表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/61

皇城の地下空間

 ライアードとルナベインの会話は常にオープンにされており、皆が集まった時には全員状況を共有できていた。


『まさか既に殿下は、次の行動に移っていたなんてね』

『でもここに居ない事は分かったんだし。皇宮に乗り込んだ収穫はあったんじゃない?』


 その通りだ。そして俺はリノアの妹を救う事ができた。それにしても、リノアの家系は箱舟内において結構重要な家だったんだな。


「ライアード統括官。指示を」

『……ああ。ここからは2人、ルナベイン嬢と共に操舵室へ向かってもらいたい』


 現状、レヴナントの姿が確認できない以上、俺たちを固めて運用するメリットは薄い。それよりもエテルニアが停止した場合の事を考え、今は箱舟 《アルテア》を近くにある高所に降ろす必要がある。


 ライアードはそう考え、ここからさらに俺達を二手に分ける事を提案した。


「お待ちを。操舵室の入り口は、機鋼鎧が入れる大きさはありません。私が箱舟を操舵している間、公殺官の方には入り口を封鎖してもらっていれば、それだけで護衛としては十分。この事態に2人も私に割く必要はありませんわ」


 ルナベインは先ほどから変わらず、淡々とした口調で話していく。喜怒哀楽の表現が豊かなリノアとは真逆の印象だ。


『……分かりました。では1人、ルナベイン嬢の護衛を。残りはエテルニアが収められている区画へ向かってもらいたい。おそらく殿下と会う可能性が高いだろう。一度は説得してくれ』

「了解」


 一度は説得、ね。ライアードはそれ以上の言葉を続けない。


 封鎖区画の封印を解き、今もエテルニアを停止させるために動いているのだ。説得などはなからできるはずがないのは分かっているだろう。


『ルナベイン様の護衛には私がつくよ』

「プテラ……」

『こっちの方が面倒が少なそうだし。スピノ、プレシオ。ダインをよろしく』


 正直に言うと、ルナベインの護衛は俺が務めたい。だがプテラがやる気を出してくれているのと、ここで口を挟んで時間を浪費するリスクを考え、俺は何も言わなかった。


『ルナベイン嬢。操舵室はどこに?』

「皇宮の最上階。そこに操舵室はあります」


 近いな。だから皇宮に逃げ込んでいたのか。


「エテルニアの納められた区画を把握しているのは、一部の貴族だけです。殿下の事ですから、知っている者たちは既に手を打たれているか、信奉者となっているでしょう。ですが皇宮から出てきた事を考えると、移動経路は外にあると思います。そして箱舟 《アルテア》の根幹を形成する重要区画に繋がる入り口となると……」

『皇城ですね』

「おそらく」


 互いに情報交換を終え、ルナベインはプテラに守られながら去って行く。


 ここは瘴気の影響がないからレヴナントはいないと思うが、ローグが潜んでいる可能性もある。二人の無事を祈りつつ、俺たちは皇城へと向かう。途中、オリエから現状の共有が行われた。


『現在、地下空間に複数のPEKラビットを放ち、封鎖領域の場所を探索中ですが。皇城にもいくつか予備のPEKラビットを回しましょう』


 確かに小型ドローンであるPEKラビットは、こうした探索にはうってつけだ。オリエの話によると、地下空間で瘴気濃度の濃い場所を優先して探索を進めているとの事だった。


『……! ダイン、あれ……!』

「ああ、皇城入り口だな……!」

 

 皇城は箱舟後部に位置し、もっとも高さのある建築物だ。外災課ビルの屋上から遠目に見る事もできる。


 ライアードの話によると、今は貴族が集うパーティ会場以上の意味はないとの事だった。


『昔は政を司っていたそうだがね。構わない、そこも遠慮なくやってくれたまえ』

「了解!」


 皇宮と同じく、皇城の入り口も派手に破壊する。ここも天井がとても高く、機鋼鎧でも移動ができる空間が確保されていた。


『PEKラビット、突入します!』


 オリエの声と同時に、10以上の小型ドローンが真横を駆けていく。さすがに中は広いからな。探索の手間が省けるのはありがたい。もっとも、操作している司令室は大変だろうが。


 俺たちも分かれ、城内を探索する。だがやはり最初に見つけたのはPEKラビットだった。


『地下へ続く階段の入り口が開いています! 側には武装した男性が2人、待機しています! 座標を転送します、確認してください!』


 オリエから送られてきた座標を頼りに、移動を開始する。壁をぶち抜いて直進したためか、俺が最初に辿り着いた。


「これは……」


 そこには確かに地下へと繋がる扉があった。そしてそこを守るかの様に、銃を手にした男が2人立っている。男たちは近くを飛ぶPEKラビットと、突如現れた機鋼鎧に驚いた様子だった。


「な……! 機鋼鎧だと……!?」

「……ローグだな。答えろ、殿下はこの先か?」


 《レグナム》に乗ったまま、分かりやすく威嚇する。十中八九、ここが当たりだろう。


 地下へ続く入り口に、そこを守る武装した男たち。きっと後からきた者たちの足止めに配置させられていたのだろうが、まさか機鋼鎧がくるとは考えていなかったに違いない。


「何度も同じ質問をさせるな。殿下はこの先だな?」


 脚部に内蔵された銃口の照準を向ける。人の身で機鋼鎧に勝つ術は存在しない。それをよく理解しているのか、男たちの判断は早かった。部屋に銃声が轟く。


「な……!?」


 一瞬だった。男たちは自らの頭部に銃口をつけると、そのまま引き金を引いた。しばらくしてプレシオとスピノが到着する。


『ダイン……!?』

「なんの躊躇いもなく、自殺しやがった。そこまでして……」


 相手が生身の人だったら、自殺なんて手段は選んでいなかっただろう。だが絶対に勝てないと判断するや、何も言わずに死を選んだ。


『……PEKラビットを先行させます。みなさん、続いてください』

「……了解」


 入り口は機鋼鎧が入れる大きさは無かったが、プレシオは自らの駆る《ルクシオ》のバックアップから片刃の太刀を引き抜くと、一歩前へと歩み出る。


『ここは僕に任せて』


 同時に、《ルクシオ》に青いラインが光り始める。高まる魔力の気配。やがて青いラインは太刀にも行き届いた。


『シャアッ!!』


 一閃。太刀を振るうと同時に迸った青い閃光は、入り口を大きく崩壊させる。光が収まった時、そこには円形状に大きくくりぬかれた穴が空いていた。


「すげぇな……」

『一撃だけなら結構な威力だけど。加減がきかないのと、魔力の消費が激しいのが難点かな。だからこそこういう場面では使いやすいんだけど』

『私たちの持つ魔力は、全員その特性に個体差があるの。私の魔力は対個人には相性が良いけど、プレシオの様に広範囲を巻き込む使い方は難しい』


 魔力にも個体差がある、か。考えてみればレヴナントもそれぞれ魔力の規模が異なるんだ、当然かもしれない。  


 俺たちはプレシオが空けてくれた大穴を降り、地下空間の探索を開始する。幸い明かりはついており、視界は良好だった。


『多分殿下たちが通ったから、ここにも明かりを灯せるだけの動力が回されたのね』


 入り口の印象とは違い、地下は広かった。元々箱舟は地下空間の方が余っているからな。多少大雑把な造りになっているのだろう。もしくは大型の機材を運びやすい様にしているのか。


 いくつか分かれ道があったが、俺たちはPEKラビットが見つけた地下階段を中心に進んで行く。そうして5つ目の階段を降りた時だった。


『みなさん! そこから先は瘴気反応があります! お気を付けください!』

「なに……」


 計器を確認すると、確かに瘴気反応があった。濃度は薄いが、人体への影響は無視できないものだ。空間も地下に進むほど、どんどん広くなっていく。


(他の区では瘴気が地表に漏れ始めている中、ここは地下に進む事で瘴気の反応が現れた。おそらく、ここの地下深くは……)


 どこかで封鎖領域に繋がっている。放っておくと、そのうち皇城から瘴気が漏れ出ることになるだろう。  


 この事はライアードも気付いたはず。そう考えつつも、周囲に警戒している時だった。再びオリエから通信が入る。


『地下への階段を発見しました。ですが、ここから先はPEKラビットの操作ができません。無線操作ではこの階層が限界です』


 オリエの通信をライアードが引き継ぐ。


『降下船に中継局を設置するべきだった。すまない、私のミスだ。ここから先は通信状況も悪くなるだろう。もし通信が途絶えた時は、各々に判断を委ねる』

「了解だ」


 降下船の数やスペース、それらを扱える人材も限られているし、今は緊急事態の目白押しで入念な準備よりも迅速な行動が求められる。  

  

 ライアードは己の非を認めたが、それを責める気にはなれなかった。俺たちは周囲に待機するPEKラビットを横目に、階段を降り始める。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ