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激動の皇宮 操舵者に連なる者

 プレシオとの会話が終わった折、ライアードから声がかかる。どうやらこちらの話が終わるのを待っていてくれた様だ。


 しかしまさか俺が元気付けられる事になるなんてな。プレシオたちの気持ちは、素直に嬉しかった。


「《ユーノス》は現在、箱舟上空に向けて上昇中だ。間もなくクリアヴェールを破り、突入の指示が出るだろう。先ほど資料を転送したが、改めて最終確認を行う」


 ライアードはここからの段取りを話していく。まずは《ユーノス》の砲撃で箱舟上空を覆うクリアヴェールを一部破壊、その後、空いた穴から七機の降下船を2区にある評議堂に降下させる。


 俺たちはそのまま1区にある皇宮へ向かい、殿下の捜索を行う。そして他の地上降下班の面々は、評議堂に避難する貴族たちを降下船に乗せ、ピストン輸送で《ユーノス》に避難させる。


「しかし評議堂近辺にレヴナントが出ないとも限らない。第八の地上降下班も武装しているとはいえ、レヴナント相手では取れる手段が限られてくる。少ない戦力で申し訳ないのだが、ここで一人護衛に残ってもらいたい」


 それはそうだ。レヴナントでなくとも、ローグなんて輩も徘徊しているのだから。ここで一歩前へ出たのはティラノだった。


「それなら俺が適任だろう。俺の《ネイキッド》は重量型だからな、一か所に陣取っての防衛なら得意分野だ。性には合っていねぇが、こそこそネズミを追い立てるより相性が良い」

「……意外。あんたがそんな事を言うなんて」

「はん! 美味しい役を譲ってやるんだ、へましやがったら許さねぇからな!」

「いや、美味しくないし……」


 ティラノは2区に残り、俺たちは1区を目指す。だが殿下が見つからなかった時の第二案をいつ決行するかも考えなくてはならない。


「降下後は常に通信状態をオンにしておいてくれ。都度指示を出す」

「つまり第二案への切り替えタイミングは、統括官の裁量で行われるという事か」

「そうだ。また一度降下すれば、機鋼鎧の修復やエネルギーの補充は限られてくる。その点にも十分気をつけてもらいたい。ノア・ドライブは場所によっては補給できる可能性もあるが、その辺りアーク・ドライブはどうなんだね?」


 ライアードは視線を別方向に投げる。そこには帝国技術院のスタッフ、ミルヴァが立っていた。こうして顔を見るのは随分久しぶりだ。


「アーク・ドライブは搭乗者の魔力に依存します。そして魔力は……」

「ノア・ドライブより継戦能力は高いよ。でも出力を上げすぎたり、強い魔力波動を放つと一時的に魔力を喪失する。あくまで一時的なものだけど、それまではまともに動かせなくなる」


 ミルヴァの説明をスピノが引き継ぐ。通常出力ならかなり保たせる事ができるが、状況次第では強力な力と引き換えに行動不能になる、か。


「少なくとも派手な戦闘にならない限りは、ノア・ドライブよりも安定性は上か。今回の任務にもってこいの性能だ」


 降下してからの行動について一通りの目線合わせが終了すると共に、ライアードの情報端末から音が鳴る。


「……む。クリアヴェールへの砲撃が開始されるようだ」


 ライアードの言葉が終わってしばらく、艦内に放送が入る。


『2区上空、クリアヴェールの破壊を確認! これより《ユーノス》を近づけます! 地上降下班は所定の位置へ移動開始してください!』

「諸君、出番だ。あいにく私はアーマイク四位ほど気の利いた事は言えないが。諸君が作戦を遂行し、無事に帰還してくれると信じている」


 俺たちは視線を交わしながら小さく頷くと、小走りで部屋を出る。既に降下船にはそれぞれの機鋼鎧が1機ずつ積まれている。


 機鋼鎧へは箱舟降下中に搭乗し、2区に着陸したと同時に行動を開始する。さて。問題の殿下とやらが早く見つかるといいのだが。





『降下船、順次行動を開始してください!』


 降下船後部に運ばれていた《レグナム》に乗り込み、俺はその時を待つ。かつて俺が設計した《ラグレイト mk-2》をベースに、ディアヴィが今の時代に合わせて設計し直した傑作機。


 《ヴァリアント》の試作品らしい尖った出力はなくとも、「製品」としてつきつめられた高次元で安定した性能は、このミッションにもってこいだろう。俺は《レグナム》の中で静かに待機する。


『2区に到着! 各位、健闘を祈ります!』


 合図と同時に目を開ける。降下船は後部デッキを大きく展開した。そこから《レグナム》を駆って外へと出る。降下船が降りたった場所は、評議堂前にある大きな広場だった。


「こんな時じゃなければ、ゆっくり見て回りたいところだが……!」


 何せ10区内……それも2区に足を踏み入れる機会なんて、おそらく一生ないからな。


 他の降下船も近くに降り立ち、次々と機鋼鎧が出てくる。しばらくして気密性の高いスーツを装着した第八の地上探索部隊が何人も降りてきた。


『それじゃ俺はここに残る。《ネイキッド》の火力なら降下船くらい守り切れる。……頼んだぜ』

『よろしくー』

『ティラノ。また後で』

『……行こう、ダイン』

「ああ。ティラノ、ここは頼んだ!」


 俺たちはあらかじめ打ち込まれていたナビの指示に従い、移動を開始する。途中、オリエから声が入った。


『各員、異常はありませんか!?』

「こちらダイン。全員なんともない。予定通りだ」

『分かりました。箱舟上空から計測した限りですが、現在瘴気反応は4区から12区で確認されています!』

「思っていたより広大だな……!」


 4区か。近いな。あまり猶予はないか……?


『とはいえ、地表部分で確認できる瘴気濃度は極めて薄いものです。おそらくまだ本格的に溢れかえるほどではないのでしょう』

『地下も広いからねー。どのくらいの速度で瘴気が生み出されているかは知らないけど、アンダーワールドが瘴気で充満するにはまだまだ時間がかかるでしょ』


 プテラが楽観的な見通しを話す。一理あるが、確証は何もない。地下空間も全て空洞という訳じゃない。


 むしろもう地表部分に影響が出ていると考えるべきか。どちらにせよ時間をかければ不利になるのはこちらだ。


「……前方、目的地皇宮だ。確認するが、本当に良いんだな?」

『はい。既にそこもレヴナント警報発令地区です。今、皆さんの行動を縛るものはなにもありません』

「そりゃありがたい……!」


 先頭を走る俺は、そのままブレードを展開させる。


「じゃ、遠慮なくぶっ壊させてもらうとするか。……いくぞ!」

『ええ!』


 目の前には白く荘厳な雰囲気を感じさせる建物がある。俺はそれを正面から遠慮なく粉砕し、中へと突入した。


「ここからは別れるぞ! 対象を見つけたらすぐにコールを!」

『了解!』


 スピノの駆る《グランヴィア》は、飛翔ボード《スカイホーク》とセット運用の特殊な機鋼鎧だ。だがさすがに建物内に《スカイホーク》は持ち込めないので、単身中へと突入した。俺も振り分けられた区画を駆け抜ける。


「しかしさすがは皇族の住まう宮殿だ! 機鋼鎧でも余裕で通り抜けられるじゃないか!」


 建物の中はとても広く、天井も高かった。おかげで壁の破壊も最小限だ。しかしここまで走って、誰とも遭遇しないとは……。主だった貴族たちは評議堂に集まっているという話だったが、こっちはもぬけの殻だな。


『各位、状況をお知らせください!』

『こちらプレシオ。人影ありません』

『プテラでーす。こっちも誰もいませーん』

『こちらスピノ。同じく人影なし』

「こちらダイン。こっちも……」


 誰もいない。そう答えようとした時だった。壁をぶち抜いたら、その右隣に若い女性が壁に背をつけながら座りこんでいた。


 突如現れた機鋼鎧を見て驚いた表情を浮かべている。しかしその正面では、2人の男が女性に銃を向けていた。


「っ!?」


 状況が分からない。一先ず俺は女性を庇う様に前にでる。


「あんたらは!? 貴族か……!?」


 機鋼鎧の登場に驚いているのは、男たちも同様だった。何故こいつらは争っているのか……と思考を深める前に、女性が口を開く。


「公殺官か!? 私はルナベイン・ドレイジー! 保護を求める!」

「!!!!」


 ドレイジー!? ドレイジーだって!? 


 俺にとってその名は大きな意味を持つ。動悸が激しくなる中、通信越しにライアードの言葉が響いた。


『ダインくん! 彼女を保護したまえ!』


 ライアードの切迫した声色に、彼女が特別な貴族である事を察する。同時に、惚けていた男たちは銃を撃ってきた。


「っ! 無駄な事を!」


 機鋼鎧を動かし、慣れた動作で男たちを薙ぎ払う。対レヴナントやブルートを想定して作られた大型鎧だ、銃如きでどうにかできるものではない。それより今はルナベインと名乗った貴族の方だ。


「こちらダイン。ルナベイン・ドレイジーを保護しました」

『オリエくん、各員にダインくんの座標を転送してくれ。全員、ダインくんの元へ一端集合だ。ダインくん、私の声をルナベイン嬢に……』

「もう聞こえる様にしています」

『そうか。ルナベイン嬢、ご無沙汰している。私はライアード・ランドリックだ』


 ライアードの声を聞き、ルナベインはゆっくりと立ち上がる。


「ライアード統括官。……危ないところを助けていただき、感謝いたします」

『いえ。それより、何故あなたがここに……?』


 ルナベインは《レグナム》を正面に見据えたまま、しっかりとした口調で答える。


「操舵者の資格を持つアーランド家の者は、殿下の放ったローグによって殺されました。同じく操舵者のカンツドイト家の者は連絡が取れません。評議堂にいなかった事からも、おそらく信奉者でしょう。これで操舵者の資格を持つ残された家系は、我がドレイジー家のみ。それも先ほど、父がローグに撃たれました」


 ルナベインは感情をのせない声色でこれまでの事実を話していく。


『では現在、残された操舵者は……』

「私のみです。私は緊急時の対応マニュアルに従い、父と共に操舵室へ向かっていたところだったのです」


 ルナベインはここまでの経緯を簡単に説明する。どうやらこの箱舟 《アルテア》は、普段はあらかじめ決められた航路をゆっくりと飛んでいるらしい。


 だが緊急時にはある家系の者のみが、箱舟 《アルテア》を直接操舵する事ができる。それが操舵者との事だった。


『しかし操舵者が操舵室に向かう緊急事態など……』

「はい。いくつかありますが、中でも優先して動かねばならない時は、永久動力機関エテルニアが停止する可能性がある場合です。その際には、停止する前に近くにある高所に緊急着陸するという操作が求められます」


 瘴気は基本的に空気より重く、地表に近いほど濃度を増す。箱舟ほどの高度があれば、その影響を受ける事がない。


 別の視点で見れば、大陸でも高さのある場所は、瘴気の影響が少ないという事だ。


 箱舟が万が一動かなくなる可能性のある時は、操舵者の資格を有する者が直接箱舟 《アルテア》を操作し、瘴気の影響の少ない場所に緊急着陸させる義務があるとの事だった。


『それをできる最後の貴族があなただという状況は分かりましたが。だからといって、今操舵室に向かうのは危険では? そこもいつ瘴気が迫ってくるか、分からないのですよ』


 ライアードの言葉を受け、ルナベインは静かに首を横に振る。


「皇宮から出てきた殿下たちが話しているのを、私たちは聞いてしまったのです。封鎖領域の封印を解いた今、次に行うのはエテルニアの停止だと」

「…………!」

『なんと……!』

「殿下たちには途中で気づかれ、こうして逃げる事になっていたのですが。そこを外災課の機鋼鎧が来てくれたのです。こうしている今も、殿下はエテルニア停止のために動いています。いつ箱舟が地上に落ちるか分かりません。私は殿下がエテルニアを停止させるよりも早く、操舵室から《アルテア》を直接操作しなければならないのです」


 かつての同僚であり、俺が殺した女性公殺官アンリノア・ドレイジー。ルナベインはリノアの妹だろう。


 俺は昔、リノアが話していた「貴族家の役割」というものを思い出していた。

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