなど無かったアロンたち孤児院の子供たちはこの店の肉揚げを食べるとこを小さな夢としていた子が多かったのだ。


「いらっしゃい冒険者さん。」

「はい、肉揚げを、そうですね、20個くれますか?」

「20個も?えらく多く食べるんだねえ。初めて見る顔だけど、」


「孤児院の子供たちにあげるんです。僕も孤児でいつもここの肉揚げが食べたかったから。」

「そうかい、孤児院に、、よくお兄さんみたいなやさしい人があそこで育ったねえ!また来ておくれよ、サービスはしないけどさ。」


「はい、また孤児院へ寄るときは来させてもらいます。」

アロンは肉揚げの入った袋を受け取ると、再び孤児院への道のりを進んでいった。


店の女店主から伺える通り、孤児院は地域の人々から若干差別的な扱いを受け疎外感のある存在となっている。

下水道の掃除や裏道の掃除など何でも子供ができる事なら格安で引き受けているため、それはしょうがない事とアロンは思っていたが、冒険者になったからといって自分はそんな扱いをあの子たちにしたくないと思い先を急いだ。


アロンが西門にほど近い古びた教会と孤児院へとたどり着いた時には既に夕暮れになっていた。

「おーい、俺が顔を見せに来たぞー」


アロンが孤児院の門をくぐり扉を叩く、すると中から走って扉の前へと来る音が聞こえる。

「「おかえり!アロン兄ちゃん!!」」


勢いよく何人もの子供たちが扉を開けてアロンを迎えてくれる。奥からはアロンを育ててくれた神父がやってきていた。

「おかえり、アロン。こんなに早く戻ってきてくれる子は今までいなかった。さあ、中に入ってくれ。」

促されるままアロンは孤児院の中へと入っていく。


「神父、これ夕食で子供たちに出してやってくれ。」

そういってアロンは先ほど買ったばかりの肉揚げを神父へと渡す。

「これは、西地区で有名な肉揚げか!私も一度食べてみたかったんだ。ありがとうアロン。よかったら一緒に夕食を食べていかないか?今シスターたちと準備していたところなんだ。」


「ああ、そうさせてもらうよ。」

アロンは夕食までの間、子供たちに自分がここを出ていってからの冒険の話を語った。


子どもたちは興味津々でアロンの話を聞き、アロンが持っていたグラントや銀貨を触ったりしていた。

「さあ、皆ごはんですよ、アロンはこっちに座りな。」


そう言うと一番若いアロンもよく知るシスターが自分の横の椅子を引く。

シスターたちも含め全員が席に着いた。

「さあ、今日も神の恵みに感謝し、そして再びここに帰ってきてくれたアロンの今後を祈っていただこう。」


「「いただきます。」」

それぞれの前には黒パンといつもの野菜と肉のかけらが入ったスープそれにこれまたアロンも何度も食べた焼き魚、それにアロンが買ってきた肉揚げが置かれている。


子どもたちは真っ先に自分たちのこぶしよりも大きい肉揚げをほおばり、うれしそうな顔で食事をしている。


アロンも久しぶりの我が家で自分が体験した出来事や新たな発見を神父やシスターたちに話し、子供たちを寝かしつけてからもしばらく談笑していた。


「今日は止まっていくのかアロン?」

「いや、宿に帰るよ。ここからだと遠いけど俺はもう強いんだ。心配いらないよ。」

そう言ってアロンはグラントを立ち上がって構えてみせた。


「そうか、変わったアロン。しっかり稼いできちんと多めに寄付をしてくれてもいいんだぞアロン。」

神父は冗談だといって笑うが、アロンはもちろんこの孤児院のためにも大金持ちになって、建物を新築に建て替えるほど寄付してやると思っていた。


「ああ、いずれこの部屋いっぱいの金貨を寄付してやるから長生きしろよ、神父。」

「もちろんだ、じゃあ、死ぬじゃないぞアロン。」

「ああ、シスターたちも元気でね。」

「ええ、私たちもアロンがまた来るのを楽しみにしているわ。」


暗い孤児院から手を振る彼らを後に、アロンはこれまた暗い道をランタンを持って宿へと歩いていった。

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