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異世界転生したんだから全力で生きる

作者: ヨッスキ

異世界転生もの。あまり詳しくはないのですが、思いついた話を短編として作りました。

よろしければ。


 わたしの前にきみがいる。

 高校の図書室。きみのお気に入りの場所。また大好きなライトノベルを呼んでいる。

 わたしがそれを好きなことを、きみは知らない。

「ねぇ進路調査票だした?」

「・・・え、まだ。」

「なんで?もう提出期限じゃない。」

「ん~なんか思いつかなくて。大学行こうかな。」

「・・・今から?普通もう受験勉強始めてない?」

「じゃあやめよっかな」

「なにそれ」

「きみと違って、やりたいことも見つからないし。」

「やりたいことが見つかった時に何も出来ないってことがないように、勉強しときなよ。」

「・・・はい。」


 彼女は本当にすごい人だ。ぼくなんかに話しかけてきているのは奇跡に近い。

 ぼくが一人で図書室にいると、なぜか話しかけてくる。

 初めて話しかけられた時、心臓が止まりそうだったのを覚えている。

 彼女は学校でも誰も無視できない種類の人間だった。男子生徒、女子生徒、先生だって無視できない。才色兼備?質実剛健?それは違うか。とにかくなんでも成績がよく、奇麗で、性格が良かった。友達が多くて、敵が多くてもどんどん減っていく。

 髪を少し茶色にしているのだけが、唯一の校則違反なのにもかかわらず、唯一の子供っぽい大人への抵抗に見えて、むしろ愛おしさをみんなに示していた。だから誰も文句を言わなかった。茶色い髪は、彼女のためにあるようで、誰もそれを奪おうとしなかった。

 とても勉強家で、努力家だという話だった。

 頑張るのも才能だと思う。目の前の勉強から逃げたい、課題から逃げたい、ゲームしたい、小説に逃げたい。当たり前の感情だと思うけど、彼女は目の前の困難から逃げず、少しずつ自分を成長させていた。そういう姿勢と言うのがみんなにも伝わっていた。努力の才能ももっていたってわけだ。ぼくとは全然違う。とかげとドラゴンくらい。

 そんな彼女が、ぼくなんかになんで興味を持つのか理解できなかった。

 ぼくは自他ともに認めるモブの一人。勇者、その仲間、それにアドバイスする重要人物、それほどじゃなくても味のあるキャラクター、街の商人。悪役。そういう人たちより、下の下の下。

 きっとセリフすら与えられない。後ろ姿だって怪しいものだ。そういう存在。

 ライトノベルを見ると安心した。世界観が懐かしい気がした。前世はここだったんじゃないか?自分で笑った。でもぼくは、この小説の中に書かれている魅力的なキャラクターたちとは違う。文書には出てこない存在の一部だと確信した。きっと余白の中にぼくの存在がある。ルーペを使って用紙を見ると見えてくる、黒い点。これがたぶんぼく。

 どういうわけだか、彼女は二人っきりになると話しかけてくる。

 秘密の話があるみたいで、ひいきめにいうと、毎回心臓が止まりそうだ。健康に悪い。

 今日もお説教をもらった。

 正論です。

 生きててすみません。

 

 わたしの前世は、シルヴィアと言う名前だった。この世界じゃない、違う世界で生活していた。こんな話だれにもしたことがない。子供っぽい、笑われちゃう記憶。でも、わたしには間違いない、前世の記憶。

 はじめてライトノベルに触れた時に、不思議な感覚を覚えた。心がおどった。それだけじゃなく懐かしかった。石畳、レンガづくりの建物。市場のリンゴ。布の服。鉄製武器の金属の匂い。島主様への畏怖。ギルドへのあこがれ。そして、魔物への恐怖。

 そうしたものが全て懐かしくわたしに流れ込んできた。

 慌てすぎて一度本を閉じた。

 でも隠れて読み漁った。昔の日記を見ている感覚になった。忘れてしまっていた。変わってしまっていた。でも間違いなく、昔の自分。

 布の服に身を包んで、お父さんの仕事を手伝って、近所の男の子と仲が良かった。

 名前はコナー。

 

 物心つく頃から、少し慌てていた。

 やらなきゃいけないことがたくさんあった。自分の人生を充実させなきゃいけないと思っていた。親にしょっちゅう心配された。そんなに頑張りすぎなくて良いのよ、とよく言われた。でも苦ではなかったから、笑ってこたえた。結果を出したらほめてくれた。人との交流が楽しかった。自分を奇麗にするのが楽しかった。でも何か探しているような気もした。探して、見つけた時に、後悔が無いようにしているみたいに頑張った。何を探しているのかもわからなくて、それだけが不安だった。

 高校に入って、くせ毛のきみを見つけた。なぜか懐かしい気がした。きみは人ごみの中に望んで隠れていくようだった。臆病な羊が群れの中に隠れていく。なぜか会えてうれしかった。でも自分を卑下してて、これといった努力もせず、無為に生活している姿に少しイライラした。

 少し意識して近づいた。離れていった。イライラした。

 2年生の時に同じクラスになった。修学旅行でたまたま行動班が近づいて、同じ行動をした。きみに何度か話しかけたけど、どこか上の空。今思えば緊張していたのかも。

 少しあきらめかけて、ぼうっとしてた。

 運転の荒い車が通るのを見落とした。うっかり交差点の深くまで歩いてしまった。

 その時に強い力で引き寄せられた。きみに。

 クラクションが鳴らされて、恐ろしい速度の車が走り去って、きみはわたしを引き寄せて、胸の中に入れた。何も考えられなかった。全身が何かを感じていたのに。

「大丈夫?」

 それだけ聞かれた。答えられなかった。全身が何かを思い出していたのに。

 お礼を言った。みんなが心配した。みんなの中でのきみの地位がランクアップした。村人からホーリーナイトに。キラリン。

 王様から褒美が与えられ、美女がキスをして、男たちが手を叩いて祝福して、花輪が首にかけられた、ような、冷やかしがあったのに、修学旅行が終わって、日常に戻ると、きみは村人に戻りたがって、図書室にこもって、地味な学生に戻った。

イラっとした。


 街に魔物が襲ってきた。軍隊は混乱していて、街中はもっと混乱した。逃げる人込みになぎ倒されて、街の外へ出る門は、なぜか閉められてさらに混乱が増した。

 突然、倒れているわたしの周りから人が消えた。

 振り返るとそこにドラゴンがいた。火を吐き、空を飛ぶ。わたしを見つめて吠えていた。

 全身が固まる感覚を今も覚えている。走って逃げるべきなのに、全身がそれを拒んでいるみたいだった。ここで死ぬという実感があった。

 ドラゴンが口を開いた。意識を失いそうな感覚があった。

 意識をなくす前に、何かが間に入った。

 コナー。

 頼りなかったきみが、わたしを包んでいた。

 バカな人。

 火に包まれたら、同じように死んでしまう。

 ドラゴンの炎はそれほど強力。そんなの近所の子供でも知っている。

 どうせならわたしを引っ張って走るべきなのに。

 動けないわたしは、それを思って、でも、安心感に包まれてきみを抱いた。

 そして死んだ。

 苦しくなかった。


「ねぇコナー」

「なぁにシルヴィア」

「魔物討伐の募集の札見た?行ってみたら?」

「無理だよ。ぼくなんかあっという間に死んじゃうよ。」

「死ぬ気でやらなきゃ何も変わらないよ。」

「実際死んだらそこまでだよ。」

「何もしなきゃ死んだも同じだよ。」

「パパみたいなこと言わないでよ。」

「行きなさいよ。」

「今度ね。」

「今度っていつ。」

「男らしくなったら。」

「じゃあ絶対行かないじゃん。」

「ひどいよシルヴィア」

 シルヴィアは近所に住む、ぼくより少し年下の、雑貨屋さんの娘さんだ。

 雑貨屋さんの足に隠れていた茶色い髪の女の子が、だんだんと大きくなって、ぼくに説教するようになった。言い方がいちいちきつい。ぼくなんかが頑張ったって、犬死にするに決まってる。そう言ってもぼくをけしかける。どうしてぼく以上にぼくの評価が高いんだろう。あまりぼくを知らないのに。

 シルヴィアと離れて、さみしい気持ちになって、自分の家に戻ろうとした。

 街の遠くで悲鳴が聞こえた。

 ただごとじゃない悲鳴だった。強盗、殺人?魔物ってことはないだろう。だって軍隊が守ってくれていて、勇者ご一行と呼ばれている人たちも王様に謁見していた。

 でも悲鳴は近づいてきた。人の波がぼくの後ろへ流れていった。

 ただごとじゃない。恐怖の中身を理解する前に、本能に従って逃げ始めた。遠くに空飛ぶ何かを見つけて、血の気が引いた。

 城の方へ逃げた。城の中に入れてもらえたらいい。万が一人ごみで入れなくても、強い人たちが近くにいたら、助かるかもしれない。つまづいて倒れる人や、泣き叫ぶ人がいたけどかまわず走った。余裕がなかった。パパやママは無事だろうか。

 突然何かがぼくの足を止めた。ぼく自身だった。シルヴィアは?

 もう一度街の方へ歩いた。押し寄せる人込みを避けた。さっきは、たしか、あのあたりに。

 だんだんと高度を下げるドラゴンが見えた。こんな間近に見たことない。目にしたら静かに逃げろ、見つかったら最後、死ぬしかない、と聞かされていた。皮膚は固そうで、目は恐ろしく、牙は人間なんか相手にしないもっと大きな敵のために光っていた。人込みは我先にドラゴンから離れていった。

 シルヴィアを見つけた。

 尻もちをついて、涙を流して、ドラゴンから離れようと地面を後ずさっていた。

 ドラゴンが彼女を見つめていた。

 

「何かおおきなことをしなきゃだめよ。」

「生きているだけでめっけもんだよ。」

「勇者になって魔王を倒すとか。」

「最初の魔物で死んじゃうね。」

「財宝を見つけるとか。」

「財宝の脇の骸骨だね。」

「荘厳な景色を見つけるとか。」

「そこらへんの石ころだよ。」

「なんでそんなに自己評価が低いの!」

「正当に評価してこれなんだよ。」

「・・・まったく。」

「でも、いつか結婚はしたいね。」

「・・・相手なんか見つかるの?そんなので。」

「子供は欲しいけど、できなければしょうがない。それでもいい。」

「それでどうするの?」

「それで以上だよ。」

「どういうこと?」

「愛する女性を一人守るんだ。全力で。それだけできればめっけもんだよ。ぼくなんか。」

「・・・・・・・」

「格好いいでしょ?」 

「・・・バカ」


 きみを守るべき人込みは後ろへ逃げた。

 勇者なんていない。ここにいないなら意味がない。

 軍隊なんて役に立たない。きみを守ってくれなきゃ意味がない。

 人の価値に意味はない。自分をどうするかだけ。

 ぼくなんてなんの価値もない。きみを守れないなら。

 ぼくがすべきことを理解した。できることなんて何もないのはわかっていたけど。

 ぼく自身の気持ちを理解した。

 きみが好きだ。


 ドラゴンの姿を見せないようにした。きみを抱いた。

 驚いたきみは、ぼくを抱いてくれた。

 死が迫っているのはわかっていたけど、生きてきた中で一番幸せだった。

 ぼくたちを祝福するように、周りの人が見ているようだった。

 ひとつだけ頭によぎったことがあった。

 どうせならきみを引っ張って走るべきだっただろうか。

 やっぱりぼくは、その他大勢の、価値のない人間の一人。


「何かしたいことってないの?」

「見つからないね。」

「動画配信サイトを使って大金持ちになるとか。」

「人に見られるの嫌だな。」

「大企業に勤めて偉くなるとか、」

「がらじゃない。」

「荘厳な景色を見つけるとか。」

「ネットにのってるじゃん。」

「もうっ。なんでそんなにだらだら生きられるの!」

「なんでそんなに頑張れるの?」

「人生80年なら2万9千2百日しかないんだよ!」

「そんなにあるの?」

「バカッ。17歳の1日と80歳の1日は違うんだよ。」

「なんかそんな感じだね。最近月日が流れるのが早い気がする。」

「おっさんか。それだけじゃなくて、どんなときも全力で生きなきゃいけないんだよ。」

「それだと、矛盾しちゃわない?赤ちゃんもおじいちゃんも全力で生きるんでしょ?」

「もうっ!」

「でも、やりたいことは、ある。」

「なに?」

「結婚。」

「うおっ。」

「子供は欲しいけど、できなければしょうがない。それでもいい。」

「・・・・・・・」

「愛する女性を一人守るんだ。全力で。それだけできればめっけもんだよ。ぼくなんか。」

「・・・・・・・」

「格好よく・・・え?なんで、え、泣いてる?え、ご、ごめん。なにか悪いことをなにか」

 隠れて見ていた人が集まった。きみのことを非難して、背中をグーで叩いたりしていた。女の子の友達が、にらみつけていた。きみは小さくなった。

 違うの、話をしてて、感動することを言ったから、それでつい泣いちゃっただけなの。

 すごくいい言葉だったから、言わないけど、きっとすごいこと書くようになるよ。

 文才があるんじゃない?

 わたしがそういうと、叩いていたグーがパーになって、きみの背中をバンバン叩いて、ほめられていた。きみが照れていた。


「進路希望調査票だした?」

「うん。」

「なんて書いたの?」

「大学行くって。いろいろと勉強してみて、なんかライトノベルとか書けたらいいな、と思って。」

「ふーん。」

「・・・なに?ばかにしてる?」

「してないよ。良いと思う。」

「そう?」

「良いものを書いてね。全力で。」

「ライトノベルなのに。」

「ライトノベルを全力で書きなさい。真剣にふざけなさい。」

「・・・はい。」

「全力で生きたら、一番いいと思う。」

「きみみたいにね。」

「たまに格好よく返すね。」

「そうでしょ。」

「自分を卑下しすぎない方が良いよ。」

「・・・そうだね。」

 夢は起きる直前に見ているらしい。体がベッドから落ちるとき、脳が働いて落ちる夢を見た、夢と現実が一緒だったと思っているだけ。

 前世の記憶なんて、言ったら笑われるだろう。たぶん夢と同じ。そう思いたいから、作り上げているだけ。

 でも。

 あの時のきみの姿だけは、現実だったと思いたい。

 忘れられない夢の1つや2つ、誰だってあるはず。

 そういうことにしておこう。


「ねぇ、どこの大学受験するの?」



おしまい。


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