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自由を渇望する者

『え……?』


 ノトの言葉の意味が分からない。だがノトは言葉を続けた。


『レヴナントだらけの世界になるだろうけど。まぁこれまでいた環境と比べたら、生きていく分には十分過ぎるだろう? せっかくディンドリックが死に! ブロワールも消え! 真の自由が目の前に見えるというのに! このまま寿命で死ぬなんて、僕には耐えられない……!』

『な、何を言っているの……!?』

『見たんだよ、僕は! 過去の研究記録をね! 僕たちは五世代目のモルモットだ! 過去の世代、そして五世代目の研究デザインが決まる前に行われていた動物実験の数々! 生物に……人という種に魔力という機能を持たせる事には成功した! だが決して新人類という訳ではない! まだまだ研究は途中段階、僕たちにしても未完の器なのさ! 確かに僕たちは普通の人とは違う力がある、アークドライブを使いこなせる! だけどねぇ! あらかじめ寿命が制限されているんだよ!』


 ノトは声を大きく荒げ、動作もつられて激しくなる。


『実験の後遺症という事もあるだろうさ! だが記録上、どんな生物でも実験で魔力を得たものは、直ぐに死にゆくんだ。人の寿命に換算すると30歳といったところかな』

「え……」

『僕たちが生まれる前にもテストケースで使用された人間がいたみたいでね。そのデータも確認したんだけど、まず間違いない。このままだと、僕たちはあと数年で寿命が尽きるのさ』

『そんな……』


 寿命が……普通の人間よりも短い……? みんな……あの研究所にいた者は全員……?


『元々アークなんてモノを発見していなければ……! 魔力なんかに夢見た科学者さえ出なければ……! ……だけどね。今日こうしてレヴナントを大量発生させ。ここに来るであろう君たちの足止めをすれば。制限された寿命を何とかしてくれると、ある方が約束してくれたのさ。さらにあの方は自由も約束してくれた! 僕はまだまだ生きたい! 自由が欲しい! あと数年の命に怯えて暮らすなんて考えられない!』


 俺たちの中に動揺が走る。元々ノトはスピノたち魔力持ちのメンバーにおいて、リーダー的な存在だった。そのノトからもたらされた情報は、俺たちを動揺させるのに十分なものだった。


 だがこれを黙って聞きっぱなしという訳にもいかない。


「……ノト。お前に過去の実験データを見せたのは誰だ? 寿命を延ばすと話した奴と同一人物なのか?」

『そうさ。あの方は帝国の事なら何でも知っている。そういう立場の方だからね』


 帝国の事は何でも知っている人物。自然、俺の脳裏にはガイラックとの会話が思い返されていた。


 あの時ガイラックは、最高権力者であれば何でも知っていて当然だろうと話していた。


「……レヴナントを大量発生させた目的はなんだ?」

『話、聞いていたかい? 僕が真の自由を得るために……』

「そんな事はどうでもいい。お前に取引を持ちかけた奴は、今日レヴナントを大量発生させて何のメリットがある? 逃げ場のない箱舟でこの様な事を行うなど、自殺行為もいいところだ」


 普通の思考ではまず思い至らないし、思ったところで実践しようとは考えない。


 箱舟は閉じた世界だ。逃げ場などないのだから。しかしノトは答えなかった。


「そこまでは聞かされていない、か。お前、騙されたな」

『……なんだって?』

「計画の全容を教えられていないんだろう? 相手は魔力持ちのお前を計画に組み込む様な奴だ。普通に考えれば、取引相手にするにはリスクが大きい。なのにお前を取り込むにあたって、詳しい情報は寄越さなかった。便利に使われておしまいだろうさ」

『違う! あの方は決してそんな……!』

「なら! 具体的にどうやって寿命を延ばすのか、その方法は聞いたのか!? まさか何の資料も見せられていないってはずはないよなぁ!? 取引の大事な胆だ、相手としても見せない訳にはいかないだろう! 本当にできるのならな!」

『…………!』


 過去の実験データだけを見せて「お前の寿命はあと少しだ」と脅し、肝心の救われる方法は明かさない。そんなのは取引と言わないだろう。


 客観的に見ると、良い様に騙されている様に見える。いや、それだけノトにとっては、藁にも縋る思いだったのかも知れない。そこを付け込まれたか。


『う、うるさい! お前はあの方を知らないから、疑うなんて大それたことを考えられるんだ! それに今日の計画にしても、何も知らない訳じゃない……!』

『はっ! なら聞かせてみろや! 話次第ではお前についてやっても良いんだぜ!?』


 ティラノも大型のブレードを構える。


『……いいだろう。元々この計画の主犯は二人いる。一人は僕の口からは言えないが、もう一人はガイラック・アーキスト。あのアーキスト社の社長さ』

「……なんだと?」


 ノトはアーキスト社が、いかに今日のレヴナント大量発生に関わってきたのかを説明する。


 貧困層を中心に新開発のアルコール飲料を浸透させ、それに僅かな割合で汚染水を加えていく。約2ヶ月前からは汚染水混入割合を従来の10倍に増やしていたとの事だった。


『まさか……ここ最近、レヴナント化現象が多かったのって……』

『そう、既にアーキスト社は長い時をかけて種を蒔いていたのさ! 汚染水が混入したアルコール飲料を飲んでも、全員がレヴナントする訳ではない! だがそいつらに僕が魔力をあてると……!』

「体内に一定の濃度以上の瘴気が蓄積していた者は、高確率でレヴナントとなる……!」

『その通り! そういう意味で僕は起爆剤なのさ!』


 あの時の爺が……黒幕の一人……!?


「だが何故だ。何故そんな事をする!? ガイラック・アーキストにとってのメリットはなんだ?」

『さぁ。本人に聞きなよ。今日は本社の屋上から、優雅に箱舟の終わりを眺めると話していたからね』


 訳が分からない中でも、分かった事もあった。要するにガイラックは今日、箱舟の歴史を終わらせようとしている。だがここでオリエからの緊急通信が入った。


『すみません、みなさん! 緊急事態です! レヴナントが今いる公殺官だけでは抑えきれず、30区代に侵入を許してしまいました! クロスファイアを動かしますので、2人ほど戻ってきてもらえませんか……!』


 このタイミングでか……! 今日何度目の緊急事態だ……! どうすべきか悩んでいると、ティラノは一歩前へと足を進めた。


『ダイン、スピノ。お前たちが行け』

『……ティラノ?』

『プレシオとプテラは連れていっても足手まといだ。俺はここで一発、ノトをぶちのめしていく』


 ノトは静かに俺達のやり取りを見守っている。


「ティラノ……しかし」

『ここでの任務はもう終えただろ? レヴナント大量発生の原因が判明したんだからな。それに俺は元々ノトが気に入らなかったんだ。まぁ俺たちが確実に30で死ぬとして。さらに絶対に助かる方法があるってんならノトの話を聞いても良かったがよ。根拠を示せない限り、それはノトの妄想と大差ない。へっ、やっぱり俺はこいつが気に入らねぇなぁ!』


 ティラノの《ネイキッド》に青いラインが走る。魔力を使用する気なのだろう。


『おら、行け!』

「……! スピノ!」

『ダイン!』


 俺とスピノは来た道を引き返す。だが同時に、ノトから魔力が高まる気配がした。


『盛り上がっているところ悪いけどねぇえ! 逃がす訳にはいかないなぁあ!』

『てめ、ノトォ!』


 《ザフィーラ》の右手に握られた砲身から、青い魔力光が放たれる。だが咄嗟にプテラが、大型の槍でその光を受け止めた。よく見るとプテラの《ターバイン》と、大型の槍にも青いラインが走っている。


『はぁ、面倒なんだから……。あ、私は戦う気はないよ。でもニクスとスピノの二人が、この場を離れる手助けはしてあげる』

「……! 恩に着る、プテラ!」


 ティラノはノトと戦う決意をし、プテラは俺たちを逃がすという選択をした。プレシオは……分からない。


 だがティラノと戦ってまでノトの味方をする様にも思えない。スピノは……寿命の話をどう受け止めたのだろうか。


『オリエ、聞こえるか!』

『は、はい。ダインさん、一体何が起こっているのです……!?』

『ノト……エグバートの裏切りだ。指定エリアでレヴナントを大量発生させていた。だがその下準備を進めていたのはアーキスト社の社長、ガイラック・アーキストだ』

『え、え……!?』

『今エグバートとの音声データを送る。確認してくれ』


 そう言うと俺は、録音しておいた音声データをオリエに送信する。クロスファイアの停車するターミナルに近づいた時、スピノが声をあげた。


『ダイン。私の《スカイホーク》の搬入を手伝って』


 そう言うと飛翔ボードが空から降りてくる。俺たちは《スカイホーク》の両端部を持ちながら地下へと降りて行った。

ストロング系アルコール飲料は用法容量を守った上で楽しみましょう。

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