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アレグドアンとレヴナント

『なに……あれ……』

『レヴナント……いや、人……!?』


 黒い足は倍に伸び、腕は大きく膨れ上がっている。胴体も黒い外骨格に覆われつつあったが、その顔だけは不気味なほど元の人のままだった。


「すばらしい……! は、はは……! 時折報告に聞く半レヴナント……! そうか、やはり王たるものレヴナントへの転生の仕方も、特別なものになるという訳か……!」


 アレグドアンは腕を伸ばし、手のひらを開いたり閉じたりという動作を繰り返す。


 信じられないが……アレグドアンは今、自分の意思でレヴナントとなった身体を動かしている。


「ああ……! この肉体になったからか……! アーク、我が愛しの君……! あなたが呼んでいるのが分かる……! は、ははは……! これがあなたの祝福なのですね……!」


 今もメキメキ音を立てながら、外骨格は成長を続けている。顔はアレグドアンでもあれはもはやレヴナント。人ではない。


 そしてルーフリーの時とは違い、今の俺には躊躇いはない。俺は脚部に内蔵された銃口をアレグドアンの頭部に向けると、そのまま発砲した。


「な……!」


 あり得ない。この距離だ。反応できるはずがない。だというのにアレグドアンは素早く腕で顔をガードし、銃弾を防いだ。その黒い装甲板にはまったく傷が付いていない。


「んんんー! 駄目ではないか、公殺官くん。レヴナントの王たる私になんと無礼な……。最近の平民は貴族に対する敬いの念を消失しているようだね……!」

「おめでたい野郎だ……! 半レヴナントとして意識があるのは今だけ! その内全身レヴナントになり、完全に自我を失った化け物になるだろうよ……!」

「それが何か?」


 アレグドアンは全く気にした素振りも見せず、笑みを深める。


「元々レヴナントとして転生できるのであれば、意識が有ろうとなかろうと関係ない事だよ。むしろ完全な女神の僕となるまでに、こうして人としての時間を与えてくれたのだ……! その幸運を、女神の眷属となれる快感を噛み締められるのだ……! ああ、私は世界一の幸せ者だよ……!」


 アレグドアンはその両目から涙を流す。


 なんて奴だ……! 本当にレヴナントになれる事に、喜びを感じてやがる……! しかも女神ときたか。アークというのはもしかして……。


「だがここに楽園に相応しくない者たちがいる……! レヴナントの王にして女神の伴侶、その私に対する数々の無礼……! さらに同胞を殺め、今も女神からの祝福を受け入れぬ異教の信徒! 邪悪なる人間種! 特にそこの二人は、人の身でありながら魔力という祝福を授かっているというのに! それを私利私欲のために振るうとは……! 私の意思が完全に女神のものとなるその前に! お前たちだけは我が手で片付けなければなるまい……!」

「…………!」


 最悪だ。たった今、《レグナム》の計器がアレグドアンからクラス5の魔力を検知した。つまり半レヴナントで人としての意思を保ったまま、魔力まで使えるという訳だ。おまけにこちらに対する敵意も持っている。


 こいつはレヴナントになる事を受け入れている。レヴナントになる事を拒否し、死を願う者たちとは根本から違う生き物なのだ。


「二人とも……! ここから離れろ……!」

『ダインは……!』

「俺はここであいつを食い止める! 二人はその間、下に降りてくれ!」


 《レグナム》もさっきの戦いで大きく消耗しているが、魔力のない二人よりは戦える。ここは俺がやるしかない……!


『だ、だめよ、ダイン……!』

『そうだ……! これは僕の誓いだ、君を守るのはこの僕だ……!』

「ばかやろう、そんな事言っている場合じゃ……!」

「お別れの挨拶は済んだかね!? 私も暇ではないのだ! 君たちを片付けた後、意識がある内にエテルニアを停止させなければならないのだからねぇ!」


 そう叫ぶと、アレグドアンはその巨体の腰を落として身を屈める。駆けだすための溜めを作っているのだろう。


「いくぞ……!」


 くる……! そう思い、身構えた瞬間。上から新たな魔力の気配を感じた。


「っ!?」


 どこからともなく飛んできた青い閃光。それは俺たちではなく、正確にアレグドアンを狙ったものだった。


「がはぁ!」

『え……!?』


 アレグドアンをその場に釘付けにするように、続けてさらに魔力波動が撃ち込まれる。


「な、な、な!? 誰だ、新たなアポストルか!?」

 

 上空を素早く駆けながら、一体のレヴナントが近づいてくる。そのレヴナントはボロ布を纏っており、大きさは成人と変わりない。そしてまるで人間の様な輪郭を持っていた。《レグナム》の計器が計測した魔力はクラス7。


「あ……!」


 レヴナントはまるで……いや。確実に俺たちを庇うためだろう。着地すると俺たちには背を向けたまま、正面のアレグドアンと対峙した。


『え……なにが……』

『レヴナント同士の争い……!?』


 間違いない。俺はトーンを落とした声で呟く。


「兄さん……ディノだ」

『え……』

「きき、きさま! レヴナントでありながら、王たる私に……!」


 アレグドアンの言葉が終わるよりも早くディノは駆けだす。その速度はこれまで戦ってきたどのレヴナントよりも早い動きだった。


「ぶへぇ!?」


 ディノはアレグドアンに距離を詰めると、肉弾戦でその肉体を壊していく。


 通常、魔力持ちのレヴナントには特殊な空間が展開されており、ノア・ドライブやアーク・ドライブによる攻撃以外ではまともに傷を付けられない。だというのに、ディノの振るう拳はどれもアレグドアンに大きな手傷を負わせていた。


「こ、この……! 離れろぉ!」


 アレグドアンはその剛腕を振るうと同時に、魔力波動を放つ。だが大振り過ぎて、ディノの速度を捉えきれていない。ディノは少し距離を取ると、指で鉄砲の形を作る。次の瞬間、その指先から青い閃光が走った。


「ぐぅ!?」


 あまりの速さにアレグドアンは避ける事もできず、ディノの攻撃を受ける。だが致命傷にはなっていない様子だった。


「なんと無礼な奴だ……! こ、こんな小さなレヴナントに……!?」


 だがアレグドアンは言葉を続ける事ができなかった。ディノから急激に高まる魔力の気配を感じ取ったのだろう。その強大さは、アレグドアンの持つ魔力とは文字通り桁が違った。ディノを覆う外骨格の形状が変化していき、全身を青く輝かせていく。


「ばかな……! こ、こんな奴が……! み、認めない! 小さく矮小なレヴナント如きに、王たる私が劣るなど! 女神よ! どうか今一度、私に祝福を! この無礼者たちを誅する大いなる力を! 授けたまえぇぇぇぇ!!」


 アレグドアンはディノに向かって駆けだす。だがディノは身を屈めると一瞬でアレグドアンの背後を取り、そのままその背を蹴って上に飛ぶ。


「え……」


 背を蹴られてバランスを崩したアレグドアンは、その場に倒れ込む。そこにディノは容赦なく、強大な魔力波動を撃ち放った。


「ば、ばか、ばかなあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! おの、おのれええぇぇぇえええぇぇぇぇ!!」


 特大の閃光、地下空間全体を青く染め上げるかの様な輝きが空間を支配する。青い閃光が収まった時、そこには巨大な穴が空いていた。


 だがかつてディノが空けた穴とは違い、そこまでの深さはない。何故なら大穴を覗き込むと、地上の姿が見えていたからだ。


『これが……クラス7……』


 クラス7。観測史上最高クラスの魔力。その輝きを直に見たのは二度目だが、やはり凄まじいものがある。


『これは……いくらアレグドアンといえど……』

『ええ。完全に消滅したでしょうね』


 おそらく意識しての事だとは思うが、上や横ではなく、下方向に向けて撃ってくれたのは僥倖だった。箱舟の底に穴を開けるという作業も必要なくなったしな。


『それより。あれがディノ……!?』

「ああ、間違いない。ディノは……?」

「ここだ」

『!?』


 近くから俺やプレシオとは違う、男性の声がする。そこに視線を向けると、影から一人の男性が姿を現す。


 ボロ布を纏ったその男性は、以前大穴の底で話した人物。俺の兄、ディノだった。

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