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執念

『ディノ!?』

『……! みんな! レヴナントよ!』

「な……!」


 ディノは宙を舞いながらアークの近くまで吹き飛ばされる。だが今ディノを貫いたのは、間違いなくレヴナントによる魔力波動。いち早く魔力の気配に気付いたディノは、俺をその攻撃から庇ったのだ。


「く……」


 ディノの様態は気になる。だが今は現れたレヴナントの対処の方が、優先順位が高い。既にスピノとプレシオは、封鎖領域を出て通路へと戻っていた。


「俺も……!」


 《レグナム》を動かし、封鎖領域を出る。目の前の通路には7体のレヴナントがその姿を見せていた。


『こいつら……! どこから……!』

「殿下のお付き仲間か、それかアークの瘴気によって早い段階からレヴナントになっていた者たちだろう……! レヴナントになった奴らはみんなここを目指しているんだ、早く片付けてさっさとアレを捨てに行くぞ!」


 レヴナントは全員、クラス3以上の魔力を持っている。さっきといい、これほど高レベルの魔力を持つレヴナントがここまで発生するのは異常だ。やはり例の新鮮な瘴気とやらが関係しているのだろうか。


『く……! あまり大きな魔力は使えないけど……!』


 7対3。俺たちは互いにカバーし合いながら戦闘を開始する。


(……っ!? 何故だ、レヴナントの放つ魔力の気配が感じ取りにくい……!)


 これまで魔力による不意打ちなど受けた事がなかった。だがさっきはディノに庇われるまで、まるでその存在に気付けなかった。今も視界にいるレヴナントの魔力は感じ取れるが、普段よりもキレが悪い。考えられるとすれば。


(瘴気濃度……!? 魔力持ちも瘴気によって生み出される、関係はあるんだろうが……!)


 原因が分かったところで、対策は打てない。俺は意識を切り替えて目の前のレヴナントに集中する。


『っ、この……!』


 レヴナントは個体能力が高くとも、連携や仲間の援護という概念はない。油断はできなくても、決して負ける相手ではない。ましてや、ここにいるのは最高クラスの公殺官なのだ。


「うおおお!」


 器用に細かな動きを織り交ぜながら、展開したブレードでしっかりと斬り伏せていく。対魔力装甲板の耐久性もそろそろ限界だな……!


『やあああ!』


 箱舟にあとどれくらいのレヴナントが残っているのかは分からない。だがそのいずれもアークを目指しているんだ。第二波が押し寄せる前に、片を付けなければ……! 途中でブレードを換装しながら、何とか7体全てのレヴナントを撃破する。


「く……! 二人とも無事か……!?」

『え、ええ……』

『魔力が戻りきっていないのに、連戦はきついね……』


 とにかくここは片付いた。ディノの様態も気になる。


 早く戻ろう。そう言いかけた時だった。


「……!?」


 通路の奥からソレは現れた。並のレヴナントよりも一回り大きな体格。その特徴的な手足には見覚えがあった。


『なに……あれ……』

『まさか……』


 ソレはゆっくりとした動作で進んでくる。だがその巨体から繰り出される一歩は大きなものだった。


「シュウウウウゥゥゥゥ……! アア……アーグウゥゥゥ……。ワ、ワガメガミイィィィ……!」


 間違いない。アレグドアンだ。


「生きて……いたのか……」


 だがクラス7もの魔力波動をまともに受けたのだ。その全身は焼かれた様にくすんでおり、今も全身から黒い血を吐き出していた。


 さっきまでとは違い、胴体も頭部も黒い外骨格に覆われている。だがかろうじて口の周囲のみが、不気味に元の人間の形状を保っていた。


「アア……アアアアアアア!! フクインヲ、チョウアイヲ、シュクフクヲォォォ!!」

「……っ! やるしか……ねぇ!」


 スピノもプレシオもまだしばらく全力は出せないだろう。俺は《レグナム》の出力を上げると、勢い任せてアレグドアンに接近する。


「おおおおおお!!」

「ヴォアアアアア!!」


 大振りな腕撃を躱し、腕が伸び切ったところに確実に手傷を負わせていく。だが想定していたよりも手ごたえが硬い……!


「この……!」


 しかし通常のレヴナントよりでかい分、攻撃は当てやすい……! 振り下ろされる腕撃を両手に握ったブレードをクロスさせる事で受け止める。そのまま腕を切り落とす様に刃を走らせた。


「ジャアアアアアア!!」

「く……!」


 イメージではこれで腕を切り落とせるはずだった。だが大きく斬れたものの、切断には至らなかった。


 アレグドアンは全身を青く輝かせると、正面に向けて放射状に魔力による閃光を放ってきた。


『ダイン!』


 スピノの鋭い声が飛ぶ。俺は斜め前方に全力で駆け抜ける事で、アレグドアンの攻撃を躱す。距離が開いていたためか、スピノとプレシオも上手く対応できた様子だった。


「この……!」


 目まぐるしく変わる状況に合わせ、今できる最善の攻撃を繰り出す。どちらにせよ魔力持ちのレヴナントに有効な攻撃なんて、接近戦以外にはないのだ。ためらいは自分を敗北に引き込むだけ。俺は果敢に飛び込み、接近戦を挑んでいく。


「あんたも……! しつこいな……!」

「ガアアアアア!!」

「お目当ての女神様を前にして、高揚が止められないってかぁ!? 残念だったな! あんたの女神はもうすぐ地上に捨て去られる!」


 狙いもつけずに魔力を放射しつつ、ごうかいに腕を振りかぶってくる。こいつも元々満身創痍なんだ、いくら強大な魔力を持っていようと、動き自体にキレがある訳じゃない! 


「く……!」


 だがそれに俺が全て対応できるかは別問題。《レグナム》も無傷ではないんだ。ブレードを振り抜き、僅かに硬直したところにアレグドアンの拳が迫る。


『ダイン!』


 だがそこに青い魔力閃光が迸る。それはスピノが放ったものだった。


『うあああああ!!』


 さらにプレシオも《ルクシオ》を動かし、アレグドアンに迫る。そのまま流れる様な動作で太刀を構えると、魔力波動を放った。


「ヴルァアアアア!!」


 直撃だ。それにしても二人とも……! まだまともに回復していない魔力で無茶をして……! 


 アレグドアンはかろうじてその場に踏みとどまる。だがこの隙を逃す俺ではない。


「おおおおおお!!」


 両手に握ったブレードで次々とその肉体を切り刻んでいく。途中で右手に握っていた最後のブレードが折れる。これで残りは左手に展開されているブレードのみ。


「いい加減……! 倒れろ……!」


 夢にまでみたレヴナントになれたんだ。ここまで暴れられて、てめぇも本望だろ……!


「うおおおお!!」

 

 倒れ込むアレグドアン。その顔面、口に向けてブレードを突き刺す。そのままブレードをパージすると、脚部に内蔵された大口径の銃をアレグドアンの腹部に密着させる。


「くたばれ、バカ殿下……!」


 そのまま全弾叩き込む。銃は一瞬で暴発して壊れたが、アレグドアンの肉体には見た目で分かるほどの深手を負わせる事ができた。《レグナム》の全身には瘴気に侵された黒い血がこびりついている。


「はぁ、はぁ……! こりゃまたメンテに時間がかかりそうだな……!」


 《レグナム》の各部をチェックし、損傷具合を確認する。装甲各部ボロボロではあったが、コックピット部は異常なかった。


 心の中で改めて、ディアヴィの仕事に感謝を捧げる。


「さすがにもうこいつも動けないだ……」


 しかし最後まで言葉を言い切る事はできなかった。アレグドアンは全身を痙攣させながら、なおも立ち上がったのだ。


「おいおい……!」

『そんな……!』

『く……! もう一度、魔力波動を……!』


 レヴナントの生命力は大きさに比例するのだろうか。ここに来た時よりもさらに大きな深手を負いながらも、アレグドアンは再び魔力を収束し始める。


(くそ……! もう武器もない……! こうなれば……!)


 こいつに体当たりを仕掛けて、とにかく封鎖領域から引きはがす! そう決意した時だった。後方から放たれた青い閃光が、アレグドアンの顔を貫く。


「あ……」


 振り向くと封鎖領域入り口にディノが立っており、その指先はアレグドアンに向けられていた。

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