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アレグドアンの命運

「ふふ……ふははははははは! どうやら皆、私の窮地に駆け付けてくれたらしい……!」

「何言ってやがる……!?」

「ここまで私が一人で来たとでも思っていたのか!? 私と志同じくする同志たちと共に来たに決まっているだろう! だが一人、また一人と瘴気の影響で脱落していったのだ! しかしその場でレヴナントになられ、私の身に万が一の事があればまずいだろう? そこで……」

『瘴気の影響が出始めた者は、下に落ちていったという訳ね……!』

「その通りだ! まさかレヴナントとして転生し、こうして忠誠を見せてくれるとは……! やはり人をレヴナントに導くのは、天が定めた私の使命なのだ!」


 寝言を言いやがって……! おそらく俺が立てた音に反応し、地下からここまで上がってきたのだろう。


 全部で10体以上、しかもそのどれもがクラス3以上の魔力反応が検出されている。ここまで高レベルの魔力持ちがそろうとは。新鮮な瘴気とやらが関係しているのか……!?


『ダイン!』

「やるしかない! レヴナントを狩りつつ、アレグドアンの身柄を確保する!」

『……了解!』


 スピノは細見の槍を構え、プレシオも太刀を振り抜く。俺も左手のブレードを展開し、バックパックから大型ブレードを取り出した。


「いくぞ!」


 真っすぐにアレグドアンに突っ込む。だが複数のレヴナントが俺の動きを阻んだ。


 四方から放射される魔力波動に、レヴナントの腕撃。いくら魔力持ちとはいえ、1対1なら苦戦はしない。だが常に複数方向からの攻撃に対応しながらとなると、さすがに苦戦を強いられる。


「くそ……!」


 格闘戦に持ち込み、魔力を使う暇を与えなければ戦いやすい。だが万が一にも、魔力波動による攻撃は直撃を受けてはならない。


 脳裏に思い浮かぶのはルーフリーとリノアの顔。公殺官はレヴナント……とりわけ、魔力持ちと戦う時には自らもレヴナントになるリスクが高いのだから。


「どけっ!」


 俺は持ち前の魔力に対する気配察知を活かし、攻撃を躱しながらレヴナントの一体に直接ブレードを叩き込む。今思えば、俺の魔力に対する感受性の高さは、実験の産物なのかもしれない。


「つぇいっ!」


 さらに別のレヴナントの顔面にもブレードを叩き込む。効かないのは分かっているが、脚部に内蔵された銃も牽制で使用する。


 遠目にスピノたちを見ると、二人も何体かのレヴナントを倒している様子だった。しかし未だにレヴナントが減っている気配はしない。これは……。


『ダイン! レヴナントが増えている!』

「やっぱりか……!」


 くそ……! 対魔力装甲も、いつまでも防ぎきれるものじゃない……!


「はははははは! いいぞ! それでこそアークより祝福を受けし信徒だ!」


 アレグドアンはこちらの様子を遠目に確認すると、巨大な扉の方に向かって駆けて行く。


「待ちやがれ……!」


 状況は最悪だ。多数の魔力持ちレヴナントに囲まれ、アレグドアンは今まさにエテルニアを停止させるべく足を動かしている。せめてアレグドアンを止めなければ……!


「く……!」


 レヴナントの攻撃を躱しながら、俺は大きく上空に飛ぶ。そのまま中空で、脚部に内蔵された銃の照準をアレグドアンに向けた。


(対レヴナントを想定した銃だ、人に当たれば身体は木っ端微塵だろう……! そうするとエテルニアには二度と干渉できなくなる……!)


 つまりこれから先、エテルニアに何か異常が起こっても、それを確認する事すらできなくなるという事だ。


 どうせ殺すのであれば、扉を開けさせてからの方が良いのではないか。いや、しかし。


「はは、はははは!! 誰もぉ!! 我が天命をぉ!! 止める事など、できないっ!!」


 ここまでレヴナントがうろついているんだ、扉が開くと狩り損ねたレヴナントが中で暴れる可能性もある。


 僅かな逡巡、確かな迷い。俺の戸惑いは、アレグドアンの命運を大きく分けた。


「がっ……!」

「な……」


 アレグドアンの叫びに、近くにいたレヴナントが反応したのだ。そのレヴナントはアレグドアンに近づくと、その顔面を大きく殴りつけた。破壊されたガスマスクが宙を舞う。


 人とレヴナントでは体格差に大きな違いがある。今ので下手すればアレグドアンは死んだだろう。地に落ち動かなくなったアレグドアンを確認すると、レヴナントは再びこっちに迫ってきた。


『ダイン! どうするの!?』

「くっ……! 元々何百年も開いてなかった扉だろ! 殿下は仕方がない! それよりこいつらをこのままにはできない! 何とか仕留めきるぞ!」

『仕方がない……! スピノ!』

『ええ……!』


 スピノの《グランヴィア》とプレシオの《ルクシオ》。それぞれの機体に青いラインが走り、装甲の一部が展開される。


 ここからは魔力も使用し、一気にアーク・ドライブの出力を上げるつもりなのだろう。俺も各部スラスターを吹かせながら縦横無尽に移動し、確実にレヴナントを屠っていく。


『これでぇっ!!』


 プレシオの振るう太刀から魔力波動が迸り、複数のレヴナントを巻き込む。スピノもレヴナントに押し当てた手の平から青い閃光を一閃させ、レヴナントを一撃で仕留めた。


「お前で……!」

『最後だ!』


 プレシオの太刀がレヴナントの胴を寸断し、俺のブレードが頭部を破壊する。各部いくつか損傷したものの、何とか片が付いた。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……! 久々にハードだったな……!」

『うん……。 しばらく激しい動きはできないよ……』

『僕も……!』


 《レグナム》でなければ、確実に致命傷をもらっていた。俺は改めて、今日まで機体を調整してくれたディアヴィに心の中で感謝する。


「これから……どうする……?』

「……殿下がああなった以上、第二案に移るしかないな」

『第二案……。封鎖領域に向かい、箱舟の底に穴を開けてそこからアークを落とすというやつだね』

「ああ。力技だが、確実性は確かだ……」


 瘴気の発生源さえなくなれば、時間はかかるが箱舟の底に空いた穴から残りの瘴気も抜けていくだろう。問題は封鎖領域がどこにあるかだ。


「一度通信が回復するエリアまで戻って、PEKラビットが封鎖領域を見つけていないか確認を行おう。だがこのエリアは瘴気が流れ込んでおり、下に行くほどその濃度が濃い。おそらく封鎖領域はこの近くだ」


 地表にあふれ出た瘴気が上から流れ込んできているのではなく、下から瘴気が這い上がってきているのだ。これは封鎖区画とここの区画が、どこかで繋がっている可能性を示唆している。


『という事は。通信が戻ってPEKラビットの探索状況を確認しても、見つけられていない可能性が高いんじゃ……?』

「……そうだな。プレシオの言う通りだ」


 プレシオが何を指摘したいのかを感じとる。元々通信状態の関係で、PEKラビットはこの深度まで入ってくる事ができなかった。そして瘴気濃度を考えると、おそらく封鎖領域はここと似た深度にある。つまりPEKラビットが活動できないエリアだという事だ。


『せっかくここまで潜ったんだし。このまま私たちで封鎖領域を捜索する……?』


 その方が良いか。ライアードにこちらの状況を伝えておきたい気持ちもあったが、これまできた道のりを考えると、時間を大きく消費する事になる。


 そして通信が繋がったところで、ライアードなら俺と同じくこの近くに封鎖領域があると考えるだろう。


 俺がライアードの立場なら、再びエテルニアのある区画まで戻って封鎖領域を探索する様に指示する。つまり無駄足になる可能性が高い。


 一応、ティラノの手が空いたらここまで寄越してくれるかもしれないが……。


「……そうだな。しばらく休憩して二人の魔力がある程度戻ったら、このまま下に降りてみよう。レヴナントどもも駆けあがってきたんだ、ワイヤーを使えば降りる事もでき……!?」


 異様な気配を感じ、俺は扉のあった方に《レグナム》の向きを変える。そこには黒い外骨格で手足が覆われた男が……いや。アレグドアンが立っていた。


『え……!?』

「ふ……ひ。ひひ……! いいぞ……! わた、私は! 選ばれたぁ……!」


 半レヴナント。人からレヴナントに変異する過程に身を置く者。俺にとってはルーフリー以来となる存在だった。

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