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再会 全てを知る復讐者

 《クロスファイア》でエネルギーの補充を受けながら、オリエとスピノを交え、通信を行う。


『し、信じられません……! まさかあのアーキスト社の社長が、こんな事……!』

「……オリエ。状況は今、どうなっている?」

『は、はい。まだ多数のレヴナントが確認できていますが、激戦区は60区代から50区代に移っています。ですが……』

「40区と30区代にもなだれ込んできているレヴナントもいる訳ね」

『は、はい……』


 ノトとの会話では、はっきりとスピノたちが実験によって魔力を得ている事、そして寿命の事にも触れられていた。いきなりこんな話を聞いたんじゃ、スピノに対してどう対応したらいいのか考えてしまうだろう。


「……他にレヴナントが大量発生している箇所はないのか?」

『はい。……何か気になる事でも?』


 確信は何もない。だが言わずにはいられなかった。


「そっちでも確認できていると思うんだが。どうしてレヴナントは箱舟後方部……1区方面に向かっている?」

「……? より多くの人間を襲うためじゃないの?」

「そうか……まぁそうだよな」


 それは俺も考えていた事だ。だが何かそれだけではない様な……奇妙な感覚がある。


「どうしたの……?」

「あ、ああ。ガイラック・アーキストは、今日箱舟が終わる日だと話していたという。だが時間はかかるが、多くの人が20区内に避難している以上、公殺官がレヴナントを駆除しきれる可能性は十分ある」


 そう。帝国政府は住民たちを避難させるため、早い段階で移動させていた。つまりレヴナントが50区代や40区代に行こうが、これ以上レヴナントになりそうな人間は少ない。


 そうした環境下では、現状より大きく個体数は増えないだろうと予測ができる。だからこそ引っかかるのだ。


「俺は一度、ガイラック・アーキストと話す機会があったんだが。その時は油断できない、抜け目のない人物の様に思えた。あの人が今回の計画を遂行したにしては、今のところ中途半端感が否めない。そしてノトは、主犯格は2人だと話していた」

『……! もう一人の主犯が何か企んでいる……!?』

「確信はないが。だがこのままレヴナント騒動が収束するようには思えない。……オリエ。アーキスト社の本社はどこにある?」

『27区です』

「……近いな。30区代に現れたレヴナントの対処は?」

『全てを抑え込めているという訳ではありませんが、20区代に侵入されるかは微妙なところです』


 考えろ。ここからの最善手はなんだ。


「……オリエ。俺はこのままアーキスト社の本社に向かう」

『え……!?』

「20区代の人間も既に避難所に入っているんだろ? だがガイラックは本社に居るという。俺はガイラックと接触し、もう一人の主犯について聞きだしてくる。それにやはりこの特定有事は、レヴナントを大量発生させる事だけが目的ではない様に思う。これは計画の中の一部だろう。ガイラックにはその辺りも含めて聞いてくるよ」

『しかし……』


 一番良いのは、全てがノトの妄想で、ガイラックもこれ以上の手は何も考えていない事だ。だがそう美味い話はないだろう。


 ガイラックが……あの時の男が、この程度の計画しか思いつかないとはどうしても考えられなかった。


『状況は確認させてもらったよ』

『ら、ライアード総括官!?』


 通信にライアード総括官も入ってくる。こちらの事情は把握済みだろう。


『ダイン、そしてマリゼルダ。両名にはアーキスト社の本社へ赴き、ガイラック・アーキストの身柄を拘束してきてもらいたい』

「総括官……それは……」

『現場の方は優秀な公殺官と、オペレーターのオリエくんに踏ん張ってもらおう。今は治安課の人間を向かわせられる状況でもないからね。それに特定有事においては、外災課の判断が優先される。私はガイラック・アーキストを今回の事件における重要参考人だと考えている。両者にはガイラックを拘束し、計画の全容を聞きだしてもらいたい』


 前から思っていたが、この人。見た目の印象は冷たそうだが、やっぱり優秀だな。いや、貴族だからその役職と立場に、能力が最適化されてはいるんだろうけど。


「分かりました。では《クロスファイア》が到着次第、アーキスト社本社へ向かいます」


 何にせよ話が早いのは助かる。《クロスファイア》は順調に27区まで進み、俺とスピノは再び機鋼鎧に乗り込むと真っすぐにアーキスト社本社を目指した。





「ここが本社ビルか……」


 街中は人っ子一人歩いていなかったため、遠慮なく機鋼鎧で飛ばす事ができた。だが本社ビルには誰もいないため、当然入り口の自動扉も閉じられている。


『ダイン、どうする? 入り口は人間サイズだし、機鋼鎧で入るならどこか壊さなきゃだけど』

「そうだな……」


 無理やり入ったとしても、どうやって機鋼鎧に乗ったまま社長室まで行くか。階段もエレベーターも人間サイズのため、機鋼鎧を降りないのであれば各ホールを無理やりぶち抜いていくしかない。


 だが大きな手間だし、そんな騒ぎを起こしてはガイラックに逃げられる可能性もある。どうするかと考えていると、自動扉は独りでに開いた。


「これは……」

『入ってこい、ということ?』


 罠か。一瞬の躊躇い。だがこうしている今も、各地では公殺官が多くのレヴナントの進軍を止めようと戦い続けている。


 俺は《レグナム》のハッチを開けると、生身のまま自動扉の前に立った。俺の意図を汲んだのか、スピノも《グランヴィア》から降りてくる。


 ここに来て不必要だと判断したのか、仮面は付けていなかった。


「銃は持ったか?」

「うん」


 二人そろって本社に入る。するとどこかのスピーカーから男の声が響く。間違いなくガイラックのものだろう。


『ようこそ。生憎今日は従業員全員休んでいてね。おもてなしができなくて申し訳ない』

「よく言うぜ。誰のせいだってんだ」


 こちらの言葉が届いているのかは分からない。だが各所に備え付けられた監視カメラから、こちらの様子は伺っているだろう。


『そのまま正面のエレベーターに乗ってくれたまえ。そして57階まで上がってきて欲しい。エレベーターを降りたら社長室までの案内が記載されているから、ここまで迷わず来られるだろう』


 スピーカーからはそれ以上何も声はしなかった。俺たちは前に進み、エレベーターへと乗り込む。


 57のボタンを押し、エレベーターの扉が閉じたところで、俺はスピノに気になっていた事を聞いた。


「なぁスピノ。ノトの寿命の話、どう思った?」

「そうね。驚きはしたけど、どこかで納得もしたわ」

「……納得?」

「うん。私たちが多くの犠牲の上に今日まで生き残ったって自覚はあるもの。そしてこうして人にはない力も得た。でもこれらは自らの寿命も削ったから得られたものだと思えば。ああ、そういう事と納得がいったの」

「…………」


 スピノはスピノで、ノトの話を受け入れている……というより、自分なりの解釈で腑に落ちているといったところだろうか。


「もちろんあと数年で死ぬのは嫌だけど。まだノトの言っている事が本当である証拠はないし。現状の情報だけで精査はできないから、一先ずは保留かな」

「……そうか」

「うん。でももしニクスが……」


 スピノが何かを言いかけたタイミングで、エレベーターは57階へと到着する。俺たちは再び周囲を警戒しながらエレベーターから出た。


「これか……」


 正面にはこのフロアの全体図が書かれた地図が、壁に嵌め込まれていた。社長室までは少し距離があるが、一番奥まった位置という訳でもない。


 俺たちは静かに足を進める。そして社長室の前に着いた時。中から声が届いた。


「鍵ならかかっていませんよ。ああ、扉を開けた瞬間ハチの巣になる、なんて映画みたいな状況にもならないから、安心してくれていい」


 俺はスピノと目線を合わせると、二人とも銃を持った状態で扉を開けた。


 27区の街並みがよく見渡せる、大型ガラスがはめ込まれた部屋。その奥の机にガイラック・アーキストは座っていた。


「やぁダインくん。久しぶりだね。そちらのお嬢さんはアポストルメンバーの一人だね。ああ、その金の目を見れば分かるとも」

「ガイラック……アーキスト……」

「まぁかけたまえよ。銃を向けられては、こちらも落ち着いて話せないというものだ」


 ガイラックは部屋の左方向にあるソファへの着座を進めてくる。だが俺は大人しく座る気は無かった。


「このままで結構だ。俺たちは上からの指示で、あんたを拘束しにきた」

「ふむ……。真っすぐにここに来たという事は、エグバートくん……ああ、君たちにはノトくんの方が馴染みがあるかな? とにかく彼が話したのだろう? ノトくんはどうしたのかな? 裏切り者として殺したのかい?」


 俺が口を開く前に、スピノは俺の発言を制する様に一歩前へと歩み出た。


「あなたには関係ないでしょう。今回の計画、何を目的としたものなのか答えて。拒否するのならここであなたを殺すわ」

「物騒なお嬢さんだ。私には重要参考人として、拘束命令が出ているのではないかね?」

「特定有事において、公殺官の行動は全てにおいて許されるのよ」


 その通りだ。そして今、ここ27区も特定有事に指定されている。もっとも、これを上の命令に背く言い訳に使う者はそうはいないだろうが。


「……物騒なお嬢さんだ。ふふ、まぁいいとも。今日が最後の日ともなれば、私の口も軽くなるというもの。何が聞きたいのかな?」


 こうして俺たちとガイラックの話は始まった。

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