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レヴナントの生態 救いをみる者

 ガイラックの言った言葉を考えてみる。七の魔王。封印。まき散らす毒。これらの単語が何を意味するか、俺たちには既にその知識があった。


「昔の勇者とやらは、魔王を棺に封印した。しかし……」

「棺からは瘴気が常に出ていた。それは今も続いている」


 そしてその棺の一つを450年前に発見し、回収した。俺たちが納得したのを確認し、ガイラックは満足気に頷く。


「その通り。棺は現在、絶対封鎖領域 《エリアXX》にあります。聞いた事はないでしょうがね」


 この世界が瘴気にまみれている原因の一つ。魔王アーク。だが聞けば聞くほど、新たな疑問も浮かび上がる。


「実験好きの研究者の事だ。その魔王とやらも、随分いろんな事に使われたんじゃないのか?」

「半分正解、だね。それこそ回収した当時はいろんな実験プロトコルが組まれていたそうだよ。だがあまりにも問題が多かった」


 ガイラックは暗い笑みを浮かべながら、当時の事を話す。


 結論から言うと、アークに携わる者の9割以上はレヴナント化するか、精神に異常をきたしていたらしい。


 研究対象としての好奇心はあっても、自分の命は惜しい。いつしか多くの研究者たちは、アークに近づくのも避ける様になったそうだ。


「ですがアークに近づかなくなったのは、単に恐れからだけではありません。何しろ瘴気の発生源ですからね。研究に携わる者のほとんどが正常でいられないのに、箱舟内で何かアクシデントがあれば、取り返しのつかない事態に陥ります」


 それこそ瘴気が洩れでもしたら大変だ。何かあっても、この箱舟には逃げ場なんてないのだから。


「この世界に元いた住民たちも、瘴気を出す様になった棺に近づけなかったのでしょう。きっと瘴気の影響を完全に遮断できる設備もなかったに違いありません」

「そうして7つの棺から、瘴気が垂れ流される事になった訳か」


 裏を返せば、この世界のどこかにある残り6つの棺。それらも封印できれば、もしかしたらこの世界から瘴気は消えるのかもしれないが。


「ですがいつの時代も、それでもアークの事が知りたいと考える者は出るのものです。その一人が、ディンドリック。君たち5世代目の親とも言える男ですね」


 ディンドリックの名を聞いたスピノは一瞬、眉間にしわを寄せる。


 ブロワールの元上司……か。ガイラックの話によると、ディンドリックも元は、瘴気のより良い浄化方法について研究をしていた科学者だったらしい。


「そして瘴気の事をより良く知ろうと思えば、アークの存在に行きつきます。彼は当時、7区内にラボを構える一流の科学者でしたからね。アークの事も聞いていたのでしょう。ところがアークに触れる事で、どんどんアーク計画にのめりこむ様になった」

「……アーク計画というのは、元々魔王アークを有効活用する事を目的にしたものだったのか?」

「始まりはそうです。しかし何百年という月日の経過が、より多くの計画へと枝分かれしていった。その中の一つがアポストル。魔力を持つ人間の創造。また別の計画には、アークドライブ……永久動力機関エテルニアに代わる動力源の模索というものもあります。そうそう、ダインくんの戸籍上の父となっているルネリウス・ウォックライドですが。彼は元々アークドライブの研究に携わる技術者でした」


 そしてスピノたち魔力を持つ人間の成功例が生まれた事で、アークドライブが実際に使えるものなのか機鋼鎧の出力で試される事になった、か。


「異界からの魔王、ね。にわかには信じ難いが……」

「何故です? 我らの祖先も、元をたどれば別世界の住人。この世界からすれば、異界の者と変わらないでしょう」


 確かにそうか。箱舟は実際に1000年前、この世界へと渡ってきたのだから。


「瘴気は毒ですが、正しく活用すれば魔力だけ得られるかもしれない。そんな夢物語ですよ、ディンドリックが進めていたアーク計画というのはね。どれだけ魔力を持つ者を作れても、その寿命は限られたもの。エテルニアと同等の出力を持つアークドライブを作れたとして、消耗品の様に魔力を持つ人間を作り出しては使い捨てていく。この閉じた世界において資源は有限のもの。いずれ破綻するのは目に見えています」

「……寿命が短いというのは、本当なのか?」

「ええ。といっても、人間で魔力を持つ者たちはスピノくんたちが初めての成功例となります。他の動物実験ではどれも長生きできたものは存在しませんが。人の身でどこまで寿命に影響が出るのかは、データ不足というのが正しいでしょうね」


 聞きようによっては希望がある様にも思えるが、ガイラックはただ単に自分の知る事実を羅列しているだけ。ここは今深堀りするところではないな。


「それこそレヴナント化でもすれば、寿命の問題は片付くのでしょうが。……さて、ここでようやく最初の疑問に答える事ができます。アーク計画を含め、貧困層に生まれた実験動物が何故ここまで事情通なのか。一応聞きますが、予想はついてますか?」


 これまでの会話と、ノトの話を思い出す。俺はあり得ないと思いつつも、口を開いた。


「皇帝陛下が、あんたと組んでいる……とかか?」


 スピノはまさか、と大きく目を見開く。


 あり得ないとは思う。貴族の中の貴族。アルテア帝国の最高権力者。陛下は箱舟に住む帝国臣民のため、常に心を砕いておられるだろう。


 話した事はなくても、そう考えるのが箱舟の住人というものだ。ガイラックは俺の予想を聞き、再び満足気に頷く。


「ふふ。それでこそ、以前車の中で情報を与えた甲斐があったというものです。ですがその答えは外れですよ。正確にはアレグドアン殿下です」

「な……!?」


 殿下。つまりは次代の箱舟の継承者。次期アルテア帝国皇帝。


「私を実験動物から人間に引き上げてくれたのは、他ならぬ殿下なのです。殿下は殿下で狂っていますがね」

「ノトは……今回の騒動における主犯は二人いると話していた。つまりあなたと」

「はい、殿下です。殿下はこの停滞した世界において、レヴナントに救いを求めるようになりました」


 言葉の意味が分かっても、何故という疑問が強く浮かぶ。レヴナントに救い? 貴族が? 


「これまで帝国政府が多くの実験を重ねてきたのは周知の事かと思いますが。中には当然、レヴナントも含まれる。昔はレヴナント化した者も捕え、封印区画で多くの実験を行っていたのです。その中で明らかになったことがあります」


 くく、とガイラックはおかしそうに笑う。


「サンプル数は少ないですが、レヴナントは100年経過しても老化現象が見られなかったのです」

「……ちょっと待て。まさか100年以上も、同じレヴナントを観察していた事があるというのか?」

「その通りですよ。彼らは活動量の低下こそ見られますが、身体そのものに老化は見られなかった。さらに落ちた活動量も瘴気を与えれば復活し、食べ物も必要としない。どこからエネルギーを供給しているのかという謎はありますが、まぁ瘴気が影響しているのでしょうね」


 レヴナントに老いはない、か。ちなみに今は、箱舟内に飼っているレヴナントはいないという事だった。


「老いが無く、瘴気の中でも生きられる肉体。レヴナントになってしまえば、地上で永遠に生きていけるのでは。殿下はここに救いを見たのです」

「ばかな……。自らレヴナントになる事を望むというのか?」

「誤解の無い様に言っておきますが、私自身はレヴナントになりたいとは思っていないですよ。殿下とはあくまで過程が共通していたからこそ、協力していただけの事。ですが貴族の中には、意外とそういう思想の者は多いのですよ」


 狂っている。これまで公殺官として多くのレヴナントを屠ってきたからだろうか。話を聞いた今も、どうしてもレヴナントに救いを見出す気にはなれない。


 不意にディノの姿を思い出す。意思を持つレヴナント。だがディノ以外に、人だった時の意識を保っていそうなレヴナントは見ていない。


 ディノが自意識を持っている事と、アポストル実験との間に関係があるのかは分からない。


 そのディノの件を踏まえても、レヴナントとして生きていく事と人として生きていく事は、決してイコールではない。


「……その目を見るに、お二人とも殿下寄りのお考えではないようだ。ですがアークに近づいた者の幾人かは、レヴナントにある種の幻想を抱く。そしてアークに近づける者は、有能な科学者や一部の貴族に限られます」

「なるほど、そうした政府中枢の人たちとあんたはずっと協力関係にあった訳だ。だが今のこの騒動も、数日後には収まる。これ以上レヴナントが増える事もないだろう。一部の貴族たちが、この機に乗じて自分たちもレヴナントになろうとしても、10区までたどり着けるレヴナントはいない」

「ええ。外災課は有能揃いですからね。今のままではそうでしょう」


 含みを持たせた言い方だ。やはりこの計画はまだ何か続きがある。


「ところで先ほど、棺は厳重に封印されていると話しましたが。もし今、このタイミングで封印が解かれたらどうなると思います?」

「…………っ!?」

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