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金欠のダイン その前職

 《トライベッカ》のノア・ドライブをフル稼働させる。対レヴナント用機鋼鎧にもノア・ドライブが組み込まれている。そこから生み出されるエネルギーを利用し、このパワードスーツは通常の人間を超えた動きを可能にするのだ。


 俺は通りに出ると、猛スピードでレヴナントの方へと向かった。


「っ!! 想像してたよりかは……! 悪くない、な……!」


 計器類も正常に作動している。我ながら自分の完璧な仕事ぶりに惚れ惚れする。目の前には一体のレヴナント。見たところ魔力反応はない。俺は左腕部に装着されたブレードを展開させる。


「まず一体!」


 レヴナントは俺の動きについてこられず、やみくもに腕を振り回している。俺は慣れた動作で腕を振るい、レヴナントの両腕を切り落とす。そのまま右拳を顔面に叩き込み、倒れ込んだところをブレードでとどめを刺した。次の瞬間、アラームが鳴る。


「分かってるって……!」


 続いて姿を現した二体のレヴナントが、左右から挟み込む様に襲い掛かってくる。人を超えた速度だ。うるさく成り続けるアラームを無視し、俺は身をよじって回避した。


「まだ調整したてなんだがな……!」


 背中のバックパックから剣を取り出すと、ノア・ドライブを起動させる。瞬く間に刀身は淡い光に包まれた。


「おおおおおお!!」


 迫りくるレヴナントの腕を斬り飛ばす。瘴気に侵された血がトライベッカの装甲を汚した。


「ち……。対レヴナント用の銃なんざ持ってねぇぞ……」


 痙攣しながらも立ち上がるレヴナントを無視し、もう片方のレヴナントに左腕のブレードを突き立てる。刺さったままのブレードを切り離すと、右足で思いっきり蹴り上げた。レヴナントは面白い様に、全身を歪に砕かれながら吹き飛ばされていく。


 背後から先ほど腕を斬り飛ばしたレヴナントが襲い掛かってくる。こちらも一度真横に跳ぶと、冷静に状況を判断する。


 相手は手負い、動きは単調な上に鈍い。俺は地を蹴ると、レヴナントに接近する。そのまま剣で胴体を大きく斬り、最後に首を刎ねた。周囲に大量の血がまき散らされる。


「さっきの奴は!?」


 蹴り飛ばしたレヴナントも震えながら立ち上がっている。俺はバックパックから投擲用の短剣を取り出すと、それを勢いよく投げつける。短剣は見事に頭部を貫き、レヴナントはその場に崩れ落ちた。近くにいたレヴナントはこれで全部か……。


「!?」


 俺はアラームが鳴るより早く、魔力による攻撃の気配を感じとる。同時にその場から大きく跳躍した。


「くおっ!?」


 直前まで俺が立っていた場所に、青い閃光が襲い掛かる。視線を移すと、そこには《トライベッカ》に搭乗した俺より、僅かに大きいレヴナントが立っていた。計器は魔力反応を示している。


「あいつが……! 魔力持ちか……!」


 魔力持ちのレヴナントは常に体に魔力を纏っている。それがバリアの役割も果たしており、この状態のレヴナントには銃や剣が効かない。ダメージを負わせられるのは、ノア・ドライブが組み込まれた武具だけだ。


 俺はバックパックからコードを伸ばし、剣と接続する。こうする事で剣のノア・ドライブに《トライベッカ》のノア・ドライブから直接エネルギーを供給でき、武器の使用時間を伸ばす事が可能になる。その分、《トライベッカ》の稼働時間は減る事になるのだが。


「くそ……! 元々剣の方にはそれほどエネルギーが充填されていなかったってのに……!」


 ノア・ドライブのエネルギーを充填するには、専用の設備が必要になる。マークガイ工房ならともかく、俺の家にそんな物は置いていない。


 《トライベッカ》の残りエネルギーを確認しながら、俺はレヴナントに向けて走り出す。レヴナントも俺に魔力の閃光を放ってきた。


「なめるな!」


 前進しながら最低限の動きでこれを躱す。だが余波を受けたのか、装甲にダメージアラームが鳴った。


「なんだと!? 対魔力装甲板は使っていないのか……!」


 この《トライベッカ》、民間のレヴナントハンターのものか! くそ! マークガイ工房からの下請けだ、そりゃそうだよな……! 


 僅かに身じろいでしまい、それが隙となってしまう。俺は不安定な体勢で魔力攻撃を躱したが、今度はバックパックが余波の影響を受けてしまった。


「……!」


 まずい。バックパックに何かあれば、ノア・ドライブも止まる。 せめてバックパックには対魔力装甲を使えよ……! 


 俺の中でこれまで上がりかけていた《トライベッカ》に対する評価がどんどんと下がっていく。


「おおおお!!」


 レヴナントまであと少し。何とか転倒は防ぎ、俺は脚部と背部のブースターに火を入れる。レヴナントは再び魔力を溜め始めるが、バックパックから取り出した短剣を投擲する。


 魔力持ちには傷を負わせられないが、顔に向かって飛んでくる短剣に対し、レヴナントは体勢を崩した。そして俺にとってはその隙だけで十分。そのまま勢いに任せてレヴナントの顔面を掴み、建物の壁に激突する。


「かああああ!!」


 壁際に追い詰めたレヴナントを、ノア・ドライブを起動させた剣で切り刻んでいく。


「グルキシャアア!?」

「おおおお!!」


 今、魔力波動を撃たれたら終わりだ。だがそんな事はさせない。こちらもいつまでノア・ドライブが起動できるか分からないのだ。


 腕を斬り、胸部を突き、頭を割る。そうして目の前のレヴナントはようやく動かなくなった。


「はぁ、はぁ……! 腕が落ちたというより……。 こいつの性能が悪い……」


 以前はもっと粗悪な機鋼鎧を着た事もあるが。それで実戦に出る事はなかった。それでもこのクラスの性能の機鋼鎧で戦ったのは、初めてのことだった。





「……で、依頼の品は納入できなくなりましたってか?」

「しょうがなかったんだよ……」


 翌日。俺はマークガイ工房に来ていた。昨日はあれから外災課の建物に連行され、あの女……オリエから事情聴取を受けていたのだ。


 またレヴナント戦の後という事もあり、俺自身入念な検査を受ける必要があった。公務員なら5日の強制休暇が与えられていただろう。


 後日レヴナント戦における詳細な報告レポート作成に協力する事を条件に、解放してもらえたのは今日になってからだ。


「まぁまぁ兄貴。事情を聞く限り、仕方ないよ」

「そうなんだエリシア。俺は悪くない」

「でも預けていた品が使いものにならなくなった訳だから。ダインには弁償してもらうよ?」

「え……」

「ちゃんとバイト契約を結んだ時に、契約書に書いてあったでしょ? 納品時に故障等損害が発生した時には、ダインが全責任を負うことになるって」


 個室で俺と話しているのはマークガイ兄妹。40区に居を構えるマークガイ工房の経営者だ。妹のエリシア・マークガイは俺を半眼で見つめていた。


「でもエリシアも仕方がないって……」

「契約書は過失の部分には言及していないの。マークガイ工房に納品する時の状態が全てよ」

「まじか……」


 俺は救いをもとめて、兄のエルヴァン・マークガイに視線を移す。エルヴァンはやれやれと肩をすくめた。


「あの《トライベッカ》に関しては、お前の想像通りだ。民間のレヴナントハンターから調整を依頼されていた。仕方なかったとはいえ、マークガイ工房が預かっている間に壊してしまったのは事実。まずはマークガイ工房が先方に弁償代を支払う事になる。全額とは言わんが、お前にはその分を補填してもらう」

「勘弁してくれ……」

「ダインの貯蓄なら余裕じゃないの?」

「それでも痛手には変わらんって。もう昔みたいな稼ぎも無いんだし……」


 今の俺はこうしてマークガイ工房の下請けとして、たまにバイトをしているくらいだからな。大きな出費は避けたい。エルヴァンは軽く溜息を吐いた。


「お前の腕ならうちの下請けでなくとも、引く手数多だろう。また昔の様にヴァルハルト社で雇ってもらったらどうだ?」

「そうよ。ダインったら昔、天下のヴァルハルト社で働いていたんでしょ? それも研究開発チームで。経歴もばっちりだし、そこでなら直ぐに弁償できるくらいのお金が稼げるって!」

「……ちなみに弁償代はいくらなんだ?」

「少なくとも1500万エルクってところね!」


 1500万か。思っていたよりは安い。まぁ対魔力装甲板も使われていなかったし、民間の対レヴナント用機鋼鎧だしな。


 仕方なかったとはいえ、今回の事が原因でマークガイ工房は、民間のレヴナントハンター組織に弁償代を支払う。


 それに預かっていた物を勝手に使用して壊したとなれば、評判もいくらか落ちるだろう。その事を考慮した上で、1500万というのは安い様に思えた。


「……分かった。一旦振り込んでおく」


 そう言うと俺は懐から情報端末を取り出し、自分の口座からマークガイ工房の口座に資金を送金する。エリシアは直ぐにその事を確認した。


「わ、すごい。本当に1500万エルク入ってる。さすがお金持ちね!」

「だからもうそんな収入は無いって……」


 くそ。こんな事ならあの時、素直に財布を取りに家に帰るんだった。



◾️



「はぁ……」


 オリエ・カーライルは朝から溜息が止まらなかった。オリエは現在24歳。帝国大学をストレート卒業し、超難関と言われる1種帝国公務員試験も突破。そして2ヶ月前に外災課に配属されたエリートだ。


 外災課は公務員の中で最も死亡率が高い。だがその分精鋭揃いの部署であり、数ある部署の中でも非常にステータスが高い。そしてその年収の高さもあり、過酷な部署ながら働きたがる者は多かった。


 今、オリエは18区にある外災課が所有するビルの中にいる。そこの自分のデスクでずっと溜息を吐いているのだ。


「どうしたの、オリエ」

「あ。ジュリア先輩……」


 ジュリア・レイグナー。オリエの先輩で、外災課に配属されて4年という経歴を持つ。ジュリアはオリエにコーヒーを差し出した。


「あ、ありがとうございます……」

「昨日のことでしょ? 大変だったみたいね」


 オリエは昨日は家に帰れず、職場で寝泊まりしていた。上への報告書、治安課との情報共有、責任の所在。


 41区で起きたレヴナント被害に対する報告書も作成し、これを市民課や区画管理課とも共有しなければならない。書類仕事が終わらないのだ。


 外災課は確かに給料は高い。だが一度特定有事が発生すると、その忙しさは他部署の比ではない。さらに24時間体制で取りかかる必要もあるため、生活習慣も不規則になる。オリエは外災課に来て二ヶ月で、もう他部署への転属願いを出そうかと悩んでいた。


 一方で、市民の安全に直接関われるこの仕事にはやりがいも感じている。それに両親や弟妹に仕送りができるのも大きい。激務相応の収入は魅力的でもあった。


「どこか手伝おうか?」

「いえ、書類の方はもう完成しているんですけど……」

「え、もう全部完成させたの? 相変わらずすごいわね……」


 ジュリアの呟きも耳に入らず、オリエは言葉を続ける。


「この後、ライアード総括官と面談が控えていまして……」

「ああ……」


 ライアード・ランドリック総括官。外災課のトップだ。そして10区内に住居を持つ貴族でもある。


 今どき貴族に対する不敬罪というものは、皇族以外に適応されないが、それでも本物の貴族というのは対面するだけでも緊張はする。


「まさか課長を飛び越えて、直接面談する事になるなんて……」

「……課長は同席しないの?」

「今日は有給休暇を取られています」

「昨日まではそんな予定、入っていなかったのに……」


 あの課長の事だ、逃げたな。ジュリアは証拠は無くとも、この予測は正しいだろうという確信があった。


「きっと昨日転送した報告書の件だと思います。仕方なかったとはいえ、民間の整備士に戦わせたのですから……」

「そういえばその整備士。魔力持ちのレヴナントまで処理したんだってね。大したものだわ。公殺官でも1人で魔力持ちに対応できる者なんて、上位クラスだけよ。それも民間の機鋼鎧で対応していたんでしょ?」


 昨日のレヴナント事件については、外災課の中で少し話題に上っていた。原因はオリエの報告書だ。無資格の整備士が粗悪な対レヴナント用機鋼鎧で、魔力持ちのレヴナントを仕留めた。普通はあり得ない。何かの間違いだろうと言う者もいた。


「はい。あまり信じられないでしょうけど……。あ、こちらがその時の報告書です。もしよければ、不備がないか見てもらえますか?」

「どれどれ……」


 ジュリアは転送されてきた報告書を、情報端末を操作して目を通し始めた。レヴナントと戦った民間の整備士。その者が無資格にも関わらず、戦わせる事になった責任は自分にあるとオリエは記述していた。


 ここで治安課や整備士に責任を負わせず、現場の責任者として自分に非があると書くあたり、オリエの性格が出ているなとジュリアは感じる。


「改めて読んでみてもすごいわね、この整備士。《トライベッカ》の他には剣が一本。銃も無しで対処してみせるなんて……」

「ええ。彼の英雄願望のおかげで被害が広がらなかったのは事実です。このまま対レヴナント用兵器の無断使用の罪に問わせるのもどうかと思っていまして……」

「それでどうすればその整備士が罪に問われずにすむのか考えていたのね。真面目なのか融通がきくのか……。なんにせよ苦労する性格しているわね」


 ジュリアは話しながらも報告書に目を通していく。その中の一行に目が止まった時、驚きで両目を見開いた。


「え……。この整備士の名……」

「はい。件の整備士の名はダイン・ウォックライド。年齢は27歳。登録居住地は41区。あの辺りの区はいろんな工房がありますからね。彼の様なフリーランスの整備士は特に多いです」

「……そう。そういう事だったの……」


 ジュリアはこれから総括官との面談を控えるオリエに、意地の悪い笑顔を見せる。


「あなたの報告書は完璧よ。ふふ。安心なさい、きっと悪い様にはならないわ」

「え……?」

「ふふ。そういえばオリエはここに来てまだ二ヶ月だものね。総括官との面談は緊張するでしょうけど、別に話すのは初めてじゃないでしょ?」

「はい。ここに配属される時に面接を受けています」

「でしょ。そう深く考えこまなくても大丈夫よ。私はもうすぐしたらあがるけど、何かあったらいつでも言ってね?」


 そう言うとジュリアはオリエのデスクから去っていった。オリエは時間がくると、個室へと入る。そこは10区内に住む貴族との面談に使われる通信室だった。時間になると、正面にライアード総括官の立体映像が現れる。


「ライアードだ。待たせたかね、オリエ君」

「い、いえ!」

「通信状況はどうだ。映像や音声に乱れはないかね?」

「はい! 感度良好です!」


 緊張した面持ちで、オリエはライアードと相対する。ライアード総括官はまだ40代にも関わらず、外災課のトップに君臨する人物だ。その席に至るまで多くの敵対派閥を潰してきた、血も涙もない鉄の男と噂されている。


 そして今も存在する本物の貴族でもある。オリエは緊張で手から汗が止まらなかった。


 ライアード総括官が質問するまま、オリエは昨日の出来事を詳細に報告していく。


「マニュアルにはない、柔軟な対応が求められる場面でよくぞここまで被害を抑えてくれた。時代が時代なら、勲章ものの働きと言える」

「あ、ありがとうございます……?」

「君の様な有能な人材を迎えられたのは、外災課にとって重畳であった」


 はて? とオリエは疑問に思う。てっきり現場の無資格者を戦わせた罪に問われるかと思っていたのだ。


 最悪公務員をクビになる事も覚悟していた。親に多額の学費を払ってもらい、帝国大学を卒業し、超難関1種帝国公務員試験に受かった苦労も水の泡になるかも……。そう思うと、今朝から何も胃に入らなかったのだ。


 ライアード総括官との面談はそのまま滞りなく進んだ。どうやら魔力持ちのレヴナントが現れた事について、詳しくその時の状況を確認したかった様だ。


「先ほど保健所からデータが送られてきた。どうやら魔力持ちのレヴナントは、アパレルショップの女性販売員だったようだ」

「そうですか……」


 事件の発端となったクラースは、店内で死体が見つかった。つまりレヴナント化していなかったのだ。これからクラースの侵入経路の洗い出しや、動機の捜査が始まるという話が続き、オリエの責任については何も言及されなかった。


「私からは以上だが。君から何かあるかね?」

「あ、あの」


 もしかしたら藪蛇になるかもしれない。ここはぼかしておいた方が良いのではないか。そう考えもしたが、やはりオリエは聞かずにはいられなかった。


「無資格の整備士……ダイン・ウォックライドに戦わせる判断をしたのは私です。確かに対レヴナント兵器の無断使用は罪ですが、その罪は現場の責任者であった私にあります。どうか寛大な判断をお願いしたいのですがっ……」


 オリエは深く頭を下げる。ライアード総括官からは何も反応が無く、不信に思ったオリエは恐る恐る顔を上げた。


 僅かに目を開けてライアード総括官の顔を見ると、要領を得ていない表情をしている様に見える。


「彼の……。ダインくんの事、知って使ったのではないのか?」

「え……?」

「ふ……ふふ……。ああ、失礼」


 ライアード総括官は一度軽く咳払いをした。オリエは鉄の男らしからぬ態度だと感じる。


「てっきり知っているものだと思っていたよ。だがそうなると、その場で彼に命を預けた君の判断能力は、増々素晴らしいものだと言える」

「は、ぁ……?」


 結果的にダインに命を預けることになったが、そのつもりで戦わせた訳ではない。むしろ自分は最後まで戦う事を止めていた。後押ししたのは治安課のマラーク隊長だ。


「彼……ダイン・ウォックライドは過去、外災課の公殺官として活動していたのだよ」

「え……ええぇ!?」

「その時の等級は「黒」。序列は第四位。つまり公殺官全体で四番目の実力者だ」


 対レヴナント、もしくはブルートに対して、前線で対応する者たちがいる。彼らは外災課に所属し、公殺官と呼ばれていた。


 公殺官は特定有事において、帝国政府より公に殺人の許可証を与えられている特権を持つ。外災課は公務員の中で最も死亡率が高い部署だが、その内訳はほとんどが公殺官となっていた。


 公殺官も24時間対応が求められ、超法規的な特権の代わりに多くの制約も課せられている。その分、税の優遇や多額の年俸など、好待遇が用意されていた。


 だが当然ながら、誰でも公殺官になれるという訳ではない。身体能力、理論思考、対人能力。心理テストや対レヴナント兵器との親和性。多くの要素で高い水準が求められる。


 そうして公殺官となった者も、さらに等級が付けられる。その等級で一番上が「黒」。ダインはかつて黒等級の公殺官として活動していた。


「え……そ、それじゃ……」

「民間の対レヴナント用機鋼鎧、《トライベッカ》。これと剣一本で魔力持ちのレヴナントに対応できるのは、黒等級の者だけだろう。レヴナント化事件が起こったその場に、たまたま装備一式を持ったダインくんが居たのは幸いだった。さらに現場指揮官として彼を戦わせる判断をした君がいた事もね。君の報告書がなければ、ここまでスムーズに今回の件は収まらなかっただろう」


 ライアード総括官の話によると、ダインの公殺官としての資格はあくまで休止中であり、無効になっている訳ではないとの事だった。


(つまり……。上では今回の事は、休暇中の黒等級公殺官が現場に居合わせたため、対応してもらった事になっているっていうこと!?)


 通常であれば、公殺官を辞めた人間はその資格が失われる。だがダインを含め、黒等級の者は公殺官の中でも他に替えが利かない貴重な人材だ。しかもダインはまだ若い。


 そのため、復帰してきた時にすぐに現場で活動させられる様に、ダインの資格はあくまで休止という形が取られていた。これも超法規的な融通がきく特権階級……最上位公殺官だからこそと言える。


「彼がここを去ってそろそろ1年になるか……? 丁度いい。よければ彼に復帰する様に働きかけてくれないかね?」

「え……」

「外災課は常に人が足りていない。そして現場で戦える公殺官もね。彼ほどの実力者をいつまでも遊ばせておくのはもったいない。今回、彼と知り合えたのも良い縁だろう。頼んだよ」


 そう言うとライアード総括官の立体映像は姿を消した。まるでお使いを頼むかの様な軽い物言いだが、ライアード総括官がオリエという新人に対して言うと、お願いの呈を要した命令に近い。


「どうしろっていうのよ……」


 まだまだ苦労が続く予感しかしないオリエであった。

ご覧いただきまして誠にありがとうございます!

よろしければ「皇国の無能力者」もご覧いただけましたら幸いです。

基本的には月水金の週3話更新を続けていく予定ですので、今後ともよろしくお願い致します。

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